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「梅蘭日蘭」等に関わる商標権侵害・不正競争紛争事件


北京林達劉知識産権代理事務所
 
本件は、登録商標権侵害及び不正競争紛争に関わる知的財産事件である。当該判例を分析することにより、司法手続きにおける、訴訟主体の適格認定、著名商標の認定、不正競争行為等に関する上海裁判所の判断基準を把握することができる。今後の類似事件において、皆様のご参考になれば幸いである。
 
基本情報:

2004年にシュネデール電気工業有限公司((SCHNEIDER ELECTRIC)、以下、「原告1」という)、シュネデール電気(中国)有限公司(以下、「原告2」という)、天津梅蘭日蘭有限公司(以下、「原告3」という)は、商標権侵害及び不正競争行為の事由により、上海梅蘭日蘭電器(集団)有限公司(以下、「被告」という)を被告として、上海第二中等裁判所(以下、「一審裁判所」という)に訴訟を提起した。上海第二中等裁判所は、被告の不正競争行為が成立するとの判決を言い渡した。
 
被告は、一審裁判所の(2004)滬二民五(知)初字第68号民事判決を不服として、上海高等裁判所(以下、「二審裁判所」という)に上訴を提起した。2008年7月30日に二審裁判所は、公開して開廷審理を行い、2008年10月13日に(2008)滬高民三(知)終字第82号民事判決を言い渡し、一審判決を維持した。
 
争点:

本事件の争点は、三原告の訴訟主体の適格性、商標権侵害が成立するか否か、不正競争行為が成立するか否かである。上述の事実認定において、上海の一審裁判所及び二審裁判所は、ほとんど同じ観点により判断した。
 
1. 三原告の訴訟主体適格性の認定について
 
問題点:

被告は、三原告の権利関係が明確でなく、三原告が本件と一致する利害関係を有するので共同して訴訟を提起することができると判断したことにはその法的根拠が欠如しているので、三原告はそれぞれ訴訟を提起すべきであると主張した。
 
裁判所の判断:

原告1の訴訟適格性について、原告1は、既に公証・認証された所在国の商業登記書類及び株主決議等の証拠を提出した。これらの証拠が証明する原告1会社の存続変更について、被告は反論できる証拠を提出していないので、原告1の証拠を認める。
 
原告1は、中国において、法により「MERLIN GERIN」の文字及び図形、「MERLIN GERIN」の文字からなる商標権を有するので、中国の法律に基づき商標権侵害を主張する権利を有する。また、中国とフランスは、ともに「パリ条約」の加盟国であり、当該条約には、「各同盟国は、同盟国の国民を不正競争から有効に保護する。」と規定されているので、原告1は、フランスの会社として、中国の法律に基づき不正競争行為の防止を主張する権利を有する。
 
原告2は、中国における原告1の子会社であり、登録商標「梅蘭日蘭」の商標権者である。また、「MERLIN GERIN」の文字及び図形、「MERLIN GERIN」の文字からなる登録商標の使用権者でもある。
 
原告3は、1987年3月10日に天津で設立された合弁企業で、原告1及び原告2と投資関係を有する。また、「梅蘭日蘭」商号を含む「企業名称権」を有し、上述の「MERLIN GERIN」文字及び図形等の3つの登録商標の使用権者でもある。
 
それゆえ、上記の三原告間の相互投資関係及び商標許諾等の要素によれば、それぞれの権利はいずれも関連性を有し、また、本件と一致する利害関係を有するので、原告の権利に対する被告の商標権侵害及び不正競争行為に対し訴訟提起した三原告の訴訟請求は、中国民事訴訟法の規定に合致する。したがって、「三原告はそれぞれ訴訟を提起すべきである。」との被告の主張は成り立たない。
 
纏めと提示:

上記の判断基準から見ると、共同原告として訴訟を提起する場合、主張する権利との利害関係を証明する証拠を提出しなければならない。例えば、相互投資関係を証明する証拠、商標許諾関係を証明する商標許諾契約書、特許許諾関係を証明する特許許諾契約書等の証拠があげられる。
 
2. 被告の企業名称登録は原告の商標権侵害になるか否かについて
 
問題点:

原告2は、1999年7月5日に国際分類の第9類高低圧スイッチ、電気スイッチ、遮断器等を指定して、国家商標局へ商標「梅蘭日蘭」を出願し、2003年5月21日に登録された。原告2と原告3は、被告の商号が原告の登録商標「梅蘭日蘭」を侵害したと主張した。

裁判所の判断:

被告が1999年3月に企業名称を登録した際に、原告2はまだ中国の商標局から「梅蘭日蘭」の商標権を授与されておらず、登録商標権を有していなかったので、原告3の登録商標権を侵害したという主張は認められないと判断した。
 
 纏めと提示:

裁判所の上記の判断から、商標権侵害を主張する場合、先行する登録商標権を有していなければならないことがわかる。つまり、被告の侵害行為が発生する前に登録商標権を有していることが前提である。そのため、中国への進出を図る企業は、進出前に、又は少なくとも進出時に自社の知的財産を保護するため、自社の重要な標識、商号等について、関連区分において、関連商標を早期出願しておくことが望ましい。さもなければ、一旦悪意で他人に先に登録されてしまうと、自己の権利を取り戻すために、一連の証拠を提出しなければならず、長年の訴訟手続きを経ても、勝訴できないかもしれない。
  
3. 被告の不正競争行為が成立するか否かに関する認定
 
(1) 被告の企業名称の登記・使用行為について
 
問題点:

被告は、下記のとおり主張した。被告の企業名称が登録される前、原告3の企業名称は周知ではなく、かつ原告3の企業名称は全国における排他権を有するわけではないので、被告により上海に登録された企業名称は合法である。また、「一審裁判所」が、被告は主観的悪意を有すると認定したことについては、十分な事実及び法律根拠が欠如する。
 
裁判所の判断:

① 原告企業名称の先行使用

原告3は、1987年に天津で企業を設立した時、「梅蘭日蘭」を企業名称中の商号として登記した。中国の「企業名称登記管理実施弁法」の関連規定に基づき、原告3は会社設立時より企業名称権を享有する。しかし、被告が上海で企業名称を登録したのは1999年3月である。上記の日付から見れば、「梅蘭日蘭」の権利取得は、原告のほうが被告より早い。
 
② 原告3の「梅蘭日蘭」商号の高い知名度

原告3は設立されて以来、依然として「梅蘭日蘭」文字を商号として使用している。更に、原告2、原告3は、「MERLIN GERIN」文字及び図形、「MERLIN GERIN」及び「梅蘭日蘭」商標について、長期にわたって大量の資金を投入して幅広く宣伝した。また、原告3の低圧電器製品は、中国において、依然として非常に高い市場シェアを占め、良好な機能及び品質で多くの栄誉を得ている。「梅蘭日蘭」の文字組合せは製品標識と企業商号として、工商行政機関、技術監督局に保護されている。さらに、被告が企業名称を登録した時より前に、原告3は既に被告の登録地である上海のマスコミにおいて広告したことがある。2002年3月に、被告の法定代表者が上海工商局虹口支局に調査された時、法の執行者が、なぜ製品の商標部分に「MERLIN GERIN」(中国語は「梅蘭日蘭」)があるかと質問したところ、被告の法定代表者陳は、「最初、会社の設立時に、「梅蘭日蘭」ブランドによる市場開拓、販売拡大が自社に有利であると考慮していた」と自白している。そのため、被告は、企業名称の登録時に、高い知名度を有する「梅蘭日蘭」商号を知っていたはずである。「梅蘭日蘭」文字の組合せは、同業者及び関連消費者に知られていた。したがって、1999年3月に被告が企業名称を登記したときには、「梅蘭日蘭」商号は既に高い知名度を有していたと認定できる。
 
③ 「梅蘭日蘭」文字の独創性

「梅蘭日蘭」は、外国語「MERLIN GERIN」の中国語の訳語として、通常漢字の組み合わせではないので、独創性を有する。原告3が、「梅蘭日蘭」文字組合せについて先行商号権を有する状況下において、被告は「梅蘭日蘭」文字組合せに対する合法的な権利を有することを証明できる証拠を提出せず、かつ当該企業商号を登録・使用した正当な理由をも提出していない。
 
④ 被告の主観的悪意

被告は原告3と同業の競争者として、原告3の「梅蘭日蘭」文字組合せが高い知名度を有することを知っていたにもかかわらず、「梅蘭日蘭」文字の組合せを企業名称における商号として使用した行為は、関連公衆に混同・誤認を生じさせるおそれがあり、明らかに信義誠実の原則及び公認の商業道徳に違反し、原告の合法的な権利を侵害し、公正競争秩序を乱し、原告3に対する不正競争行為を構成する。
 
纏めと提示:

「不正競争防止法」第2条には、「事業者は、市場取引において、自由意思、平等、公正及び信義誠実の原則を遵守し、公認の商業道徳を遵守しなければならない。本法にいう事業者とは、商品の販売又は営利的なサービス(以下商品といい、サービスを含む)に従事する法人、その他の経済組織及び個人をいう。」と規定されている。
 
同法第5条3号には、「事業者は、次の各号に掲げる不正手段を用いて市場取引に従事し、競争相手に損害を与えてはならない。(3)無断で他人の企業名称又は氏名を使用して、公衆に当該他人の商品であると誤認させる行為。」と規定されている。
 
また、「最高裁判所による不正競争民事事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」第6条には、「企業登録主管機関が法に基づき企業名称を登録する場合、及び中国国内で外国(地区)の企業名称を商業上使用する場合、不正競争防止法第5条3号に規定された「企業名称」と認定しなければならない。一定の市場知名度を有し、関係公衆に知られている企業名称における商号は、不正競争防止法第5条3号に規定された「企業名称」と認定することができる。」と規定されている。
 
上記の法律規定に基づき、裁判所は、「原告の企業名称権の付与は被告より早く、知名度も有し、関連公衆にも認知されていた。また、被告は、原告が先行使用する「梅蘭日蘭」商号が高い知名度を有することを知っていたにもかかわらず、悪意で「梅蘭日蘭」文字組合せを企業名称における商号として使用した行為は、関連公衆に誤認を生じさせるおそれがあり、信義誠実の原則及び公認の商業道徳に違反している。」と判断した。
 
本件によれば、企業名称が他人に登録され、かつ、先行する商標権を有しない場合、先行する企業名称中の商号権をもって、当該他人の不正競争行為を主張することにより、保護を求めることも可能である。また、裁判所の判断基準から見れば、被告が企業名称権を侵害すると主張する場合、下記の証拠により各事項を立証する必要がある。①原告が先行の企業名称権を有することを証明する証拠、②原告の企業名称が知名度を有することを証明する証拠、③原告の先行企業名称が独創性を有することを証明する証拠、④被告が悪意を有することを証明する証拠等が挙げられる。
 
(2) 被告のドメインネームの登録行為
 
問題点:

被告は1999年にドメインネーム「www.Meilanrilan.com.cn」を登録した。その後、2002年1月にインターネットキーワードの「梅兰日兰」(中国語簡体)、「梅蘭日蘭」(中国語繁体)を登録した。原告は、被告によるドメインネームの登録行為は侵害行為に該当すると主張したが、被告は、自社も「梅蘭日蘭」商号及び商標権(被告は、2005年に、他の類に「梅蘭日蘭」等を出願した)を有するので、相応するドメインネーム及びインターネットキーワードの登録も合理的で、かつ合法的であり、悪意による登録の問題はなく、不正競争行為を構成しないと反論した。
 
裁判所の判断:

被告が「梅蘭日蘭」の文字組合せを企業名称における商号として使用する行為自体が原告3に対する不正競争行為を構成するので、企業名称に「梅蘭日蘭」を含むことは、被告が相応するドメインネーム及びインターネットキーワードを登録・使用する正当な理由にはならない。仮に、被告の提出した「梅蘭日蘭」及び「MERLIN GERIN」商標登録が有効であったとしても、権利付与された被告の「梅蘭日蘭」及び「MERLIN GERIN」登録商標が本件の係争に係る製品又は類似製品に属さず、更に、被告の最初の商標登録は2005年12月であるが、被告は、1999年に「www.Meilanrilan.com.cn」のドメインネーム、2002年1月に「梅兰日兰」、「梅蘭日蘭」のインターネットキーワードを登録し、これらは、いずれも被告の「梅蘭日蘭」及び「MERLIN GERIN」の登録・権利付与より早いので、「梅蘭日蘭」登録商標権を有することにより、相応するドメインネームとインターネットキーワードを使用することは合理的・合法的であるという被告の主張は、法的根拠が欠如する。
 
被告が登録したドメインネーム「www.Meilanrilan.com.cn」の主要部分である「Meilanrilan 」は「梅蘭日蘭」文字組合せの中国語発音である。インターネットキーワード「梅蘭日蘭」は、「梅蘭日蘭」文字組合せと同一であり、また、「梅兰日兰」文字組合せと発音・意味がいずれも同一であり、ただ繁体字を採用したにすぎない。「梅兰日兰」は、原告3が先行権利を享有する企業商号であり、高い知名度を有する。被告が、「梅蘭日蘭」の文字組合せについて、合法的な権利を有さず、また、正当な理由を提出しない状況下において、上記ドメインネームとインターネットキーワードを登録したことは、関連公衆に被告と原告3の製品、関連性について混同・誤認を生じさせやすく、原告の合法的な権利を侵害するので、被告が上記ドメインネーム、インターネットキーワードを登録した行為は、原告に対する不正競争行為を構成する。
 
纏めと提示:

「最高裁判所のインターネットドメインネームに関わる民事紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」第4条は以下のとおり規定されている。
 
「裁判所がドメインネーム紛争事件を審理するにあたっては、以下の諸要件の一つに合致する場合は、被告によるドメインネームの登録、使用などの行為は侵害又は不正競争を構成すると認定しなければならない。
 
(1) 原告が保護を求める民事権利が合法的であり、かつ有効であるとき。
 
(2) 被告のドメインネーム又はその主要部分が、原告の著名商標の複製、模倣、翻訳又は音訳となるとき、又は原告の登録商標、ドメインネーム等と同一又は類似であって、関連公衆に誤認をもたらすとき。
 
(3) 被告が当該ドメインネーム又はその主要部分に権利を有せず、かつ当該ドメインネームを登録・使用する正当な理由がないとき。
 
(4) 被告の当該ドメインネームの登録・使用に悪意があるとき。」
 
上記の法律規定に基づき、ドメインネーム係争事件において権利を主張する場合には、原告は、証拠に基づき、以下の事項について立証しなければならない。
 
(1) 原告の先行権利が合法的であり、かつ有効であること。
 
(2) 被告のドメインネーム又はその主要部分が、原告の著名商標の複製、模倣、翻訳又は音訳であること、又は原告の登録商標、ドメインネーム等と同一又は類似であって、関連公衆に誤認をもたらすこと。
 
(3) 被告の当該ドメインネームの登録・使用に悪意があること。
 
悪意について、当該解釈の第5条には、以下のとおり規定されている。
 
「被告の行為に以下の一つがあることが証明されたときは、裁判所は、当該行為に悪意があると認定しなければならない。
 
(1) 商業上の目的で、他人の著名商標をドメインネームとして登録したとき。
 
(2) 商業上の目的で、原告の登録商標・ドメインネームと同一又は類似のドメインネームを登録・使用し、故意に原告が提供する製品、サービス又は原告のウェブサイトとの混同をもたらし、そのウェブサイト又はその他のウェブサイトへのユーザの訪問を誘導するとき。
 
(3) 当該ドメインネームを高価で販売し、貸与し、又はその他の方法で移転し、不正な利益を得ようとしたとき。
 
(4) ドメインネームを登録した後、使用せず、又は使用しようとせず、かつ権利者が当該ドメインネームを登録することを故意に阻止するとき。
 
(5) その他の悪意の状況があるとき。
 
本件において、被告は、関連ドメインネームとインターネットキーワードを登録・使用したことについて合理的、かつ合法的な理由があることを証明していない。原告が先行権利を有する企業商号は高い知名度を有する。被告が当該ドメインネームとインターネットキーワードを登録・使用したことは、関連公衆に被告と原告3の製品、関連性について混同・誤認を生じさせやすく、主観的な悪意がある。したがって、被告の行為は原告の合法的な権利を侵害するので、被告が上記ドメインネームとインターネットキーワードを登録した行為は、原告3に対する不正競争行為を構成すると認定した。
 
(3) 被告の虚偽宣伝行為
 
問題点:

被告会社の設立後、被告の法定代表者及び業務担当者は、それぞれ株主の名義で香港において「香港梅蘭日蘭電器有限公司」及び「フランスシュネデール電器集団公司」を登記し、かつインターネットとパンフレットを通じて、被告と「香港梅蘭日蘭電器有限公司」は合弁企業であると宣伝し、「滬港合弁企業」の名義で宣伝広告を製作・配布したが、被告は、香港におけるの企業登録は匿名投資であり、当該行為は虚偽宣伝の不正行為を構成しないと主張した。
 
裁判所の判断:

被告の法定代表者及び業務担当者は、それぞれ株主の名義で香港において「香港梅蘭日蘭電器有限公司」及び「フランスシュネデール電器集団公司」を登記したが、上記の両会社はいずれも三原告との関連性を有していないので、国内企業である被告が自社のホームページ等において、「合弁企業」の名義で宣伝していた行為は、関連公衆に誤認を生じさせる虚偽宣伝となり、その悪意も明らかである。かつ関連公衆に誤認を生じさせやすいので、不正な競争上の優位を得ることができる。したがって、上記の被告の行為は、原告3に対する不正競争行為を構成する。また、香港において匿名で投資したとの被告の主張は、証明する証拠が不足している。たとえ、匿名投資であるという被告の主張が成立するとしても、その行為は、信義誠実の原則及び公認の商業道徳に反するので、不正競争行為を構成する。
 
纏めと提示:

「不正競争防止法」第9条には、「事業者は、広告又はその他の方法を用いて、商品の品質、製造成分、性能、用途、生産者、有効期間及び原産地等について、公衆に誤解を生じさせる虚偽の宣伝を行ってはならない。」と規定されている。
 
上記規定に基づき、本件において、裁判所は、被告が「滬港合弁企業」の名義で宣伝広告を製作・配布した宣伝は虚偽の宣伝であり、不正競争行為であると認定した。しかしながら、原告が主張した上記の両香港会社の合法性については判断していない。これは、中国国内と香港とでは、それぞれ異なる法律に基づいて調整されるからである。被告は明らかに悪意をもって香港で会社を登記し、関連公衆に誤認を生じさせ、不正な競争上の優位を得たが、法律上から見れば、被告は香港の法律により会社を登記し、その手続きは香港の会社法に違反しないので、両企業の合法性については、中国国内の裁判所は判断しかねる。
 
現在、中国国内の不法者は、自己の利益を図るため、他社の有名ブランド、又は著名商標等を利用し、香港で会社を登記した後、中国国内で使用し、中国国内の消費者に混同又は誤認を生じさせている。このような「傍名牌(ブランドのただ乗り)」行為が多くなっている。
 
当該紛争を徹底的に解決するためには、香港で行政ルート又は司法ルートを通じて、不法者の企業名称を取り消すことが望ましい。
  
4. その他
 
(1) 著名商標認定の必要性
 
 問題点:

原告は本件において、原告商標と被告の企業名称、商号、ドメインネームとの係争であると主張した。したがって、「梅蘭日蘭」文字標識、「MERLIN GERIN」文字及び図形、「MERLIN GERIN」登録商標を著名商標として認定するよう請求した。
 
裁判所の判断:

① 原告は「梅蘭日蘭」文字標識が著名商標であると主張したが、被告の企業名称の登録前に、既に「梅蘭日蘭」文字を商標として使用していたことを証明していないので、原告による著名商標の認定請求は基本的な事実根拠が欠如する。
 
② 原告は、原告の商標と被告の企業名称、商号、及びドメインネームとの紛争が存在していると主張しているが、本件において、企業名称又は商号を同一商品に使用しており、ドメインネームの紛争も関連法律に基づき、その保護が得られる。そして、著名商標として認定されなければ、侵害行為を停止させられない保護の問題は存在しない。したがって、本件の具体的な状況に基づき、「MERLIN GERIN」文字及び図形、「MERLIN GERIN」登録商標が著名商標であるか否かについて、認定する必要はない。
 
纏めと提示:

「最高裁判所の商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」第22条には、「裁判所は商標紛争事件の審理の過程において、当事者の請求及び事件の具体的状況に基づいて、関係する登録商標が著名であるか否かを法に基づいて認定することができる。」と規定されている。
 
「商標法」第14条の規定によれば、「著名商標の認定には、以下の要素を考慮しなければならない。
 
① 関連公衆の当該商標に対する認知度

② 当該商標の継続的な使用期間

③ 当該商標のあらゆる宣伝の継続期間、程度及び地理的範囲

④ 当該商標の著名商標としての保護記録

⑤ 当該商標が著名であることのその他の要素」
 
本件、「梅蘭日蘭」商標が著名商標と認定できない理由について、原告2は1999年7月に中国国家商標局に「梅蘭日蘭」商標を出願し、2003年5月に付与されたものである。すなわち、1999年3月の被告の企業名称の登録前には、「梅蘭日蘭」文字組合せは、単に原告3の企業名称における商号として使用されていたにすぎず、商標として使用されておらず、「商標法」における著名商標の認定要件に合致していない。これにより、著名商標を認定する際には、まず、当該標識が商標として使用されたことを証明すると同時に、当該商標に対する関連公衆の認知度、当該商標の継続的な使用期間、当該商標のあらゆる宣伝の継続期間・程度・地理的範囲、及び当該商標が著名商標として保護された記録並びに当該商標が著名であることのその他の要素を証明しなければならない。
 
被告が原告の「MERLIN GERIN」商標をドメインネームとして使用した行為について、「最高裁判所のインターネットドメインネームに関わる民事紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」第6条には、「裁判所はドメインネーム紛争事件を審理するにあたって、当事者の請求及び事件の具体的な状況に基づき、係争登録商標が著名であるか否かについて認定することができる。」と規定されている。
 
本件において、裁判所は、「被告の登録したドメインネームwww.Meilanrilan.com.cnの主要部分及びインターネットキーワード「梅蘭日蘭」は、原告3が先に取得し、高い知名度を有する企業商号権を侵害し、原告3に対する不正競争行為を構成する。即ち、不正競争防止法に基づき、全ての被告の行為を拘束することができる。当該商標を著名商標として認定しなければ、保護されないわけではない。したがって、本件の具体的な状況に基づいて、「梅蘭日蘭」文字組合せ、「MERLIN GERIN」文字及び図形、「MERLIN GERIN」登録商標が著名商標であるか否かについて、認定する必要はない。」と認定した。
 
司法ルートを通じて著名商標を認定する基準は日増しに高くなっている。2005年に上海高等裁判所は、スターバックスを著名商標として認定したが、もし、これを現在審理すれば、本件と同様に著名商標であるか否かについて認定する必要性はないとして、認定しないかもしれない。当事者にとって、商標が著名であることを証明するほか、著名商標認定の必要性を説明することも重視すべきである。
 
(2) 行政取締りにおける損害賠償の協議書と侵害訴訟との関係
 
問題点:

2001年に被告は、製品の合格書に「梅蘭日蘭 MERLIN GERIN」の文字組合せを使用した。工商機関は、同行為に対し取締りを実施し、被告は原告1の登録商標「梅蘭日蘭 MERLIN GERIN」を侵害したと認めた。被告は、原告1の代理人と損害賠償契約書を締結したものの、それを履行していない。原告は、本訴訟事件において、被告の上記行為についても主張した。
 
裁判所の判断:

2001年に被告は、製品の合格書に「梅蘭日蘭 MERLIN GERIN」の文字組合せを使用した。工商機関は、同行為に対し取締りを実施し、被告は原告1の登録商標権を侵害したと認めた。被告は、当該侵害行為について、原告1の代理人と損害賠償契約書を締結した。双方はこれをもって和解に達した。裁判所は、当該契約において被告が負担すべき民事責任について、本段階においては処理せず、原告は、別途相応する権利を主張することができると判断した。
 
纏めと提示:

「商標法」第53条には、「本法第52条に定める商標権を侵害する行為の一つがある場合、当事者の協議により解決する。協議しないか、又は協議が成立しない場合は、商標権者又は利害関係人は、裁判所に訴えを提起することができ、また工商行政管理部門に処理を請求することができる。工商行政管理部門が権利侵害行為と認めた場合、即時に侵害行為の停止を命じ、権利侵害商品及び権利侵害商品の製造のために使用する器具を没収、廃棄処分し、かつ罰金を科すことができる。当事者は、処理に不服があるときは、処理通知を受領した日より15日以内に「中華人民共和国行政訴訟法」により、裁判所に訴えを提起することができる。権利侵害者が期間内に訴訟を提起せず、かつ命令を履行しないときは、工商行政管理部門は、裁判所に強制執行を請求することができる。処理を担当する工商行政管理部門は、当事者の請求により、商標権侵害の賠償金額について調停することができる。調停が成立しない場合、当事者は、「中華人民共和国行政訴訟法」により、裁判所に訴えを提起することができる。」と規定されている。
 
上記規定に基づき、処理を行った工商行政機関は、当事者の請求により、商標権侵害による賠償金額について、調停することができる。そのため、行政取締りにおいて、行政機関は侵害者に損害賠償を支払うよう命ずることはできず、賠償については調停することしかできない。もし、損害賠償について合意しない場合、権利者は、別途管轄権を有する裁判所に損害賠償訴訟を提起することができる。本件の判断からみれば、合意に達した損害賠償について、別途損害賠償訴訟を提起することはできない。たとえ、損害賠償訴訟を提起したとしても、裁判所は受理しない。履行しない損害賠償については、「契約法」に基づき、別途裁判所に違約訴訟を提起し、当事者にそれを履行するよう要求することができる。
 
(2009)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
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