化学分野において、「予想外の効果」を有すると唱える特許の無効化は通常、困難である。本件は、参考になれる無効化戦略を示してい...
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2015年中国における典型的な無効審判10大事件の発表


中国特許審判委員会は、4月26日の「世界知的所有権の日」にあたり、中国における知財保護を強化し、特許の有効性判断の基準を示す観点から、「2015年中国における典型的な無効審判10大事件」を発表しました。皆様のご参考のため、その和訳を作成しました(下記を参照のこと)。

そのうち、2番目及び8番目の無効審判請求は、弊所(北京林達劉知識産権代理事務所)が取り扱った案件です(2番目の案件は権利者の代理人として、8番目の案件は請求人の代理人として参加)。今後も、皆様のご期待に添えるよう尽力する所存ですので、引き続きご支援をお願いいたします。

1.「核初期化因子」特許無効審判請求事件

経緯
請求人である劉蕾雅氏は、特許権者である国立大学法人京都大学の第200680048227.7号特許に対して無効審判請求を提起した。特許審判委員会は審理した上、本件特許が特許法第5条第26条4項に適合すると判断し、特許権者が提出した訂正クレームを前提として特許の有効性を認める旨の審決を下した。

審決の要旨
胎児から直接入手できる細胞でありながら、ビジネスルートからも購入できる細胞に関する発明について、この発明が、胎児から細胞を取得することによる倫理的問題を防止することを目的の1つとするものであり、かつ、明細書には胎児への操作が一切記載されておらず、当業者が先行技術ではその細胞の購入ルートがあると確認できる場合、明細書は全体的に、ヒト胚からその細胞を直接取得する技術内容を除外していると判断でき、かかる内容は、胎児からの直接の取得として解釈すべきではない。分化全能性を有しないヒト細胞について、その取得及び作製はヒト胚を破壊・使用する方法や操作と全く関係がなければ、この細胞自体及びヒト胚の工業又は商業目的での使用に関係しない作製は、発明に何らかの使用の可能性が潜在するからといって、世間で広く認められている公序良俗に違反すると考えるべきではない。

2.「チロシンキナーゼ阻害剤である新規な縮合キナゾリン誘導体」特許無効審判請求事件

経緯
請求人である付磊、王露は、特許権者である貝達薬業股分有限公司の第03108814.7号特許権に対して無効審判を請求した。特許審判委員会は審理した上、特許権者により提出された訂正クレームを前提に特許権の有効性を認める旨の第27258号審決を下した。

審決の要旨
請求項における一般式化合物の置換基の定義が新規事項追加であるか否かを判断する際に、実施例の記載を重視すべきである。実施例における大部分の化合物の置換基がいずれも同種のものである場合、実施例は、置換基を当該種類のものに補正する根拠となり、実施例に基づいて置換基の定義を当該種類に限定する補正は認められるべきである。このような補正は、出願日前に完成できなかったものを出願書類に追記することに該当せず、出願人がこれにより不当な利益を取得することはない。

「後知恵」を回避する観点から、一般式化合物の進歩性に関する審査において、当業者を判断の主体とし、先行技術の現状及び技術の発展のトレンドに基づいて、出願日の前に従来の化合物の構造を改良する動機付けがあるかどうかを検討すべきであり、発明に接してから改良の可能性があるかどうかを検討してはいけない。また、技術のサポート、技術の革新に頼り治療効果が市場を決める新薬分野では、販売手段、広告宣伝などの非技術的要素の影響を除いて、医薬品の商業的な成功は、発明の進歩性判断において考慮されるべき要素である。なぜならば、このような成功は一般的には技術上の顕著な進歩を示しているからである。

3.「消化管間質腫瘍の治療」特許無効審判請求事件

経緯
請求人である江蘇豪森薬業股分有限公司は、特許権者であるノバルティス株式会社等の第01817895.2号特許権に対して無効審判を請求した。特許審判委員会は審理した上、請求項1が新規性を有しても進歩性を有しないと判断し、本件特許をすべて無効とする旨の第27371号無効審決を下した。

審決の要旨
「疾患Yの治療のための医薬品を製造するための物質Xの使用」という形で作成される医薬用途クレームについて、「疾患Yの治療」は、疾患Yを患っている患者への治療と解釈すべきであり、「患者」としては、ヒト及び動物を含む。にもかかわらず、明細書に臨床実験データを記載することは、このような医薬用途クレームをサポートする唯一の手段ではなく、明細書において生体外細胞実験又は動物モデル実験を記載することも選択できる手段である。しかし、これらの手段を使用する場合、当業者が明細書の記載から当該物質がかかる用途及び/又は効果を有することを予期し得るという条件を満たさなければならない。

医薬用途発明の新規性について、先行技術の開示は当該物質がかかる疾患を患っている患者を効果的に治療できることを反映できない場合、当該医薬用途発明が新規性を有する。

医薬用途発明の進歩性について、発明が先行技術に比べて自明か否かを判断する際に、当業者には物質Xを疾患Yの治療に用いることを試みる動機付けがある(即ち発明自体を試みる)か否かを検討するだけではなく、当該試みに成功の合理的な期待があるか否かをも検討すべきである。「成功の期待」は合理的なものであればよく、「成功の絶対的な期待」は必要ではない。

4.「バイオディーゼルの製造における動物性脂肪の転化に由来するグリセリンからジクロロプロパノールを製造する方法」特許無効審判請求事件

経緯
請求人である江蘇揚農化工集団有限公司は、特許権者であるソルベー社の第200480034393.2号特許に対して特許無効審判請求を提起した。特許審判委員会は審理した上、請求項1~33が進歩性を有しないと認定し、特許権をすべて無効とする第20060号審決を下した。

審決の要旨
化学分野において、発明と先行技術との相違点は、当該製品又は方法の一要素を他の既知要素に置き換える点のみにある場合、この置き換えられた要素が発明にどのような効果をもたらすかが発明の課題を認定する上で極めて重要であると判断される。置き換えられた要素による効果が、既知要素による効果と同一であるか又は相当する場合、発明の課題は先行技術の代替策を提供することに過ぎないと判断できる。そして、このような要素の置換手段は先行技術又は当業者の技術常識から容易になし得るものであると証明された場合、この発明が進歩性を有しないと判断される。置き換えられた要素による効果が、既知要素による効果と異なるか、又は既知要素から予想できないほどの効果である場合、当該効果に基づいて発明の課題を認定した後、このような要素の置換手段についての示唆があるかどうかを判断する。

明細書には様々な観点から有利な効果が記載された場合、当業者の立場で、発明の技術的思想を正確に理解・把握して、すべての技術情報を全体的に考慮した上で、それらの効果と置換要素との関係を客観的に検討し、置換要素による効果を正確に認定して進歩性を判断すべきである。

5.「投影光学系、露光装置及び露光方法」特許無効審判請求事件

経緯
請求人であるCarl Zeiss会社は、権利者であるニコン株式会社の第200480012069.0号特許に対して無効審判請求を提起した。特許審判委員会は審理した上、一部の請求項が新規性を有しないと判断し、当該一部の請求項の権利を無効とする第26658号審決を下した。

審決の要旨
出願が優先権の利益を享受できるか否かを判断する際に、単独対比を行い、後願の各請求項に係る発明のそれぞれが、1件の先願書類に明確に記載されているか否かを判断しなければならない。「明確に記載されている」とは、表現上完全に一致することは要求されず、後願の発明がはっきり説明されていればよいことを意味している。ただし、先願は上記発明の1つ又は一部の構成要件について、大まか又は曖昧な説明のみを行い、ひいては、暗示だけしているが、この先願の優先権を主張する後願は、この1つ又は一部の構成要件に関する詳細な説明を追加しており、当業者が自身の知識に基づいて先願から上記詳細な説明を直接的又は一義的に導き出すことができない場合、後願は先願の優先権を享受することができない。

判断者は、当業者の水準から出発して、先願書類を全体として検討し、技術分野、解決すべき課題、技術的手段及び所望の効果などの観点から全体的な比較を行い、後願の主題が先願から直接的かつ一義的に特定できるか否かを判断して、先願と後願が同じ主題に関するものであるか否かを認定しなければならない。

複数件の優先権を主張する後願に記載している1つの発明は、2件以上の先願にそれぞれ記載された、異なる発明又は構成要件を総括したり組み合わせたりしたものであれば、優先権を主張することはできない。

6.「立体表示方法及び追跡型立体表示装置」特許無効審判請求事件

経緯
請求人である深セン市鈦客科技有限公司は、権利者である深セン超多維光電子有限公司の第201010229920.2号特許に対して無効審判請求を提起した。特許審判委員会は審理した上、権利者が2015年9月2日に提出した請求項1~6が進歩性を有すると判断し、訂正後の請求項を前提として特許の有効性を認める旨の第27801号審決を下した。

審決の要旨
先行文献に開示される事実の客観的な認定は、進歩性判断の重要な一環である。先行文献の開示内容への客観的な認定は、当業者の立場に立って、先行文献自体の発明の目的、解決しようとする課題、採用する技術的手段及び奏する技術的効果などの観点から客観的かつ全面的に考慮すべきである。本件特許の発明に対する理解を持って先行文献を解読すべきではない。先行文献に示唆があるか否かを判断する際にも、先行文献の着目した問題点、採用する技術的手段及び奏する技術的効果などの多くの観点から総合的に考慮した上、かかる示唆があるか否かを客観的に判断しなければならない。先行文献に本件特許の内容を持ち込んで分析・推理すると、結論を誤ってしまう可能性は高い。先行文献全体の発明及び解決する課題を切り離して先行技術に記載の構成を個別に検討し、それに特許のかかる構成要件を持ち込んで先行技術の開示を推論すると、先行文献自体に客観的に示された技術内容と切り離してしまい、先行技術に客観的に開示された事実に対する当業者の認知範囲を超えることとなる。

7.「可変周波数調速型流体継手電動給水ポンプ」実用新案無効審判請求事件

経緯
請求人である北京合康億盛変頻科技股分有限公司は、権利者である広州智光節能有限公司、瀋陽ポンプ製品販売有限公司の第201320342548.5号登録実用新案に対して無効審判請求を提起した。特許審判委員会は審理した上、請求項1~6が進歩性を有しないと判断し、すべての請求項を無効とする第27267号審決を下した。

審決の要旨
技術常識の認定は、当業者の知識及び能力に基づいて、三段階の検討及び判断を行うべきである。具体的には、①技術常識として認定される手段自体が当業者に広く知られているものであるか否か、②技術常識として認定される手段の、特定の課題を解決するための適用、または特定の役割が、当業者の周知事項や慣用手段であるか否か(この特定の課題や役割は通常、発明においてこの手段が実際に解決する課題と同一であるかまたは対応している)、③技術常識の導入が当業者には自明なものなのかという3点の判断が必要になる。この3点を共に満足した手段だけが、技術常識として認定できる。

先行技術における技術常識の理解、反対の教示の有無に関する判断は、発明の全体的な環境に基づいて理解すべきであり、発明と切り離して1つの構成要件や手段のみ検討すべきではない。先行技術には、従来の技術に対する改良がある場合、ある観点でのメリットのために当業界の一般的な手段を採用することは必ずしも、他の観点でメリットを有する当業界の他の周知手段の採用を否定することを意味しておらず、反対の教示となるとは限らない。

8.「冷延鋼板及びその製造方法、電池及びその製造方法」特許無効審判請求事件

経緯
請求人である新日鉄住金株式会社が、権利者であるJFEスチール株式会社の第200780009180.8号特許に対して無効審判請求を2回提起した。特許審判委員会は審理した上、それぞれ第24367、28343号審決を下した。第24367号審決では、請求人の無効理由が成立せず、特許が有効であると判断したが、第28343号審決では、発明の一部が新規性を有しないとして特許の一部を無効にした。

審決の要旨
推定の手法により、化学製品に関する請求項の新規性を判断することは、化学分野の審査実務の難しいところである。物の製造方法がその構造及び組成に直接関係し、かつ、製法が同一であれば、通常、同一の構造及び組成を有する物が得られるため、パラメータの数値限定を含む化学製品請求項の新規性は、製法の観点から対比分析して判断することができる。

無効審判において、製法により、数値限定を含む化学製品請求項の新規性を推定する判断において、立証責任の分担及び証明の度合いが問題のキーポイントになる場合が多い。この場合、立証責任は、このような主張をする請求人により負担されるべきである。請求人が提出する証拠は、合議体が既知の事実に基づき、経験法則に照らして、証拠に記載の製法により本件特許の化学製品と同一の物を製造できると判断できる程度の、全面的かつ正確でピンポイントなものであって証明の一致性を持つものでなければならない。請求人がこのような証拠を提出できない場合、立証不能による結果を受け止めざるを得ない。

9.「携帯電話(100C)」意匠無効審判請求事件

経緯
請求人であるアップルコンピュータ貿易(上海)有限公司は、権利者である深セン市佰利営銷服務有限公司の第201430009113.9号登録意匠に対して無効審判請求を提起した。特許審判委員会は審理した上で、本件意匠が特許法第23条第1項、第2項に適合すると判断し、意匠権を有効とする第27878号審決を下した。

審決の要旨
意匠の類否判断の主体となる「一般消費者」とは、実際の生活における普通の消費者に等しいわけではなく、それなりの知識レベルと認知能力、意匠出願日前の同一又は類似の種類の物品に関する意匠及びその慣用手法について常識的な理解、基本的な図面読取力、六面図から立体物品を想像する能力、及び、慣用手法で簡単に創作する能力を持つ者をいう。

登録意匠の有効性判断は、「一般消費者」の立場から、先行意匠の状況を客観的な参照系として、「全体的に観察し、総合的に判断する」という判断原則に基づき、本件意匠と引用意匠との共通点及び相違点を全面的に観察した上で、先行意匠の状況、創作空間、独創的な創作要点などの要素を検討し、各要素による全体の視覚的効果への影響を総合的に考慮してこそ、最終的に適切な結論が得られる。

10.「装飾櫃(6102-173)」意匠無効審判請求事件

経緯
請求人である上海銘軒家具有限公司は、権利者である北京皇家現代家具有限公司の一連の登録意匠に対して無効審判請求を提起した(いずれも微信(WeChat、微チャット)類のインターネット証拠に関わる事件である)。本事件はこのシリーズ事件の1つとして、第201430429543.6号登録意匠の無効審判請求に関する。特許審判委員会は審理した上、意匠権の有効性を認める旨の第26912号審決を下した。

審決の要旨
インターネット証拠の特徴に鑑み、その信ぴょう性と公開性についての認定は、通常、下記の状況を考えなければならない。具体的には、①運営者の信用度、資質、運営状況、②情報の開示、修正、削除に関する管理の仕組み、③アクセス権限などの判断が必要となる。

本事件に係る微信は騰訊公司が2011年に開発したスマート端末向けの即時通信サービスを提供できるアプリケーションである。騰訊公司の信用度が高く、そのシステム環境が比較的安定し、管理の仕組みも規範的である。微信公衆プラットフォーム(このプラットフォームを通じて、個人と企業は微信の微信公衆号を申請することができ、アカウント獲得者が全員に文字、画像及び音声メッセージを送信できる。)については、微信公衆号(パブリック・アカウント)が一旦取得されると、その情報の発信は当該公衆号の管理人により管理されるが、その情報発信の日時が自動的に付される。微信公衆プラットフォームを通じて発信された微信公衆号の文章について、当該公衆号の管理人が、その内容を修正したりする権限を有せず、削除しかできない。当該公衆号のフォロワーは、微信公衆号により発信された文章にアクセスしたり、微信の検索エンジンの検索機能を利用してその内容を検索したり、具体的な内容を閲覧したりすることができる。したがって、十分な反証がない場合、微信公衆号で発信された文章情報及びその発信日時の信ぴょう性を認めることができ、特許法にいう公開に該当すると考えられる。


ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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