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「改正商標法」下における使用証拠の保存と収集


北京林達劉知識産権代理事務所
商標弁理士 耿 秋
 
異議申立、無効宣告請求などの案件において、商標の使用証拠が引用商標の先行使用及び知名度を証明できる場合、相手の急所を突き、審判の流れを変えることができる。また、3年不使用取消審判及びその不服審判の案件において、登録商標が法定期間内に商業活動に公開、真実、合法的に使用されていたことを証明できる有効な使用証拠を提供できない場合、その登録は取消される可能性が高い。このような案件で使用証拠は、防御の盾の役割を果たしている。2014年5月1日から施行された「改正商標法」第59条は、商標の先使用権にある程度の認可を与え、使用証拠に対する保存と収集の重要性を示している。本稿では、関連法規と判例を結び付けて、如何にして有効な使用証拠を保存し、収集するかについて説明する。内容が参考になれば幸いである。
 
I. 異議申立、無効宣告請求などの案件における使用証拠の保存と収集
 
異議申立、無効審判などの案件において、係争商標が他人の馳名商標、又は他人が既に使用して、且つ一定の知名度がある商標を先取り出願した場合、異議申立人又は無効宣告請求人は現行「商標法」第13条又は第32条に基づき、異議申立又は無効宣告請求を行うことができる。審査·審理において、異議申立人又は無効宣告請求人が引用商標の先行使用と知名度についての証拠を収集することは非常に重要なことである。
 
1.馳名商標についての挙証
 
現行「商標法」第14条には、「馳名商標の認定には、以下の要素を考慮しなければならない』と規定し、具体的以下の5点を挙げている。
 
(一)関連公衆の当該商標に対する認知度。
 
(二)当該商標の継続的な使用期間。
   
(三)当該商標のあらゆる宣伝の継続期間、程度及び地理的範囲。
   
(四)当該商標の馳名商標としての保護記録。

(五)当該商標の馳名であることのその他の要素。

また、「馳名商標の認定と保護に関する規定」第9条には、「以下の資料は、『商標法』第14条第1項に規定に合致することを証明する証拠資料とすることができる」と定め、具体的に以下の5点を挙げている。
 
(一)関連公衆の当該商標に対する認知度を証明する資料。
 
(二)当該商標の継続使用期間証明する資料。例えば、当該商標が使用、登録の履歴と使用範囲に関する資料。当該商標がまだ登録されていない場合、その継続使用期間が5年を下回らないことを証明する資料を提出しなければならない。当該商標が登録商標である場合、その登録期間が3年を下回らない、又は継続使用期間が5年を下回らないことを証明する資料を提出しなければならない。
 
(三)当該商標のあらゆる宣伝活動の持続時間、程度および地理的範囲を証明する資料。例えば、過去3年間の広告宣伝と販促活動の方式、地域範囲、宣伝メディアの種類及び広告の投入量などの資料。
 
(四)当該商標は中国又は他の国と地域で馳名商標として保護されたことを証明する資料。
 
(五)当該商標が馳名であることを証明する他の証拠。例えば、当該商標を使用した主要商品の過去3年間の販売収入、シェア、浄利潤、納税額、販売地域などの資料。
 
前述の「3年」、「5年」とは、被異議申立商標の登録出願日、被無効宣告申立商標の登録出願日以前の3年間、5年間のことをいい、商標違法摘発案件においては、馳名商標保護の請求の申立日以前の3年間、5年間をいう。
 
また、「商標審査・審理基準」の第107ページの規定により、上記の馳名商標の認定の参考となる要素は、次に定める証拠資料によって証明することができる。
 
(1)当該商標を使用する商品/役務の契約、領収書、貨物引替証、銀行入金証憑、輸出入証憑等。
 
(2)当該商標を使用する商品/役務の販売区域の範囲、販売網の分布及び販売ルート、方法に関する資料。
 
(3)当該商標にかかわる放送、映画、テレビ、新聞、定期刊行物、ネットワーク、戸外等のメディアの広告、メディアの評論及びその他の宣伝活動資料。
 
(4)当該商標を使用する商品/役務について参加した展示会、博覧会に関する資料。
 
(5)当該商標を最初に使用した時期及び使用継続状況に関する資料。
 
(6)当該商標の中国、国外及び関係地域における登録の証明書。
 
(7)商標行政主管機関又は司法機関が当該商標を馳名商標と認定して保護したことに関する文書並びに当該商標が侵害又は冒用された状況。
 
(8)定められた資格を有する評価機関が発行する当該商標の無形資産価値評価報告書。
 
(9)公信力を有する権威ある機関、業種協会が公表し、又は発行する当該商標を使用した商品/役務の販売高、利益及び税金、生産量に関わる統計及びランキング、広告量統計等。
 
(10)当該商標の受賞状況。
 
(11)当該商標の知名度を証明することができるその他の資料。
 
上記証拠は、原則として係争商標の出願日以前の証拠に限る。
 
2.先行使用且つ一定の影響力がある商標の挙証
 
先行使用且つ一定の影響力のある商標をどのように証明するかについて、現行「商標法」と「商標法実施条例」には明確な規定がないが、「商標審査・審理基準」の第123ページには、馳名商標の認定基準を参考にして、以下の通り定めている。
 
商標に一定の影響力があるか否かを判定するにあたっては、個々の案件の状況について次に定められた各種要素を勘案しなければならない。但し、当該商標が次のすべての要素を満たすことが前提ではない。
 
(1)関連公衆が商標に対する認知度。
 
(2)当該商標の使用の継続期間及び地理的範囲。
 
(3)当該商標のなんらかの宣伝活動の期間、方法、程度及び地理的範囲。
 
(4)当該商標に一定の影響力を生じさせるその他の要素。
 
上記の参考要素は、次に定められた証拠資料によって証明することができる。
 
(1)当該商標を使用する商品/役務の契約、領収書、貨物引替証、銀行入金証憑、輸出入証憑等。
 
(2)当該商標を使用する商品/役務の販売区域の範囲、販売網の分布及び販売ルート、方法に関する資料。
 
(3)当該商標にかかわる放送、映画、テレビ、新聞、定期刊行物、ネットワーク、戸外等のメディアの広告、メディアの評論及びその他の宣伝活動資料。
 
(4)当該商標を使用する商品/役務について参加した展示会、博覧会に関する資料。
 
(5)当該商標を最初に使用した時期及び使用継続状況に関する資料。
 
(6)当該商標の受賞状況。
 
(7)当該商標に一定の影響力があることを証明することができるその他の資料。
 
上述の馳名商標と先行使用且つ一定の影響力がある商標を認定するために考慮する要素、証拠資料を比較すると、基本的な要求は大体一致していることが分かる。ただし、馳名商標の知名度はより高くて、係る使用と知名度に関する証拠に対する審査はより厳しくなっている。特に、当該商標が係争商標の出願日以前の3年間、5年間にわたる継続的な使用、宣伝、販売などの状況を証明することが必要である。なお、先行使用且つ一定の影響力がある商標の知名度は、馳名商標よりやや低く、証拠の量と種類についての要求もそれほど厳しくない。時間においても「3年」、「5年」という厳格な規定はない。 

3.よく利用される使用証拠についての説明

上述の基本的な要求及び実務経験を結び付けて、よく利用される証拠を以下にまとめて、説明する。
 
(1)引用商標の最初に創作・使用された時期及び継続使用状況などに関する資料
 
このような資料には、次の3つの意味が含まれている。
 
①引用商標が独創性の極めて強い商標である場合、当該商標の創意由来に関する挙証又は説明はとても重要で、審査官の心証の形成に積極的な役割を果たす。
 
②引用商標が中国で最初に使用した時期を挙証し、係争商標の出願日と鮮明な対比を形成することで、係争商標が先行使用の引用商標を模倣、複製又は翻訳した疑いを示唆する。
 
③引用商標の中国における継続使用に関する証明資料はポイントとなり、当該商標が先行使用されたことだけではなく、且つ、継続使用により、業界において一定又は極めて高い知名度を有するようになったことは、係争商標の出願人が引用商標の先行使用及びその価値を知っているはずの前提として、引用商標を模倣、複製、翻訳、ひいては先取り出願したことを十分に説明できる。通常、継続使用について、商業活動における経営、販売、宣伝などを含む。
 
(2)引用商標権者の経営活動における証拠について、通常、引用商標権者の会社登記簿とその中国子会社又は支社の営業許可書、批准証書などの収集。
 
会社登記簿は、国家権威機関が発行する主体資格証明で、通常、会社の成立日時、経営範囲などの内容が記載されている。中国で設立された子会社又は支社の営業許可書、批准証書は、引用商標権者と中国における会社との間の出資関係、中国で最も早く経営活動を開始した時期及び継続時間を証明することができる。弊所が以前代理した案件において、この点に対して、引用商標権者が日本法務局の発行した履歴事項全部証明書を提出することでその主体資格を証明し、且つ、100%出資による中国子会社の1980年代から2005年(被異議申立商標の出願日以前)までの工商登記証明、営業許可書、批准証書なども全部提出した。これらの資格証明は途切れがなく、当該子会社が20年余り中国で継続的に経営活動をしていたことが証明できた。なお、上述の資格証明の書類には商標の使用に関する証拠がないので、販売、宣伝における商標の使用証拠と結び付けることで、商標が継続的に使用されていることを証明できる。
 
(3)引用商標の製品販売に関する証拠について、商業貿易契約、領収書、貨物引替証、銀行入金証憑、輸出入証憑、税務機関が発行した納税証明、会計監査報告書等。
 
上記の製品販売に関する証拠のうち、販売契約書と領収書は、よく利用される組合せで、販売契約書と領収書には、商標、商品の情報が記載され、両者の組合せによって、販売時期、販売地域、販売量などを証明できる。また、領収書は契約履行の証拠として必要不可欠である。中国国内の領収書は国家税務局の管理と監督を受けて、通常、原本又は公証済みの領収書のコピー(原本に一致する)が採用されやすい。また、外国企業が発行した領収書は、中国官庁にとって、その真偽を判断しにくいので、外国で公証·認証手続きを行う以外に、貨物引替証、銀行入金証憑、輸出入証憑などの証拠を収集して提出する必要がある。因みに、商標審判委員会は案件審理において、権利者が提出した経済指標を含む会計監査報告書、税務機関が発行した納税証明などの関連証拠を、商標知名度を考慮する重要な参考要素として扱っている。しかし、行政訴訟では、会計事務所が発行した会計監査報告書におけるデータが企業工商年度検査の内容と大きく異なり、会計監査報告書の偽造が発覚したこともある。商標審判委員会は現在、そのような証拠の採用についてより客観的、慎重な態度をとり、販売契約書と領収書などの証拠の総合的な審査をより重視するようになっている。
 
(4)引用商標の広告宣伝に関する証拠について、広告の契約、領収書、新聞・定期刊行物・インターネットなどのメディアに掲載された広告、会社内で作成した会社案内、製品のパンフレットなど。 
  
まず、広告の契約と領収書とは、引用商標権者又はその中国関連会社が広告会社との間で締結した契約、及び当該契約の履行を証明する領収書のことをいう。これらの証拠は、引用商標権者がラジオ、映画、テレビ、新聞、定期刊行物、ネットワーク、戸外等のメディアに投入した広告資金、時間と地域などを直接証明できる。次に、新聞、定期刊行物等のメディアに掲載された広告については、図書館に依頼する調査などの方式を通じて、多くの権威性がある又は普及率の高い新聞、雑誌などの資料を収集できる。これらの証拠は、広告宣伝の持続時間、カバーしている地域、商標の様態、指定商品の情報などをより直接証明できる。インターネットの普及に伴い、ネットメディアにおける広告宣伝も増加の一途で、インターネットにおける情報は更新スピードが速く、変更されやすいので、このような証拠を保全する場合、関連ウェブページに対して公証手続きを行う必要がある。さらに、引用商標権者の会社案内、製品パンフレットなどの証拠は、会社内で設計した資料で、客観性に欠けるので、適当に収集して、他の重要な証拠の補充証拠として利用すれば良い。
 
(5)引用商標を付した商品が展覧会、博覧会に参加した資料について、展覧会参加の関連証憑、陳列台の写真、展覧会参加の費用を支払った領収書、展覧会の主催者が作成した刊行物、ニュース報道など。
 
上述の証拠における引用商標の顕著標識、商品の表現、展覧会の主催時間及び場所などの情報に関する完全性の保全は、とても重要である。 
 
(6)引用商標の受賞状況、業界協会が発行した引用商標の使用商品、又は引用商標権者の同業界におけるランキングなどの資料。
 
上述の受賞及びランキングに関する証明資料について、中国国内の権威機関が発行した褒章、中国民政部に登録された全国的な業界協会が発行した全国における同業界ランキングの証明、又は国家統計局及び地方政府機関が編纂した年鑑に統計された同業界ランキングを証明する資料が一番相応しい。外国の著名褒章又はランキングについて、例えば、ビジネス誌「フォーチュン」世界企業上記500社ランキングなども一定の参考価値がある。 
 
実務運用において、以上の6種類の証拠以外にも、個別案件の異なった状況によって、他に特殊な証拠が出てくることもある。以下は具体的な判例を通じて、普遍的な証拠と特殊な証拠を組み合わせたさまざまな影響力の大きい証拠を紹介する。
 
判例1:「シェラトン国際知識産権有限責任公司」が商標審判委員会を訴えた、顔栄氏の商標無効審判に関する行政訴訟案件
 

 
当該案件で、係争商標は自然人「顔栄」が第11類の「照明装置」において先取り出願した商標である。シェラトン国際知識産権有限責任公司(以下「シェラトン社」という)は第42類の「飲食店」、「レストラン」などの役務に先行登録した2件の商標を引用して、無効審判を請求し、且つ引用商標が馳名商標であると主張し、主に、以下の証拠を提出した。
 
①シェラトン社の取締役が発行した宣誓書(「SHERATON喜来登」商標の全世界における登録出願商標のリスト、全世界に設立されている約400軒の「SHERATON喜来登」レストランのリスト、アジア太平洋地区に設立されている約60軒の「SHERATON喜来登」レストランのリスト、中国大陸で設立されている約20軒の「SHERATON喜来登」レストランのリストを含む)。
 
②係争商標出願日前の「商務旅行者」、「旅行指南」、「週末画報」、「旅遊」などの中国語雑誌における広告と報道。
 
③「SHERATON」及び「喜来登」商標が馳名商標として認定された裁定書、(2010)商標異字第1415号「SHERATON」商標異議申立裁定書、(2010)商標異字第1416号「喜来登」商標異議申立裁定書など。
 
そのうち、①宣誓書のような証拠は、それを証明することができる他の客観的な証拠がない場合、証明力がそれほど強くないが、②のような各種雑誌は強い客観性を備え、掲載されている内容を①の内容と対応させることができるので、互いに証明しあうことで、引用商標の中国における持続的な宣伝、使用と知名度を証明できる。③は当該案件の最も重要な証拠の一つで、馳名商標と認定されて、保護を受けた記録は当該商標の馳名性を証明するポイントとなっている。しかし、証拠③のみで、証拠①、②がない場合、改めて馳名商標と認定されることは困難であると言える。個別案件審査の原則に基づき、以前に認定された事実は当該案件に適用されない可能性があるので、①、②、③による組合せ証明はとても有意義である。
 
当該案件の証拠は行政訴訟の二審で北京高等裁判所に証拠として採用され、且つ引用商標が馳名商標として認定された。
 
 
判例2:「ウェスティンホテル管理有限パートナー公司」が商標審判委員会と「開化県金松源庄食品城」を訴えた商標異議不服審判案件


 
当該案件における被異議申立商標は、開化県金松源庄食品城が第30類の「ココア製品」、「月餅」、「菓子」などの商品において先取り出願した商標である。ウェスティンホテル管理有限パートナー公司(以下「ウェスティン社」という)が第42類の「飲食店」、「レストラン」などの役務に先行登録した2つの商標を引用して、異議申立を提出し、且つ引用商標は馳名商標であると主張し、主に、以下の証拠を提出した。
 
①百度百科などのウェブページにおける「ウェスティンホテル」の紹介、リスト及び外観写真など。
 
②図書館から取り寄せた「人民日報」、「解放日報」、「北京青年報」、「海南日報」、「財富」、「飯店現代化」などの各種の中国語新聞や雑誌に掲載された広告、報道及び中国各地の政府機関の年鑑記録。
 
③ウェスティン社の会計監査報告書、領収書、契約。
 
④ウェスティンホテルの各種の受賞証書。
 
⑤商標審判委員会が下した「威斯汀」と「WESTIN」商標に保護を与えた裁定など。
 
当該案件で、上述証拠②は重要な役割を果たした。まず、中国国家図書館から取り寄せた各種の新聞や雑誌は基本的に、中国において権威があり、発行部数も多い全国性のものである。その他、政府機関の統計による年鑑は、基本的に中国統計局が編纂した権威のある刊行物である。これらの証拠によって、中国で設立されたウェスティンホテルの1995年から各地のホテルにおけるランキング及び営業収入状況が証明できたので、客観的で権威性あるデータは、裁判官の心証形成に影響を与えたと考えられる。
 
II. 登録商標使用証拠の保存と収集
 
現行「商標法」第49条には、「……正当な理由がなく継続して3年間使用していないとき、いかなる単位又は個人は商標局に登録商標の取消を請求することができる。」と規定している。この点から見れば、商標登録は一旦登録しさえすれば、永久に安泰であるというわけではない。商標の登録に対する保護は、商標の使用により生じた価値から由来する。したがって、3年不使用取消審判の手段によって、長期間にわたり使用していない商標を取消すことができる。商標権者にとっては、有効な登録商標の使用証拠を保存する意義は極めて重大である。
 
現行「商標法」第48条には、「本法でいう商標の使用とは、商品、商品包装又は容器及び商品取引文書、又は宣伝広告、展覧及びその他の商業活動において商標を使用し、商品の出所を識別する行為をいう。」と規定している。
 
また、「商標審査・審理基準」には、商標の指定商品における使用についての具体的な形態について、以下の通り明確に規定している。
 
(1)直接貼り付け、刻印し、烙印を押し、もしくは編み込む等の方法で商標を商品、商品包装、容器、ラベル等に付け、又は商品に付ける製品マーク、製品説明書、パンフレット、価格表等に用いる。
 
(2)商標を商品の販売と関係のある取引文書に使用する。これには、商品販売契約、領収書、証票、受領書、商品輸出入検査検疫証明書、通関書類等に使用する場合が含まれる。
 
(3)商標をラジオ、テレビ等のメディアで使用し、又は公開発行される出版物の中で発表し、広告板、郵送広告又はその他の広告方法によって商標又は商標を使用する商品の広告宣伝を行う。
 
(4)商標を展示会、博覧会で使用する。これには、展示会、博覧会で提供する当該商標を使用した印刷物及びその他の資料が含まれる。
 
(5)法律の規定に合致するその他の商標使用形式。
 
さらに、「商標審査・審理基準」には、商標を指定役務に使用する具体的な形態としては、次のものを規定している。
 
(1)商標を役務場所に直接用いる。これには、サービスのパンフレット、サービス場所の看板、売り場の飾付、従業員の衣服、ポスター、メニュー、価格表、賞品券、事務用品、便箋及び指定役務に関わるその他の用品に用いる場合が含まれる。
 
(2)商標を役務と関係のある文書資料に使用する。これには、領収書、送金証憑、サービス提供協議書、メンテナンス証明等が含まれる。
 
(3)商標をラジオ、テレビ等のメディアで使用し、又は公開発行される出版物の中で発表し、広告板、郵送広告又はその他の広告方法によって商標又は商標を使用する役務の広告宣伝を行う。
 
(4)商標を展示会、博覧会で使用する。これには、展示会、博覧会で提供する当該商標を使用した印刷物及びその他の資料が含まれる。
 
(5)法律の規定に合うその他の商標使用形式。
 
その他、「商標審査・審理基準」には、係争商標に継続して3年間使用を停止した状況がないことを証明する証拠資料が満たすべき条件を、次のように規定している。
 
(1)使用した商標標章が示されていること。
 
(2)係争商標を使用指定商品/役務に使用したことが示されていること。
 
(3)係争商標の使用者が示されていること。これには、商標登録者自身だけでなく、商標登録者が許諾した他人も含まれる。他人に使用を許諾した場合には、使用許諾関係の存在を証明できること。
 
(4)係争商標の使用時期が示されていること。なお、使用時期は、取消申立の日からさかのぼって3年以内でなければならない。
 
(5)係争商標が「商標法」の効力の及ぶ地域範囲内で使用されたことを証明できること。
 
(6)係争商標が商業活動上で実際に公かつ合法的に使用されたことを証明できること。
 
上述の審査基準には、使用証拠の具体的な形式が規定されている。また、商品商標と役務商標との異なる特徴により、適当に区分し、最後に規定している使用証拠の要求は、商標権者の日常の商標使用行為の規範化に対して、指導的な役割を果たしている。
 
商標局の公開情報によれば、中国における2014年1月から11月末までの商標登録出願件数は193.8万件に、商標出願の審査件数は206.6万件に達し、前年同期比でそれぞれ、13.9%、67.4%増加した。中国の商標の出願累計件数は1517.9万件に、登録累計件数は990.3万件に達し、有効の登録件数は現在840.4万件である。先行出願又は登録商標の存在により、ある程度、後の出願人がそれと同一又は類似する商標を出願することに影響に与えている。そのため、商標登録件数の増加に伴い、3年不使用取消審判請求の件数も増加の一途である。商標権者は自身の商標権、登録商標の持続有効性を着実に保護するために、商標の日常の使用行為を規範化する必要がある一方、登録商標の有効使用証拠を保存することにも十分に注意する必要がある。以下に典型的な判例と結び付けて、証拠の状況を説明する。
 
判例3:ニューテック(NEWTEK )社が商標審判委員会と日本特殊陶業株式会社を訴えた商標取消不服審判案件
 
第613608号商標「NTK」は、日本特殊陶業株式会社より1991年10月15日に出願され、1992年10月11日に登録された商標で、第9類の「酸素センサー、陶磁濾過器(通信設備に使用されるもの)」などの指定商品に使用されている。ニューテック社は3年連続不使用を理由として、商標局に当該商標の取消審判を請求した。商標局は審理を経て、日本特殊陶業株式会社が法定期限内に商標局に1996年12月3日から1999年12月2日の3年間における「NTK」商標の使用証拠を提出しなかったので、「NTK」商標を取消すとの決定を下した。

日本特殊陶業株式会社は当該決定を不服として、商標審判委員会に対して、不服審判を請求し、且つ、「NTK」商標の有効な使用証拠も提出した。当該証拠が商標審判委員会に認められ、登録維持の審決が下された。なお、ニューテック社は同審決を不服として、行政訴訟を提起した。一審及びニ審裁判所は、「NTK」商標が法定期間内に中国で有効に使用されていたことを証明する主要証拠が不十分であると判断した。そのため、日本特殊陶業株式会社は引き続き、最高裁判所に再審を請求した。最高裁判所は最終的に、「NTK」商標の使用証拠が有効であると認定して、商標審判委員会の決定を維持した。

当該案件で日本特殊陶業株式会社が提出した主な使用証拠は以下の通りである。

1996年から1999年までの間の関連領収書。領収書に記載されていた発行者は「日本特殊陶業(米国)社」で、受取人は「モトローラ(中国)電子有限公司」で、BAX グローバルによる貨物運輸方式で、日本名古屋から中国天津まで運ばれ、商品は「NTK酸素センサー」であった。また、当該証拠には、公証・認証手続きが行われ、翻訳文も付されていた。一審、二審裁判所は当該証拠が日本特殊陶業株式会社により発行されたことを理由として、その証明力を認めなかった。しかし、最高裁判所は当該証拠が証拠としての形式的な書式要求を満たし、その真実性を認可し、且つ、日本特殊陶業株式会社が二審で補充提出した運輸会社BAX グローバル社によって発行された証明書と結び付けて、これらの証拠の証明力を認可した。このことから見れば、自社発行した証拠に対する審査要求は厳しく、公証・認証などの形式的な要求を満たすだけでなく、関連証拠を提出する必要がある。

その他、日本特殊陶業株式会社は、香港の子会社である香港特殊陶業が1996年から1999年までに発行した数十枚の販売領収書を提出し、中国大陸で「NTKセラミック濾過装置」などの商品を販売した事実を証明した。当該証拠は香港におけるものであったが、日本で公証・認証手続きが行われた。一審、二審裁判所はそれが証拠の形式的な要求を満たさないと判断し、採用しなかった。しかし、日本特殊陶業株式会社は、香港特殊陶業の年度財務報告を提出し、日本特殊陶業株式会社が香港特殊陶業の出資者で唯一のサプライヤーであることを証明し、香港特殊陶業が自社の持ち株子会社で、定期的に財務状況を報告して、関連財務手形を提供する必要があるので、上述の領収書は、日本特殊陶業株式会社が日本で公証・認証手続きを行ったものであることを説明した。当該説明の合理性は最高裁判所に認められた。このことから見れば、証拠の形式において要求される公証手続き又は公証・認証手続きは、通常、証拠の形成地を基準として関連手続きを行うのが一般的な原則であり、証拠の形成地で手続きを行うことができない場合、合理的な説明が必要である。このような説明が認められるかどうかは、当該説明の合理性、説服力及び裁判官の案件全体に対する理解度や印象による。このような方法は、特殊であるので、個別案件に対してそれぞれ対応する必要がある。

III. 商標の先使用権に関する証拠の保存と収集

現行「商標法」第59条第3項には、「商標出願人がその登録商標を出願する前に、他人が同一又は類似の商品について商標権者より先に登録商標と同一又は類似の商標を使用し、且つある程度の影響を有するようになった場合、登録商標の商標権者は、当該使用人の元の使用範囲における当該商標の使用を禁止する権利を有しない。ただし、区別要素の追加を適宜に要求することができる。」と規定している。

上述条項に定められている先使用した商標にある程度の保護を与えたことは、第3回の商標法改正における一つの進歩であると考える。中国の商標法律制度には、主に、登録により生じた商標専用権の原則、先行出願を主として先使用を補佐とする原則が含まれる。前者は主に「商標法」第3条で体現され、即ち、商標局の審査を経て登録された商標を登録商標と言い、商標権者は商標権を享有し、この法律の保護を受けると規定されている。後者は主に「商標法」第13条、第31条、第32条で体現されている。即ち、同日出願については、先使用の原則に基いて処理すること、馳名商標及び既に使用され且つ一定の知名度が有する商標について、その使用と知名度が生じた前後順序によって権利の帰属を確定することが規定されている。つまり、「商標法」第3条と第31条において規定しているのは、商標専用権の確立で、第13条と第32条において規定しているのは、商標権の奪還である。しかし、第59条は明らかに異なり、商標先使用権と商標専用権の同列に並べることを規定した。つまり、先使用商標が継続的に善意により使用され、又は先使用商標が他人により先取り出願された場合、客観的な条件の制限で、商標権を奪還できないが、先使用の権利と影響力により、元の使用範囲における当該商標の継続的な使用について、有力な法的根拠は提供されたわけである。

現有の法律法規で、第59条の「先使用且つある程度の影響がある」に対する更なる解釈はないが、第32条の「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならない」を参照すれば、両者の使用証拠には共通点があることが推測できる。すなわち、第59条の使用証拠に関して、前述の第一部分の3に述べた6種類のよく利用される証拠を照らし合わせて、保存と収集することができる。しかし、「先使用商標の使用日」、「一定の影響の程度」、「元の使用範囲」などの問題には、まだ不明確なところがあり、商標立法、行政機関の法律執行及び司法実践で更にはっきりさせる必要がある。以下に3つの問題を提示して、今後の実践で答えを探したいと考える。

1.先使用商標の使用日と登録商標の出願日、使用日の関係

現行「商標法」第59条第3項において、先使用商標とは、「商標権者がその商標を登録出願する前に、他人が同一又は類似の商品について商標権者より先に登録商標と同一又は類似の商標を使用し、且つある程度の影響を有するようになった商標」と規定している。この点から見れば、先使用商標の使用日は後登録商標の出願日より早いはずである。しかし、もし後登録商標が実際に使用されたことがある場合、先使用商標の使用日は後登録商標の出願日より早いこと以外、後登録商標の最初の使用日より早くする必要があるか否かについて、筆者は、必要であると考えている。実際に既に使用された商標が継続的に使用できるかどうかを確定する場合、関連証拠によって、それぞれの使用時間を証明し、権利の帰属を確定する必要があると思う。

2.「ある程度の影響」の程度

現行「商標法」第59条第3項に規定している「ある程度の影響」の程度は、現行「商標法」第32条の「先に使用している且つ一定の影響力がある」のやり方を参考にするべきである。例えば、地域的には、中国大陸において使用し、且つ一定の影響力があるべきだが、「ある程度の影響」の程度は同じであるか否かという問題がある。

「商標法」第32条に定めている先取り出願の禁止の範囲は「先に使用している且つ一定の影響力がある商標」であるが、その市場影響力は先取り出願人が商標出願を提出した時に、すでに明らかに知っている又は知っているべきである。しかし、「商標法」第59条第3項の商標権侵害の抗弁理由は先使用商標の市場影響力がそんなに高い程度が必要であるか、商標の一定の継続的な使用量、ある程度の使用時間などを証明すれば、「ある程度の影響」と認定できるかなどの問題がある。
3.「元の使用範囲」の定義
国家工商行政管理局の「役務商標の継続的使用についての問題に関する通知」(工商標字【1994】第216号、2004年廃止)には、「先行役務商標が継続的に使用される場合、使用者は当該役務商標の使用地域を拡大しても、当該役務商標の役務項目を増やしてもいけない。当該役務商標の図形、文字、色彩、構造、書式などの内容を変更してもいけないが、他人の登録した役務商標と識別することを目的として行われた変更はこの限りではない。当該役務商標を譲渡し、又は他人に使用許諾してはいけない。さもなければ、他人の商標専用権を侵害しているとみなされる」と規定されていた。 

上述の規定を照らし合わせ、現行「商標法」第59条第3項に定められている「元の使用範囲」について、商標自体の様態と使用商品の範囲は元の使用範囲を超えてはいけないと推測できる。しかし、「使用地域」については、同様に拡大してはいけないか否かという問題について、まだ断言できない。ネット取引が非常に盛んに行われている現在、もし「使用地域」が拡大できない場合、先使用者にとって厳しすぎて、全く現実的ではない。逆に言うと、もし先使用者がネット取引により商標を先使用した場合、使用地域の制限は無意味になるおそれがある。

2014年5月1日より改正「商標法」が正式に施行されたので、上述の第59条第3項に係る判例はさほど多くない。2014年12月の最新情報により、北京市朝陽区裁判所が商標権侵害案件で初めて改正「商標法」を適用して、商標先使用権を保護した案件の概要を以下に紹介する。

判例4:「譚氏」が「北京尚丹尼美髪中心」を訴えた商標権侵害案件

北京に4店のチェーン店を有する北京尚丹尼美髪中心(以下は「尚丹尼中心」という)は、2008年の設立以来ずっと、「尚丹尼造型」の看板を使用していた。ところが、ある日突然、尚丹尼中心は、元職員の家族譚氏より訴えられ、「尚丹尼」の使用を禁止し、20万元の損害賠償を支払うことを請求された。その原因は、譚氏が第44類の「美容院」、「理髪店」などの役務に文字商標「尚丹尼」を登録したからである。北京朝陽裁判所は2014年12月8日、一審判決を下し、「尚丹尼中心」が先使用して、且つ一定の範囲において一定の影響力があるので、その先使用行為には「商標法」第59条第3項の規定に合致する」と認定した。また、譚氏には、尚丹尼中心が継続的に「尚丹尼」商標を使用することを禁止する権利がないとして、譚氏の全ての訴訟請求を却下した。
           


当該案件で、被告である尚丹尼中心は営業許可書などの資料を提出することで、当該中心が2008年の設立以来、その後数年間で、チェーン店4店を設立したことを証明した。また、尚丹尼中心は、飲食店・娯楽情報サイトの大衆点評やミニブログサイトの新浪微博網において当該商標と店を宣伝したウェブページ、及びプロモーション契約などの資料も提出した。上述の証拠に基づき、裁判所は尚丹尼中心が「尚丹尼」を商標として使用していて、且つ一定の範囲で一定の影響力があると認定した。

上述の判例から見れば、朝陽裁判所は商標先使用権に保護を与える時、商標が先使用し且つ一定の影響力があるという事実をポイントとして考慮したことが分かる。しかし、証拠の提出状況からみて、「一定の影響力がある」を証明することに対する要求は、商標の権利付与、権利確定の係争案件で適用する「商標法」第32条の先取り出願の禁止の範囲で規定している「一定の影響」に対する要求より緩やかであると言える。

それに、当該案件では、第11358870号登録商標は実際に使用されていないことが判明した。当該事実は、裁判官の判断に決定的な役割を果たした。現時点で、現行「商標法」は、ますます商標の実際使用を重視するようになっている。商業活動で、実際に使用されている商標に対する保護はますます強化され、実際に使用されていない商標に対する保護はますます弱まっている。上述の「商標法」第59条第3項の商標先使用権にかかる規定の他に、「商標法」第64条にも「登録商標の商標権者は、事前三年間に当該登録商標を使用したこと、又は、侵害行為によりその他の損失を被ったことを証明できない場合には、侵害訴えを受けた当事者は賠償の責を負わない。」と規定している。商標の使用証拠は今後の民事権利侵害に係る訴訟案件で、重要な役割を果たすようになるものと考えられる。

その他、当該案件では、原告が被告の職員の家族であったなどという悪意の事実も裁判官の心証に多少積極的な影響を与えた。 

上述案件は、商標先使用権が保護された初めての案件である。今まで本件しか見つけられていない。当該案件からだけでは、今後の全体的な基準と方法を断言することはができないが、どのような証拠が認められるか、「一定の影響」を証明する程度などに対して、良い規範的な役割を果たしたと考える。

ここまで、筆者は異議申立、無効などの案件における使用証拠の保存と収集、登録商標の使用証拠の保存と収集、商標先使用権の証拠の保存と収集について、それぞれ具体的な法律法規、審査基準と具体的な判例を結び付けてまとめた。上記3つの問題の使用証拠は重なるところもあるが、それぞれ特徴もある。具体的な案件において、関連使用証拠の保存と収集の具体的な方法が相互間で参考にすることができる。それに、個別の案件で、案件のタイプと案件自体の特徴により、適宜に関連証拠を保存して収集する必要がある。現行「商標法」の関連法律法規、司法解釈、審査基準などが全ては公布されていないことに鑑み、今後実務において具体的な方法に新たな変化がある可能性もある。したがって、この問題は今後ますます注目されることが予想され、さらに観察してまとめる価値があると考える。

参考資料:

1. 「商標法」
2. 「馳名商標の認定と保護の規定」
3. 「商標審査と審理基準」
4. 「国家工商行政管理総局商標審判委員会法務通信総第63期(2014.7)」
5. 「商標権利侵害案件で先行使用抗弁の構成要件(中華商標)雑誌2014年第11号」
6.  (2013)高行終字第960号北京市高級人民裁判所行政判決書
7.  (2014)一中知行初字第678号北京市第一中級人民裁判所判決書
8.  (2013)行提字第19号最高人民裁判所行政判決書
9.  商標局が公開した一部のデータ(2014年9月3日) http://sbj.saic.gov.cn/sbyw/201409/t20140911_148272.html
10.  朝陽裁判所網2014年12月18日に公布された判例報道「元職員の家族が商標を先取り出願、訴訟を提起して使用禁止と賠償を求めたが、却下される。」http://bjgy.chinacourt.org/article/detail/2014/12/id/1499923.shtml
 
(2015)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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