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材料・方法特徴が含まれる実用新案について


北京林達劉知識産権代理事務所

材料・方法特徴が含まれる実用新案について
 
抄録:実用新案とは、製品の形状、構造又はそれらの組合せについてなされた実用に適した新しい技術的ソリューションをいう。しかし、プラクティスにおいて、実用新案の請求項に、材料特徴及び方法特徴が含まれる可能性もある。本稿では、実際の事例に基づき、これらの特徴が審査経過、無効審判及び権利侵害の判断において実用新案に与える影響を詳しく検討するものであり、知財業界の方々に、実用新案の出願、無効及び権利侵害などの業務において何か示唆を与えることができれば幸いである。
 
キーワード:実用新案、材料特徴、方法特徴、無効、権利侵害
 
1.はじめに
 
実用新案制度は、中国特許制度が確立された当初から制定されたものである。2008年の特許法改正では、例えば、実用新案の検索報告制度から実用新案権評価報告制度への変更、特実併願制度の整備などが盛り込まれ、実用新案制度をさらに充実させた。実用新案は審査期間が短く、出願費用が低く、権利化率が高いなどのメリットがあるため、著しい発展を遂げてきた。国家知識産権局の官庁統計データによると、2008年から2010年の実用新案の出願件数はそれぞれ、22万件、31万件、40万件を超え、年々非常な勢いで増加している。それに伴い、実用新案権侵害事件の賠償額も増加の一途を辿っている。例えば、「正泰グループ股份有限公司(CHINT Group Corp. 以下、「正泰グループ」という)とシュナイダーエレクトリック低圧(天津)会社(Schneider Electric Low Voltage (Tianjin) Co.Ltd. 以下、「シュナイダー社」という)との実用新案権侵害紛争事件」において、シュナイダー社は一審で正泰グループに3.3億元1の賠償金を支払うように命じられた。二審では、双方当事者が法廷外の和解に合意し、シュナイダー社は正泰グループに1.575億元2の賠償金を支払うことになった。この事件をきっかけに、中国国内外の出願人、特に大手企業における実用新案に対する注目度が一段と高まった。
 
一方、実用新案制度には、権利の安定性が弱く、保護期間が短く、保護対象が限られているなどのデメリットもある。実用新案によく見られる問題点として、保護対象が挙げられる。実用新案は、製品の形状、構造についてなされた改良の考案しか保護しないものであるが、その請求項には、どうしても材料特徴、方法特徴が含まれてしまう時がある。国内外の出願人は、材料特徴、方法特徴が審査(方式審査/不服審判)経過、無効、権利侵害の判断において、実用新案の権利化にどのような影響を与えるかということを非常に注目している。本稿では、『中国特許法』及びその実施細則、『中国特許審査基準』の関連規定に基づき、審査経過、無効、権利侵害の判断など異なる段階における実際の事例を通して、この課題について詳しく論述し、かつ材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案をどのように作成すべきかについての私見を述べたいと思う。
 
2.材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案と関連規定について
 
『中国特許法』でいう実用新案とは、製品の形状、構造又はそれらの組合せについてなされた実用に適した新しい技術的ソリューションをいう。この定義は、以前の『中国特許法実施細則』(1984年制定、1992年第一次改正、2001年第二次改正)の第2条第2項(以下、「R2.2」と略す)に規定されていた。その後、保護対象が非常に重要であるため、下位法に規定されるべきではないと認識されたため、2008年改正の『中国特許法』第2条第3項(以下、「A2.3」と略す)に移転された。1989年に、中国特許庁は、第20号公告を公布し、実用新案の保護対象について厳しく制限したが、現在、これらの制限のうち、A2.3に明確に記載されたもの以外の制限は存在していない3
 
実用新案に係る製品は、産業方法によって製造され、特定の形状や構造を有し、かつ一定の空間を占める実体でなければならない4。しかし、一つの製品には、複数の特徴が含まれており、形状や構造に係る特徴以外に、材料特徴、方法特徴なども含まれる可能性があり、これらの特徴がすべて物クレームを限定するための必須要件である場合もある。形状や構造に係る特徴によるだけの製品の限定が、なかなか難しい時がある。したがって、(1)実用新案の請求項においては、既知方法の名称を使用して製品の形状、構造を限定することはできるが、方法のステップ、工程条件などが含まれてはならない。また、請求項には、既知材料の名称が含まれてもよい。(2)形状や構造に係る特徴が含まれる以外に、方法自体に対する改良、又は材料自体に対する改良も含まれる請求項は、実用新案の保護対象に該当しない4。したがって、材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案の請求項は、(一)材料特徴、方法特徴が既知材料の名称、既知方法の名称である請求項と、(二)材料特徴、方法特徴が既知材料の名称でも、既知方法の名称でもない請求項の2種類に分けることができる。そのうち、第(二)は、主に考案の改良点が材料特徴、方法特徴にもある請求項を指す。実用新案権の安定性という観点からすれば、上記改良点について、広義的に理解したほうがよいと思われる。すなわち、請求項の記載からすれば、これらの特徴が実際に請求項の新規性、進歩性に影響する構成要件であるかどうかを考慮せずに、単に当業者にとって新規性・進歩性に影響を与えるようなものであれば、第(二)の改良点に該当すると理解すればよい。
 
実用新案の新規性、進歩性に対する審査においては、材料特徴及び方法特徴も含めて、その考案に記載のすべての構成要件を考慮しなければならない。実用新案の新規性審査には、発明特許の新規性審査の規定が適用され、実用新案の進歩性審査には、判断基準が異なる点を除き、発明特許の進歩性審査の規定も適用される5。しかし、材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案の請求項については、保護対象の特殊性で、関連規定を適用する際に、発明特許に比べて多少差異がある。それについては、以下に詳しく説明する。
 
実用新案権侵害事件において、材料特徴及び方法特徴を考慮すべきであるかどうかについて、議論が起こったことがある。かつて採用されていた「余計指定原則」によると、一部の材料特徴及び方法特徴は、必須要件に当たらない可能性があるため、これらの構成要件を考慮しなくてもよいとされていた。しかし、最高裁判所による民事判決書(2005)民三提字第1号、「大連新益建材有限公司(以下、「新益公司」という)と大連仁達新型墻体建材厰(以下、「仁達厰」という)との実用新案権侵害紛争事件」に関する判決書には、「まず、請求の範囲の作成に対する要求からすれば、実用新案権者が独立項に記載した構成要件は、全て必須要件であるため、いずれも見落とすことができず、全て対比対象とすべきである。本裁判所は、『余計指定原則』を軽率に使用することに賛成しない。また、請求の範囲の役割からすれば、その役割は、権利の保護範囲を特定するためのものである。つまり、発明又は実用新案を構成する技術的ソリューションに含まれる全ての構成要件を公衆に公開することによって、どのような行為が権利侵害になるかを明確に理解してもらうためである。これによって、実用新案権者に有効かつ合理的な保護を提供する一方、公衆が技術を使用する自由を確保する。請求の範囲に記載の全ての構成要件に対して、全面的かつ十分な尊重を与えてはじめて、公衆が請求項の内容について予見できない変更で混乱することがなく、権利の確定性を保障し、特許制度の正常な運営及び価値の実現を根本的に保証することができるのである。本件実用新案の請求の範囲には、1つの請求項、つまり独立項しか記載されていない。この独立項には、筒底壁及び筒管壁の層構造について、それぞれ明確に記載されている。したがって、仁達厰が本件実用新案における筒底壁の層構造は必須要件ではないと主張することは、成立しないものと判断する」6という記載がある。事実上、最高裁はこの判決を通して、いわゆる「余計指定原則」の権利侵害における適用を終結させたのである。
 
2010年に施行された『特許権紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する最高裁判所の解釈』(以下、「司法解釈」という)の第7条には、「裁判所は、侵害被疑物件が特許権の権利範囲に属すか否かを判断するとき、権利者の主張する請求項に記載された全ての構成要件を考察するものとする。侵害被疑物件が、請求項に記載された全ての構成要件と同一又は均等なものを含む場合、裁判所はそれが特許権の権利範囲に属すと認定するものとする。侵害被疑物件の構成要件と請求項に記載のすべての構成要件とを比較して、請求項に記載の構成要件の一つ以上が欠如するか、又は一つ以上の構成要件が同一でも均等でもない場合、裁判所は当該侵害被疑物件が特許権の権利範囲に属さないと認定するものとする」と規定されている7。この司法解釈は、特許権侵害判断に「余計指定原則」が適用できないことをさらに明確にした。
 
したがって、材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案の請求項にとって、権利侵害判断における材料特徴、方法特徴は、いずれも考慮すべき構成要件である。
 
3.審査における材料特徴、方法特徴の実用新案への影響
 
実用新案は、方式審査に合格しさえすれば権利が付与される。実用新案は、登録前に通常方式審査しか行わないが、一部の出願は、拒絶査定され、不服審判が必要となる。不服審判においては、通常、拒絶査定で指摘された不備及び同種類の不備のみについて審査される。方式審査においては主に、形式的不備及び一部の明らかな実質的不備について審査されるので、多くの条文に関連してくるが、材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案の請求項については、常に判断する必要となるのは、実用新案の保護対象に該当するかどうかということである(A2.3、旧R2.2)。
 
1)材料特徴、方法特徴が既知材料の名称、既知方法の名称である場合
 
製品の形状や構造に係る特徴以外に材料特徴、方法特徴も含まれる実用新案の請求項の場合、記載の材料特徴、方法特徴が既知材料の名称、既知方法の名称であれば、その請求項は、実用新案の保護対象に該当する。例えば、溶接、リベットなどの既知方法の名称によって各部材の接続関係を限定することや、複合木造床、プラスチックコップ、記憶合金によって製造された心臓カテーテルスタンドなどを使用することができる。また、複合層は製品の構造として、製品の浸炭層、酸化層などは複合層の構造に属すと認識される4
 
出願番号が200520061438.7、名称が「マイクロ波鍋」である実用新案不服審判請求事件における請求項は以下のとおりである。
 
「1.食物を盛る鍋本体(1)と、鍋本体と合わせる蓋体(2)を備えるマイクロ波鍋において、前記鍋本体は複合層であり、外層がマイクロ波を吸収するための加熱層(1.1)であり、内層がガラス又は 紫砂又はセラミック層(1.3)であり、加熱層とセラミック層との間は、マイクロ波シールド層(1.2)であることを特徴とするマイクロ波鍋。
 
2.加熱層はフェライトが含まれるガラス又は紫砂又はセラミック層であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波鍋。」
 
中国特許審判委員会(以下、「審判委員会」という)は、不服審判通知書に、請求項2に記載の「加熱層はフェライトが含まれるガラス又は紫砂又はセラミック層である」は、加熱層の材料構成しか係らず、実質上、材料自体に対してなされた考案であるため、実用新案の保護対象に該当しないと指摘した。それに対し、不服審判請求人は、その後請求項2に規定の材料が公知技術における既知の材料であることを証明する7つの資料を提出した。審判委員会は、資料5(第03117774.3号中国特許出願)には、主相であるフェライト及びセラミック陶磁媒体を混合することで形成された複合材料の製造方法が開示されており、ほかの公知技術(第89105709.9号、00109462.9号中国特許出願)にも、フェライトを磁性体としてセラミック又はガラス又は紫砂などの原料に添加する製造方法が開示されていると指摘した。したがって、請求項2の附加要件に限定された「フェライトが含まれるガラス又は紫砂又はセラミック層」は、公知技術における既知の材料であり、つまり、請求項2は材料自体に対してなされた考案ではなく、実用新案の保護対象に該当する8と判断した。
 
本件において、フェライト、ガラス、紫砂及びセラミックはいずれも既知材料の名称であるが、これらの材料を組み合わせたものが既知材料であるかどうかは判断しにくい。そのため、出願人は、「フェライトの含まれるガラス又は紫砂又はセラミック層」が既知材料であることを証明するために、大量の証拠を提出することで成功を収めることができた。明細書の作成時に、必要な調査を行い、「フェライトの含まれるガラス又は紫砂又はセラミック層」に関連する公知技術を明細書に記載すれば、このような不必要な手間を省くことができると思われる。
 
この不服審判請求の審決に記載の「既知材料」という表現について、2通りの理解がある。狭義的には、既知材料の名称と理解し、広義的には公知技術に開示された任意の材料を指す。広義上の理解、すなわち、公知技術に開示された材料がいずれも実用新案の請求項に含まれることができると解釈する場合、若干既知の成分が含まれる既知材料(例えば、請求項には、ガラス布の難燃性搬送ベルトの表面層が100重量部のクロロプレンゴムと、7重量部のマスタバッチと、5重量部の酸化マグネシウムと・・・からなる9)の物クレームも実用新案の保護対象に該当するという結論を導き出してしまうことになる。しかし、『ガム製品の実用配合法大集合』には、この配合法が開示されたとしても、前記請求項が実用新案の保護対象に該当すると判断できない。したがって、実用新案の請求項を作成する際に、狭義上の理解を採用したほうがよいと思われる。
 
2)材料特徴、方法特徴が既知材料の名称でも、既知方法の名称でもない場合
 
製品の形状や構造に係る特徴以外に材料特徴、方法特徴も含まれる実用新案の請求項の場合、これらの材料特徴、方法特徴が既知材料の名称でも、既知方法の名称でもない場合、その請求項は、実用新案の保護対象に該当しない可能性がある。また、製品の形状や構造に係る特徴以外に材料自体、方法自体に対する改良も含まれる請求項は、実用新案の保護対象に該当しない。
 
最も代表的な例として、木の爪楊枝がある。その請求項は以下のとおりである。
 
「本体形状が円柱状であり、端部が円錐状である木の爪楊枝であって、加工成形された後の爪楊枝を医薬用殺菌剤に5~20分間浸漬させて乾かすことを特徴とする木の爪楊枝。」
 
この請求項には、方法自体に対する改良が含まれているため、実用新案の保護対象に該当しない4
 
また、以下の請求項もある。
 
「20%の成分Aと、40%の成分Bと、40%の成分Cとからなる菱形錠剤。」
 
この請求項にも、材料自体に対する改良が含まれているため、実用新案の保護対象に該当しない4
 
また、請求項の書き方は、その請求項が実用新案の保護対象に該当するかどうかを判断するのにも重要な影響を与える。特徴部分に、材料特徴、方法特徴のみが記載される場合、通常、材料自体、方法自体に対する改良であり、実用新案の保護対象に該当しないと判断される。
 
例えば、出願番号が第01267192.4号で、名称が「複合型強靭な地下ダクトマンホール蓋」である実用新案不服審判請求事件において、その請求項は以下のとおりである。
 
「マンホールの本体(2)と蓋体(1)と2つの部分に分けられ、本体の内周は蓋体の外周と合わせて、両者は配合して一体となり、本体(2)と蓋体(1)はいずれも基材外包層(4)と鉄筋埋戻し層(3)とからなり、前記基材外包層は均一かつ緻密な構造を有する基材外包層(4)であることを特徴とする複合型強靭な地下ダクトマンホール蓋。」
 
特許庁は、方式審査において、請求項1の特徴部分に限定された特徴は、物質の成分であり、構造特徴ではないため、実用新案の保護対象に該当しないと判断した。その後、出願人が不服審判ににおいて、請求項の記載方法を補正し前記不備を解消することで審判委員会に認めてもらった10
 
4.無効審判における材料特徴、方法特徴の実用新案への影響
 
実用新案の方式審査では、主に形式的不備及び一部の明らかな実質的不備が審査されるが、無効理由は、主に実用新案の実質的な不備に係るものである。無効審判において、材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案は、主に実用新案の保護対象(A2.3)、実施可能要件(A26.3)、新規性(A22.2)、進歩性(A22.3)、明確性(A26.4)などの条文にかかっている。以下にそれぞれ紹介する。
 
1)保護対象について
 
方式審査において不特許事由について審査されたので、無効審判ではこの不備が指摘される可能性が低いが、それが争点となる事件もある。
 
例えば登録番号が第ZL01258913.6号で、名称が「板岩文化石壁部材」である実用新案無効審判請求事件において、その請求項1は以下のとおりである。
 
「天然板岩プレートを含む板岩文化石壁部材において、一つの平面が原形の粗面で保持される以外のほかの面は平面であり、その底面を平整にし、ドイツ船用のデッキの凹凸で配合される相欠きはぎのように、上方はオスダボとして、下方はメス溝として製造され、より固定性、平整性を有するために、石材用接着剤によって各板岩を貼り付け、板岩の端面は平面であり、異なる長さやサイズの板岩をモジュールに面つけし、前記モジュールをさらに大きな岩板に形成し、岩板の四周にフレームを付けることを特徴とする板岩文化石壁部材。」
 
無効審判請求人は、請求項1の特徴部分は、部材の製造方法であるため、実用新案の保護対象に属せず、特許法実施細則第2条第2項(注:新A2.3)に規定する要件を満たしていないと指摘した。合議体は、「本件実用新案の請求項は類似方法又はステップを利用して製品を限定したが、方法特徴以外に、請求項には、板岩文化石壁部材の形状及び構造特徴なども含まれている。『製造する』又は『貼り付ける』のような方法特徴が含まれたとしても、これらの方法特徴は、既知方法に属すため、本件実用新案の請求項は実用新案の保護対象に該当する」11と判断した。
 
この無効審判請求の審決に記載の「既知方法」という表現について、2通りの理解があると思われる。すなわち、狭義的には、既知方法の名称を指し、広義的には、公知技術における任意の方法を指す。広義上の理解、すなわち、公知技術に開示された方法がいずれも実用新案の請求項に含まれてもよいと解釈すると、若干既知の製品の製造方法(例えば、80℃で1時間乾燥する)、使用方法(精製水をドリンクボトルの体積の95%までに注入する)が含まれる物クレームも実用新案保護対象に該当するという結論が導き出されてしまうことになる。しかし、これは明らかに審査基準の関連規定に合致していない。したがって、実用新案の請求項を作成する時に、狭義上の理解を採用するのが一番好ましい。
 
2)新規性及び進歩性について
 
実用新案の保護対象が製品の形状及び/又は構造であるため、材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案の請求項については、記載されたその材料特徴及び方法特徴に、保護しようとする製品のある特定の形状及び/又は構造が間接的に含まれるかどうかを考慮すべきである。なお、考慮すべき特徴はいずれも請求項に記載すべきであり、請求項に記載されていない特徴については、新規性、進歩性を評価する時に考慮しないものとする。
 
例えば、登録番号が第ZL03282585.4号で、名称が「摺動防止プラスチック編みバッグ」である実用新案権無効行政紛争事件において、その請求項1は、以下のとおりである。
「縦方向の中心線の両側の2つの表面に、それぞれ対称又は非対称とする1つ又は複数の表面より高い摺動防止ベルトを編むことを特徴とするポリプロピレン又はポリビニルフィラメントで編んだ摺動防止プラスチック編みバッグ。」
実用新案権者は、「本件実用新案の請求項1には、浮き型編み法が採用されているため、証拠1に開示された考案と異なり、予想外の効果を奏し得るので、進歩性を有する」ということを主張した。北京市高等裁判所(以下、「高等裁判所」という)は、「本件実用新案の請求項1には、原材料のみが限定されており、どのような編み方であるかは具体的に限定されておらず、明細書の実施例の部分にしかその『浮き型編み法』が記載されていない。これによって、請求項1に進歩性をもたらすことができない」12という判断であった。
しかし、ある請求項に進歩性をもたらすために、「浮き型編み法」を請求項に入れると、その請求項が実用新案の保護対象に該当しなくなる可能性はあるのかという新しい問題が生じてくる。場合によって、請求項に材料特徴、方法特徴を追加するかどうかは、確かにジレンマに陥りがちである。一つの折衷案としては、請求項に既知材料の名称、既知方法の名称を記載し、かつ明細書にこれらの材料、方法が既知であると詳しく記載することが考えられる。

材料特徴、方法特徴が既知材料の名称、既知方法の名称である場合
 
実用新案の請求項に記載の材料特徴、方法特徴が既知材料の名称、既知方法の名称である場合、これらの特徴は、新規性、進歩性の評価に考慮されるべきである。請求項に記載の他の構成要件がある公知技術に開示された場合、既知の材料特徴、方法特徴(主に、請求項に記載の既知材料の名称、既知方法の名称を指す、以下も同じ)がその公知技術と異なるため、本件実用新案の請求項に新規性をもたらす(慣用手段の直接な置き換えが含まれていない)ことはできるが、進歩性をもたらすのには、一定の困難がある。それは、主に既知であるこれらの特徴を本件実用新案の課題に用いることがこの分野の技術常識ではなく、公知技術にも示唆がないことを主張するのが難しいからであると思われる。以下の事例からも類推することができる。
 
登録番号がZL97241484.3で、名称が「S管コンクリート分配弁」である実用新案権無効行政紛争事件において、その請求項1は、以下のとおりである。
 
「バルブプレート(5)とバルブリング(4)は普通のスチールを基材とし、その配合面に硬質合金の耐摩耗性リング(4-1)及び(5-1)が嵌合されることを特徴とするS管コンクリート分配弁。」
 
審判委員会は、「証拠1~3はいずれもそのバルブプレート及びバルブリングの材質について説明しておらず、つまり、証拠1~3には、本件実用新案の請求項1に記載の『バルブプレート及びバルブリングが普通のスチールが基材とする』という構成要件が開示されていないため、本件実用新案の請求項1は新規性を有する。しかし、コスト及び工業上の適用性を考慮すれば、バルブプレート及びバルブリングを普通のスチールを基材とすることは、この分野の技術常識であるため、請求項1は進歩性を有しない」と判断した。三一重工株式有限公司(以下、「三一重工社」という)は、実用新案にとって材料特徴は考慮されるべきではないとして不服とし、北京市第一中等人民法院(以下、「第一中等裁判所」という)に控訴し、最終的には、最高裁にまで上告したが、第一中等裁判所も最高裁も当初の審決を維持した13
 
登録番号がZL200720175451.4で、名称が「植物農園芸支柱不織布シース」である実用新案権無効行政紛争事件において、その請求項1は以下のとおりである。
 
「全体的に長い円筒状の植物農園芸支柱不織布シースにおいて、内層(1)と外層(2)とを備え、外層(2)は内層(1)の外部に設けられ、前記内層(1)は円形の柱状物(3)と貼り付けられることを特徴とする植物農園芸支柱不織布シース。」
 
審判委員会は、「本件実用新案の請求項1と資料1の相違点の一つは、請求項1に記載の製品が不織布シースであるのに対し、資料1に開示されたのがプラスチックシースであることである。請求項1に記載の材料特徴は、公知技術の既知材料を形状、構造を有する製品に応用することであり、材料そのものに対する考案ではない。資料1には、前記プラスチック以外のほかの材料を使用して植物農園芸支柱のシース層を製造することが開示又は間接開示されておらず、資料2には、不織布毛布を植物栽培の下地として使用するということが開示されているが、不織布を植物の成長するための材料とする記載がなかった。このように、資料2には、不織布シースを資料1に用いるという示唆がなく、請求項1は進歩性を有する」14と判断した。
 
また、登録番号がZL01264722.1で、名称が「無水銀アルカリボタン電池」である実用新案権行政紛争事件において、その請求項1は、以下のとおりである。
 
「正極タブと、負極蓋と、負極ゲル化亜鉛と、封止用ゴムリングと、正極の外装及びセパレータとを備える無水銀アルカリボタン電池において、電池の負極タブにインジュウム又はスズの原料を電気メッキし、水銀の代わりにゲル化亜鉛に金属インジュウムを入れることを特徴とする無水銀アルカリボタン電池。」
 
引用文献に記載のインジュウム又は銅層とステンレス鋼層との間には、積層法が採用されていたが、本件実用新案の請求項1には、電気メッキ法が採用された。審判委員会は、「当業者は、積層構成の集電体のズレによる漏れを解決するために、プレスを避けて電気メッキ法を使用してステンレス鋼層において、より滑らかな銅表面を得ることを容易に想到し得る。つまり、ステンレス鋼層に、公知技術における積層構造の代わりに、インジュウム又は銅層を採用し、漏れを防止するために、プレス法の代わりに電気メッキ法を使用することは容易に想到し得る」と判断した。
 
実用新案権者は、前記の観点は、ボタン電池製造の分野の技術常識に反していると主張し、第一中等裁判所に上訴した。
 
前記手段が当業者の容易に想到し得るものであるかどうかを確認するために、第一中等裁判所は、工業及び情報化部のソフト及び集積回路促進センター知財司法鑑定所に鑑定を依頼した。鑑定グループは、第一中等裁判所が提供した3つの鑑定資料に基づき、以下の鑑定結論を出した。1)初期の水銀の含む電池に使用された「薄い鋼板で製造してから、インジュウム又は金メッキすること」で製造された電池カバー(電池の負極部)は、電気漏れの1つの要因となっている。2)インジュウム、ステンレス鋼、銅で複合して圧延された(つまり、積層構造を有する)複合金属ベルトで製造された電池カバーを「薄い鋼板で製造してから、インジュウム又は金メッキすること」で製造された電池カバーの代わりに使用することは、水銀の含む電池の漏れを解消するための有効な手段である。この鑑定結果によって、第一中等裁判所は、「この結論を覆す他の証拠が存在しない場合、現有の証拠に基づき、積層構造を使用することは電気メッキ法を使用することに比べて、漏れが発生しにくい。逆に、電気メッキ法を採用するほうが漏れが発生しやすい。したがって、本件実用新案の請求項1が進歩性を有しないという主張の前提条件が存在せず、請求項1は進歩性を有する」15と判断した。
 
上述の判決では、材料特徴である「普通のスチール」が本件実用新案の請求項1に新規性をもたらしたが、進歩性をもたらしておらず、材料特徴である「不織布」、方法特徴である「電気メッキ」が本件実用新案の請求項1に新規性及び進歩性をもたらした。材料特徴である「不織布」が植物農園芸支柱に用いることが進歩性を有するのは、主に資料2にはこのような示唆がないためである。方法特徴である「電気メッキ」がボタン電池の漏れの防止に使用されることがこの分野の技術常識に属するかどうかは、鑑定機関による鑑定結果を利用した。出願人が実用新案の明細書に、これらの方法特徴がこの分野の技術常識ではないというような内容(例えば上述の鑑定結論)を記載していれば、このような余分な手間は省くことができたと思われる。
 
上述のように、無効審判の観点から考慮すれば、既知の材料特徴、方法特徴が実用新案の新規性及び進歩性にとって必要であるため、請求項に記載するのが一番好ましいと思われる。また、非常に重要な材料特徴、方法特徴については、明細書が実施可能性要件を満たすという前提のもと、可能性があれば、この方法特徴がこの分野の技術常識ではないというような内容(例えば、上述の鑑定結論)を明細書に記載したほうがいい。例えば、公知技術には、反対の示唆が開示されていたり、これらの特徴が公知技術における役割と、本件実用新案に実際に果たした役割と異なる点を記載したり、積極的な効果を取り上げたりすることができる。このようにすれば、無効審判における進歩性の主張に役立つと思われる。
 
材料特徴、方法特徴が既知材料の名称でも、既知方法の名称でもない場合
 
材料特徴、方法特徴が既知材料の名称でも、既知方法の名称でもない場合は、これらの特徴が本件実用新案の発明ポイントと判断されることがある。この場合、これらの特徴が保護しようとする製品のある特定の形状及び/又は構造が間接開示されているかどうかを判断しにくく、新規性、進歩性の評価時に考慮される要素になりにくいため、請求項には、できるだけこれらの特徴が記載されないように作成する必要がある。
 
例えば、登録番号がZL200320110412.8で、名称が「竹製シート」である無効審判請求事件において、その請求項2は以下のとおりである。
 
「前記主筋ポリエステル糸は、30本×1の線を縦糸とし、30本×3のポリエステル糸を横糸とし、その幅は、5ミリメートル、厚さは1.5ミリメートルであることを特徴とする請求項1に記載の竹製シート。」
 
この請求項には、「主筋ポリエステル糸」について詳しく記載しているため、当業者にとって、発明ポイントもここにあると信じる理由となっている。審判委員会は、「請求項2における『主筋ポリエステル糸は、30本×1の線を縦糸とし、30本×3のポリエステル糸を横糸とし』ということは、考案に記載の方法特徴に該当し、かつ主筋ポリエステル糸の製造方法の相違によって、竹製シートの形状、構造又はその組み合わせに変化をもたらしてはいない。したがって、この方法特徴は進歩性の審査に考慮する必要はなく、この請求項は進歩性を有しない」16と判断した。
 
この事件からすれば、発明ポイントが材料特徴、方法特徴に係る場合、このような構成要件は請求項に有益な効果をもたらしていないことになる。その理由として、(1)これらの構成要件が既知であると主張する場合、この分野の技術常識ではないことも主張する必要がある。さもなければ、当該請求項は進歩性を有しないことになる。(2)これらの構成要件が本件実用新案の発明ポイントと主張する場合、当該請求項が実用新案の保護対象に該当しないというリスクを引き起こすということが挙げられる。
 
3)関連するほかの条文について
 
実用新案の請求項に、材料特徴、方法特徴が含まれる場合、その他の不備、例えば実施可能要件違反(A26.3)、請求項不明確(A26.4)などの不備をもたらす可能性がる。
 
例えば、登録番号がZL200720052939.8で、名称が「無ゲル複合フィルムによるプレ印刷紙材」である実用新案権無効行政紛争事件において、その請求項1は、以下のとおりである。
 
「紙質層(1)と、紙質層(1)に印刷されたインク層(2)と、インク層(2)に熱圧複合された無ゲル複合フィルム(3)とを備え、前記無ゲル複合フィルム(3)は、インクと熱合し得る機能層(31)を有する双方向延伸ポリプロピレンフィルムであり、機能層(31)はビニル-ブテンポリマー、ビニル-オクテンポリマーであることを特徴とする無ゲル複合フィルムによるプレ印刷紙材。」
 
無効審判請求人は、「双方向延伸ポリプロピレンフィルム、ビニル-ブテンポリマーなどの材料があるため、本件実用新案が特許法第26条第3項に規定する要件を満たしていない。『熱合』があるため、請求項1が不明確であり、特許法実施細則第20条第1項(注:新A26.4)に規定する要件を満たしていない」ということを主張した。
 
審判委員会は、「前記材料がいずれもこの分野の既知材料であり、かつ市場で購入することができるため、特許法第26条第3項に規定する要件を満たしている。『熱合』がこの分野の技術常識であるため、請求項1は、明確である」と判断した。無効審判請求人はこの審決を不服として、行政訴訟を提起したが、第一中等裁判所は審決を維持した17
 
審判委員会及び第一中等裁判所は、本件実用新案の請求項には前記不備を有しないと判断したが、その他の実用新案に材料特徴、方法特徴が含まれることによって、前記不備を有するということを排除してはならない。例えば、前記請求項の機能層(31)にあまり常用されていない材料が含まれており、かつ明細書に、この材料が具体的に記載されていない場合、実施可能要件違反と指摘される可能性がある。したがって、請求項に含まれる材料特徴、方法特徴が既知材料の名称、既知方法の名称である場合、前記不備は生じにくいが、これらの特徴が既知材料の名称、既知方法の名称ではない場合、前記不備が生じる可能性が増えてくる。
 
5.権利侵害判断における材料特徴、方法特徴の実用新案への影響
 
発明又は実用新案特許権の権利範囲は、その請求項の内容を基準とし、明細書及び図面は請求項の内容の解釈に用いることができる(A59.1)。各請求項はいずれも構成要件からなる。1つの請求項に記載のすべての構成要件が共同で技術的範囲を限定している。したがって、請求項に記載されているどの構成要件も、当該請求項の権利範囲に一定の限定作用を果たしている18。よって、権利侵害判断には、請求項の全ての構成要件をいずれも考慮しなければならない。
実用新案は、製品の形状、構造を保護するものであり、実用新案の請求項に材料特徴、方法特徴が含まれ、これらの特徴は必ず製品の形状及び/又は構造に変化をもたらすわけではないが、実用新案の権利範囲の特定及び権利侵害判断においても、通常考慮すべきものである。特に、実用新案の明細書の記載からすれば、実用新案の主な機能、形状特徴、構造特徴が方法特徴、材料特徴によってもたらされたものであれば、これらの方法特徴、材料特徴は、実用新案の権利範囲の特定及び権利侵害判断において、考慮すべきものであると思われる。
 
材料特徴、方法特徴に係る実用新案の請求項について、係る実用新案の請求項におけるその他の構成要件(材料特徴、方法特徴以外)がイ号製品をカバーできるという前提のもと、イ号製品にも同じ材料特徴、方法特徴が含まれる場合、文言侵害となるが、このような状況は比較的少ない。イ号製品に含まれる材料特徴、方法特徴と実用新案の請求項に記載のこれらの特徴と相違があるので、均等侵害に該当するかどうかを判断する必要がある場合がほとんどである。
 
1)材料特徴、方法特徴が既知材料の名称、既知方法の名称である場合
 
係る実用新案の請求項のその他の構成要件(材料特徴、方法特徴以外)がイ号製品をカバーできるという前提のもと、請求項中に含まれる材料特徴、方法特徴が既知材料の名称、既知方法の名称である場合、イ号製品の対応する材料、方法と本件実用新案のこれらの特徴とは、均等に置き換えることができると認定される可能性が高く、均等侵害と判断される率が高いと思われる。
 
例えば、登録番号がZL200620113956.3で、名称が「硬質合金が嵌め込まれた高耐磨耗性を有する羽根」である実用新案権侵害事件において、その請求項は以下のとおりである。
 
「羽根本体を含む硬質合金が嵌め込まれた高耐磨耗性を有する羽根において、前記羽根本体の外縁に少なくとも1つの硬質合金を嵌着され、硬質合金の頂部は羽根本体の外縁より突出していることを特徴とする硬質合金が嵌め込まれた高耐磨耗性を有する羽根。」
 
第一中等裁判所は、「本件実用新案の羽根の外縁に嵌め込まれたのが超硬合金であるのに対し、イ号製品の羽根の外縁に嵌め込まれたのがダイヤモンドである。しかし、ダイヤモンドは公知の硬度の高い材質であり、超硬合金をダイヤモンドに置き換えることは、均等置き換えに該当するため、均等侵害が成立する」と判断した。被告はこの判決を不服として上訴した。高等裁判所は、羽根の耐磨耗性を向上することからすれば、ダイヤモンドも超硬合金もほぼ同一の機能を実現し、ほぼ同一の効果を奏し得ることができるため、均等に置き換えることができ、当初の判決を維持する19と判断した。
 
また、登録番号がZL200620122731.4で、名称が「防火クッキングレンジ油煙浄化板」である実用新案権侵害事件において、第一中等裁判所は、本件実用新案のステンレス鋼ファイバー層をニッケル・クロム・アルミニウムファイバー層に代えることによって、予想外の効果をもたらすことがなく、均等置き換えに該当し、権利侵害が成立する20と判断した。

上述の判決からすれば、材料特徴、方法特徴が権利侵害判断において、考慮すべき構成要件であることは明らかである。「超硬合金」、「ステンレス鋼」が既知材料の名称であるため、これらの材料特徴を実用新案の請求項に記載することは認められる。これらの材料特徴、方法特徴が製品において実現した機能、及び奏し得る効果は、権利侵害の判断に影響する。本件実用新案の請求項に記載のその他の構成要件(材料特徴、方法特徴以外)はいずれもイ号製品をカバーするという前提のもと、イ号製品の材料特徴、方法特徴が実用新案の請求項に記載の対応する特徴に比べて、実現する機能がほぼ同一であり、かつ予想外の効果を奏し得ない場合、均等侵害と判断される可能性が高い。これは、明細書において、材料特徴、方法特徴が果たした役割を随意に記載するか、又は奏し得る効果を任意に拡大することを制限している。
 
2)材料特徴、方法特徴が既知材料の名称でも、既知方法の名称でもない場合
 
本件実用新案の請求項のその他ほかの構成要件(材料特徴、方法特徴以外)がいずれもイ号製品をカバーするという前提のもと、請求項に含まれる材料特徴、方法特徴が既知材料の名称でも、既知方法の名称でもない場合、特にこれらの材料特徴、方法特徴が本件実用新案の発明ポイントと判断される場合、イ号製品の対応する材料、方法が本件実用新案のこれらの特徴の均等置き換えに該当すると判断される可能性が低く、よって、均等侵害と判断される率も低くなる。
 
例えば、登録番号がZL97218912.2で、名称が「可塑アスファルト防食テープ」である実用新案権侵害事件において、その請求項は以下のとおりである。
 
「内、中、外という3層構造を備え、内層材料は酸化アスファルトと添加剤であり、中層材料がレインフォースドガラスであり、外層材料が高密度クロスであり、中層材料と内層材料は順次に外層材料の表面に覆われ、圧延によってベルト状となることを特徴とする可塑アスファルト防食テープ。」
 
裁判所は、上記請求項とイ号製品と対比したところ、「本件実用新案の内層材料は酸化アスファルトであり、添加剤を含むが、イ号製品は、可塑アスファルトであり、添加剤を含まないものである。両者の材料特徴が異なり、考案も異なるため、文言侵害にならない。本件実用新案、イ号製品の内層材料は、それぞれ酸化アスファルトと可塑アスファルトである。本件実用新案の明細書には、その酸化アスファルトは建築用の10号アスファルトに180℃以上の高温を経て酸化させてなるものであり、イ号製品の可塑アスファルトは、建築用の10号アスファルトを加温し、樹脂を入れて改質してなすものであると記載されている。したがって、酸化アスファルトと可塑アスファルトは同一の材料に属せず、2つの材料が奏し得る効果が均等であることを証明できる証拠もない。このほか、本件実用新案の内層材料に添加剤が含まれ、老化防止及び和難燃効果を有し、イ号製品には添加剤が含まれていないため、これらの効果を有しない。したがって、均等侵害も成立しない21」と判断した。
 
この事件において、内層材料が酸化アスファルトと一部の添加剤からなることによって、当業者は、本件実用新案の発明ポイントがテープの形状、構造以外に、材料の組成にもあると信じられやすい。この材料特徴が特許製品の形状、構造にもたらす影響が大きく、特許製品に主な機能をもたらす。この場合、文言侵害でない限り、均等侵害を適用するのは非常に難しいと思われる。材料特徴、方法特徴が実用新案権利侵害判断において、無視できないほどの役割を果たしていることが分かり、特にこれらの特徴が特許製品の形状、構造に変化をもたらすか、又は特許製品に主な機能をもたらす場合は、尚更である。
 
上述の理由により、実用新案の請求項を作成する時に、発明ポイントに係る材料特徴、方法特徴を慎重に取り扱うことが非常に必要であると思われる。さもなければ、関連製品が保護できない可能性が出てくる。実用新案による保護が確実にできない場合、発明特許によって保護することが考えられる。
 
6.材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案の作成
 
以上のように、材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案に係る一連の規定、及び審査過程、無効審判、権利侵害判断における材料特徴、方法特徴が実用新案へ及ぼす影響について紹介してきた。上述の内容により、発明ポイントが主に材料特徴、方法特徴にある製品は、発明特許によって保護することが考えられる。もちろん、現在、中国では、実用新案と発明特許の同時出願が認められている(R41)ため、発明ポイントは特定できないが、できるだけ早く特許によって保護されたい場合、特実併願を選択することが考えられる。
 
実用新案の請求項を作成する時、材料特徴、方法特徴を記載しなくてもよい場合は、これらの特徴を記載しないようにすることを提案する。実用新案に、どうしても材料特徴、方法特徴が避けられない場合は、記載してもよい。以下に、材料特徴、方法特徴が含まれる実用新案の作成時の注意事項を紹介する。
 
(1)請求項の特徴部分に、材料特徴、方法特徴のみが記載されるのは好ましくない。さもなければ、不特許事由に該当するリスクが大きくなる。
 
(2)請求項に含まれる材料特徴、方法特徴について、未知な材料名称や方法名称で記載することをできるだけ避けるようにする。特にそれらを実用新案の発明ポイントにすることを避ける。さもなければ、この請求項は不特許事由に該当するリスクも大きくなる。これらの特徴は、新規性を評価するための要素として考慮される可能性があり、進歩性評価時の要素として考慮されることは難しく、権利侵害判断に考慮されるべき要素となる。
 
(3)請求項には、既知材料及び/又は既知方法の組み合わせである材料特徴、方法特徴を規定することをできるだけ避ける。この組み合わせが既知材料、既知方法に属すかどうかが未特定だからである。実際に、既知材料の名称の組み合わせが必ずしも既知材料ではなく、既知方法の組み合わせも既知方法である可能性も低い。どうしてもこれらの組み合わせが避けられない場合は、作成時に必要な調査を行い、当業者にこの組み合わせが依然として既知材料(例えば「マイクロ波鍋」不服審判請求事件)、既知方法であると信じてもらえるように、できるだけ明細書に詳しく記載することを勧める。これらの組み合わせがこの分野の公知なものであり、広く一般的に認められる名称や効果を有することを証明できれば、より好ましい。これらの組み合わせを本件実用新案の発明ポイントにすることを絶対に避けたほうがよい。
 
(4)できるだけ既知材料の名称、既知方法の名称によって、請求項に含まれる材料特徴、方法特徴を記載する。このようにすれば、当該請求項が不特許事由に該当する可能性が通常低い。これらの特徴は、新規性、進歩性評価として考慮すべき要素であり、権利侵害判断に、均等論を適用される可能性が高い。
 
(5)非常に重要な既知の材料特徴、方法特徴については、明細書に、これらの特徴が技術常識と認定されないような内容を記載しようほうがよい。例えば、公知技術に反対の示唆があるか、これらの特徴の公知技術における役割と本件実用新案に実際に果たした役割と異なり、積極的な効果を挙げることなどが考えられる。もちろん、明細書において、材料特徴、方法特徴が果たした役割を随意に記載するか、又は奏し得る効果を任意に拡大することを勝手にしてはならない。さもなければ、権利侵害判断における均等論の適用に権利者に不利な影響を与える可能性があると思われる。
 

板岩文化石壁部材、登録番号ZL01258913.6である。審判委員会無効審判請求の審決(2006)第WX9083号。
 
王振道と審判委員会との実用新案権無効行政紛争事件、北京市高等裁判所、行政判決書(2010)高行終字第586号。
 
三一重工社と審判委員会との実用新案権無効行政紛争事件。北京市高等裁判所、行政判決書(2010)高行終字第213号。
 
範尚燕の審判委員会及び第三者葉志成に対して提起した実用新案権無効行政紛争事件。北京市第一中級裁判所、行政判決書(2010)一中知行初字第2744号。
 
新利達電池実業(徳慶)有限公司、肇慶新利達電池実業有限公司VS審判委員会、第三者四会永利五金電池有限公司、簡鳳萍、許楚華、松柏(広東)電池工業有限公司、东莞佳暢オモチャ有限公司の実用新案権行政紛争事件。北京市第一中级裁判所、行政判決書(2009)一中知行初字第2300号。
 
竹製シート、登録番号がZL200320110412.8である。審判委員会無効審判請求の審決(2006)第WX8267号。
 
陳琪が国家知識産権局特許審判委員会などに対して提起した実用新案権無効行政紛争事件。北京市第一中級裁判所、行政判決書(2009)一中知行初字第2602号。
 
尹新天、『中国特許法詳解』北京:知識産権出版社、2011、第555頁。
 
林記元などによる実用新案権紛争事件。北京市高等裁判所、民事判決書(2009)高民終字第4471号。
 
北京国通環境工程公司が北京華夏紫環保科技有限責任公司に対して提起した実用新案権紛争事件。北京市第一中級裁判所、民事判決書(2009)一中民初字第1853号。
 
朱建樑が北京市大興県宏海工貿公司に対して提起した実用新案権紛争事件。北京市第一中級裁判所、民事判決書(2003)一中民初字第9887号。
 
(2012)

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