近日、当所が代理したある発明特許に係る無効審判審決取消訴訟は一審で、明細書の開示不十分を理由として対象特許の全部無効に成功...
化学分野において、「予想外の効果」を有すると唱える特許の無効化は通常、困難である。本件は、参考になれる無効化戦略を示してい...
進化し続けるメタバース、商標保護を優先的に


中国商標弁理士
肖  暉
 
 Facebookが2021年に、社名を「Meta(メタ)」に変更してから、「メタバース」も資本市場と科学技術分野における最もホットなコンセプトの一つになった。各国は「メタバース」関連の産業に対して政策を策定し、有名企業はさまざまなシーンでメタバースの活用を試みるようになった。また、コロナ禍の爆発的拡大によって、働き方やライフスタイルが大きく変化し、ネットショッピング、リモートワーク、オンライン会議、オンライン教育などが急速に普及した。それにより、企業のデジタル化が加速されただけでなく、リモートワーク及びオンライン交流に対する適応力も高められた。「メタバース」が新たなコミュニケーション、体験及びゲームの重要な経済的シーンになるにつれて、企業はメタバースの産業における位置づけにますます注目するようになっている。そのため、無限の可能性を秘めたメタバースにおいて、商標の保護方法は議論百出の話題になっている。本稿では、各国の最新政策及び司法判例を分析することにより、メタバース時代における商標の登録及び保護について検討を進める。
 
周知のように、Metaverse(メタバース)という言葉は、1992年に作家のニール・スティーヴンスン氏がSF小説『スノウ・クラッシュ(Snow Crash)』において、meta(超越)とuniverse(宇宙)のverseを組み合わせた造語として生み出した言葉である。この小説の主人公「ヒロ」はハッカーで、「メタバース」と呼ばれるサイバースペースは、彼が現実世界から逃避する避難所であり、現実世界がバージョンアップされ、現実世界と同時に進み、互いに作用し、且つ終始オンラインの仮想世界であった。それに対して、オックスフォード英語辞典では、「メタバース」は仮想現実空間として、その中でユーザーはコンピュータによって作成された環境で他人と交流できると定義されている。
 
現在、メタバースの仕事、社交、娯楽といったシーンでの活用は、枚挙にいとまがない。例えば、「グッチ(GUCCI)は、ロブロックス(ROBLOX)内に、常設仮想空間「GUCCI Town」をオープンさせ、ユーザーはカフェで休み、友達を作り、GUCCI Shopで販売されるGUCCIのデジタルアイテムを購入し、アバターに着用させることができる。プラダ(PRADA)は、Candy香水の広告に新しいバーチャルアイドルキャラクター「Candy」を打ち出しただけでなく、タイムカプセル(Time capsule)NFT(Non-Fungible Tokenの略称)コレクションをリリースして、実際の商品とギフト用NFTがリンクした新しい遊び方を、メタバースを取り入れたファッション業界に取り入れた。ソウル市長の呉世勲氏は2021年11月に「メタバースソウル(Metaverse Seoul)」推進計画を発表した。全日空NEOは2023年6月、バーチャルトラベルプラットフォーム「ANA GranWhale」をアジア地域で先行ローンチすることを発表した。中国も2023年9月に発表した『メタバース産業イノベーション発展3年行動計画(2023-2025年)』において、「リーディングカンパニーと専精特新中小企業(専門性、精巧性、特徴性、新規性の4つの優れた特徴を持つ中小企業)を重点的に育成し、産業メタバースを構築する」ことなどを目標に掲げている。つまり、メタバースは私たちの仕事や生活の様々なシーンにおいて徐々に身近になってきている。このように進化し続けるメタバースにおいて、商標保護を具体的にどのように行えばよいのだろうか。
 
1、各国におけるメタバース商標の出願と保護の現状
 
現在、メタバースにおける関連商品や役務がどの区分で保護を受けるべきであるか、実体商品と仮想商品とが類似判断されるか否かについて、一部の国はすでに審査に関するガイダンスを公表したが、ほとんどの国がまだ検討中である。まず、各国のメタバース商標の出願及び保護の現状を見てみよう。
 
(1)アメリカ

ナイキ社は早くも2021年10月、アメリカ合衆国特許商標庁(USPTO)に対して、「NIKE」、「JUST DO IT」、「Jumpman」を含む7つのメインロゴ商標を出願した。その指定商品として、「ダウンロード可能な仮想商品、すなわち、オンライン及びオンライン上の仮想世界で使用する靴、被服、帽子、メガネ、バッグ、スポーツバッグ、バッグパック、運動用具、美術品、おもちゃ及びこれらの付属品を内容とするコンピュータプログラム」などのメタバース関連の商品や役務を指定したことで、大きな注目を集めた。
 
 
写真出所:https://agoodmag.com/nike-metaverse/
 
マクドナルド社も2022年2月4日に、USPTOに対して、「仮想商品を特徴とするオンライン小売サービス」、「実体商品と仮想商品を特徴とするバーチャルレストラン、デリバリーを提供するオンライン上のバーチャルレストラン」などを指定役務として、メタバース関連の商標を出願した。マクドナルド社は、メタバース世界にある仮想商品や役務を直近で商標出願した企業の一社となっている。
 
 
写真出所:https://zhuanlan.zhihu.com/p/472287045   写真出所:
https://www.bitpush.news/articles/2221914
 
 
 
ナイキ社とマクドナルド社の商標登録出願からわかるように、USPTOは仮想商品や役務を含む表記を認めているものの、指定した仮想商品や役務の具体的な内容を明示しなければならない。
 
USPTOのID MANUAL(米国類似商品及び役務区分表)の検索結果を見ると、かなりの仮想商品や役務に関する内容が以下のように記載されている。
 
 
国際分類 コード 認められる表記(Description)
第9類 009-6292
 
仮想商品を特徴とする、すなわちオンライン仮想世界で使用する家具、ジュアリー、サングラスなどのダウンロード可能なコンピュータソフトウェア
第35類 035-3225 仮想環境におけるオンライン小売店サービスの提供、仮想商品の提供、すなわち、オンライン仮想世界で使用する家具
第42類 042-2772 仮想世界で使用するバーチャルグッズのコンピュータプログラム
 
また、実体商品と仮想商品に関する紛争解決案について、「初のメタバース案件」と呼ばれる「エルメスがロスチャイルドを訴えた案件」がアメリカで起きた。1
 
原告権利

 
 
序列番号:78369087
登録番号:2991927
序列番号:79006839
登録番号:3079860
序列番号:76700120
登録番号:3936105
写真出所:USPTO https://beta-tmsearch.uspto.gov/search/search-results

被告製品
 
 
「ベビーバーキン」NFT 100個の「メタバーキン」NFT
   
写真出所: https://zhuanlan.zhihu.com/p/602541892
 
アメリカニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所は2023年2月8日、原告のエルメス(Hermès)が被告であるアーティストのメイソン・ロスチャイルド(Mason Rothschild)を訴えた商標権侵害案件を結審した。本件において、裁判所の9名の陪審員は、被告が主張した「メタバーキン」NFTがアート創作に該当し、言論の自由について定めたアメリカ合衆国憲法修正第1条によって保護されるべきであるという抗弁理由を却下し、被告の権利侵害製品がエルメスの商標を基に発売・転売されるデジタル資産であり、且つ被告がそれにより利益とコミッションを得ているので、商品性の定義に一致すると認定した。また、原告が提出した証拠によれば、数社のファッション雑誌(例えば、『Elle』や『L'Officel』)は、「メタバーキン」NFTを「エルメス社によるNFT市場への進出」と誤認しており、ソーシャルメディアのユーザーからも困惑の声が上がっているため、混同が実際に発生していることが分かれる。そのため、被告が発行した「メタバーキン」NFTは原告エルメス社に対する商標権侵害に該当すると認定され、計13.3万ドルの賠償金の支払いが命じられた。
 
この案件はアメリカ監督管理機関と司法実務のNFTの法的性質及びそれに対する監督管理への模索を示しているだけでなく、類似案件を判断する際の参考判例にもなると、筆者は考えている。また、この案件によって、メタバースにおける知的財産権の価値がより多くのブランドに認識されるようになった。
 
米国特許弁護士Mike Kondoudis(マイク カンドゥディス)氏がツイッターで掲載した内容によると、メタバーキン案件の後、エルメス(Hermès)は2022年8月26日、NFT、暗号通貨及びメタバース関連の多くの商標を、仮想現実、拡張現実、複合現実のヘッドセット、仮想現実のコンピュータの使用に適した周辺機器、仮想現実メガネ、ホログラム、仮想現実のコンピュータの使用に適したセンサー付きシャツ、仮想現実手袋などを指定商品として、USPTOに出願した。また、デジタルウェアラブルデバイスを特徴とする小売店サービス、仮想商品取引のためのオンラインストアサービス、及びデジタルコレクションとNFT関連の仮想通貨の電子送金などを含む金融サービスもその指定対象となった。
 
 
写真出所: https://www.fx168news.com/article/53205
 
(2)欧州連合(EU)

欧州連合知的財産庁(EUIPO)も2022年6月23日、仮想商品及びNFTに関する商標出願の分類方法の最新ガイダンスを公表した5。当該ガイダンスにおいて、仮想商品はデジタルコンテンツ又はデジタル画像として取り扱われるため、ニース国際分類の第9類に属することを明らかにした。仮想商品という記載は明確性と具体性に欠けているため、それに関連する内容(例えば、ダウンロード可能な仮想商品、すなわち、仮想被服)を明記する必要がある。また、NFTは「ブロックチェーンに登録されている唯一無二のデジタル証明書で、デジタルアイテムを証明するものであるものの、デジタルアイテムとは区別される」と定義されているため、EUIPOとしては、「NFT」という用語を単独で認めることはできず、NFTにより認証されるデジタルアイテムを具体的に明記しなければならない。
 
権利侵害判断において、イタリア・ローマ裁判所が2022年7月19日に下した判決4も注目に値する。当該案件において、サッカーチームのユベントスは、BlockerasがNFTを製造、販売及びオンラインで宣伝する時に、ユベントスの保有する文字商標「JUVE」と「JUVENTUS」及び図形商標(胸に2つの星がついた黒白のストライプのシャツで構成されている)を使用したことは、商標権侵害と不正競争に該当することを理由に、Blockerasを提訴した。当該案件において、裁判所は、ユベントスが暗号ゲーム・ブロックチェーンゲーム分野で活躍していることを証明したため、被告と競争関係にあると認定した。最終的に、裁判所は被告がNFTを製造、販売している行為は原告の商標権を侵害し、且つ不正競争に該当すると認定した。
 
(3)イギリス

イギリス知的財産庁(UKIPO)は2023年4月3日、メタバースで提供されるNFTと仮想商品や役務の区分に関するガイダンス『実務修正通知(PAN2/23)』5を公表した。全体として、UKIPOの新しいガイダンスは、明確性の要求について、EUIPOと一致している。主な内容は以下のとおりである。
 
 
  理由 認められる表記
NFT NFTは独立した用語として受けられない。NFTにより認証された内容を明記する必要がある。 NFTにより認証された美術品(第16類)、NFTにより認証されたハンドバック(第18類)、NFTにより認証された運動用特殊靴(第25類)、「NFTにより認証された仮想被服、デジタルアート、オーディオファイルなど」の販売に関連する小売役務(第35類)、NFTにより認証された商品や役務の買い手及び売り手のためのオンライン市場の提供(第35類)
仮想商品 仮想商品は、ニース国際分類の第9類に分類される ダウンロード可能な仮想被服、靴又は髪飾り(第9類)
仮想役務 ある役務がバーチャルで提供可能であれば、今後もそのような役務が認められる バーチャルで提供される教育又は訓練の役務(第41類)、双方向性バーチャルオークションの運営(第35類)
メタバース バーチャルな手段で提供できる役務(例えば、ビデオ会議)が、メタバース内で提供できない理由はないとしている。そのため、メタバースを通じて提供される役務は、従来の手段で提供される役務と同区分での出願が認められる メタバースで提供される教育と訓練役務(第41類)、メタバースによる双方向性バーチャルオークションの運営(第35類)
 
(4)オーストラリア

オーストラリア知的財産庁(IP Australia)は2023年8月、最先端技術に係る商品・役務の区分に関するガイダンス6を発表した。当該ガイダンスにおいて、仮想商品はオンライン上の仮想環境で使用されるデジタルアイテムと定義され、第9類に分類されている。しかし、「仮想商品」又は「ダウンロード可能な商品」などの表記は具体性に欠けるため、認められない。出願時に、仮想商品の性質を具体的且つ明確(例えば、ソフトウェア、画像ファイル、音楽又は被服)にしなければならない。「ダウンロード可能な仮想被服」、「ダウンロード可能な仮想被服のオンライン小売役務」、「NFTにより認証されたダウンロード可能なデジタル音楽ファイル」などが認められる表記である。仮想役務に関しては、現実世界における影響を考慮すべきである。例えば、オンライン上のバーチャルレストランでは、実体の食べ物を提供しないが、アバターがバーチャル食事をするため、この役務は第43類のレストランに関する役務ではなく、第41類の娯楽に関する役務に分類される。同様に、仮想環境における模擬旅行も実際に輸送が発生しないため、第39類の輸送に関する役務ではなく、第41類の娯楽に関する役務に分類される。
 
(5)韓国

韓国特許庁(KIPO)は2022年7月14日、「仮想商品審査ガイダンス」を公表した7。当該ガイダンスは、仮想商品を『国際分類』第9類に分類し、「仮想被服、仮想靴」などのように具体的な商品を明示しなければないないとしている。すなわち、「仮想+現実商品の名称」という形の仮想商品名称が認められ、仮想商品専用の類似群コード「G5207XX」が新設された。仮想商品と現実商品の類似性についても明確な判断基準が出された。すなわち、仮想商品には現実商品の名称と主な外観などの部分が含まれるが、実際の使用状況が異なるため、関連判例が形成される前に、両者は原則的に類似しないと推定される。また、周知・著名な商標については、仮想商品と現実商品間の出所の混同や誤認が生じるおそれがある場合、韓国商標法第34条第1項第11号(混同の可能性)及び第12号(消費者欺瞞)を適用して判断される。また、よりよく理解させるために、KIPOは指南に以下の例を記載している。
 
仮想商品間の類似性判断
 
ⅰ類似群が異なる
 
 
9類:G52077    仮想靴
 

 
現実商品:靴 G270101


仮想被服 第9類:G520743
         G520745

現実商品:被服 G430301
G450101,G450102,G4502,G4503,
G450401,G4513
ⅱ類似群が同じ
9類:G520745  仮想ズボン

 
現実商品:ジーンズ G450101

仮想被服 第9類:G520743
               G520745
 

 
  
9類:G520745   仮想ヘルメット

 
現実商品:ヘルメット G450502


仮想被服 第9類:G520743
              G520745
 

 
 
仮想商品と現実商品との類似性判断
 
9類:G520727   仮想靴
 


       第25類:G270101
 

 
 
 (6)日本日本は、メタバースの関連産業をずっと積極的に支持している。経済産業省は早くも2021年7月13日に、『仮想空間業界における今後の可能性と諸課題に関する調査報告書』を公表し、メタバース産業が直面する課題及び今後の発展の展望の検討に取り組んでいる。日本特許庁(JPO)は、メタバース出願の区分に関するガイダンスをまだ正式に出していないが、メタバースの分類について積極的に検討を進めている。実務においても、仮想商品や役務を含む関連表記が認められ始めている。例えば、ナイキ社が2021年10月25日に出願した第6724266号商標「NIKE及び図」は、2023年8月7日、「仮想商品、すなわちオンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する靴、運動用特殊靴、被服、帽子、メガネ、バッグ、スポーツバッグ、バッグパック、運動用具、美術品、おもちゃ、身飾品及びこれらの付属品を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラム、コンピュータプログラム(記憶されたもの)、仮想空間で使用するダウンロード不可能な仮想靴、運動用特殊靴、被服、帽子、メガネ、バッグ、スポーツバッグ、バッグパック、運動用具、美術品、おもちゃ、身飾品及びこれらの付属品の映像及び画像の提供」などを指定商品として、登録された。
 
 
写真出所: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/t0100
 
ナイキ社の登録された指定商品や役務の内容から見れば、日本の現在のやり方は、欧米のやり方と似ている。つまり、仮想商品を含む表記を認めるものの、具体的な商品や役務を明確に表記しなければならない。また、JPOの審査官より下された補正指令書から、仮想商品に対して、明確な定義が求められていることが分かる。
 
 
2023.6.27 審査官が下した補正指令書には、第41類「仮想空間で使用するダウンロードできない仮想の靴、運動用特殊靴、被服、帽子、メガネ、バッグ、スポーツバッグ、バッグパック、運動用具、美術品、おもちゃ、身飾品及びこれらの付属品のデータの提供」との記載がある。
どのようなデータであるか不明確であるため、データの内容を「画像」のように明確な記述に補正してください。
 
このように、各国が公表したガイダンスに鑑みて、多くの国は、仮想商品がニース国際分類の第9類に属することについて、初歩的なコンセンサスを得たものの、仮想商品の具体的な内容、例えば、仮想被服、仮想靴などを明確にすることが求められている。仮想役務の分類について、オーストラリア知的財産庁が公表したガイダンスに示されている内容、すなわち、仮想役務の現実世界に与える影響に考慮することについて、筆者は同意する。例えば、オンライン上のバーチャルレストランが実体の食べ物を提供しないが、アバターがバーチャル食事をするため、この役務は第43類のレストランに関する役務ではなく、第41類の娯楽に関する役務に分類されることである。仮想商品と現実商品との類似性判断について、韓国特許庁は明確な審査基準を出し、すなわち、基本的に類似商品と判断しないことである。同時に、比較的高い知名度を有している商標の場合、消費者の混同・誤認を生じさせるか否かという点から判断すべきである。これは馳名商標に対する拡大保護に似ており、「エルメスがロスチャイルドを訴えた案件」における判断にも一致し、今後、各国が関連基準を制定する際に重要な参考となるものと確信できる。
 
2、中国におけるメタバース商標の出願と保護の現状
 
1)出願登録の状況
 
商標出願の対象
 
ⅰメタバース文字を含む商標出願。

商標網で公開された情報によれば、今のところ、中国のメタバースにおける商標出願は以下の3つの段階に分けられる。
 
2021年9月前、すなわちFacebookが社名をMetaに変更する前に出願された「多元宇宙(マルチバース)」、「漢高元宇宙天空之城」などを含む約20件のメタバース関連商標は順調に登録され、今でも有効である。
 
Facebookが社名を変更した後、多くの人がメタバースの潜在的なビジネスチャンスに気づき、2021年9月以降、中国国内の数多くの知名企業が「XX+メタバース」という形で大量の商標を出願した。例えば、テンセントの「王者元宇宙(王者メタバース)」、アリババの「阿里元宇宙(アリメタバース)」と「淘宝元宇宙(タウバオメタバース)」、バイトダンス関連会社の北京小鳥の「Pico元宇宙(Picoメタバース)」、ネットイースの「網易元宇宙(ネットイースメタバース)」などが挙げられる。また、ある商業貿易会社もそのブームに乗って、1,300件以上のメタバース関連商標を出願した。2022年2月現在、中国におけるメタバース関連商標の出願件数は16,000件以上に達しているが、国家知識産権局はそのほとんどを却下又は拒絶査定している。国家知識産権局の関係者によると、メタバースは新しい技術であり、商標として独占される可能性がなく、さもないと、誤認を引き起こしやすくなる。「ホット話題にただ乗り」や使用する目的でない買い占め行為などの悪意による商標出願に対して、断固として反対し、厳格に取り締まっている。実務において、国家知識産権局は「メタバース」を新しい未来のデジタル技術と判断し、商品や役務の技術的特徴などを消費者に誤認させやすく、『商標法』第10条第1項第7号に違反したとして、第63475846号商標「頭号元宇宙(メタバースワン)」、第59320904号商標「17 K元宇宙(17 Kメタバース)」などの商標出願を拒絶査定した。また、「商品の技術的特徴を直接表示していることで、商品の出所を区分しにくいため、『商標法』第11条第1項第2号に違反した」として、第61415392号商標「元宇宙(メタバース)」などの商標出願を拒絶査定した。
 
国家知識産権局が上述の明確な態度を明らかにした後、一部の企業は出願に対する考え方を変え、「XX+メタバース」をやみくもに出願するのではなく、「元(メタ)」などのもっと暗黙な言葉を含む商標を出願するようになった。例えば、ファーウェイは「城市元図」、「港口元図」、「元OS」(第9類、第42類)、アリババ傘下の元境生生(北京)は「元境」、「元境博域」(第9、35、38、41、42類等)、バイドゥは「峙一元捜」(第9類、第42類)などを出願した。
 
ⅱメタバースに参入した企業は、自社なりの出願商標の名称を以下のようにカスタマイズしている。
 
 
実際の運用シーン 中国で登録出願された商標
ナイキ社は2021年11月、Robloxに「ナイキランド」をオープンした。ここで、プレイヤーは仮想通貨で仮想商品を購入して着用したり、オンラインストアで買い物してメタバースのオーダーメイド製品を着用したり、スポーツといったミニゲームを楽しんだりすることができる。
(9;25;35;41;
42)
2021年5月、「梅涩甜」というバーチャルキャスターが、テンセントのニュースプラットフォームで初のバーチャルキャスターのトークショー『梅得説』をリリースした。世界に対する「バーチャルヒューマンの視点」を主題としたトークショーの内容は、ユーモアがあり、荒唐無稽で、深く考えさせられたため、瞬く間に100万回以上再生された。
(9;14;16;18;25;28;35;38;41;42;43)
2021年10月、モンスターを捕まえるのが得意な「柳夜熙」という名前のバーチャル美人ブロガーが「TikTok」でショートムービーをアップロードした。わずか2分間の動画において、サイバーパンクと古代ファンタジーのシーンが編集され、瞬く間に100万人のファンを獲得した。
(36;38;39;45等)

 
2022年11月、張家界は世界初のメタバース観光プラットフォームの「張家界星球」ベータ版をリリースした。同時に、世界初の仮想山に対する命名権オークションが始まり、ユーザーは1元を払えば、体験資格と競売資格を得られた。 (39)
ソーシャルゲーム会社miHoYoは2022年2月、メタバースブランドHo Yoverseを設立した。2023年1月、CEOの劉偉氏が取材において、2030年には10億人が生活したくなる仮想世界を作り出すというビジョンを明らかにした。
(全ての区分)
  
これらのことより、中国ではメタバース商標に対する出願名称は、ほぼ落ち着いてきており、次第にそれぞれのメタバース業務の発展の実際のニーズに応じて商標出願を行うようになっていることがわかる。「元宇宙」又は「meteverse」を直接使用して出願するより、一部企業が採用した漢字商標に「元宇宙」の「元」を加えたり、英語商標に「universe」の「verse」を加えたり、商標の最後に「LAND」、「星球」を付けたりするネーミング方法について参考にする価値があると、筆者は考えている。
 
指定商品・役務
 
周知のように、現在、中国では仮想商品や役務という直接的な表記が認められない。では、中国でメタバース商標の保護や登録はどのように行われるのだろうか。それぞれが積極的に様々な方法で試みている。

ⅰ 『ニース国際分類』2022版及び2023版に新たに追加された「ヘッドセット仮想現実装置」、「ブロックチェーン技術によって提供される電子送金」、「オンライン上のバーチャルツアーガイドの提供」などメタバース関連の商品や役務を指定する。

ⅱ 一般的に、国家知識産権局は、『区分表』8に記載されている標準名称及び商標局が定期的に公表している『区分表』に記載されていないが実際に認められている商品や役務の名称のみを認めている。例えば、下記案件では、メタバース関連の多くの非標準的な表記が認められた。そのため、機先を制するために、区分表に記載されている商品や役務と類似する表記で積極的に出願してみるのもよい選択である。
 
 
登録商標 愛旗(第70350068号) 出願日:2023年3月21日
第9類 オンラインゲームとオンライン仮想世界で使用するダウンロード可能なバーチャルグッズなど
登録商標 HARMAN/KARDON
(第69805083号)
出願日:2023年2月24日
第9類 オンライン環境でアクセスするか、又は使用するダウンロード可能なデジタル動画及び非動画グラフィックキャラクターのアバターのデジタルオーバーレイとスキンなどを作成・編集するために使用されるコンピュータソフトウェア。
 
登録商標 LUNA COUCH
(第62739617号)
出願日:2022年2月21日
第41類 仮想環境でプレイヤーが同時に双方向に参加できるオンラインゲームを提供し、娯楽サービスを目的としてプレイヤーが同時に参加できる仮想環境などを提供することである。
 
ⅲ 中国を指定したマドプロ国際出願における関連仮想商品や役務の拡大

プラダ有限公司(PRADA S.A.)のような一部の外国企業も、中国を指定した国際登録出願を通じて、仮想商品や役務を含む商標を出願しようとし始めている。
 
 
出願商標 プラダ 出願日:2023年3月23日
第9類 ダウンロード可能な仮想商品、すなわち、オンライン及びオンライン仮想世界で使用するコンピュータプログラム、上記すべての商品は以下の商品、すなわち、香料、トイレタリー製剤、化粧品、メークアップ(化粧品)、スキンケア用化粧剤、ボディケア用化粧品、フェイシャルケア製品、ヘアケア製品、ヘアカラー製品、アクセサリー、ジュアリー、時計及び計時用具、皮革及び人工皮革、荷物用バッグ、バッグ、非特殊化粧品用バッグ、財布(マネークリップ)、被服、靴及び帽子(ヘッドウェア)及び看護、衛生及び美容サービスなどに関するものである
第35類 オンライン小売サービス、すなわち、オンライン仮想世界及びオンライン上で使用するコンピュータプログラムを内容とするダウンロード可能な仮想商品の販売促進のための企画及び実行の代理
第38類 非代替性トークン(NFT)により認証され、ブロックチェーンの技術分野のコンピュータプラットフォーム上で動作する暗号化プロトコルを組み込んだダウンロード可能なデジタルファイルの電子送信など
第41類 バーチャル演出と社交・娯楽活動に関する娯楽サービスなど
第42類 他人のために研究・開発した新しい仮想製品、すなわち、非代替性トークン(NFT)により認証された文字、画像、映像、オーディオ、アートファイルなどを含む
 
③中国における登録出願の提案

中国には、「兵馬未動、糧草先行」(部隊が出動する前に、糧秣を先行させる、つまり行動する前に準備を整えるべきであることのたとえ)という諺がある。商標に当てはめると、「市場進出する前に、まず商標を先行させる」ということである。上記3つの方法はすべて、積極的に権利を獲得するための良い試みである。機先を制するために、企業は、メタバースの人工知能、ブロックチェーン、クラウド技術、デジタルツイン、仮想現実、暗号化などの特徴を組み合わせて、以下の類別にメタバース商標のレイアウトと保護を事前に行うことができる。以下の提案は、すべて現在の中国『区分表』に記載されている標準名称又は商標局が公表して認められている商品や役務の名称である。
 
ⅰ コア分類
 
 
第9類 コンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)、仮想現実のゲームソフトウェア、デジタル財布(ダウンロード可能なコンピュータソフトウェア)、バーチャルリアリティ用ヘッドセット、仮想現実ゲーム用ヘッドフォン、仮想現実メガネ、ヘッドマウントディスプレイ、双方向性マルチメディアコンピュータゲームプログラム、セキュリティトークン(暗号化デバイス)など
第41類 オンラインによるガイド付き仮想見学ツアーの提供、コンピュータネットワーク上のオンライン仮想現実ゲームの提供、仮想現実ゲームルームサービス、バーチャルフィジカルトレーニングサービス、オンラインによる電子出版物の提供(ダウンロードできないものに限る)、娯楽サービスなど
第42類 クラウドコンピューティングを介した仮想コンピュータシステムの提供、仮想現実ソフトウェアの設計・開発、マルチメディア製品の設計と開発、人工知能分野の研究、ブロックチェーン技術を利用したユーザー認証サービス、データの暗号化・復号化処理など
 
ⅱ関連性の高い分類
 
 
第35類 デジタル広告サービス、デジタルトランスフォーメーションのための事業に関する助言など
第36類 ブロックチェーン技術を介して提供される電子的資金の振替など
第38類 テキストメッセージに基づくバーチャルチャットルームサービス、バーチャル専用ネットワーク(VPN)サービスの提供、デジタルファイルの伝送交換など
 
また、ニース協定専門家委員会は2023年、『ニース国際分類』に一連の有用な追加を採択し、2024年1月1日に『ニース国際分類』第13版(2024年版テキスト)として発効する予定である。国家知識産権局も『区分表』の改正及び調整を行う予定であり、現状に応じてより多くの仮想商品や役務が認められるかどうか期待される。
 
④権利保護状況

NFT(Non-Fungible Token)デジタル作品とは、ブロックチェーン技術を使用して行う一意で代替不可能なデジタル化された作品のことで、それはデジタル資産をNFTに変換して、メタバース空間における経済活動を促進するものである。NFTのような新たなビジネスモデルに対して、中国では明確な法律規定がない。しかし、浙江省杭州市中等裁判所は2022年12月、中国初のNFT権利侵害事件である「胖虎打疫苗(太った虎のワクチン接種)」案件に対して、判決を下した。当該案件は私たちにとって、参考的価値があるものであった。
 
 
写真出所:杭州インターネット裁判所の公式アカウント
 
当該案件では、一審原告「奇策公司」は、王某が原告の許可を得ずに、一審被告「原与宙公司」が運営しているプラットフォームBigverseにおいて、NFTデジタル作品「胖虎打疫苗」を取引する行為は、アート作品の著作権を侵害し、経済的損失をもたらしたことを理由に、訴訟を提起した。二審判決は以下ように認定した。
 
ⅰ  NFTデジタル作品はデジタルコレクションの形式の一つとして、ネットワーク上の仮想財産の特徴を満たし、財産上の利益の属性を有している。
 
ⅱ  NFTデジタル作品の発売・転売は著作権法の意義における発行行為に該当せず、NFTデジタル作品のネットワーク上の仮想財産の属性に鑑み、その発売・転売の過程に発行権を適用することは困難であるため、NFTデジタル作品の取引に権利消尽原則を適用する法的根拠に欠けている。
 
ⅲ  NFTデジタル作品の発行者は、特定のデジタル化作品の保有者であるだけでなく、当該デジタル化作品の著作権者又は被許諾者であるべきである。一般的なネットワークサービスのプロバイダが負うべき義務に加え、一審被告原与宙公司は、NFTデジタル作品の取引サービスを専門とするプラットフォームの運営者として、NFTデジタル作品の出所の合法性を審査できる有効な知的財産権審査メカニズムを確立すべきである。原与宙公司が審査義務に注意を払わず、権利侵害の事実を知り又は知るべきながら、必要な措置を講じなかったために、主観的過失があり、その権利侵害の幇助に該当する。
 
本件は、NFTデジタル作品の性質を定義すると同時に、NFTデジタル作品の取引プラットフォームが負うべき審査義務を強調した。ユーザーは権利侵害となるNFTデジタル作品をプラットフォーム「メタバース」に掲載し、プラットフォームが必要な審査義務を履行しない場合、権利侵害を幇助したことで民事責任などを負わなければならない。これらの新しい模索は、今後の中国におけるNFT分野の知的財産権の規範化、及びNFT作品が権利侵害された場合の権利保護について、重要な参考的意義を有する。
 
3.まとめ

メタバースがもたらした地域性の突破、商標の仮想コンテクスト化、商品や役務の分類の更新、及び商標権侵害判断のクロススペース化などの一連の問題において、メタバースにおいて商標を保護することは複雑であり、絶えず変化し続けている。このような環境においては、事前に万全の準備を整え、商標のレイアウトをしっかり構築しておくことがより重要になっている。この時、まずファッショナブルな名前を選択し、第9、35、41、42類などの仮想資産との関連性の高い区分において、できるだけ早く登録出願することが賢明な選択である。こうして、重要な商標が仮想資産に関連する区分で他人に先取り出願されることを防ぐだけでなく、将来的に企業が商標資産を利用してメタバースへ参入することに、ある程度役立つ。
 
注釈:
1. ヘッドライン、エルメスが勝訴!アメリカ裁判所が世界初のNFT商標権侵害案件に判決
https://www.sohu.com/a/679962276_121124708
2. Hermes Hints at NFT and Metaverse Plans with New Web3 Trademark Filing
(https://www.nftgators.com/hermes-hints-at-nft-and-metaverse-plans-with-new-web3-trademark-filing/)
3.Virtual goods, non-fungible tokens and the metaverse
https://euipo.europa.eu/ohimportal/en/news-newsflash/-/asset_publisher/JLOyNNwVxGDF/content/pt-virtual-goods-non-fungible-tokens-and-the-metaverse
4.Italian Court Grants First Injunction In NFT Trademark Dispute
https://www.dww.com/articles/italian-court-grants-first-injunction-nft-trademark-dispute
5.PAN 2/23: The classification of non-fungible tokens (NFTs), virtual goods, and services provided in the metaverse
(https://www.gov.uk/government/publications/practice-amendment-notice-223/pan-223-the-classification-of-non-fungible-tokens-nfts-virtual-goods-and-services-provided-in-the-metaverse)
6.New guidance on trade mark classification of emerging technologies
(https://www.ipaustralia.gov.au/news-and-community/news/2023/08/10/22/52/new-guidance-on-trade-mark-classification-of-emerging-technologies)
7.韓国知的財産庁は仮想商品に関する審査ガイダンスを策定した
http://www.choipat.com/?ckattempt=3
8.  国家知識産権局商標局は『類似商品・役務区分表』の作成
9.  (2022)浙01民終5272号


ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
×

ウィチャットの「スキャン」を開き、ページを開いたら画面右上の共有ボタンをクリックします