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生物材料の国内寄託と国際寄託


北京林達劉知識産権代理事務所
 
日本などの国では、出願人が特許出願するとき、寄託の必要がある生物材料をまず国内寄託し、後で国際寄託機関へ移管する場合があります。このような特許出願は中国で出願する場合、生物材料が寄託されなかったものとみなされ、さらに実施可能要件違反と指摘されるおそれがあります。

なぜかと言うと、中国国家知識産権局はブダペスト条約により承認された国際寄託機関による国際寄託しか認めていないからです。このため、このような出願について、中国で認められる生物材料の寄託日はその国際寄託の寄託日(又は国際寄託への移管日)であり、国内寄託の寄託日は認められません。それゆえ、生物材料をまず国内寄託し、後で国際寄託機関へ移管する場合は、国際寄託の寄託日又は国際寄託への移管日が出願日(優先権がある場合には、優先日をいう)より後であれば、「出願日以前に又は遅くとも出願日(優先権がある場合には、優先日をいう)に生物材料を寄託しなければならない」という規定に合致しませんので、生物材料は寄託されなかったものとみなされることとなります。そのため、生物材料に係る特許出願について、生物材料が寄託されていないという理由により、通常、実施可能要件違反という不備が生じます。

分かりやすく説明するために、上述した場合について次の例を挙げて説明します。

以下の図1に示すように、この特許出願は生物材料に係るものであり、中国への出願日が2008年11月1日で、日本優先日が2008年2月1日で、2008年1月1日に国内寄託され、2008年10月1日に国際寄託機関に移管されたと想定します。


 
中国ではブダペスト条約に規定する国際寄託しか認めていませんので、中国で認められるこの特許出願に係る生物材料の寄託日はその国際寄託への移管日である2008年10月1日となります。この移管日は当該特許出願の優先日より後ですので、中国特許法実施細則第25条1及び審査基準2の関係規定に合致しません。このように、当該生物材料は寄託されなかったものとみなされます。さらに、当該生物材料を欠いていますので、当業者が明細書の記載に基づいて上記出願に係る発明をなすことができず、実施可能要件違反という不備が生じてしまいます。

以上の不備を解決するために、現時点では以下の二つの対応策が考えられます。

1. 優先権を放棄します。

このようにすれば、上記生物材料の国際寄託への移管日が出願日より前ですので、中国では当該生物材料は寄託されたものとみなされます。このように、実施可能要件違反という不備は解消されます。しかし、引用文献の調査可能期間が上記出願の優先日以前ではなく、出願日以前となりますので、上記出願の新規性および進歩性に影響を与える可能性があります。

2. 優先権を主張し続けます。

このようにすれば、上記出願の新規性および進歩性に対して影響はありません。しかし、通常、当該生物材料が寄託されなかったものとみなされ、さらに実施可能要件違反と指摘されますので、当該生物材料に係る発明は権利を取得しにくいです。

上記のとおり、いずれの対応策を用いても、出願人に不利益をもたらします。それゆえ、中国への特許出願が生物材料の国内や国外寄託のせいで不必要な面倒をかけ、出願人に不利益をもたらすのを防止するために、将来国際出願する可能性のある出願または中国への特許出願が生物材料の寄託に関わる場合は、利益のバランスという観点から、生物材料を直接国際寄託することをお薦めします。

以上、生物材料の国内や国外寄託に関する簡単な説明です。何か役に立つ情報を教えていただければ幸いです。また、異なる見解などあれば、討論させていただきたいと思います。

注:

1.特許法実施細則第25条

特許出願する発明が新しい生物材料に関連し、その生物材料が一般に入手できないものであり、かつ当該生物材料の説明が所属分野の技術者にその発明を実施させるには不十分である場合、特許法と本細則の関係規定に合致させること以外に、出願人は以下の手続をしなければならない。

(1)出願日以前に又は遅くとも出願日(優先権がある場合には、優先日をいう)に、当該生物材料のサンプルを国務院特許行政部門が認可する寄託機関に寄託し、かつ出願時又は出願日から4ヶ月以内に寄託機関が発行する寄託証明書及び生存証明書を提出すること。期間を経過しても証明書を提出しない場合、当該サンプルは寄託されていないものとみなす。

(2)出願書類中に、当該生物材料の特徴に関する資料を提出すること。

(3)寄託した生物材料サンプルに関する特許出願は、願書及び明細書中に当該生物材料の分類名称(ラテン語名称を注記する)、当該生物材料を寄託した機関の名称、所在地、寄託日、寄託番号を明記すること。出願時に明記していないときは、出願日から4ヶ月以内に補正しなければならない。期間を経過しても補正しないときは、寄託されていないものとみなす。

2.審査基準第二部分第10章第9.2.1節(4):

中国特許庁が認可した寄託機関とは、ブダペスト条約により承認された生物材料サンプルの国際寄託機関を指す。
 
(2010)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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