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中国商標法第31条を異議理由とする際における注意点


北京林達劉知識産権代理事務所
商標弁理士 肖暉
 
人々の商標に対する権利意識や法律知識が年々高まることに伴って、中国商標法第30条に規定された公告後の商標登録出願に対する異議申立(以下、単に「異議申立」という)を権利保護の武器として利用する当事者が多くなりつつあります。統計によりますと、2007年度中国における異議申立件数は既に、18,000件にまで激増しています。実務上においても、異議申立は、権利衝突や商標混同の回避、或いは不正登録商標の未然防止などの面において、きわめて重要な役割を果たしていると言えましょう。
 
但し、現状において異議申立が認められる割合は、50%以下であることも無視してはならない現実です。異議申立が認められなかった事例の中には、例えば、悪意による異議申立や、権利者が権利保護の万全を期する思いから、自己の商標権を侵害していない商標についてまで異議申立をするような場合があります。
 
しかしながら、異議申立が認められなかった事例の中には、例えば、異議申立理由の陳述が不十分な場合や、異議申立についての正確な理由が選択されていない場合、或いは、異議申立の理由は主張したが、その挙証責任を重要視せず異議申立理由をサポートする証拠を十分に提出しなかった場合など、手続き的な瑕疵による事例が数多く見受けられます。
 
このため、この機会を借りて、中国商標法第31条を異議理由として異議申立を提出した際における注意点についてご紹介したいと思います。
 
中国商標法第31条によれば、商標登録の出願人は、先に存在する他人の権利(以下、「先行権利」という)を侵害してはならない旨が規定されています。すなわち、他人が既に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはなりません。当該条項は、現在の異議申立の実務において、しばしば利用される条項の一つになっています。
 
当該条項を主張する場合、先ず異議申立人は、異なる先行権利の存在や、相手(異議申立された商標の出願人)の悪意、或いは、異議申立人の商標の先使用を主張する必要があります。この際、具体的な状況に応じて、それぞれの理由に適合した証拠に重点を置いて、自己の主張する異議申立の正当性を証明する資料を提出しなければなりません。
 
. 異なる先行権利を主張する場合
 
中国商標法第28条及び第29条において、既に、先願・先登録の商標権に対する規定が定められていますので、第31条の「先行権利」には先願・先登録の商標権は含まれません。すなわち、前述の第31条に規定の先行権利は、主に、著作権、意匠権、商号権、実用新案・特許権、肖像権、氏名権などを指します。したがって、異なる先行権利を主張する場合は、以下の理由及び証拠に重きを置くべきと言えましょう。
 
例えば:

1. 先行権利として著作権を主張するときは、著作権登録証、当該著作権に係る作品が異議申立の対象とされた商標(以下、「被異議商標」という)の出願よりも先に公表されたことを示す証拠資料、当該著作権に係る作品が被異議商標よりも先に創作されたことを示す証拠資料などを提出します。
 
2. 先行権利として意匠権を主張するときは、当該意匠特許権の登録証明書、年金の納付領収書などを提出します。
 
3. 先行権利として商号権を主張するときは、当該商号が記載されている営業許可証明書、企業登記資料、当該商号を使用した商品取引書類及び広告宣伝資料などを提出すべきです。但し、当該商号の登録、使用の時期は被異議商標の出願日より早いこと、かつ当該商号は中国の関連公衆において一定の著名度を有することが必要です。その他、被異議商標の登録と使用は、消費者の混同と誤認を生じさせる虞があり、先行商号権者の利益を損害する恐れがあることも証明すべきと言えましょう。
 
. 相手が不正な手段で先取りして出願し、主観的悪意があることを主張する場合
 
相手側の主観的悪意は直接的な証拠を以って証明にくいものですが、通常、異議申立人は、関連した客観的証拠を提出することによって間接的な証拠による証拠チェーンを形成し、相手側すなわち被異議商標の出願人(以下、「被異議申立人」という)の主観的悪意を証明することが可能です。この場合の挙証内容としては、以下のような証拠資料が考えられます。
 
1. 被異議申立人が、当該商標を異議申立人が先に使用した事実を知っていたこと、または知り得るべき状況にいたことを証明できる証拠。
 
例えば、異議申立案件に関る当事者双方は、同一地域内の同業者であり、同一の販売ルートや販売地域を有していること、或いは被異議商標の出願日前に、当事者双方は取引関係や提携関係があったこと、若しくは当事者双方の間に係争があったこと、などを客観的に示す資料。
 
2. 被異議商標は、異議申立人の先行商標を複製、模倣したものであることを証明できる証拠。
 
例えば、異議申立人の商標は、当該商品において使用し且つ登録した独創性を有する商標であり、普通の人が思いつく語彙ではないことを示す資料、或いは、被異議商標は、異議申立人の商標と構成要素が類似又は同一であり、被異議商標が異議申立人の商標を基にした複製・模倣であることを分析した資料。
 
3. 被異議商標が異議申立人の商標と指定商品又は指定役務が類似又は同一であることを証明できる証拠。
 
例えば、辞書や、関連する権威のある機構が、当該指定商品又は役務について下している定義などを示す資料。
なお、異議申立人が、自己の未登録商標に対する保護を非類似商品又は役務にまで拡大したい場合は、中国商標法第13条に定められた著名商標の保護に関する規定を引用すべきです。
 
. 当該商標を先に使用しており、且つ一定の影響力があることを主張する場合
 
異議申立人が自己の先使用を証明するには、被異議商標の出願日前に中国において当該商標を使用していた有効な証拠を提供しなければなりません。例えば、異議申立人の商標が使用された商品又は役務にかかわる契約書、インボイス、B/L、輸出入書類などの書類が証拠として有効です。また、異議申立人の商標が使用された商品や役務が展示会、博覧会に出展されたことを示す関連資料、或いは異議申立人の商標を記載した新聞、雑誌、定期刊行物、コマーシャル、屋上広告などの宣伝媒体資料などの提出も有効と言えます。
 
なお、本条項を主張する時には、異議申立人の商標が一定の著名度を有していることを証明しなければなりません。この場合、著名性の証明に対する当局の要求は、著名商標の認定(中国商標法第14条参照)ほど厳しくはありませんが、できるだけ多くの使用証拠を提供すべきであると言えます。
 
その他、異議申立人が以前にも自己の商号権を主張し、他人の権利侵害行為について対抗したことがあった場合は、その事件に関連する証拠も異議申立人にとって有利な証拠資料と言えます。また、異議申立人が公益活動に参加し、各種類の栄誉や賞などを獲得したことを証明する資料も、異議申立人の著名度を証明するには有利な証拠と言えましょう。
 
以上、簡単ながら、31条を異議理由として異議申立を請求する際における注意点をご紹介いたしました。中国の商標実務において読者の皆様のご参考に供して頂ければ幸いです。
 
(2008)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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