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「牝牡驪黄(ひんぼりこう)」で発明の構想を見抜け ——発明の構想と進歩性主張について


北京林達劉知識産権代理事務所

1.見過ごされやすい重要段階

研究開発は通常、(1)課題発見・提起、(2)目標設定、(3)新しい概念、思想、技術、理論等の解決手段の見出し、(4)新規性調査、(5)同じ手段を記載した先行文献がなければ、発明として確認、(6)実証実験の繰り返し、(7)成果の報告、という流れで行われる。

上述の流れで形成された発明の思想は抽象化され、出願書類となる。出願書類に記載されている背景技術、背景技術に存在する欠点、その欠点を解消するための手段及び効果等を含むものとして抽象化された発明者の思考過程は、発明の構想と呼ばれる。

研究開発において、「課題の提起は課題解決そのものよりも難しい」ことが多い。このように、開発における課題発見・提起は極めて重要である。研究開発に対応して明細書に反映された課題発見・提起の流れは、発明の構想における前後をつなぐ働きをする重要な一環である。ここでいう「課題」は少なくとも、①当業者に知られている普遍的な課題、②従来技術において認識されなかった新たな課題、③上記2つの課題の裏にある、このような課題が存在する理由、という3つの側面を含む。

筆者の実務経験からすれば、進歩性判断において、抽象な出願書類を読んで、発明の構想を正しく理解し、特に発明の構想における課題を正しく把握することは、権利化段階において無視されやすい鍵である。なぜなら、進歩性判断において、課題の上記③の側面は、上記①と混同されやすく、普遍的な課題として認識されて、発明の進歩性が低く判断されることが多いからである。

このような問題を抱える出願について、それぞれ発明者と審査官の立場で考えてみよう。具体的には、発明の構想の観点から、できるだけ発明の開発から完成までの過程を再現し、発明創出における重要な要因を浮き彫りにする。一方、審査官の観点から、このような発明の構想、特にその裏にある課題存在の理由が出願時の当業者には自明であるか否かを考察する。このように整理して、それぞれの主観的な思い込みによる影響を減らすことにより、客観的で公正な判断及び合理的な権利化を図るためにどのように応答すべきかを検討する。
 
2.典型例

1)発明の構想から改良の動機づけを判断——【事例1

請求項1は電流検出回路に関するものである。請求項1と引用文献1との相違点は、第1の信号伝送部と第4の信号伝送部とは近接して配置され、第2の信号伝送部と第3の信号伝送部とは近接して配置される点にある。この相違点からすれば、出願が実質上解決しようとする課題は、モータ駆動装置内の電流経路を流れる電流を、外部ノイズの影響を受けずに高精度に検出することができるシャント抵抗方式の電流検出回路を提供することである。



引用文献1の図1には、回生制動やエンジンで駆動される発電機23で充電される電池20の充電電流と放電電流を検出する電流検出回路であって、互いに直列に接続してなる第1の電流検出抵抗1A、第2の電流検出抵抗1B、第1の差動アンプ2A及び第2の差動アンプ2B、加算回路4及び検出回路3を含む電流検出回路が開示されている。

【コメント】

一見すると、請求項1と引用文献1との相違点は、伝送回路の近接配置のみにあるように見えるため、「信号伝送部を便利に配置する」ことを課題として新たに特定されやすい。これはより上位で普遍的な課題である。回路レイアウトの多くは「便利に配置する」ために設計されると言えるからである。よって、相違点は容易想到であると思われる。これは進歩性判断において犯しやすい「後知恵」の過ちである。

しかしながら、発明の完成経過を振り返れば、全く異なる結論に至れる。

まず、発明者らは、「伝送路において外部ノイズの影響を受けると、アナログ差動信号が変動し、結果として電流検出精度が低下する」という欠陥を認識した。

その後、発明者らは分析した結果、「外部ノイズの影響」という課題を引き起こす根本的な原因は、「外部ノイズ源と差動信号伝送部との距離が異なることに起因する差分演算部の出力信号に外部ノイズによる影響が残ってしまう」ことであることを見出した。

そして、上記原因が判明した後、発明者らは、第1の伝送部と第4の伝送部とを近接して配置し、第2の伝送部と第3の伝送部とを近接して配置することで、電流を外部ノイズの影響を受けずに高精度に検出するとの課題を解決し、本発明の完成に至った。

これに対し、引用文献1の発明は、「簡単な回路構成としながら、電流検出線の断線による故障を検出する」ことを目的としており、外部ノイズ源による影響という課題を認識せず、さらに、外部ノイズ源による影響を解消しにくい根本的な原因、即ち「外部ノイズ源と差動信号伝送部との近接程度が異なることに起因する差分演算部の出力信号に外部ノイズによる影響が残ってしまう」という原因も認識していない。相違点のように配置することで、異なる差分演算部に接続する第1と第4の信号伝送部とが近接して配置され、第2と第3の信号伝送部とが近接して配置される。上記「外部ノイズによる影響」の根本的な原因そのものを認識することは容易ではないため、相違点の提起は当業者には自明ではない。そして、上記配置によって、出力信号に残った外部ノイズによる影響が解消され、電流をより高精度に検出できるという効果も、当業者が予想し得ないものである。
上述の線で進歩性主張を行った結果、出願は登録になった。

【感想】

「3ステップ法」に沿った進歩性判断において、深層的な課題となる課題発生の原因が見過ごされ、新たに特定した課題が単なる手段そのものの機能又は効果として認定されやすい。この場合、課題発生の原因究明における発明者らの貢献は無視されやすくなる。そのため、発明の思想から逸脱し、新たに特定した課題を主観的に判断することがなく、課題発生の原因究明における発明者らの貢献を無視して、技術的手段が自明であると簡単に認定しないことが期待される。

2.発明の構想から組み合わせの示唆を判断——【事例2

請求項1はPCVD堆積プロセスを実施する方法に関するものである。請求項1と引用文献1との相違点は、単一パルスのプラズマ反応ガスを供給し、前記パルスの長さおよび位置が、基材チューブの長さにわたって堆積したガラスの厚さまたは組成の変動である堆積変動に対応する長手方向位置に落ちるように選択する点にある。

本願発明の目的は、軸方向において基本的に均一の厚さ並びに基本的に均一の屈折率およびアルファ値の蒸着ガラス層を有するガラス基材チューブを提供することにある。

引用文献1にはガラスチューブのアンダーコート層にPCVDプロセスを実施する装置及び方法が開示され、具体的には「PCVDプロセス中、ドーピングあるいは未ドープのガラス形成ガス及び基準量の含フッ素化合物を含む1次ガス流を供給する。反応域が中空ガラス基材チューブの反転点またはその近傍にある場合、追加量のフッ素化合物含有酸素ガスを加える。これにより、堆積したガラス中の水酸基の総量が減少し、レイリー散乱による光信号の減衰が低減する。」ということが開示されている。

引用文献2にはガラス堆積層中のプラズマ域の位置の関数に関する言及があり、「PCVDプロセス中、ガラス基体管の内部に供給されるドープガラス形成ガスの組成を変えることで、光学プリフォームの長手方向の厚さ及び屈折率を制御する」との開示がある。

【コメント】

一見すると、引用文献1では、単一パルスの追加量のフッ素化合物含有酸素ガスが添加され、酸素ガスが客観的にプラズマガスと反応できる。

引用文献2には中空基体管反応域の長手方向の位置の関数によってドーパントの量を特定し、1種又は複数種の2次ガス流によって上記量のドーパントを提供してガラス形成ガスの組成を調整することで、厚み及び屈折率の不均一問題を解決することが開示されている。引用文献2の示唆のもとで、引用文献1において単一パルスのプラズマ反応ガスを供給する際に、供給されるプラズマ反応ガスのパルスの長さおよび位置が堆積変動に対応する長手方向位置に落ちるように選択して、ガラスチューブの軸方向において均一の厚さ又は屈折率を有することを確保することは、容易想到である。審査官はこの論理付けで進歩性を否定した。

しかしながら、本発明の完成経過を振り返れば、引用文献2は組み合わせの示唆を示すものではないことが明らかである。

まず、発明者らは、PCVD堆積プロセス中、ガラス基材チューブの厚さ及び屈折率が位置に応じて変化し、即ち、厚さおよび屈折率の不均一性があることを認識した。

その後、実験を行い、観察し分析した結果、発明者らは、プラズマの長さおよびプラズマの前部位置が加熱炉の金属壁に対する位置に応じて変化し、この変化するプラズマ前部により、堆積前部が共振器位置に対する位置を変化させ、その結果、厚さおよび屈折率が位置に応じて変動することが、上記問題発生の原因であることを見出した。

この原因を見出した後、発明者らは、プラズマそのものを変えることに着目し、プラズマの軸方向位置に応じてプラズマに反応する特定のガスを与えて、プラズマ前部の運動を妨げる。プラズマ反応ガスは、ガラス成形が起こる基材チューブに供給され、プラズマと相互作用してプラズマのサイズを小さくすることで、プラズマのフロントラインの位置を変化させて、堆積変動を最小化する。こうして本願発明に至った。

これに対し、引用文献2では、ガラス層の厚さ及び屈折率の不均一性問題の解決に関する言及もあったが、基体管の内部のガラス層の堆積速度がガラス層の厚さの不均一性の原因であり、堆積速度が増すと、堆積されるガラス層の均一性が低下するとされている。また、屈折率の不均一性の原因は、ドーパントの量を正確に設定する必要があることであるとされている。

本願の課題発生の原因と異なる原因に基づいて、引用文献2では本願発明と全く異なった手段を採用した。引用文献2では、GeCl4のような屈折率を高めるドーパントまたはC2F6のような屈折率を低下させるドーパントを用いることで、光学プリフォームの長手方向の屈折率を制御している。つまり、ドーパントの添加により、堆積ガラスの成分を変えて基本的に均一な屈折率分布を実現し、かつ2次ガス流の大きさを正確に制御することで均一の厚さを実現することである。引用文献2と違って、本願発明では、堆積ガラスに必要なプラズマそのものを変え、即ち、プラズマ反応ガスとプラズマとの反応により、堆積ガラスに用いられるプラズマの大きさを減少させて、堆積ガラスの厚さまたは組成に影響することを図る。

よって、引用文献2は、厚さ及び屈折率が位置に応じて変化することの原因がプラズマであるという本願発明の発見を全く認識しておらず、当業者はプラズマを変える手段で屈折率及び厚さの不均一性問題を解決することに想到しかねる。

上述の線で応答した結果、本願は登録になった。

【感想】

先行技術の欠陥について、別の引用文献との組み合わせ示唆を判断する際に、普遍的な課題が同一であるかを考慮するだけでなく、発明の構想の観点から、本願発明の課題発生の原因Aと引用文献の当該課題発生の原因Bは同一であるかを深く検討する必要がある。原因AとBは全く異なり、しかも引用文献では当該課題発生の原因Aを認識していなければ、当該引用文献から原因Aに対応する手段を採用する示唆が得られないことは当然である。
 
3.アドバイス

上記2例の検討から明らかなように、「後知恵バイアス」に陥らないように進歩性を客観的に判断するため、当該発明及び先行技術の課題を扱う際に、表層的に見える課題(普遍的な課題)に惑わされずに、その裏にある理由を深掘りすべきである。つまり、発明の構想の観点から、発明創出における重要な要因を把握すべきである。

実務において、以下のプロセスで検討することができる。

まず、「課題」→「課題存在の理由」→「手段」の流れで考察し、発明の思考過程を振り返る。

そして、引用文献の内容を分析し、引用文献には同様な流れが存在するかを判断する。

最後に、上記判断に基づいて、引用文献の改良や組み合わせをする動機付けがあるかを判断する。

これに沿って進歩性主張を行うと、審査官に技術を理解してもらい、認識を統一させやすい。これが案件の客観的で公正な審査につながり、合理的な権利範囲の取得にも有利である。

なお、不服審判及び実体審査において、審判官や審査官は意見書を検討する際に必ず明細書の記載を確認する。そのため、課題存在の理由を根拠をもって説明できるように、明細書作成の際に課題の発見・解決の流れをできるだけ詳しく記載すべきである。

また、発明者が書いた技術説明書は様々であり、課題の3つの側面に関する重要な説明が抜けている可能性がある。一方、弁理士が上記のような思考を持っていれば、明細書の作成や発明者との打ち合わせにおいて、技術説明書の裏のものを深堀りすることで、発明者の創意工夫をより巧みに反映させ、価値の高い明細書を作成することが期待できる。
 
(2021)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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