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中国特許庁及び審判委員会による技術常識に関する認定をどのように反論するか


北京林達劉知識産権代理事務所
  
現在の中国審査プラクティスでは、特許庁の審査官と特許審判委員会の審判官は、「技術常識」で進歩性を否定するケースが多い。以下、審査官及び審判官による技術常識に関する認定について、裁判所の見解を参酌しながら、上記技術常識の認定に反論する対策を考えてみる。
 
「技術常識」とは、通常、「公衆に知られている事実」であるとされている。しかし、特許案件において、技術常識とは、専門分野において一般に知られている事実であり、つまり、特許出願日前に当業者に知られている一般的な技術に関する常識を指している。
 
ある技術が「技術常識」であることを証明しようとするには、通常、その技術を記載した(1)教科書、レファレンスブック、技術辞典、技術ハンドブック、(2)一定期間に渡って、広い分野に、多様な形態によってこの技術が広く使用されていると証明できる十分な証拠、例えば、特許文献(複数)、学術文献、商品の取扱説明書などを提出する必要がある。
 
通常、審査官及び審判官は、ある構成要件が「技術常識」であると認定する場合、この構成要件が「技術常識」として記載された上述のような証拠を提示する必要がある。しかし、プラクティスでは、審査官及び審判官は証拠を提示しない場合が多く、それゆえ出願人または特許権者は「技術常識」の認定に納得ができないことになる。
 
一方で、特許庁と審判委員会は、行政機関として、ある程度の自由裁量権を有している。具体的な「技術常識」の認定について、現在の審査基準には「証拠による証明」及び「十分な説明」という2つの規定がある。したがって、審査官及び審判官は、「証拠を挙げて証明」していなくとも「十分に説明」することにより証明していればよいことになる。ここで、「技術常識」の認定を裏付ける証拠が足りないという理由のみによる反論は通常認められない。そこで、出願人または特許権者が「技術常識」の認定に対して反論する場合には、審査官及び審判官が、この技術が技術常識であることを十分に説明していないという観点から反論することが有効であると考えられる。
 
特許審判委員会による審決に対する司法救済ルートとして、行政訴訟があるが、そこでの「技術常識」に関する裁判官の判断は、通常以下のような検討に基づいてなされる。まず、この構成要件が「技術常識」であると証明できる証拠があるか否かについて検討する。そのような証拠がない場合には、当業者がこの構成要件が「技術常識」であると直接的に認定できると十分説明できるか否かを検討する。さらに、専門家による証言を検討する。このように裁判官としては、必ずしも証拠をもって立証する必要はなく、十分に説明できるか否かがポイントとなる。もちろん、「技術常識」であるか否かを的確に証明できる証拠を提出できれば、証明力を大幅に高めることができる。
 
現在、特許行政案件を審理する裁判官はほとんどが技術的背景をもっていないので、ある構成要件がその分野の「技術常識」であるか否かを明確に判断することは困難である。また、当業者の概念は想像上のものであり、実際に当業者という個人がいるわけではない。したがって、出願人または特許権者は、当業者という想像上の概念の意味するところを良く理解した上で、「技術常識」の認定を合理的に覆すべく充分に論述することが重要となる。
 
ところが、出願人または特許権者が、審査官及び審判官による「技術常識」の認定に反論する場合、出願日前にこの技術が「技術常識」ではないと証明できる十分な証拠(例えば、文献、教科書等の記載)を入手することは非常に困難である。したがって、出願人または特許権者は、「説明」を重点として、審査官及び審判官に対して反論すべきである。
 
まず、「技術常識」の認定そのものを直接否定する場合。
 
例えば、(1)審査官及び審判官の認定は、論理的に「十分に説明」しておらず、決まり文句でただ単に認定しているだけであると反論できる。(2)その認定は事後分析(後知恵)であると反論できる。つまり、それは発明の内容を理解した上で出した判断であるので、発明の特徴点(先行技術との相違点)が技術常識であるか否か、またはそれが容易に想到できるか否かを判断する際、客観性を欠如しているということである。(3)また、特許権者が関連分野のほかの判決において、この構成要件が技術常識ではないと認定するケースを知る場合、それを証拠として反論しても良く、(4)業種の協会による関連技術報告を収集してもよい。(5)さらには、課題自体が新規であるので「技術常識」は参酌できないとの反論も有効である。
 
次に、出願人または特許権者が技術常識の認定を直接否定することが困難である場合、技術常識と先行技術とを組み合わせることができないという観点から反論することができる。
 
例えば、(1)この「技術常識」と公知技術を組み合わせて本発明の課題を解決するには阻害要因があり、その組み合わせは創造的な努力を要する(つまり容易でない)。(2)「技術常識」としての技術的手段の、当業者の通常の認識以外の特徴または効果を利用した。(3)関連のない分野の「技術常識」をこの分野に用いる、つまり、示唆は全くないなどの観点から反論することができる。もちろん、このような反論方法は、出願当初の明細書にこの構成要件が解決した課題及び奏した効果が詳しくかつ充分に記載されていることを前提とする。上述の課題及び効果が当初の出願書類に記載されていない場合には、通常裁判官に認められない。
 
以上は、「技術常識」の認定に関する反論対策を提供するものであり、出願人または特許権者は具体的な事情に応じて対策を適宜選択する必要がある。上述の対策により、出願人または特許権者が出願日前の技術の「公知」程度について客観的かつ公正的な評価をもらえるよう期待する。
 
(2010)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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