拒絶査定案件からみる中国を指定した国際商標の商品・役務における注意点
このような拒絶査定不服審判数が増加し続けているだけでなく、認められる商品・役務の範囲が絶えず拡大していることにも、筆者は注目している。中国では卸売・小売役務について、医薬品、医療用品の卸売・小売役務しか認められていないため、初期の拒絶査定不服審判案件は第35類に集中してきた。しかし、近年、商標法第22条に基づく拒絶査定は、新興科学技術、仮想商品、医療健康などの多くの新たな分野に広がってきている。筆者が最近取り扱った中国を指定したある国際商標出願案件も、中国で約40区分にわたる保護を求めたものの、うち半数近くの区分における出願は、指定商品・役務が中国の基準に合致しないとして拒絶査定された。これは、国際商標が中国で保護を求める際に直面する指定商品・役務の規範的な問題を浮き彫りにしており、国際商標出願人にとって警鐘となっている。
本稿は、国際商標が中国を指定して保護を求める際によくある商品・役務の注意点を整理するとともに、国際商標出願人が事前にこのようなリスクを回避するために、アドバイスを提供するものである。
1.中国を指定した国際商標でよく見られる不規範な指定商品・役務
近年の拒絶査定不服審判案件の分析及び実務経験に基づいて、中国を指定した国際商標において、指定商品・役務が中国の基準に合致しないことによって拒絶査定されるケースは、主に以下の4つの状況に分けられる。
(1)中国の国情に合致しない指定商品・役務
中国の国情に合致しない商品・役務は、主に下記の3種類がある。
①「黄(売春)」、「賭(賭博)」、「毒(麻薬)」関連の商品・役務
②封建的迷信や政治活動などの特殊分野の役務
③中国で売買禁止の商品(例えば野生保護動物の製品、貨幣)
(2)新興分野に対する慎重な審査
中国では現在、暗号通貨、デジタルトークン、仮想資産などの関連商品・役務は認められていない。商標の指定商品・役務において、例えば第9類の「暗号通貨を受信し及び使用するための暗号鍵を生成するダウンロード可能なソフトウェア」、第25類の「非代替性トークン(NFT)により認証された現実の被服」などのように「
暗号通貨」、「非代替性トークン(NFT)」といったセンシティブな用語が含まれる場合、中国商標審査ではいずれも認められていない。
さらに、中国現行(2025年版)の『類似商品及び役務区分表』(以下、「区分表」という)及び中国国家知識産権局が区分表以外に定期的に公表している認められる商品・役務のリストにおいて、「仮想」という言葉を含む商品・役務は多数あるが、商標審査実務において同局の「仮想」という言葉を含む商品・役務に対する審査は非常に厳格である。複数の国際商標に係る拒絶査定不服審判審決(例えば、第G1765748号、第G1760041号、第G1760051号、第G1763840号、第G1748449号など)はいずれも、中国が現時点でメタバース関連及び仮想関連の商品・役務を認めていないという審査傾向をはっきりと示している。例えば、第9類の「ダウンロード可能な仮想被服」、第36類の「仮想空間で提供されるオンラインによる銀行業務」はいずれも、同局が明確にしている認められない商品・役務の表記である。
また、「暗号通貨」、「非代替性トークン(NFT)」、「メタバース」、「仮想」などのセンシティブな用語は業界を超えて適用可能であり、ほぼ全区分の商品・役務を修飾できるため、これらの表記を含む商標は一旦登録されると、全区分の商品・役務で使用される恐れがある。これは、近年中国の基準に合致していない国際商標の指定商品・役務の表記がますます多くの区分に及ぶ要因にもなっている。
(3)商品・役務の表記に対する審査の厳格化
中国の商標審査実務から見れば、国際商標が中国を指定して保護を求める際の指定商品・役務の表記に対する中国国家知識産権局の審査が、中国国内の商標出願より緩やかであることが分かる。例えば、「ある商品の付属品及び部品」といった範囲が広範で、区分を超えた表記は通常認められている。しかし、近年の審査傾向を見ると、このような基準は厳しくなりつつあり、区分又は類似群を超えた商品・役務の表記が拒絶査定されるケースが増加している。実務においてよく見られる不規範な表記は、主に以下の3種類がある。
①商品・役務の表記が複数の区分や類似群に及ぶ場合、具体的に限定する必要がある
②当初中国の区分表にあった規範的な表記が、区分表の改訂により削除され、認められなくなったため、国際商標の審査においても認められなくなった。この場合、具体的な商品を限定する必要がある。
実務において、2023年の区分表で削除された第1類の「工業用化学品」(元々類似群0104全体、計20の部分をカバーする)及び2024年の区分表で削除された第28類の「ゲーム用品」(元々類似群2801全体、計2つの部分をカバーする)が典型例として挙げられる。中国現行の区分表では、上述の総合的な表記は削除されたが、対応する権利範囲の商品が新たに追加されていないため、商標出願人はより具体的な商品に限定するほかない。例えば、類似群2801の各部分の権利範囲をカバーするために、第28類の「ゲーム用具」を2801(一)の「ゲーム機」及び2801(二)の「遊園地用乗物機械器具」に補正することができる。それに対して、当初は類似群0104全体をカバーしていた第1類の「工業用化学品」の場合、類似群0104には20の部分が含まれるため、現行の区分表に基づけば、個別の商品を指定することによって、全20の部分をカバーすることはもはや不可能であり、出願人は実際の業務に基づき、より具体的な用途の化学品を指定することしかできない。例えば、実際に使用している商品に基づき、0104(一)の「繊維製品用光沢剤」、0104(二)の「コンクリート用発泡剤」などを指定する。
③特殊な機能または効果を示す指定商品・役務の表記は、中国の審査基準に合致しないため、削除する必要がある。
『ニース国際分類NCL12-2025に関する中日韓の指定商品・役務の類似群コード対応表』からみれば、その典型例としては、第5類の「
美容効果を有する栄養補助食品(医療効果を示す表記有り)」、第25類の「
痩身材料を含む被服(機能性を示す表記有り)」がある。
(4)卸売・小売役務は限定的に認められる(第35類)
現在、中国の商標審査において、卸売・小売役務(第35類)に関しては、医薬品及び医療用品の卸売・小売役務以外は認められていない。実務において、第35類で医薬品以外の卸売・小売役務を指定して拒絶査定されるのは、国際商標の指定商品・役務が中国の基準に合致しないことによって拒絶査定されるケースの中で一番よく見られることであり、特に注意を要する。外国出願人が医薬品以外の卸売・小売役務を指定する場合、区分表の分類基準を参照した上で、関連役務を第35類類似群3503の中で認められる可能性のある役務に調整することをご提案する。例えば、「他人のための販売促進」、「他人のための代理購入(他の企業のための商品・役務の購入)」、「商品・役務の売買双方にオンライン市場の提供」、「インフルエンサー・マーケティングによる商品の販売促進」などの規範的な表記を使用して、中国の審査基準に従って、最大限の保護範囲を確保することをお勧めする。
2.アドバイス
前述した中国の商標審査基準に合致しない指定商品・役務について、現在の中国商標審査で認められている商品・役務の状況を踏まえ、中国を指定して保護を求める場合、以下の対応策を講じることができる。
(1)中国の商標審査では、中国の特殊な国情に関連する商品・役務について、厳格な審査基準が適用され、如何なる形式の表記の調整も認められない可能性が高い。実務経験によれば、国際商標出願人が中国を指定する際に、このような項目を直接削除することをご提案する。具体的には、中国の国情に合致しないことで、拒絶査定されることを回避するために、中国国家知識産権局が発表した『ニース国際分類に関する中日韓の指定商品・役務の類似群コード対応表』(2020年公布、毎年更新)に収録されている「中国では認められない」または「X」と表示されている商品・役務を参考にすることをお勧めする。
(2)国際商標が中国を指定して保護を求める際に、新興技術分野の商品・役務を特に慎重に選定する必要がある。現在、中国の商標審査では、暗号通貨、デジタルトークン、仮想資産及び関連する派生商品・役務の登録出願は、確かに認められていない。出願人は商品・役務の表記において、「暗号通貨」、「非代替性トークン(NFT)」、「メタバース」などのセンシティブな用語の使用をできる限り避けるべきである。また、「仮想」という言葉もセンシティブな用語であるため、区分表に明確に認められるという表記がある以外は、慎重に使用するべきである。さらに、中国現行の区分表に収録されている「ブロックチェーン技術」に関連する役務(例えば、第36類の「ブロックチェーン技術を介して提供される電子的資金の振替」、第42類の「ブロックチェーン技術を利用したユーザー認証」)によれば、出願人は「ブロックチェーン技術」を利用して新興商品・役務の限定を試みることで、中国の商品・役務の表記基準に従って、できる限り広い保護範囲を求めるべきである。
(3)中国における商標審査がますます厳格化していることを背景に、国際商標出願における複数の区分に及ぶ広範囲の商品・役務の表記については、出願人が中国を指定して保護を求める際に必要な限定を加えることをご提案する。同時に、表記の不規範による拒絶査定リスクを低減するために、商品・役務の表記に特殊な機能や効果を示す特徴的な表現を避けたほうがよい。
(4)中国では現在、商標審査において卸売・小売役務は限定的にしか認められておらず、医薬品、医療用品に関連する役務しか認められていない。医薬品以外の卸売・小売役務に関しては、前述の通り、出願人は実際の役務に基づき、区分表の分類基準を参照した上で、関連役務を第35類類似群3503にある認められる可能性のある具体的な役務に調整できる。
また、国際商標が中国を指定して保護を求める際に、指定商品・役務の表記が中国の基準に合致しないことを理由に拒絶査定された場合、外国出願人は中国の商標代理機構に依頼して中国国家知識産権局に拒絶査定不服審判を請求するとともに、国際事務局を経由して指定商品・役務の限定手続き(limitation/MM6)を行って、中国の基準に合致しない商品・役務を削除することもできる。例えば、中国の区分表に収録されている規範的な表記に補正することで、拒絶理由を解消できる。補正後の指定商品・役務の表記は、原則として、本国における権利範囲を超えてはいけない。実務上、権利範囲が拡大したか否かに対する審査基準は、比較的緩やかではあるものの、元の権利範囲を超えたことにより商品・役務の限定請求が認められないケースもあるため、指定商品・役務の表記を補正する際に、慎重に検討し、補正が元の範囲を超えることにより最終的に結果に影響が及ばないように注意しなければならない。
終わりに
中国の商標審査における指定商品・役務に対する規範的な要求は、マドリッド制度を利用して中国で保護を求めるための重要な基準である。外国出願人にとって、特に新興技術分野に関わる場合、中国商標審査の最新動向に常に注視することが必要である。こうして、的確かつ戦略的な商品・役務の表記を選定することで、中国の審査基準に合致する前提において、最大限の保護範囲を確保することをお勧めする。
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参考:
1.魔知輪(home.mozlen.com)データベースによる国際商標の拒絶査定不服審判案件統計(2017年~2025年4月)
2.2020年~2025年『ニース国際分類に関する中日韓の商品・役務類似群コードの対応表』