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判例から見た商標模倣及び先駆け登録の対策


北京林達劉知識産権代理事務所
中国商標弁理士 姚 敏
 
I. 前書
 
この数年、他人の商標の悪意による模倣及び先駆け登録に対して、中国政府は取締りを強化しようとしている。しかし、著名企業の商標を模倣及び先駆け登録する行為は実務上よく見られる。このような模倣又は先駆け登録は、中国主管機関により法律に従って拒絶された例もあるが、権利者が挙げた証拠が不足しているため、又は現行の法律規定に問題があるため、登録された例もある。本文は、以下の典型的な判例を分析することにより、企業の著名商標が悪意による模倣又は先駆け登録されないようにするための対策について述べる。
 
II. 悪意による模倣が拒絶された判例
 
判例1:本田技研工業株式会社(以下「本田社」という)が国家工商行政管理総局商標審判委員会などを訴えた行政訴訟
 
(1)審査段階
 
力帆実業(集団)股份有限公司(以下「力帆公司」という)は、1999年4月15日に第1503034号「力帆・轰达」の商標を、指定商品第12類の「オートバイ、陸上の乗物用のエンジン、小型オート三輪車(四輪車)」などに登録出願した。当該商標が公告された後、本田社は、異議を申し立てた。これについて、商標局は、以下のとおり決定した。
 
本田社の「HONDA」商標は、中国において販売されている自動車、モーターバイクなどの商品において継続して使用されている。更に、本田社は、当該商標を広く宣伝し、「HONDA」商標は、我が国(中国)の消費者によく知られるようになった。一方、力帆公司が第12類の「オートバイ、陸上の乗物用のエンジン、小型オート三輪車(四輪車)」などの商品を指定商品として出願した「力帆・达」商標は、中国語のみからなっているが、その中の「达」の部分は、本田社の「HONDA」商標に対応する音訳と誤認されやすい。そうとすると、消費者は、被異議商標は本田社と関係があると誤認し、誤購入を生じるおそれがある。したがって、本田社の異議申立の理由は成立し、第1503034号「力帆・达」商標の登録を許可しない。
 
(2)審判段階
 
力帆公司は、この決定を不服とし、商標審判委員会に不服審判を請求した。商標審判委員会は、以下のとおり裁定した。
 
被異議商標「力帆・达」は、本田社の「HONDA」商標と比べて、文字の組み合わせが全く異なっている。前者は、中国語文字商標であり、後者は外国語文字商標である。両商標は、全体の称呼及び意味において明らかに異なっている。更に、市場において、本田社の「HONDA」商標は、通常、自動車工業及び関連公衆に「本田」と理解され、「达」又はその対応中国語とは理解されない。そうすると、被異議商標の「达」の部分は、本田社の「HONDA」商標と対応関係とはならないので、消費者が混同、誤認を生じるおそれはない。また、被異議商標及び本田社の商標の指定商品「オートバイ、自動車」などは、通常の日常消費用品ではなく、消費者が購入する際、比較的高い注意力を払うので、被異議商標「力帆・达」と異議申立人の「HONDA」商標とが混同するとはいい難い。したがって、両商標は同一又は類似商品における類似商標を構成しない。さらに、本田社は、「HONDA」商標は著名商標となったと主張するが、提出した証拠は、その主張を十分に支持していない。商標審判委員会は、本田社の当該主張を支持しない。したがって、第1503034号商標「力帆・达」の登録を許可する。
 
(3)訴訟段階
 
本田社は、商標審判委員会の裁定を不服とし、北京市第一中等裁判所に行政訴訟を提起した。北京第一中等裁判所は、2009年6月23日に以下のとおり認定した。
 
本件の争点は、被異議商標と引用商標が類似商品における類似商標を構成するか否かである。最高裁判所の「商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」の第9条第2項は、「商標法第52条第1号に規定する商標の類似とは、侵害被疑商標と原告の登録商標とを対比して、その文字の外観、称呼、観念又は図形の構成及び色彩、又は各要素を組み合わせた後の全体構造が類似であり、又はその立体形状、色彩の組み合わせが類似で、関係公衆に商品の出所を誤認させ、又はその出所について原告の登録商標の商品と特定の関係を有すると誤認させることをいう」と規定している。この条文によれば、文字商標の類否判断は、文字の外観、称呼及び観念により判断し、関連公衆に混同・誤認を生じさせるおそれがあるか否かについても考慮しなければならない。一方、文字商標の類否については、商標の称呼、すなわち発音が重要である。本件において、引用商標「HONDA」は、英文字のみからなる組合せ商標であって、中国の関連公衆は通常、引用商標の中国語の意味を認識できない。それゆえ、引用商標は比較的強い顕著性を有している。そして、引用商標の発音は、中国語のピンイン「Hong Da」と似ているので、被異議商標の「达」部分と発音において類似する。また、本田社の提出した証拠は、引用商標が被異議商標の出願日前に中国において一定の知名度を有していたと証明できる。そうすると、被異議商標と引用商標が類似商品に使用された場合、関連公衆に商品の出所を誤認させ、又はその出所について特定の関係があると誤認を生じさせるおそれがある。したがって、被異議商標と引用商標は、類似商品における類似商標を構成するので、商標審判委員会の裁定を取り消す。
 
 
判例2:ミシュラングループ本社(以下ミシュラン社という)が国家工商行政管理総局商標審判委員会などを訴えた商標行政訴訟事件
 
(1)審査・審判段階
 
星光発時装行(以下「星光発」という)は、1999年3月2日に第1396179号「米祺林mi qi lin及び図」(以下「被異議商標」という)商標を、第25類の被服類を指定商品として、登録出願した。当該商標が公告された後、ミシュラン社は異議を申し立てたが、その登録出願は商標局に許可された。ミシュラン社は、これを不服として、商標審判委員会に異議審判を請求した。商標審判委員会は次のとおり認定した。
 
本件の焦点は、被異議商標の出願日前に、519749号「米其林」商標(以下「引用商標一」という)が、「商標法」第14条に規定する著名商標の要件を満たすか否か、また被異議商標は「商標法」第13条第2項に規定するその登録を許可せず、使用を禁止する情況に該当するかどうかということにある。ミシュラン社が提出した証拠には、被異議商標の出願日以後のものや中国大陸以外で作成された証拠が多数ある。したがって、ミシュラン社の証拠は、引用商標一が被異議商標の出願日前に、すでに中国大陸で著名商標になったことを証明するには足りない。さらに、被異議商標の指定商品は被服類であり、引用商標一の指定商品タイヤなどとは、効能、用途、消費者、販売ルートなどの面において大きな差異があるので、被異議商標の登録は、ミシュラン社の利益を害するとはいえない。それゆえ、被異議商標は、「商標法」第13条第2項に規定するその登録を許可せず、使用を禁止する状況に該当しない。また、被異議商標とミシュラン社が先に第25類の被服類に登録した第632255号「MICHELIN」商標(以下「引用商標二」という)とは、全体の外観、構成要素、呼称などの面において類似しないので、同一又は類似商品における類似商標を構成しない。したがって、ミシュラン社の異議審判理由は成立せず、被異議商標の登録を許可する。
 
(2)訴訟段階
 
ミシュラン社は商標審判委員会の決定を不服として、北京市第一中等裁判所に行政訴訟を提起した。本件の主な二つの争点について、2009年3月20日に北京市第一中等裁判所は、以下のとおり認定した。
 
ミシュラン社が提出した証拠は、引用商標一が被異議商標の出願日前に、すでに中国の関連公衆に広く知られたことを証明するには不十分である。引用商標一は被異議商標の出願日前にすでに著名商標になったというミシュラン社の主張は、事実根拠を欠く。
 
しかしながら、被異議商標は、漢字「米祺林」、アルファベット「Mi Qi Lin」及び図形からなる結合商標であり、その文字部分は、主な識別部分と読み取り部分である。引用商標二には漢字は含まれていないが、ミシュラン社の商号「MICHELIN」は、中国語に訳せば「米其林」となり、「米其林」は「MICHELIN」の常用の音訳である。被異議商標中の「米祺林」は、「MICHELIN」の発音(称呼)と類似し、「MICHELIN」の常用の音訳「米其林」と発音(称呼)及び字形(外観)が類似する。また、被異議商標のアルファベット「Mi Qi Lin」と引用商標二「MICHELIN」とを比べると、両者は、アルファベットの大文字と小文字の相違があり、また「Qi」と「CHE」の違いもあるが、両者の発音(称呼)は類似し、他に顕著な違いもないので、関連消費者に混同を生じさせるおそれがある。したがって、被異議商標と引用商標二は、類似商品における類似商標を構成するので、商標審判委員会の決定を取り消す。
 
分析及び対策

判例1では、本田社の主張は、商標局に認められたが、商標審判委員会は、これを認めず、商標局の決定を取り消した。判例2では、商標局と商標審判委員会は、ともにミシュラン社の主張を認めなかったが、訴訟の段階で裁判所は、ミシュラン社の主張を認めた。通常、商標局と商標審判委員会は、商標権の付与及び確定を担当する行政機関で、案件の審査では、主に商標自体に注目する。上記二つの判例では、「商標審査と審理基準」(以下「基準」という)に従って厳格に判断すれば、被異議商標と引用商標が類似すると判断されることは難しい。それも判例1で商標審判委員会が「力帆·轰达」と「HONDA」が類似するという決定を取り消した主な理由である。
 
しかし、「HONDA」も「米其林」も、言うまでもなく、中国市場では高い知名度を有する。被異議商標はいずれも、商標権者の商標を模倣したと疑われるものである。特に、判例2の被異議商標は、明らかに商標権者の商標を模倣したものといえる。このような場合でも、「基準」に従って厳格に判断し、類似商品における類似商標を構成しないとすることは、商標権者にとって不公平である。
 
上記の判例からみれば、裁判所は、商標権者の商標は著名商標であると認定したわけではないが、商標の類否を判断するにあたり、実質的に商標権者の商標の知名度を十分に考慮したと考えられる。弊所の経験によれば、判例1では、同一の表音文字に対応する漢字は多数存在するので、通常、呼称が同一であることだけで、直接的に類似商標であると判断することは難しい。判例2では、外国語に対応する中国語の音訳の発音と漢字商標の発音とが類似することによって、類似商標であると判断することは、商標の類似判断の基準を拡大して適用したものである。上記判例における行政機関と裁判所の商標の類否に関する判断基準に対する取扱いは異なっている。したがって、商標権者は、できるだけ法律に規定されたすべての合法的な手段を活用して自己の権利を保護すべきである。上述のとおり、商標局と商標審判委員会は、主に「基準」に従って商標の類否を判断する。それと同時に、商標自体の知名度及び商標が指定商品又は役務に使用された場合に消費者に混同、誤認を生じさせる程度も考慮する。「基準」には、類似となる情況が詳細に列挙されているが、実際に起こりうる情況は、より複雑であり、かつ、商標の類否判断の基準も変動しうるので、「基準」に挙げられた内容には大きな制限がある。
 
裁判所は、案件を審理する場合、「基準」を参照すると同時に、「最高裁判所の商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」(以下「解釈」という)及び「最高裁判所による商標の権利付与・権利確定に係る行政訴訟の若干の問題に対する意見」(以下「意見」という)などを適用する場合も多い。「解釈」と「意見」は、商標の類否判断のためのより広い基準を提供した。そのため、裁判所は商標の類否を判断するにあたり、商標の知名度、顕著性及び使用商品との関連性についてより多くの情況を考慮することができるようになった。
 
「解釈」と「意見」は、商標の類否判断について以下のとおり規定している。
 
「解釈」第9条第2項は、「商標法第52条第1号に規定する商標の類似とは、侵害被疑商標と原告の登録商標を対比して、その文字の外観、称呼、観念又は図形の構成及び色彩、又は各要素を組み合わせた後の全体構造が類似であり、又はその立体形状、色彩の組み合わせが類似で、関連公衆に商品の出所を誤認させ、又はその出所について原告の登録商標の商品と特定の関係を有すると誤認させることをいう。」と規定している。
 
さらに、「解釈」第10条は、「裁判所が商標法第52条第1号の規定に基づき、商標の同一又は類似を認定する場合は、以下の原則に照らして行うものとする。
 
(1)関連公衆の一般的な注意力を基準とする。
 
(2)商標の全体を対比するほか、商標の主要部分の対比も行わなければならず、対比は対比する対象を隔離した状態で行わなければならない。
 
3)商標が類似か否かの判断には、保護を求める登録商標の顕著性及び知名度を考慮すべきである。」と規定している。
 
「意見」第16条は、「裁判所が商標が類似するかどうかを認定する際には、商標の構成要素及び全体の類似性を考慮すべきであり、関連商標の顕著性及び知名度、使用商品の関連性などの要素も考慮すべきである。そして、容易に混同を生じさせることは類似と判断する基準とすべきである。」と規定している。
 
また、もう一つ商標権者が注意しなければならないのは、中国「行政訴訟法」、「最高裁判所の民事訴訟の証拠に関する若干の規定」の関連規定により、行政訴訟において裁判所が審理するのは、行政審査の段階において当事者が提出した証拠に基づいて出した行政機関の決定が、法定のプロセスに合致するかどうか、また、適用した法律が正確か否かである。訴訟の段階において商標権者が提出した証拠が、新たに提出したものであり、行政審査の段階で不可抗力により取得できなかった場合を除き、裁判所は通常認めない。したがって、訴訟の段階で提出した証拠が裁判所に認められないことを防ぐために、商標権者は、行政審査の段階で、有利な証拠をできるだけ多く収集し、提出するのが望ましい。
 
III. 裁判所が最終的に登録を許可した判例
 
判例3:劉建佳とソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ(中国)有限公司(以下「ソニー・エリクソン(中国)」という)との「索愛」商標の行政訴訟事件
 
(1)審査・審判段階
 
劉建佳(広州市索愛デジタル科技有限公司の取締役社長)は、2003年3月9日に第3492439号「索愛」商標を出願した。その指定商品は、第9類の「DVD機、拡声機、電話機」である。ソニー・エリクソン(中国)は、当該商標に対して、2005年に商標審判委員会に登録取消審判を請求した。商標審判委員会は、以下の理由に基づいて、係争商標の登録を維持した。

① 当該商標は、『商標法』第10条第1項第8号に規定された「その他の悪影響」を及ぼす標章に該当しない。この条文に規定されたその他の悪影響を及ぼす標章とは、主として中国社会の公共の利益及び公共の秩序に消極的、マイナスの影響を生ずる標章を指す。本件において、ソニー・エリクソン(中国)が提出した証拠は、係争商標が社会公共の利益及び公共の秩序に消極的、マイナスの影響を生じたことを十分に証明できない。
 
② 当該商標は、『商標法』第13条第1項に規定された「中国で登録されていない他人の著名商標を複製、模倣又は翻訳した」標章に該当しない。 ソニー・エリクソン(中国)が提出した証拠は、自己の「索愛」商標が係争商標の出願日前に既に中国で登録されていない著名商標となったことを十分に証明できない。
 
③ ソニー・エリクソン(中国)が提出した証拠は、劉建佳の行為が『商標法』第31条に規定された「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録した」行為に該当することを十分に証明できない。
 
(2)訴訟段階
 
北京市第一中等裁判所
 
ソニー・エリクソン(中国)は、商標審判委員会の裁定を不服として、北京市第一中等裁判所に行政訴訟を提起した。北京市第一中等裁判所は、係争商標は『商標法』第10条第1項第8号及び第13条第1項に規定された状況に該当しないと認めた。しかし、以下の理由に基づいて、出願人の行為は「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録した」行為に該当するので、商標審判委員会の裁定を取り消すと判決した。
 
① ソニー・エリクソン(中国)は、自ら「索愛」を商標として宣伝したことはないが、消費者の認定及びメディアの宣伝の共同作用により、ソニー・エリクソン(中国)が自ら「索愛」商標を使用したのと実質的に同一の効果に達した。したがって、「索愛」商標は、実質的にソニー・エリクソン(中国)の所有する中国で使用している商標となった。
 
② 『商標法』第31条の立法目的は、誠実信用の原則に違反して、他人の未登録商標を不正に先駆け登録する行為を制限することにある。本件において、係争商標の出願日前に、ソニー・エリクソン及びソニー・エリクソン(中国)の「索愛」携帯電話及び他の電子製品を宣伝、報道したメディアがあった。また、関連業界において高い知名度を有しているソニー会社とエリクソン会社が共同で設立したソニー・エリクソン及びその後設立されたソニー・エリクソン(中国)の知名度は、他の同時に設立された会社より高い。上記の状況について、電子業界で長年勤めていた劉建佳は、明らかに知っていたはずである。したがって、ソニー・エリクソン及びソニー・エリクソン(中国)が所有する「索愛」商標及びその影響力を知ったうえで、電話などの商品に係争商標を登録した劉建佳の行為は、明らかに不当である。
 
北京市高等裁判所
 
劉建佳は、北京第一中等裁判所の判決を不服として、北京市高等裁判所に上訴した。北京高等裁判所は、商標審判委員会及び北京第一中等裁判所と同様に、係争商標は『商標法』第10条第1項第8号及び第13条第1項に規定された状況に該当しないと認めた。しかし、係争商標が「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録した商標」に該当するかどうかについて、北京市高等裁判所は以下のとおり認定し、一審判決を取り消した。
 
① ソニー・エリクソン(中国)が主張した係争商標の登録が『不正競争防止法』第5条第2号に規定された行為となるのは、『商標法』第31条に規定された「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録された商標」として表現されている。
 
② 『商標法』第31条の規定によれば、先駆け登録した商標とは他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録することを指す。『商標法実施条例』第3条によれば、商標の使用とは、商品、商品の包装又は容器及び商品の取引に関する書類に商標を表示することをいい、広告宣伝、展示及びその他の営業活動に表示することも含まれる。したがって、先駆け登録した商標は、権利者が自ら営業活動において既に使用しているものでなければならない。ソニー・エリクソン(中国)は、「索愛」を自己の商標として商業的に使用していないので、「索愛」という略称は中国の関連公衆、メディアに採用され、広く使用されている。かつ、この名称は消費者に広く認知されている。ソニー・エリクソンの公認の略称となって、唯一の対応関係となった。更に、「索愛」は消費者及びメディアに認められ、使用されているから、商品の出所を標示する作用を有する。このような実質的な使用効果及び影響は自然にソニー・エリクソン及びソニー・エリクソン(中国)に及ぼし、実質的には、商標の使用と同一である」との一審の認定は、法律的な根拠を欠くものである。
 
判例4:泉州市天線宝宝食品有限公司と(英)ラグドール社(Ragdoll Productions Limited)との「天線宝宝」商標の行政訴訟事件
 
(1)審査・審判段階
 
テレタビーズ(中国語名:天線宝宝)は、英国放送協会(BBC)と(英)ラグドール社とが提携して制作した子供番組であり、世界中の子供番組において、幅広い影響力がある。泉州市泉盛食品工場は、2002年11月5日に第3357976号商標「天線宝宝」を出願し、その指定商品は「食用ゼラチン、ゼリー状フルーツ、食用アルギン酸塩」などである。その後、泉州市天線宝宝食品有限公司(以下「天線宝宝公司」という)に譲渡した。ラグドール社は、当該商標登録に対して、2004年に商標審判委員会に登録取消審判を請求した。
 
商標審判委員会は、「天線宝宝公司は、「天線宝宝」が他人の創作によるものであることを知っていた又は知っているべきであり、かつ、当該商標は高い独創性及び顕著性を有することを知ったうえで、商標として出願したことは、明らかに他人の知名作品の名声を利用する不正な行為であり、このような行為は、誠実信用の社会主義公共道徳に違反し、ラグドール社の利益を害しただけではなく、社会公序良俗も破壊し、消費者に商品の出所について誤認を生じさせ、不良な社会影響を及ぼす。したがって、係争商標の登録は、『商標法』第10条第1項第8号の規定に違反しているので、これを取り消す。」と裁定した。
 
(2)訴訟段階
 
天線宝宝公司は、この裁定を不服とし、北京第一中等裁判所に行政訴訟を提起した。これに対して、北京第一中等裁判所は、以下のとおり判決した。
 
『商標法』第10条第1項第8号の規定により、社会主義の道徳、風習を害し、又はその他の悪影響を及ぼす標章は商標として使用してはならない。一つの標章がその他の悪影響があるか否かについて判断する際には、当該標章の構成要素が中国の政治、経済、文化、宗教、民族などの社会公共の利益及び公共の秩序に消極的、マイナスの影響を及ぼすか否かを考慮しなければならない。もし、当該標章の登録が特定の民事権利のみを害するなら、「商標法」に規定されているその他の救済方法及び手続きに基づき、別途に解決すべきである。本件係争商標「天線宝宝」は、単純な中国語商標であり、その文字構成及び指定商品における使用が中国の政治、経済、文化、宗教、民族などの社会公共の利益及び公共の秩序に悪影響を及ぼすとはいえない。しかし、商標審判委員会は、その裁定において、本件係争商標の登録は、誠実信用の原則に違反し、ラグドール社の合法権益を害したという理由のみで、本件係争商標の登録は、社会公序良俗に反し、消費者に商品の出所について誤認を生ずるおそれがあり、社会に悪影響を及ぼすと認定したが、この認定は、特定主体の民事権利と社会公共の利益、公共の秩序との関係を混同しており、「商標法」第10条第1項第8の適用は不適切である。したがって、法律に基づき、商標審判委員会の裁定を取り消すと判決した。
 
分析及び対策:
 
上記の判例3において、係争商標の出願日前に、「索愛」は既に消費者やメディアに「ソニー・エリクソン」又は「Sony Ericsson」の略称として認められ、使用されていた。商品の出所を標示する作用を有するようになり、「索愛」は、確かにソニー・エリクソン(中国)を指す。しかし、ソニー・エリクソン(中国)は、「索愛」を商標出願していなかったので、他人に先駆け登録され、自分の権利を守るのが難しい状態になってしまった。
 
この判例において、ソニー・エリクソン(中国)は、商業活動において、直接「索愛」を商標として使用していなかったが、消費者やメディアは既に認め、使用していた。このような権利者が自ら使用していないが、消費者やメディアに使用された事実は、実質的に商標の使用となるか否かについて、一審裁判所と二審裁判所の認定は全く異なっている。これこそ、一審裁判所と二審裁判所が最終的に違う判決を出した根本的な原因である。本件における二審裁判所の認定は、『商標法』における「商標使用」についての立法精神と一致すると思われる。
 
多くの企業にとって、一般的に実際使用する商標も使用しようとする商標も、登録出願する。しかし、実際の商業活動において、関連消費者グループにおいて習慣となっている商標の略称又はイニシャルについて、特に当該略称又はイニシャルが当該企業を表示すると認定されていない場合、企業はこのような商標又は表示の保護がおろそかである。これらの判例を通して、企業は実際の商業活動において、又は関連消費者グループにおいて習慣となっている商標の略称又はイニシャルについて、必要な保護措置を取るべきであり、判例3のような状況に至らないよう注意を喚起したい。
 
なお、判例3において、北京高等裁判所が認定した『不正競争防止法』第5条第2号に規定された行為は、『商標法』第31条においても表現されている。当事者は両方ともこれに対して異議を唱えていない。国家工商行政管理総局が制定した『著名商品の特有の名称、包装、装飾を模倣する不正競争行為を禁止する若干の規定』において、「著名商品の特有の名称とは、著名商品のみが有するものであり、通常用いられている名称と比べて、顕著な差異がある商品名称を指す。ただし、当該名称は、すでに商標登録されたものを除く。」と規定されている。この規定から見れば、北京高等裁判所が認定した「著名商品の特有の名称とは、本質的にすでに使用され、一定の影響力を有する商標」である。弊所は更に検討する余地もあると思う。すなわち、著名商品の特有の名称とは、著名商品が特に有する名称とも理解してもいいが、商標のみに制限してはならない。その外延は商標より広くなる。したがって、消費者において、習慣となっている商標の略称が、著名商品と特定な関係にある場合、当該名称は「著名商品の特有の名称」と定義してもいいか、『不正競争防止法』により保護されるべきであろう。
 
上記の判例4において、「天線宝宝」は子供番組の名称であり、他人に登録された。このような行為は、誠実信用の原則に違反するが、当該名称は登録商標ではなく、商業活動において商標として使用されたこともなかった。そのため、他人に先駆け登録されても、権利者は『商標法』により法律的な保護を求められなかった。また、当該作品は中国において、『著作権法』により保護されるが、『著作権法』は直接に作品の名称を保護しない。本件において、権利者は法的な措置を取ったが、最終的に、当該商標を取り消すことができなかった。先駆け登録された商標が第29類の食品などに使用されても、権利者に与える影響は比較的弱い。しかし、当該名称が第28類(おもちゃなど)において先駆け登録された場合には、子供番組のプロデュサー(権利者)にとって、後続の行為及び周辺製品の開発に対して、非常に不利であり、莫大な経済損害を被るおそれもある。この判例から見れば、映画プロデュサーを一例としていえば、重要な作品名称などについて、必要な法律保護措置を取らなければならない。例えば、第28類のおもちゃ、第25類の子供服、第16類の子供用読み物、第9類のゲームプログラム、第44類のゲームプログラムの開発などの関連区分において当該名称を商標出願しておけば、更に企業の知的財産権を有効に保護できる。
 
IV. まとめ
 
以上の四つの判例を総合的に分析及び比較すれば、判例1及び判例2において、権利者の主張が最終的に裁判所に支持された重要な原因は、模倣された商標が指定商品又は類似商品において使用されていたからである。商標自体が類似するか否かについて、裁判所は各案件の種々の要因を考慮したうえ、自由裁量権が許す範囲において適当に厳しく又は緩く判断できる。上記の判例3及び判例4の状況はかなり特殊であり、請求人は実際の商業活動において、当該名称を商標として使用していない。このような場合には、『商標法』によって保護を求めることは難しい。また、実務においては、非類似商品又は役務において、他人の一定の知名度を有する商標が先駆け登録された例はたくさんある。
 
高い知名度及び顕著性を有している商標について、他人が当該商標を非類似商品又は役務において模倣又は先駆け登録する行為に対して、どのように対処すべきかについては、中国においてずっと難しい状況にある。現在の『商標法』には、このような商標を明確に保護する条文はない。このような商標に対して、非類似商品又は役務において、又は侵害者が明らかに悪意をもっているが関連証拠が不足している場合、『商標法』第9条(他人の先に取得した合法的権利との抵触禁止)、第13条(他人の著名商標の使用禁止)、第15条(授権されていない代理人等による登録の拒絶)、第28条(他人の同一又は類似の商品についての同一又は類似商標の拒絶)及び第31条(他人が先に使用している一定の影響力のある商標の不正手段による登録禁止)では有効に対抗することはできない。莫大な人力と財力をかけて商標を開発し、自社のブランドとして社会公衆に周知されるまでの間、たゆまず努力してきた権利者にとって、不公平であるばかりでなく、知識イノベーション及び知的成果の保護にとっても、不利である。著名商標に類似し、高い知名度及び顕著性を有する商標には、権利者のより多くの知的創造及び商業的価値が凝集されているので、通常の商標よりも広く保護されるべきである。
 
また、高い知名度及び顕著性を有する商標に対する保護が不足している現状は、社会において広い関心を集めている。中国は、立法によりこの問題を解決しようとしている。2003年以来、国家工商行政管理総局は、国務院の委託を受け、『商標法』第三回の改正に関する具体的な作業を担当している。2009年「商標法(改正審議版)」において、第34条は以下のように規定されている。
 
出願に係る商標が、同一又は類似の商品又は役務において、他人が中国で先に使用している商標と同一又は類似し、出願人が当該他人との間に契約や業務上の取引、地域的関係又はその他の関係があることから、当該他人の商標の存在を明らかに知っている場合には、登録を許可しない。
 
出願に係る商標が、同一でない又は類似しない商品において、他人が有する高い顕著性を有し、かつ、一定の影響力を有する登録商標を剽窃したものであり、公衆に誤認を生じさせるおそれがある場合には、登録を許可しない。
 
この条文が採釈されれば、確かにこのような商標の保護に対して、非常に有効になる。『商標法』第三回改正の完成は、このような商標の保護について、より最善な道を提供するに違いない。弊所は、『商標法』第三回改正について監視し、このような商標の保護に関連する内容に引き続き注目し、何か新たな進展があれば、タイムリーに提供し、お客様と共に実務に役立てたい。
 
(2011)

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