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疾患の診断・治療方法の権利化問題について


北京林達劉知識産権代理事務所
中国弁理士  耿之光
 
医療製品・サービスの市場拡大に伴い、医療関連の特許出願も増えている。一方、中国特許法によれば、疾患の診断及び治療の方法は特許の保護対象外である。実務において、医療関連出願における方法クレームが上記の規定により拒絶されることが多い。そこで、本稿は、出願人の発明をできるだけ保護する観点から、医療分野の特許出願における上記課題及びその対応について検討する。

中国特許法の第25

次に掲げるものに対しては、特許権を付与しない。

(1)科学的発見。
(2)知的活動の法則及び方法。
(3)疾患の診断及び治療方法。
(4)動物及び植物の品種。
(5)原子核の変換方法及び原子核の変換方法によって得られた物質。
(6)平面印刷品の模様、色彩又は両者の組み合わせについて主に標識として用いられるデザイン。

疾患の診断及び治療方法に特許権を付与しない理由として、中国の審査基準には、①人道主義への配慮のため、医師はいずれの選択可能な診断および治療方法を選択する際に制限を受けるべきではなく、②いずれの疾患の診断及び治療方法も実施対象が動物またはヒトであるため、このようなの方法は産業上、利用できないものであり、実用性を有しないとの記載がある。一方、実際において、特許審査で発行された拒絶理由通知または拒絶査定には、実用性の有無や人道主義についての詳細なコメントはなく、「請求項に係る方法は中国特許法の第25条に規定する不特許事由に該当する」とだけ指摘されるのが一般的である。

疾患の診断及び治療方法について、中国の審査基準には、「診断方法とは、生きているヒト又は動物の病因又は病巣状態を認識・検討・判断するプロセスをいう」、「治療方法とは、生きているヒト又は動物の健康の回復や維持、または痛みの軽減を図るために、病因又は病巣を遮断・緩和・除去するプロセスをいう」と定義されている。

実務において、上記定義から、拒絶理由に対する反論を展開するのが一般的である。

まず、上記定義によれば、疾患の診断及び治療方法は、生きているヒト又は動物を直接の実施対象とする。そのため、方法クレームの作成や審査中の方法クレームの補正に際し、ヒトに対する操作やそれによる効果をクレームどころか、明細書にも書かないように留意する必要がある。

例を挙げると、X線診断に使用される画像処理の改良に関する特許出願の場合、ヒトへのX線照射にできる限り言及せずに、画像処理方法として方法クレームや明細書に記載すべきである。具体的には、画像を取得するステップを記載する場合、「X線画像を取得するために患者の◯◯部分にX線を照射する」というような表現ではなく、「関心領域のX線画像を取得する」という表現を採用すべきである。このように記載しておくことで、審査において、「この方法は、画像を直接の実施対象とする単純な画像処理に関するものであり、画像中の何らかの特徴の表示や強調表示を目的とする」と主張することができる。このような主張が認められれば、当該方法は中国の審査基準に規定する疾患の診断方法に該当しないと判断される。

また、疾患の診断及び治療方法の判断において、方法の直接的な目的も重要な判断要件となる。病因又は病巣の認識・特定・除去を直接的な目的としない方法は、疾患の診断及び治療方法に該当しないと判断される。

現在の診断方法の多くは、中間パラメータや中間結果が発生する。中国の審査基準には、「診断結果又は健康状況を把握することでなく、生きているヒト又は動物から中間結果としての情報を取得することのみを直接的な目的とする方法、又は当該情報(物理的パラメータ、生理学的パラメータ或いはその他のパラメータ)の処理方法」が診断方法に該当しないと特に定められている。この規定は、出願人にとって有利であると思われる。

上記規定からすれば、最終の診断結果ではなく、中間パラメータや中間結果を最終的に取得するように、方法クレームを作成することができる。上記の例では、X線画像における影は、疾患の病巣を示唆している可能性があっても、画像処理方法では、X線画像に表示・強調表示された影は、診断結果や健康状況を直接示すものではなく、中間結果にすぎないといえる。このような方法は診断方法ではないと考えられる。繰り返しになるが、最終的な診断をクレームに記載しないように留意しなければならない。拒絶を避けるために、例えば、「画像の影から腫瘍が識別できる」というような記載を明細書においてもしないように留意すべきである。

診断方法と同様に、治療方法も、生きているヒトまたは動物を対象とし、病因や病巣の遮断、緩和又は除去を目的とすることが判断要件である。つまり、生きているヒトまたは動物を対象とするものではなく、病巣の除去または健康回復を直接的な目的としない方法は、仮に治療に関係したとしても、特許を受ける可能性がある。

例を挙げると、腫瘍を放射線で焼灼する方法が治療方法であることは言うまでもないが、この放射線を誘導する方法は特許の保護対象である。例えば、放射線を誘導する方法を単純な制御方法として記載し、その直接の実施対象を放射線源を移動させるためのデバイスとして定義し、放射線ビームのより正確な制御を目的として記載することができる。このような方法は、生きているヒトや動物の健康回復または病巣の除去に直接関係するものではないため、治療方法に該当しないといえる。なお、クレーム及び明細書において、ヒト組織を焼灼するための画像誘導放射線の使用について言及しないように留意する必要がある。

以上より、生きているヒトや動物から独立して実施できるように方法クレームを書くべきである。ポイントとしては、

①方法の直接の実施対象が、生きているヒトまたは動物ではない点、

②方法の目的が、病因又は病巣状態の認識・特定・除去ではなく、例えば、中間結果(画像)の処理や医療機器の制御である点、

という2点が重要である。この2点を満足する方法クレームとすれば、診断・治療方法として拒絶される可能性はだいぶ低くなる。

一方、フィードバックとして、ヒトに実際に発生した効果を受信することが必要となる医療関連方法もある。例えば、放射線に対する誘導は最新の焼灼深度に依存する可能性がある。この場合、ヒトに適用することが必要となり、そして治療効果に関するフィードバックも必要である。このようにヒトからのフィードバックを必要とする方法は、実務において、治療方法と認定されることが多く、しかも反論しにくいため、装置クレームで権利化を図ることがお勧めである。

また、審査官によって、疾患の診断及び治療への審査が非常に厳しいことがある。筆者が取り扱った案件において、クレームには、生きているヒトや動物への適用、病因又は病巣状態の認識・特定・除去などについての記載がなくても、明細書には記載があった結果、いくら反論しても認められなかったケースがある。

さらに、外国からの医療関連出願で、中国の疾患の診断及び治療方法に関する規定を考慮せずに作成されたものであるため、方法クレームしかない場合もある。このような出願の場合、中国における権利化が不可能になることを極力防ぐために、自発補正可能な時期を利用して、実体審査が開始する前に、装置クレームを追加する補正を行うべきである。また、パリ出願の場合、疾患の診断及び治療方法への認定による拒絶をできるだけ回避するために、クレーム及び明細書から、診断や治療に関わると疑われるような表現を必要に応じて削除・調整することが考えられる。

以上は、中国の特許審査における疾患の診断・治療方法の権利化問題やその対応に関する筆者の些細な経験であるが、皆様のご参考になれば幸いである。
 
(2021)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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