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中国における著名商標の認定と保護


北京林達劉知識産権代理事務所  
 
ここ数年来、日系企業が中国での投資や、生産販売の急成長に伴って、その有名商標が中国で他人に先出願されたり、模倣されるケースなどが増えてきた。これらは日系企業を困惑させる大きな問題である。その対策の一つとして、自社の商標を中国にて著名商標として認定させることが考えられる。ここに、著名商標の定義、著名商標申請認定の法的根拠と認定機関、著名商標の申請認定事由、著名商標の認定申請において考慮すべき要素、著名商標の保護範囲、企業が著名商標を有するメリット、著名商標認定のための提出資料、異議申立案件における著名商標申請認定の手続き上の変化、著名商標の認定の現状の面から、以下のとおり、著名商標の状況について纏めたので、参考になれば幸いである。
  
著名商標の定義

著名商標とは知的財産法上の概念で、最初はパリ条約により規定されたものである。パリ条約では各構成員国が著名商標に対し通常の商標より強力な保護を与えることを要求している。さらに、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)」では、パリ条約上の著名商標に対する保護の原則を確認すると共に、商標の知名度を認定する場合の具体的な要件を示し、著名商標の保護を受けられる範囲を拡大し、非類似の商品又はサービスにおける著名商標の使用禁止を規定している。

「著名商標の認定と保護に関する規定」第2条の規定によれば、「著名商標」とは中国において関連公衆に広く認知され、高い名声を有する商標であるという。その内、関連公衆とは、使用商標が表示する商品またはサービスと関係ある消費者、前述の商品を生産し、またはサービスを提供するその他の経営者、及び販売ルートに係わる販売者と関係者などを含む。

以上の点から下記のようなことが言える。

1.著名商標が係わる地域は「中国」である。即ち、当該著名商標を表示する商品については、中国国内商品にしろ、国際商品にしろ、その経営所在地が中国であっても、国外で経営している商品はこの定めるところではない。
2.関連公衆の解釈について、消費者、生産者或いは代理販売ルートにかかわる関係者は並列関係である。即ち前述商標がいずれかの中で高い名声を有すればよい。
 
著名商標申請認定の法的根拠と認定機関

著名商標申請認定の法律根拠は、中国「商標法」第13、14、41条、「商標法実施条例」第5、45条、「著名商標の認定及び保護の規定」及び「最高人民法院商標権民事紛争事件審理上の法律適用の若干問題に関する解釈」第22条である。
また、上記法律によれば、著名商標の認定機関は商標局、商標審判委員会と人民裁判所である。
 
著名商標の申請認定事由

現在、中国における著名商標の認定原則は「個別事件毎に認定し、受動的に保護する」ということである。つまり、著名商標の認定は直接に申請することができず、具体的な案件(たとえば、異議申し立て、取消審判、訴訟など)の審理の中で、異議申立人や取消審判請求人や原告などが著名商標を有しているか否かが判断され、その結果は、異議裁定書や取消審判決定書や判決文などで示される。また、異議裁定書や判決文などは法的効力を有する。具体的には下記の認定事由がある。
 
1.当事者は、他人の予備的査定を経て公告された商標が、商標法第13条の規定に違反しているとみなした場合、商標法及びその実施条例の規定に従い、商標局に異議を申立て、且つ、その商標が著名であることを証明する関係資料を提出し、著名商標の認定を請求することができる。
 
2.当事者は、他人が登録した商標が商標法第13条の規定に違反しているとみなした場合、商標法及びその実施条例の規定に従い、商標審判委員会に当該登録商標の取消を請求し、且つその商標が著名であることを証明する資料を提出し、著名商標の認定を請求することができる。
 
3.商標管理事務において、当事者は、他人の使用する商標が商標法第13条の規定に違反しているとみなし、その著名商標の保護を請求する場合、案件発生地の市(地区、州)以上の工商行政管理部門へ使用禁止の書面請求を提出し、且つその商標が著名であることを証明する資料を提出することができる。同時に所在地の省レベルの工商行政管理部門にその写しを提出する。
 
4.人民裁判所が商標紛争案件を審理する時、当事者の請求と案件の具体的な情況により、係わる登録商標は著名であるか否かにつき法により認定することができる。
 
5.商標が企業名称(商号)として他人に使用され、公衆を欺蟎、又は公衆に誤解を与えうる場合に当事者の請求と案件の具体的な情況により、係わる登録商標は著名であるか否かにつき法により認定することができる。
 
6.人民裁判所がドメインネーム紛争案件を審理する時に、当事者の請求と案件の具体的な情況により、係わる登録商標は著名であるか否かにつき法により認定することができる。
 
著名商標の認定申請において考慮すべき要素

著名商標の認定機関は下記の要素を考慮して著名商標の認定を行う。

1.関連公衆の当該商標に対する認知度。
2.当該商標の継続使用期間。
3.当該商標のすべての宣伝活動の継続期間、程度及び地理的範囲。
4.当該商標が著名商標として保護された記録。
5.当該商標が著名であることを証明するその他の要素。
 
著名商標の保護範囲

1.同一又は類似の商品について出願した商標が中国で登録していない他人の著名商標を複製、模倣又は翻訳したもので、当該著名商標と混同しやすい場合は、これを登録せず、かつその使用を禁止する。
 
2.同一でない又は類似しない商品について出願した商標が、中国で登録した他人の著名商標を複製、模倣又は翻訳したもので、且つ公衆が誤認し、当該著名商標の登録者の利益に損害を与えるおそれのある場合は、これを登録せず、かつその使用を禁止する。
 
3.すでに登録された商標が商標法の関連規定に違反している場合、商標の登録日から5年以内に、商標所有者又は利害関係者は、商標審判委員会にその登録商標の取消審判を請求することができる。悪意による登録をした者に対して、著名商標の所有者は、5年の期限の制限を受けない。
 
4.商標使用が商標法第13条の規定に違反した場合、関連当事者は工商行政管理部門に使用禁止を請求することができる。商標局により商標法第14条の規定によって著名商標と認定された場合、工商行政管理部門が権利侵害者に商標法第13条の規定を違反する著名商標の使用行為の停止を命じ、その商標標識を没収、処分し、商標標識と商品が分離できない場合には合わせて没収、処分する。
 
5.著名商標所有者は他人がその著名商標を企業名称として登録し、公衆を欺蟎、又は公衆に誤解を与えうるとみなした場合、企業名称の登記機関に当該企業名称の取消を請求することができる。企業名称の登記機関は「企業名称管理規定」に基づき、処理しなければならない。
 
6.他人のドメインネーム或いはその主要部分が著名商標に対する複製、模倣、翻訳或いは音訳により構成された場合、そのドメインネームの登録、使用などの行為は権利侵害或いは不正競争であると認定されるべきである。
 
企業が著名商標を有するメリット

著名商標の認定を得るのには一定の困難が予想され、且つ適用原則は「個別事件毎に認定し、受動的に保護する」ということであるが、一旦企業の商標が著名商標と認定されれば、以下のようなメリットがあると考えられる。

1.著名商標の認定は商標の著名性及び企業の知名度の向上に繋がり、十分にブランドイメージアップを果たし、ブランド価値を上げることができる。
 
2.個別事件における認定であるが、著名商標の記録はほかの案件において参酌の証拠になる。また、商標紛争事件で裁判所に提訴した時、当事者が行政管理機関又は裁判所からすでに認定された著名商標に対して保護を求める場合、対象の商標が著名商標であることについて相手方当事者が異議がない場合、裁判所はそれ以上審査を行わないものとする。このような場合、著名商標認定の記録は非常に有意義である。
 
3.著名商標の認定は地方の工商行政管理局の商標使用管理に対しても影響を与える。認定された著名商標は地方の工商行政管理局の役人にも強い印象を与え、地方の模倣品取締りに対しても積極的な作用を期待できる。
 
著名商標認定の提出資料

著名商標の認定申請に際して、下記のような資料の提出が考えられる。よって、普段から下記の証拠資料の収集を注意したほうがよいと思う。
 
一、著名商標申請者の発展歴史及び規模
 
1.申請者の沿革
2.申請者の発展歴史を証明できる営業許可証の写し(日本の会社の場合は履歴事項全部証明書)
3.申請者規模を証明する証書の写し

二、申請商標の最初の使用と継続使用の証拠
 
1.申請商標は何年から使用されたかを示す証拠の写し
2.申請商標は何年にその登録が認められたかを示す登録証の写し
3.申請商標のデザイン及び意味などの説明
4.申請商標の継続使用の証拠

三、申請商標の国内外での登録情況
 
1.申請商標の国内での登録情況
2.申請商標の国内での申請情況
3.申請商標の国外(地区)での登録出願情況

四、申請商標を使用した商品の直近3年間の主要な営業活動データ及び全国同業界での順位
 
1.直近3年の申請者の貸借対照表、損益計算表
2.直近3年の申請商標を使用した製品の生産量と販売量の統計表
3.申請者の主要営業データの同業界での順位
4.申請者が品質標準を採用した情況

五、申請商標を使用した商品の国内外での販売情況
 
1.申請者の国内での販売ネットワーク
2.申請商標の製品の国内での販売状況及びその証拠の写し
3.申請商標の製品の国外での販売状況及びその証拠の写し

六、申請商標の広告宣伝情況
 
1.直近3年の申請商標の広告の投入量一覧表
2.申請商標の広告掲載情況(いつ、どういう媒体か)及びその証拠の写し
3.掲載広告の広告図面及びその証拠
4.申請商標のその他の宣伝(たとえば展覧、ネットワークなど)

七、申請商標が著名であることを示すその他の証拠
 
1.申請商標が「**著名商標」と認定された証書の写し
2.申請商標を使用する製品の品質が優良であることの証明
3.企業信用及び受賞情況の証拠
4.企業業績が各レベルリーダ、各業界の人間及び媒体に注目と認識された証拠

八、申請商標が著名商標として保護を受けた記録
 
1.他人が申請商標専用権を侵害し取り締まりを受けた場合
2.申請商標が同一又は類似の商品或いはサービスにて他人に模倣され使用または登録された場合
3.申請商標が非類似の商品とサービスにて他人に模倣され使用または登録された場合
4.申請商標が他人に企業商号として使用された場合
5.申請商標が国外で先に登録された場合
6.申請商標のドメインネームが国際インターネットで先に登録された場合
 
異議申立案件にて著名商標申請認定の手続き上の変化

2007年10月26日に中国商標局が「商標登録手続きフローの調整など関連事項に関する通知」を発布した。そのなかに、商標異議申し立てに際し著名商標の認定を申請する場合の手続きに関し新しい要求があった。

つまり、異議申し立て手続きにて著名商標の認定を申請する申請者は、規定により関連異議資料と著名商標の認定に関連する証拠を提出する以外に、更に「著名商標認定申請資料の摘要」の書面ファイルと電子ファイルを提出しなければならないと規定 された。当該摘要の内容は著名認定申請の商標が被異議商標の登録出願前の三年間の関連情報であり、そのフォームは下記のとおりである。
 
著名商標認定申請資料の摘要
 
商標:
商標権者:
日付:
 
商標見本
 
 
 
登録番号: 登録日:
国際区分: 最先使用時期:
指定商品・サービス:
認定を申請する商品・サービス:
商標権者:
 
 
関連公衆の当該商標に対する認知程度
 
当該商標が著名商標として保護された記録
 
 
 
当該商標の中国及び外国(地域)における登録状況
国家 出願日 登録日 国際区分 登録番号
         
         
         
         
         
中国における登録数  
外国における登録数  
当該商標の実施使用態様(写真でもかまわない)
 
 
 
被異議申立商標の出願前3年間における当該商標の広告宣伝状況
時期 マスコミ 広告方法 宣伝地域 広告費用 合計
200 年 テレビ        
新聞、雑誌      
戸外      
その他      
200 年 テレビ        
新聞、雑誌      
戸外      
その他      
200 年 テレビ        
新聞、雑誌      
戸外      
その他      
 
 
被異議申立商標の出願前3年間における当該商標の指定商品の主な営業指標
200 年 販売量  
販売収入  
納税  
販売地域  
業界での順位  
200 年 販売量  
販売収入  
納税  
販売範囲  
業界での順位  
200 年 販売量  
販売収入  
納税  
販売地域  
業界での順位  
 
 
企業紹介(企業の歴史、経営範囲、資本金など)
 
当該商標の著名度を証明するその他の資料
 
 
著名商標の認定現状

現在中国商標局により認定された著名商標は約500件ある。2007年9月4日に商標局が「2007年に商標管理案件にて認定した130件の著名商標のリスト」、「2007年に商標異議申立案件にて認定した16件の著名商標のリスト」、商標審判委員会が「2007年に商標争議案件にて認定した51件の著名商標リスト」を発表した。異議申立案件にて認定された16件の著名商標の内、8件が外国申請者の商標であり、日本申請者の商標が3件あった。川崎重工業株式会社の「KAWASAKI及び図形」、豊田自動車株式会社の「LEXUS及び図形」、セーコーエプソン株式会社の「愛普生EPSON」である。

また、商標争議案件にて認定された著名商標には、外国申請者の商標が3件あり、その内1件が日本企業の商標である。それはバイオニア株式会社の「PIONEER/先鋒」である。これまでに認定された日本企業の著名商標は下記のとおりである。

現在認定された日本会社の著名商標

番号 商標 登録人/所有者 類別と指定商品
NISSAN尼桑      日産自動車株式会社(日本) 第12类:自動車
2 YKK YKK株式会社(日本) 第26类:ジッパー
3 大金DAIKIN及び図 大金工業株式会社 第11类:エアコン設備
4 Panasonic 松下電器産業株式会社 第9类:テレビ
5 HONDA 本田技研工業株式会社 第12类:自動車、オートバイ
6 豊田 豊田自動車公司 第12类:自動車及びその部品、付属品
7 KAWASAKI及び図形 川崎重工業株式会社 第7類:掘削機(機械)、ドリル(機械)
8 愛普生EPSON セーコーエプソン株式会社 第9類:プリンター
9 LEXUS及び図形 豊田自動車公司 第12类:自動車及びその部品、付属品
10 PIONEER/先鋒 バイオニア株式会社 第9類:音響など

以上の情況やデータによって分かるように、日系企業の商標が中国著名商標に認定されたケースはまだまだすくない。しかし、商標模倣や、侵害事件が多い現状にて、積極的に異議申立、取消審判及び訴訟を提起し、それと共に、自社の商標を著名商標として認定させるようにしたほうがよいと考える。このために普段から有力な証拠資料を収集しておくことをお勧めします。

 
(2007年)


ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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