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「改正商標法」第57条第1、2号の商標権侵害の認定に対する影響


北京林達劉知識産権代理事務所
中国商標弁理士 姚 敏
 
2013年に改正が採択され、2014年5月1日から施行された「中華人民共和国商標法」(以下、新「商標法」という)第57条第1、2号では、「下記の各号の行為の一つに該当するときは、商標権の侵害とする。
 
(1)商標権者の許諾なしに、同一の商品についてその登録商標と同一の商標を使用しているとき。

(2)商標権者の許諾を得ずに、同一の商品についてその登録商標と類似の商標を使用し、又は、類似の商品についてその登録商標と同一又は類似の商標を使用し、混同を生じさせやすいとき」と規定している。
 
一方、改正前の2001年「商標法」(以下、旧「商標法」という)第52条では、「下記の各号行為の一つに該当するときは、商標権の侵害とする。
 
(1)商標権者の許諾なしに、同一の商品又は類似の商品にその登録商標と同一又は類似する商標を使用しているとき」と規定していた。
 
上記法律条文に係わる行為は実務において、商標権侵害行為の基本的な形式である。上記の対比から、新「商標法」では、旧「商標法」に規定されている行為をより明確にし、2つの項目に分けていることが分かる。この改正は実際に、商標権侵害の認定に対して、主に以下の2つの方面より重要な影響を与えるものである。
 
1.侵害の認定に対する影響
 
旧「商標法」の規定によれば、商標権者の許諾なしに、同一の商品又は類似の商品にその登録商標と同一又は類似する商標を使用しているとき、商標権の侵害を構成するとされていた。つまり、旧「商標法」では、このタイプの商標権侵害行為を判断する時、商標が同一又は類似するか、商品が同一又は類似するかをはっきり区分せず、商標と商品が同一又は類似のいずれかの条件を満たす場合、商標権侵害を構成すると認定していた。
 
それに対して、新「商標法」では、このタイプの商標権侵害行為に対して、同一の商標を同一の商品に使用する(以下、「同一タイプ」という)状況、類似の商標を同一の商品に使用する、又は同一若しくは類似の商標を類似の商品に使用する(以下、「類似タイプ」という)という異なる状況を規定した。「同一タイプ」の場合、直接商標権侵害を構成すると規定している。一方、「類似タイプ」の場合、「混同と誤認を生じさせやすい」という要件を取り入れた。これは、中国商標法において、「混同と誤認」が「類似タイプ」における商標権侵害行為を構成する要件となることを初めて明確に規定したものである。
 
新「商標法」の上記規定から見ると、「同一タイプ」の場合、商標法では、混同の可能性を要求していない。この規定は、TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)における「同一タイプ」が混同を構成することが推定されることと、EU、米国の法律規定及び司法判例が「同一タイプ」に対して絶対的な保護を与えるということと、基本的に一致している。新「商標法」では、商標権に対する保護を強化したといえる。
 
旧「商標法」の上述の条文から見れば、「『類似タイプ』の場合、混同と誤認を考慮する必要がある」と明確には規定されていない。しかし、これまでの中国の長年にわたる商標実務からみて、「類似タイプ」で商標権侵害を構成するか否かを認定する際、商標主管機関及び裁判所などは、「混同と誤認」を考慮要素として採用している。通常、商標の類似性は、混同、誤認を生じさせる程度になった場合においてのみ、商標権侵害と認定される。商標の主要な機能は、商品の出所を明示、識別することで、商標の使用によって、消費者に商品の出所に混同や誤認を生じさせないようにすべきである。「類似タイプ」の場合、商標・標識自身の差異、商品の特殊性、消費群体及び販売ルートの違いなどの要因の存在により、混同、誤認を生じさせるかどうかは議論の余地がある。新「商標法」における「混同と誤認」の要件を採用することは、司法機関により多くの自由裁量権を与えると同時に、案件当事者に挙証の余地を与えたといえる。
 
新「商標法」は、商標の「同一タイプ」と「類似タイプ」における商標権侵害の認定を明確に区分し、「同一タイプ」における商標に対して、より強い保護を与え、「類似タイプ」において「混同と誤認」という要件を採用することで、商標権侵害に対する認定を商標の本質的な機能と商業活動の要求により合致させ、合理性も持たせるようになった。
 
2.登録商標冒用罪の認定に対する影響
 
中国「刑法」第213条には、「商標権者の許諾なしに、同一の商品にその登録商標と同一の商標を使用し、情状が深刻な場合、3年以下の懲役或いは拘留に処し、罰金を併科又は単科する。情状が極めて深刻である場合、3年以上7年以下の懲役に処し、かつ罰金を併科する。」と規定している。
 
上述の「刑法」に規定の条文から見れば、登録商標を冒用し、犯罪を構成する前提の一つは同一商品にその登録商標と同一の商標を使用することである。つまり、「同一タイプ」における登録商標を冒用する行為は、「刑法」における犯罪行為を構成する可能性がある。「刑法」の「罪刑法定の原則」に基づけば、「類似タイプ」における登録商標を冒用する行為は、違法行為を構成するに過ぎず、「登録商標冒用罪」は構成しないものと推測できる。 
 
また、新「商標法」第61条には、「商標権を侵害する行為に対して、工商行政管理部門は法律により調査し、処分を行う権限を有する。犯罪の疑いがある場合、直ちに司法機関に移送し、法により処理しなければならない。」と規定している。新「商標法」において、商標権侵害に対する認定を改正したことで、工商行政管理部門は商標違法行為を調査し処理する時、当該違法行為が犯罪を構成する可能性があるかどうか、又は司法機関に移送し、法により処理する必要があるかどうかをより正確に判断できるようになった。
 
3OEM製造行為の商標権侵害認定に対する影響
 
OEMとは、簡単に言えば、相手先商標を付して製造、加工すること(ここでは、製品を全て海外へ輸出するOEMに限って述べる)である。OEM製造の場合、同一又は類似の商品において、同一又は類似の商標を使用する行為が商標権侵害を構成するか否かについて、旧「商標法」でも、新「商標法」でも、明確に規定されていない。
 
旧「商標法」における商標権侵害の条文で、「混同」要件が明確に規定されていなかったが、同条文に基づけば、OEM製造の場合、同一又は類似の商品において、同一又は類似の商標を使用する行為は、商標権侵害を構成するとみなされるようである。しかし、商標の本質的な機能と商標の地域性から見れば、OEM製造製品が全て海外へ輸出される場合、関連製品は、中国の流通分野に入らず、中国の消費者もこれらの製品に接触することもない。この視点から見れば、OEM製造は、「商標法」における商標の使用に該当しない。
 
実務において、OEM製造で商標を使用する行為が商標権侵害を構成するか否かという問題に対して、商標法律専門家の観点にしても、近年の中国裁判所における司法裁判や税関などの行政機関の取締りにしても、これまでいろいろ議論されてきた。 
 
最高裁判所の孔祥俊裁判長が最近発表した論文『新改正商標法の適用におけるいくつかの問題』において、この問題に対する自身の次のような主な観点を明らかにしている。
 
「同一タイプ」の適用前提は、まず商標の使用行為を構成することで、商標の使用行為に該当しない場合は保護範囲に入らない。「同一の商品についてその登録商標と同一の商標を使用しているとき」(商標法第57条第1号)は、まず商標意義における使用を構成し、つまり、商標の使用行為に該当する。もし、訴えられた権利侵害行為が商標の使用行為に該当しない場合、当然、登録商標専用権の侵害行為に該当しない。例えば、商標法第59条に規定の「正当な使用」は、商標の使用行為に該当しない。また、その他の識別力のない使用行為(商品の出所を示す標章としての使用でない)、例えば、OEM製造において「商標を付す行為」が商標の使用行為に該当するか否かについて、このように全て海外で販売され、中国国内の市場流通分野に入らない「商標を付す行為」は、中国で商品の出所を識別する役割を果たさず、商標の使用行為に該当しない。このような商品の出所を識別する役割を果たさない使用行為に対しては、「商標法」第57条第1号の「同一使用」の規定を適用する前提と余地が存在せず、全く保護範囲には入らず、絶対的な保護も適用されない。つまり、まず商標の使用行為に該当するか否かを判断して、非商標的な使用行為を排除してから、同一又は類似する使用に該当するか否かを判断するのである。
 
OEM製造に係わる商標権の侵害に対して、権利侵害行為を構成すると主張する重要な理由は、もし権利侵害を構成しないと認定した場合、中国は世界の「偽物製造センター」になってしまうからである。すなわち、受託して加工した商品に「商標を付す」のは、輸出相手国の商標権を侵害することになってしまい、輸出相手国の商標法と商標権に基づき、中国におけるOEM製造が商標権侵害に該当するか否かを判断する。それと同時に、商標権の地域性に基づき、外国の商標法と商標権は、中国において「商標を付す行為」が商標権侵害に該当するか否かを判断する根拠にはならない。中国において受託して製造した商標を付した製品が、輸出相手国の国内市場に入る時にのみ、当該国の商標権を侵害するか否かという問題が生じる。この場合、商標権侵害であるか否かは、外国の法執行・司法機関により処理され、中国が偽物製造地になることとは係わらない。
 
上述の孔祥俊裁判長による新「商標法」の適用に関する文章から、同氏の個人的な見解としては、「OEM製造で商標を付す行為は、商標の使用に該当せず、たとえ『同一タイプ』においても商標権の侵害に該当しない。」というものである。「商標法」では、OEM製造における「商標を付す行為」について、商標の使用に該当するか否か、商標権侵害に該当するか否かをはっきり規定していないが、新「商標法」は「類似タイプ」の場合、「混同」の要件を取り入れた。OEM製造による製品が全て海外に輸出されるので、混同と誤認を生じることもなく、商標権の侵害に該当しない。新「商標法」の上述規定は、「類似タイプ」における「OEM製造における商標を付す行為」が商標権侵害に該当するか否かという問題を法律の角度から、より確実に解決することにとって有益である。
 
新「商標法」は2014年5月1日より施行された。弊所は現在までに、行政機関又は裁判所が新「商標法」に基づいて、OEM製造について、「同一タイプ」又は「類似タイプ」の場合、商標権侵害に該当するか否かに対して下した判決書又は裁定書を見たことがない。上述の新「商標法」における商標権侵害の認定に対する重要な改正から、商標の本質的な機能、法律に内在する精神や論理性、合理性を備える商標司法や行政行為がなされることを期待している。 

参考資料:
1.2001年旧「商標法」
2.2013年新「商標法」
3.「刑法」
4.「新改正商標法の適用におけるいくつかの問題」(孔 祥俊)
 
(2015)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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