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地理的表示保護に関する中日制度の比較


北京林達劉知識産権代理事務所
中国商標代理人 宗 可麗
 
地理的表示(Geographical Indication)は、原産地表示または原産地名称としても知られ、商品の原産地を特定する表示であって、商品の特定の品質と社会的評価を示し、知的財産権の一つとして保護される。「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)第22条の1において、「地理的表示とは、ある商品に関し、その確立した品質、社会的評価その他の特性が当該商品の地理的原産地に主として帰せられる場合において、当該商品が加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を原産地とするものであることを特定する表示をいう。」と定義している。即ち、地理的表示は、ある商品がある地域を産地とし、当該商品の特定の品質、社会的評価又はその他の特徴が主に同地域の自然的要素又は人的要素によって決定されていることを表す表示を指す。TRIPS協定では、地理的表示は、著作権、特許権、商標権、意匠権、回路配置利用権、および営業秘密などと並列し、独立した知的財産権として明示的に見なされる。

世界知的所有権機関の重要な文書であるTRIPS協定は、知的財産保護のための国際的スタンダードである。 TRIPS協定の条項は主に加盟国がその国内法の制定と実施を通じて施行されている。中国と日本はどちらもTRIPS協定の加盟国であり、各自の国の条件に基づいて独自の国内法を策定している。本文では、制度の面から両国の地理的表示保護制度を分析および比較している。
 
一、中国における地理的表示保護制度の現状
 
近年、中国の社会経済の発展とブランド意識の向上に伴って、需要者が商品を購入する際にブランドを選択する傾向が強まっている。 地理的および地域的特性が強い製品について、地理的表示の保護を求めることが急務となっている。

中国現行法の枠組みの下で地理的表示は、地理的表示の団体商標/証明商標と、地理的表示製品と、農産品地理的表示との3つのルートで保護されている。 それぞれの概要を以下の表に示す。





上記の中、地理的表示製品の保護は、もともと中国の国家質量監督検験検疫総局によって管理されていた。2018年、国務院の機能改革に伴い、この機能は国家知識産権局に移管された。これにより、中国の地理的表示の保護は、過去の「三者鼎立」から「天下二分」の状況に変わっている。ただし、国家知識産権局による地理的表示製品の保護と地理的表示の団体/証明商標とは異なる法制度に属しており、申請方法、審査プロセス、法的結果に大きな違いがあるため、本質的には三者鼎立の状況が続いている。
 
3つの保護方法はすべて、製品の品質基準、管理規範、および地域の特性について明確な要件があり、製品の市場競争力に対する内面的サポートを示していると同時に、地理的表示の専用表示を製品のパッケージに付けることによって、外面的なブランド価値を反映する。地方政府は3つの申請手続きのいずれにも参加しており、地理的表示の地名は国の「お墨付き」に近い役割を果たすため、供給元のマーキング、栽培の基準、管理規範、収穫と倉庫保管、および物流配達などにおいて、地理的表示製品の産地品質に対する消費者の信頼を強化できる。

一方、3つの保護方法にはそれぞれ独自の鮮明な個性がある。

(1)法的根拠から見れば、地理的表示製品の保護と農産物地理的表示の保護の直接の法的根拠(『地理的表示製品の保護に関する規定』および『農産物地理的表示の管理に関する弁法』)の性質は、国家国務院の所在機関が制定する部門規章である。それに対して、地理的表示の団体/証明商標の法的根拠(『商標法』)は全国人民代表大会の常務委員会によって制定および公布された法律である。後者は前者より優位である。

(2)登録後の保護の観点から見れば、地理的表示製品の保護および農産物の地理的表示の保護は、地方の各クラスの知的財産管理部門、地方人民政府の農業行政部門によってそれぞれ管理および監督される。政府機関による積極的な管理・監督の形をとっている。一方、地理的表示の集団/証明商標が登録後、権利侵害に遭遇すると、権利者は商標権に基づいて行政上および司法上の救済を求める権利を有する。
 
公開情報によると、2020年上半期に許可された地理的表示製品が計2,385個であり、専用表示の使用が許可された企業が計8,811社であり、地理的表示商標の登録件数は計5,682件である。(注1)同時期に、農業部で農産物の地理的表示製品を3,090件登録している。(注2)データ自体から見れば、3つの保護方法の登録制度はともに積極的に活用されている。

実務上、各地の申請者が特定の製品の性質に応じて異なる保護方法を採用しており、2つ以上の保護方法を同時に採用する例も珍しくない。 2019年10月に国家知識産権局のウェブサイトで公開された5つの地理的表示製品(注3)を例として、中国商標網および全国農産品地理的表示照会システムで検索すれば分かるように、同一の地理的表示を、異なる保護方法を通じて異なる主体の名義で申請することが多い。



地理的表示製品の保護を申請する際、地理的表示が他者に商標として先登録されている場合、申請者は申請前に商標権利者と協議し、その同意を得る必要がある。通常の申請書類に加えて、商標権利者が発行した「地理的表示製品の先行権利抵触の協調に関する承諾書」を国家知識産権局に提出することも必要である(注4)。 「承諾書」では、商標権利者は次の意思表示を行う必要がある。

1.地理的表示の申請者が地理的表示製品を申請することを認める。 2.製品の保護地域における生産者による地理的表示名称とその表示の適切な使用に同意する。 3.商標を保護地域外の譲受人に譲渡しないこと。4.登録者は製品の品質要件と指定された基準に従って生産し、専用表示を使用しなければならない。
 
このようにして、地理的表示の公的所有権と商標登録の私的所有権の間の抵触が解決される。
 
二、日本における地理的表示保護制度の現状
 
現行の日本の法制度では、地理的表示は主に2つの方法で保護されている。即ち、特許庁が管轄する地域団体商標制度と、農林水産省が管轄する地理的表示保護制度である。 地域団体商標制度とは、地域ブランドの名称を商標権として登録し、その名称を独占的に使用することができる制度である。地理的表示保護制度とは、生産地と結び付いた特性を有する農林水産物等の名称を品質基準とともに登録し、地域の共有財産として保護する制度である。

また、酒類に関する地理的表示は、「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」の規定に基づき、国税庁によって管轄される。

地域団体商標制度と地理的表示保護制度との相違は下記の通りである(注5):
 


地域団体商標の製品品質は、主に商標権利者によって自主的に管理される。それに対して、地理的表示によって保護されている製品は、原産地に関連する特定の品質基準に準拠する必要がある。登録者が生産/加工業者が品質基準に準拠しているかどうかを管理し、国がこれを監督する。地理的表示は生産/加工業者の製品が特定の品質基準を満たしている場合にのみ使用できる。品質基準を満たしていない製品に地理的表示を使用すると、地理的表示の登録が取り消されるという重大な結果が生じる。生産/加工業者が地理的表示の地域団体商標登録を所有していても、地理的表示を使用する商標登録権を付与することはできない。したがって、日本の地理的表示によって保護されている製品の品質は中国の地理的表示保護製品と同じく、ある程度の国のお墨付きが得られる。

地理的表示が日本農林水産省の保護登録を受けると、その地域の共有の財産になる。適格な生産/加工業者は地理的表示の登録者によって規定された申請手続きを履行し、かつ製品の品質が要件を満たした場合、地理的表示を正当的に使用できる。地理的表示を地域団体商標として他人が登録したとしても、上記の正当使用を妨げることはできず、独占使用権を実現することはできない。この点は、中国の地理的表示の保護と地理的表示の団体/証明商標の間の抵触の解決法と一致している。

日本特許庁および農林水産省の公式ウェブサイトの公開データによると、2020年6月末の時点で、日本は計683件(うち外国登録者によるものは3件)の地域団体商標(注6)の登録を許可し97件の地理的表示の登録が許可された(注7)。

筆者は、5つの地理的表示登録をランダムに選択してその登録状況を調査した。その結果、中国と同様に、各地域が実際のニーズに応じて単一または2つの保護方法を選択して登録を求めていることが分かった。 2つの保護方法を選択する場合、地域団体商標の登録者と地理的表示の登録者の名義が一致しない場合がある。


 
三、中日商標法の枠組みに基づく地理的表示の保護の比較
 
中国において、2001年度の商標法改正に当たって、地理的表示の商標に関する規定が第16条に新設され、地理的表示が正式に法律の保護対象に拡張された。日本において、2006年4月から地域団体商標登録制度が施行された。以下では、地理的表示の商標に関わる両国の現行商標法の共通点と相違点を比較してみる。
 
1.登録出願
 
現行『中国商標法』では、第16条が2001年度の改正内容を継続したうえ、『商標法実施条例』の第4条に、地理的表示が証明商標または団体商標として登録できることを規定し、証明・団体商標の使用主体も規定している。

『日本商標法』の第7条の2は、地域団体商標の保護対象および出願人の主体に関して詳細に規定している。


 
上記の比較から、地理的表示の証明商標は中国特有のものであることがわかる。 中国の地理的表示団体商標と日本の地域団体商標は、保護対象(物品)、登録主体、使用主体などの点で基本的に同じであるが、保護対象(表示)について、日本は商標の構成要素を単純な文字に限定し、図形およびその他の要素は含まない。一方、中国では商標に「視認性のある」(図形など)を含めることが可能である。 実務上、図形と文字の組み合わせで構成される地理的表示集団商標の例は枚挙にいとまがない。例えば、次の例がある。


 
また、登録要件については、日本の「商標が需要者の間に広く認識されていること」という要件に対して、中国はこれについて明確な規定が設けられていない。ただし、中国で地理的表示団体/証明商標の登録出願する場合は、「生産地域範囲」を証明するために、県誌、農業誌、製品誌、年鑑、教科書などを提出する必要がある。これらの資料は、地理的表示にある程度の知名度を有することを客観的に反映していると思われる。
 
2.登録後の譲渡及び更新の可否
 
中国では、地理的表示の証明/団体商標は通常の商標と同様に譲渡できる。 ただし、地理的表示の公的所有権により、地理的表示の証明/団体商標の譲渡は通常の商標譲渡と相違している。 『中国商標法』第42条第3項において、「混乱を招く、または悪影響を及ぼすおそれのある商標譲渡が認められない」旨が定められている。この規定の主要な対象の1つはまさに地理的表示の証明/団体商標であると思われる。通常の商標譲渡の要件(同一又は類似する商品における同一又は類似する商標は一括に譲渡されるべきである)と比較して、譲受人が地理的表示の管轄地域内にあるかどうか、および譲受人が証明/団体商標の権利者の主体資格を持っているかどうかなどを考慮することも必要である。

一方、『日本商標法』第24条の二の(4)には、地域団体商標に係る商標権は譲渡することができないと規定されている。

中国の地理的表示の証明/団体商標登録と日本の地域団体商標登録はどちらも権利の存続期間が10年であり、更新手続きにより存続期間を延長できる。
 
3.商標が他人に冒認出願された場合
 
中国では、地理的表示の保護は商標の登録を前提とすることなく、登録しなくても『商標法』に従って保護を取得可能である。地理的表示が他人に商標として冒認出願されている場合、地理的表示は、『中国商標法』の第10条第1項の7(産地誤認)、第10条第2項(地名に関連)、第16条(地理的表示)、第30条、第31条(同一・類似性に関連)、第32条(先行権利と先行使用が一定の影響ありに関連)などに基づいて、異議申立(対象商標が初歩査定公告された場合)または無効審判(対象商標は登録済み)を請求することができる。馳名商標の認定要件を満たすものは、『商標法』第13条を主張することもできる。北京市高等裁判所により公布された『商標の権利付与・権利確定に係る行政案件の審理ガイドライン』の13.5には、「地理的表示の団体商標又は証明商標の登録出願が後であり、通常商標の出願が先である場合、地理的表示の客観的な存在の状況及びそれの知名度、識別性、需要者の認知等要素を踏まえて、需要者に商品又は役務の出所について容易に混同を生じさせるか否かを判断しなければならない」と規定している。これは先取り登録されている地理的表示に関して混同判断の基準を提供している。

日本において、商標権付与後の登録異議申立制度を採用している。商標登録後に発行される商標広報の日から異議申立期間(2ヶ月)に入る。該期間中は誰でも異議を申し立てることができる。 『日本商標法』第43条第2項、第46条第1項によれば、登録商標が第7条第2項第1号の地域団体商標等に係る規定に違反した場合、対象商標の状況により登録異議または無効審判を請求することができる。
 
4.商標権利侵害に遭遇した場合
 
上記のように、地理的表示の公的所有権の影響を受けて、権利者は、中国の地理的表示の証明/団体商標および日本の地域団体商標の登録後、他者がそれらを正当に使用することを妨げる権利を持たず、通常の商標のように完全に独占的に使用することはできない。
権利侵害行為に対しては、中国の地理的表示の証明/団体商標は、通常の商標と同様に、行政取締りや侵害訴訟などの権利救済措置を行うことができる。権利者は、権利侵害行為の差し止め請求、権利侵害賠償金の請求などの権利を有し、税関で法的保護を受けることもできる。日本の地域団体商標の権利者は、民事権利侵害訴訟を通じて差止請求、損害賠償請求を主張することができ、また、税関の輸出入時に保護することができる。これらは侵害製品の国内市場への流入を効果的に防ぐことができる。
  
上記で分析したように、中国と日本の商標法で地理的表示の保護に多く共通している。中日間の経済交流が深まり、越境電子商取引が急速に発展する中、中日間の商品の流動性はかつてないほど緊密になっている。近年、日本は中国最大の農産物輸出市場であり、中国の高級食材市場で日本の高級牛肉製品や日本酒が高い人気を集めている。互いの国に対して、地理的表示の保護を求める客観的な需要が徐々に高まっている。しかし、残念ながら、現在、両国の出願人が相手国で地理的表示商標を出願し、登録を受けた件数は中日それぞれ1件のみである。それぞれ中国の登録商標第14116667号「庵治石」であり、日本の登録商標第5450000号商標「鎮江香酢」である。両国の法律システムにおける地理的表示を保護する方法は複数あるが、権利の安定性と権利保護の利便性の観点から、商標登録出願は優れた選択肢である。地理的表示の製品が外国市場に進出する際に確実な法的保護を受けるよう、今後、商標制度が一層活用されることを期待している。
  
注:

注1:出典『知的財産統計簡報』2020年第10号
注2:出典『全国農産品地理的表示照会システム』
http://www.anluyun.com/Home/Search
注3:国家知識産権局公告第331号
注4:国家知識産権局地理的表示オンライン申請ガイドライン
注5:日本特許庁ウェブサイトwww.jpo.go.jp/system/.../faq/t_dantai_syouhyou.pdf)
注6:日本特許庁ウェブサイト
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/document/index/ranking.pdf#search='地域団体商標+出願+登録件数'
7日本農林水産省ウェブサイト2020629現在 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/register/gi-4.html
 
(2020)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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