化学分野において、「予想外の効果」を有すると唱える特許の無効化は通常、困難である。本件は、参考になれる無効化戦略を示してい...
近日、明陽科技(蘇州)股份有限公司(以下、明陽科技という)の社長一行は弊所にご来訪いただいた。弊所弁理士が同社の無効宣告請...
キャッチフレーズ、スローガン商標の登録出願及び審査に関して


北京林達劉知識産権代理事務所
商標弁理士 耿 秋
 
商品を販売又は宣伝する際、包装や商品カタログ又は広告媒体に使用され、人々にすでに知られている商標のほかに、今や特別と思われる文字商標が流行しつつあることをご存知でしょうか。これは、時に子音と母音の整った短い連語になったり(Your Vision,Our Future)、時に覚えやすいスローガン的なものとなったり(ONE WORLD, ONE DREAM)、時にすでに世に知られている商標そのものを含んでいたり(HAVE A BREAK, HAVE A KIT KAT)、また時に老若男女に馴染みのある文言であったりする(I’M LOVIN’IT)。これが、キャッチフレーズ、スローガン商標である。
 
.キャッチフレーズ、スローガン商標とは

キャッチフレーズ、スローガン商標は、往々にして短い連語又はスローガンと認識されると同時に商標でもある。キャッチフレーズ又はスローガンは、宣伝や広告としての機能を有する一方、商品やサービスの特徴を表し、人々にひとつの目標や理念を伝える働きを有する。また、キャッチフレーズ又はスローガン商標は、商標として、特定の商品生産者又はサービス提供者を他のものと区別するためのツールでもある。

したがって、キャッチフレーズ又はスローガンを商標として登録出願する際、まずその広告宣伝の役割を意識しなければならない。過度に法的側面を追求しすぎると、かえって特色のあるキャッチフレーズ、スローガンが登録できなくなるおそれがある。一方、キャッチフレーズ又はスローガンは商標としての機能をもつことを認識しなければならない。すなわち、そのキャッチフレーズ又はスローガンは業界の共通認識に沿ったものであるか、消費者にその商品又はサービスを識別させる役割を演じているかを審査する必要がある。そうでないと、その商標が登録されることにより、第三者の正当な権利が行使できなくなるおそれが生じ、公平性を損ないかねない。このような特徴から、キャッチフレーズ又はスローガンの商標出願に関する審査は、益々注目されるようになってきている。
 
 キャッチフレーズスローガン商標登録の審査基準について

1.『商標法』における規定

周知の如く、商標としての登録出願において、まず考察しなければならない基準の一つは、その商標の有する顕著な特徴、すなわち識別力である。中国『商標法』第11条により、下記の標章は商標として登録することができない。

(1)当該商品の一般名称、図形又は規格のみからなるもの;

(2)当該商品の品質、主要原料、効能、用途、重量、数量及びその他の特徴を直接表するにすぎないもの;

(3)識別力を有しないもの。

ただし、上記の標章が、使用により識別力を有し、かつ容易に識別可能となった場合は、商標として登録することができる。

キャッチフレーズ又はスローガンはそれ自体の特徴により、往々にして商品又はサービスを部分的かつ直接的にしか表現しておらず、識別力を有していないとされがちである。キャッチフレーズ又はスローガンがこの部分的かつ直接的な表現機能を超えた場合、あるいは、すでに使用された結果、識別力を有するようになった場合は、商標として登録することができる。

次に、キャッチフレーズは、宣伝や広告の目的を有するので、その宣伝の内容は誇張的で消費者に好ましくない効果をもたらすことがある。『商標法』第10条は、標章の使用禁止の規定であり、その(7)号には「誇大に宣伝し、かつ欺瞞性を帯びたもの」、また(8)号には「社会主義の道徳、風習を害し、又はその他の悪影響を及ぼすもの」が列挙されており、これに該当する標章は使用が禁止され、登録されない。

最後に、キャッチフレーズ商標であっても、その登録出願の際には、先願商標や先登録商標の問題を考慮しなければならない。すなわち、それ自体が『商標法』第28条「登録出願にかかる商標が、この法律の規定に反するもの又は他人の同一又は類似の商品について既に登録され又は予備的査定を受けた商標と同一又は類似するときは、商標局はその登録出願を拒絶し、公告しない。」の規定に違反していないかを考慮する必要がある。

2.審査基準における関連規定

2005年12月に、国家工商行政管理総局商標局及び商標審判委員会の共同編集による『商標審査基準』において、商標の識別力に関する審査基準が定められている。そのうち、下記の内容はキャッチフレーズ商標の登録審査に関連している。

商品又はサービスの特徴を非独創的に表現した短い連語又はセンテンスは商標登録しない。

例:


 
ただし、独創性が認められるもの又は他の要素と組み合わせた場合に識別力を有すると認められるものはこの規定を適用されない。

例:





3.登録条件


上記の如く、『商標法』及び商標審査基準における商標登録に関連する規定を考察することにより、キャッチフレーズ又はスローガン商標の登録審査実務において下記の条件が審査のポイントとなることがわかる。以下に具体的な事例を引用して説明する。○マークは登録成功の事例で、×マークは拒絶された事例である。

(1)識別力を有しているか否か

①キャッチフレーズ又はスローガン商標が、単なる商品の品質、原材料、効能、産地、価格又は使用対象のみを表すものは登録されない。逆に、そうでなく、隠喩や擬人的な表現で表すものは登録される。

ד来自美丽的天山(訳:美しい天山の贈り物)”(指定商品:食品等)

ד补血精品(訳:補血精品)”(指定商品:非医薬品栄養剤等)

○「enjoy it乐在其中」(訳:楽しんで)(指定商品:睡眠促進用アイマスク;ソックス)

○“你的力量(訳:あなたのパワー)”(指定商品:デジタルカメラ、PC等)

②対象キャッチフレーズが独創性を有しないもの、又はすでに流行しているもの、又はすでに一般大衆に知られている公益性のある広告語句又は宣伝語句は、商標としての顕著性を有さないとみなされ、登録されない。ただし、独創性が認められ、かつ流行中でないものであれば、登録される。

ד让更多的人每天喝杯好奶(訳:もっと多くの方に美味しいミルクを届けたい)”(指定商品:ミルクティー(主要成分:ミルク)、ヨーグルト等)

ד技术以人为本(訳:技術は人成り)”(指定商品:電話機等)

ד让方便成为一种享受(訳:便利を楽しみに)”(指定商品:水洗トイレ、浴室装置等)

○“YOUR VISION,OUR FUTURE”(指定商品:カメラ、医療用内視鏡等)

○“JUST DO IT”(指定商品:衣料品等)

○“ONE WORLD,ONE GAME,ONE BEER”(指定商品:ビール等)

○“百度一下,你就知道(訳:百度をクリックすると何でもわかる)”(指定役務:ネットサーチエンジン等)

○“”「アファンティ 画竜点晴」(指定商品:自動販売機等)

③商標が顕著性を有する部分を含んでいれば、それ以外の部分が顕著性を有していなくても全体としての登録が認められる。その場合、権利として保護されるのは全体であり、顕著性を有しない部分は保護対象とはならない。

○“眼中无他,却有力加(訳:眼中に力加しかない)”(指定商品:ビール等)

○“来自的爱(訳:ネスカフェーからの愛)”(指定商品:加工された水(水飲料)、天然水(水飲料)、ミネラル・ウォーター(飲料)等)

○“HAVE A BREAK, HAVE A KIT KAT”(指定商品:キャンディ、チョコレート、ケーキ等)

注記:上記事例では必ずしもすべての個々の短い文章は独創性を有していないが、この中には顕著性を有する語句が含まれている(  で表記される部分)。それによって、キャッチフレーズ全体としてその顕著性を認められ権利保護の対象となっている。しかし、その中の顕著性を有しない部分は、保護対象にならず、商標権を主張することはできない。したがって、その商標登録によって第三者によるその顕著性を有していない部分に対する正当な又は善意の使用を阻害することはない。

④キャッチフレーズが一定の顕著性を有し、かつ使用されることによりその顕著性が増強され、指定商品又は役務を識別する機能を有するようになったものは、登録を認められる。

○「我就喜欢(訳:私が好き)」(指定商品:サンドイッチ等)

(指定役務:広告、ビジネスリサーチ、輸出輸入代理等)

(2)過度な誇張表現又は欺瞞的表現、又はその他の好ましくない影響をもたらすキャッチフレーズ等は登録されない。ただし、第三者による善意の使用を妨げることがなく、又は消費者を意図的に誤認させることがなければ、その登録は認められる可能性もある。

  ד金钱万能(訳:金銭万能)”(指定商品:宝石等)

  ○“钻石恒久远、一颗永流传(訳:永遠のダイヤモンド、代々のつなぎ)”(指定商品:宝石、リンク等)

(3)他人の同一又は類似の商品について既に登録され又は予備的査定を受けた商標と同一又は類似でなく、かつ『商標法』の他の規定に違反しないものであれば、登録される。
 
.キャッチフレーズ、スローガン商標の典型的判例

以上の議論を踏まえ、キャッチフレーズ又はスローガン商標登録に関するいくつかの典型的判例を分析してみよう。これらの判例を考察することにより、出願人はいかにして拒絶される逆境から抜けられたか、またそのような逆境を克服したときの喜びをおわかりいただけるであろう。下記の二つの判例は、いずれも審査段階で顕著性の欠如を理由に登録を拒絶されていた。しかし、審判段階において、判例1は、出願人が商標の意味を再説明し独創性を強調した答弁を行うことにより、最終的に登録を成功させた。判例2は、そのキャッチフレーズが業界における非流行性を強く主張して登録を認められた。現在、キャッチフレーズ、スローガン商標の登録に関する商標局の審査基準は依然として厳しいが、これらの成功事例を研究することにより、登録を成功させるためのヒントを見出すことができるのではないかと考える。
 
1. “WHAT REALLY MATTERS IS INSIDE”による商標登録

出願人米国薩澳公司(Sauer,Inc.)は、2000年9月14日に国際分類第12類の「陸地用車両用油圧バルブ等」を指定商品として、商標局に“WHAT REALLY MATTERS IS INSIDE”の全英文字商標(以下当該商標という)を登録出願した。商標局は当該商標の意味を「中には確かに重要な関連性が存在する」と理解し、広告宣伝用語に過ぎず商標として有するべき顕著性を有さず、識別力が欠けるとの意見を示した。商標局は、「2001年10月27日改定前の『中華人民共和国商標法』第7条及び第17条の規定に基づき、(2001)標審(二)驳字第3055号商標拒絶通知書により当該商標の登録・公告を拒絶した。

出願人は商標局の審査決定を不服として、2001年7月27日に商標審判委員会に審判を請求した。出願人は、商標局は当該商標の文章の意味を理解しておらず、「中には確かに重要な関連性が存在する」は重大な誤訳であると主張した。出願人の答弁では、第1に、文章の正確な意味は、「本当に重要なのは中身である」であり、この意味では商品の内部成分や内部構成を言及しておらず、商品の宣伝のための広告用語ではない。第2に、当該商標はセンテンスのデザイン方式を採用しており、このような方式は商標デザインにおいても独創性があり、消費者は当該商標の文章の独創性に印象づけられることは確実である。第3に、当該商標はすでオーストラリアや米国等において登録されており、その中国での登録は中国におけるセンテンス形式のキャッチフレーズ登録においてよき先例となりうる。したがって、当該商標の登録は『中華人民共和国商標法』に違反するものではなく、登録を求められるべきであると主張した。

上記出願人の審判請求に対し、商標審判委員会は『商標評審規則』(商標審査規定)第30条の規定に基づき、2003年11月に審理し、まず、当該商標の意味は、商標局の理解する「中には確かに重要な関連性が存在する」ではなく、出願人の出張する「本当に重要なのは中身である」とされるべき、と指摘した。第2に、当該商標の指定商品は「第12類陸地用車両用油圧バルブ等」であるが、当該商標は直接的に指定商品の内部構成又は当該産業界ですでに知られている具体的な商品の名称を指すものではない。第3に、当該商標はすでに指定商品業界の一般的な用語又は常用の広告用語になっていることを示す証拠は見出せないので、当該商標は識別力を有し顕著性を有すると認めるべき。したがって、当該商標は予備審査及び審査公告を認められるべき。商標審判委員会は2004年3月17日付け《“WHAT REALLY MATTERS IS INSIDE”商標拒絶査定不服審判審決書》(商評字[2004]第0634号)をもって、「出願人による第12類陸地用車両用油圧バルブ等を指定商品とする“WHAT REALLY MATTERS IS INSIDE”の商標登録出願を予備審査承認する」と審判決定を下した(詳しくは『商標公告』第2019224号参照)。

2. “MAKES PEOPLE LISTEN”による商標登録

出願人スウェーデンLLW of Sweden AB社は、2001年6月1日に、国際分類第9類「録音機器、音声転送装置機器等」を指定商品として商標局に“MAKES PEOPLE LISTEN”の全英文字商標(以下当該商標という)を登録出願した。当該出願に関し、商標局は当該商標の意味「聞かせる」は独創性を欠く広告宣伝用語に過ぎず、商標としての顕著性に欠けるとし、『中華人民共和国商標法』第7条及び第17条規定に基づき2001年10月27日付け(2001)標審(二)驳字第6572号拒絶通知書をもって当該商標の登録出願・公告を拒絶した。

出願人は商標局の審査決定を不服として、2001年11月20日に商標審判委員会に審判を請求した。出願人の審判請求書によれば、当該商標英文字“MAKES PEOPLE LISTEN”は、文章が短く覚えやすく識別しやすいという特徴があり、かつ指定商品及びその内容について特別な記述もないので、当該商標の登録を認めるべきであるというものであった。

商標審判委員会は『商標評審規則』第30条の規定に基づき、2004年2月に審理し、審判決定を出した。この審判決定によれば、当該商標“MAKES PEOPLE LISTEN”の意味は「聞かせる」になるが、指定商品第9類録音機器等の商品機能、用途又はその他の商品の特徴をあらわす表現を越えており、かつこの文は業界で一般に使用される広告宣伝用語になっていないので、商品を識別させる商標としての顕著性を有すると認定し、予備審査を認めた(詳しくは商評字[2004]第3365号参照)。この審判決定に基づき、商標局は2004年12月14日付けで当該商標の登録を公告した(詳しくは『商標公告』第2023411号参照)。

.おわりに

現在、中国ではキャッチフレーズ、スローガンは商標として商標権を獲得し権利保護されることが可能となり、また著作権としても権利保護される。しかし、キャッチフレーズ、スローガンはその文章が短く表現しきれない自身の特徴から著作権の認定や保護は当面、困難であろう。そのため、キャッチフレーズ著作権に関する判例も数少ない。商標出願の実務においては、多くの企業はキャッチフレーズを商標として登録させ商標権を得ようと努力を続けている。現状はキャッチフレーズに関する審査基準は十分に整備されているとは言いがたい。したがって、登録出願をする以前の段階における内容の選別と改善が重要な作業となってくる。また、実際に出願する段階においても同じキャッチフレーズに対してもその指定商品の違いによって、また審査を行う審査員によって審査結果に違いが出てくる。すなわち、実際にキャッチフレーズの商標登録審査における基準の把握や内容の理解はそれぞれ異なる現実にある。このような現状の中、少しでも登録の成功率を高めるために、以下の点を参考意見として述べる。
 
(1)独創性が極めて高く、かつ企業の商品を広告・宣伝する上で重要な意味を有するキャッチフレーズ、スローガンは商標として登録出願する意義がある。
 
(2)ある程度の独創性を有するが、その顕著性を増加するために、他の識別性の強い要素(たとえば、商号や図形等)を加えたうえ、全体でキャッチフレーズの商標として登録出願する意義がある。
 
(3)独創性があり、かつすでに流行しているものでないキャッチフレーズについて、その登録出願が商標局に拒絶された場合、審判請求の手続きにより再度独創性と非流行性を主張した方が良い。また、すでに中国で使用している場合は、その使用の事実を証明する証拠及びその商標として使用されることにより識別力が増強される証拠をできるだけ多く収集し、当局に提出した方が良いと思う。
 
参考文献:                                                                                                                 
1.『商標法』
2.『商標審査及び審査受理基準』
3.『キャッチフレーズの商標審査事例』
4.『商標公告』
5. http://sbcx.saic.gov.cn/trade/index.jsp
 
(2011)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
×

ウィチャットの「スキャン」を開き、ページを開いたら画面右上の共有ボタンをクリックします