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医薬用途発明の特許保護について


北京林達劉知識産権代理事務所

現在、多くの国や地域では、疾患の診断及び治療方法の発明は特許として保護されませんが、既知の化合物または組成物の新しい医薬用途を発見した発明を含む医薬用途発明は、特定の形式で特許として保護されます。
 
医薬用途クレームの形式としては、主に物クレーム、スイス型クレーム及び薬物製造方法クレームが挙げられます。物クレームの記載方法としては、例えば、「化合物または組成物Xの薬物の製造における応用」、「化合物または組成物XのY病治療用薬物の製造における応用」などが例示できます。スイス型クレームの記載方法としては、例えば、「化合物または組成物Xの薬物の製造における用途」、「化合物または組成物XのY病治療用薬物の製造における用途」などが例示できます。また、薬物製造方法クレームの記載方法としては、例えば、「化合物または組成物Xを用いる薬物の製造方法」、「化合物または組成物Xを用いてY病治療用薬物の製造方法」などが例示できます。

しかし、国や地域によって、医薬用途発明に対する特許保護の強さ、範囲、条件及び形式が異なっており、これらの差異が主に新規性の評価、サポート要件の評価、及びクレームの形式に反映されています。以下に、ヨーロッパ、日本及び中国を例として簡単に紹介させていただきます。
 
1.ヨーロッパ
 
(1)新規性
 
ヨーロッパ特許庁では、新しい医薬用途は化合物または組成物として新規性を与えています。具体的にいえば、公知技術には、化合物または組成物に何らの医薬用途も開示されていない場合、この化合物または組成物が既知のものであっても、医薬用途で限定されたこの化合物または組成物も新規性を有します。また、公知技術には、化合物または組成物の医薬用途が開示されていても、この化合物または組成物のある具体的な医薬用途が開示されていない場合、この具体的な用途で限定されたこの化合物または組成物も新規性を有します。
 
ヨーロッパ特許庁の審決・判決例によれば、治療の対象(患者グループ)、投薬のルート、薬品の使用量などが公知技術と異なっている場合、新しい適応症(新しい疾患を治療すること)に限られておらず、すべての医薬用途を新しい医薬用途と認定します。
 
(2)サポート要件
 
ヨーロッパ特許庁審判部の審決によれば、ヨーロッパ特許庁は、化合物または組成物がすべての疾患またはいずれか一種の具体的な疾患の治療に用いることができることが明細書に開示されていないという理由により、クレームを明細書に記載の具体的な治療用途に限定するよう要求することはできません。言い換えれば、明細書にはある具体的な医薬用途しか開示されておらず、クレームにはすべての医薬用途が包含されているとしても、この点によって明細書により裏付けられていないと指摘することはできません。Art. 54(5)EPC 2000において、第2のまたは更なる医薬用途を「具体的な用途(specific use)」に制限するのは、主に新規性の要件を満たすという観点を考慮したものです。
 
(3)クレームの形式
 
2010年2月に、ヨーロッパ特許庁の拡大審判部が医薬用途に関する決定(G 0002/08)を出しました。この決定によれば、クレームが薬物の新しい用途のみに新規性を有する場合、スイス型クレームを採用しないことになりました。このように、ヨーロッパの特許庁では、医薬用途で限定された化合物または組成物の物クレームが、医薬用途発明の主なクレーム形式となります。
  
2.日本特許庁
 
(1)新規性
 
日本の特許審査基準によれば、化合物が既知である場合、医薬用途でこの化合物を限定することは、この化合物に新規性をもたらすことができません。

日本の審査基準にいう医薬発明とは、ある物質の新しい特性の発見に基づくものであり、この物質の新しい医薬用途を提供する物の発明(組成物、薬物剤)を言います。その新規性は、(i)この化合物及び(ii)この化合物の特性に基づく医薬用途という2つの面から判断します。言い換えれば、医薬用途さえ新しければ、活性物質及び組成物の組成が既知であっても、この医薬発明も新規性を有します。
 
同様に、日本では、適応症(疾患)、または用法、用量(投薬ルート、薬品使用量など)によって、異なる医薬用途であると見なされ、いずれも医薬発明に新規性をもたらすことができます。
 
(2)サポート要件
 
日本の特許審査基準によれば、医薬用途で限定された医薬発明について、クレームが一般的な表現で記載され、具体的な医薬用途に限定されていない(例えば、クレームが「・・・からなるY病治療用の薬物」ではなく、「・・・からなる薬物」と記載される)場合、その一般的な表現が不明確であるという不備が存在しない限り、一般的な表現のみに基づいて(つまり、上位概念のみに基づいて)、それが特許法第36条第6項第2号に規定する要件(つまり、特許を受けようとする発明が明確であること)を満たしていないと認定することはできません。
 
(3)クレームの形式
 
日本では、医薬用途のクレームの形式について、疾患の診断や治療方法であるように記載されていなければ、特別な制限がない限り、出願人は自分で選定することができます。
 
3.中国
 
(1)新規性
 
中国では、医薬用途で限定された化合物や組成物であっても、その新規性も一般的基準により評価されます。言い換えれば、新しい医薬用途は既知の化合物または組成物に新規性をもたらすことができません。
 
スイス型クレーム(例えば、「化合物または組成物XのY病治療用薬物の製造における用途」)について、「化合物または組成物Xで薬物を製造する方法」と「公知技術の方法」とが相違点がない場合、「新しい適応症」(つまり、新しい疾患の治療に用いられること)はその用途に新規性をもたらすことができます。しかし、「化合物または組成物Xで薬物を製造する方法」と「適応症」が公知技術と相違点がなく、薬物の使用方法(投薬ルート、薬品使用量)のみが異なる場合、その用途クレームに新規性をもたらすことはできません。しかし、薬物の使用方法、例えば投薬ルートが「化合物または組成物Xで薬物を製造する方法」を変化させ、それを公知技術から区別することができる場合、その用途に新規性をもたらすことができます。
 
(2)サポート要件
 
中国では通常、クレームにおける医薬用途を一般的な表現で記載することは認められません。つまり、クレームを「化合物または組成物Xの薬物の製造における用途」と記載すれば、通常、審査官は、「薬物」は上位概念であるため、クレームが明細書により裏付けられていないと指摘します。
 
3.クレームの形式
 
中国では、医薬用途発明のクレームの形式について明確に制限されていませんが、化合物、組成物及び薬物の製造方法の新規性評価に一般的な基準が用いられるため、化合物、組成物及び薬物の製造方法自体が公知技術と相違点のない新しい医薬用途発明について、化合物及び組成物の物クレームまたは薬物の製造方法のクレームなどは実質上認められません。それは、新しい医薬用途がこれら請求項に新規性をもたらすことができないからです。プラクティスでは、通常、スイス型クレームが用いられています。
 
上述の内容から、国や地域によって、医薬用途発明に対する特許保護の強さ、保護範囲、保護条件及び適用するクレームの形式なども異なっています。プラクティスでは、国や地域ごとの特許制度によって適切な特許出願、保護対策を行う必要があります。
 
各国の特許制度の異同に対する理解、及び特許実務に対して少しでも参考になれば幸いです。
 
(2010)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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