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越境ECの中国における商標権リスク及びその対応


北京林達劉知識産権代理事務所
商標部 部長 中国商標弁理士
肖 暉(Sophia XIAO)
 
経済のグローバル化及びネットワーク化が進むにつれて、越境ECは企業が海外市場を開拓する好適な方法の1つになっている。しかし、2020年に入り突然発生した新型コロナ禍によって、ますます多くのユーザーが非接触型のオンライン取引をより好むようになり、世界の小売取引は急速にオンライン化、デジタル化に移行している。このような時代背景において、越境ECは今年、急速な発展を遂げ、知的財産の保護に新しいビジネスチャンス及びチャレンジをもたらした。本稿では、筆者のこれまでの実務経験を踏まえて、越境ECの中国における商標権リスク及びその対応を簡単にご紹介したいと思う。その内容が中国で越境EC事業の展開を考えている外国企業の皆様の一助になれば幸いである。

I.中国における越境ECの状況

「彼を知り己を知れば、百戦殆うからず」(敵についても味方についても情勢をしっかり把握していれば、何度戦おうが負けることはない)と中国の諺にもあるように、中国で越境EC事業を順調に展開するには、まず中国の越境ECの発展状況を理解することが必要である。

インターネットの普及につれて、家から一歩も出る必要のない、便利で速いオンラインショッピングは、主要な買い物の手段になり、中国消費者の人気を博すようになっている。近年来、スマートホンの広範な普及につれて、オンラインショッピングの発展に拍車がかかった。中国互聯網絡信息中心(CNNIC)が発表した第46回「中国インターネット発展状況統計」によれば、2020年6月までに、中国のインターネットユーザーは9億4000万人に、オンラインショッピングユーザーの規模はその79.7%を占める7億4900万人に達した。また、モバイルオンラインショッピングユーザーの規模は、モバイルネットユーザーの80.1%を占める7億4700人に達した。



中国のオンライン小売市場は、2013年から7年連続して不動の世界1位である。新型コロナ禍という深刻な問題に直面しても、今年上半期、中国はオンライン小売の売上高は依然として前年同期比7.3%増の51,501億元に達した。2020年1月から5月までに越境EC管理プラットフォームを経由して通関した中国の小売商品の輸出入総額は、前年同期比22.4%増の717億3000万元であった。

また、iiMedia Research Group(世界有数のモバイルインターネットの研究組織)のデータによれば、2015年から2019年の間、中国の「海淘」(ネットを通じて海外のサイトで買い物すること)ユーザーの規模は持続的に増加し、2019年の中国海淘ユーザーは前年同期比52.5%増の1億5400万人に達した。今年上半期、越境EC管理プラットフォームを経由して通関した中国の輸出入は26.2%増え、今年年末には、中国における越境ECの取引額は10.3万億元になると予測されている。



ここ数年、中国ECビジネスの盛んな発展と中国大衆の海外の高品質の商品に対するニーズの急増につれて、各大手ECプラットフォームは、「天猫国際」(Tmall International)、「京東全球購」(JD Worldwide)、「考拉海購」(Kaola.com)、蘇寧国際などの越境EC事業に乗り出した。多くの海外の有名ブランドも、その中に無限のビジネスチャンスを見出し、中国の越境ECプラットフォームへの出店を加速化させている。

中国最大の越境ECプラットフォームである天猫国際のデータによれば、今年の国慶節の(10月1日~7日)休暇期間、天猫国際の取引額は前年同期比で79%増加したことを、中国「電商報」が報道した。従来からの人気のある海外旅行先である百貨店や免税店においてもオンライン事業が急増している。そのうち、日本最大の免税店であるラオックス(LAOX)の海外旗艦店の売上高は前年同期比で105%増加し、香港ササ(SASA)の海外旗艦店の売上高は前年同期比で141%増加し、オーストラリア最大のドラッグストアであるケミスト・ウェアハウス(Chemist Warehouse)の海外旗艦店の売上高は前年同期比で24%増加し、日本の国民的ブランドである小林製薬の海外旗艦店の売上高は前年同期比で385%増加した。これまでに、天猫国際に出店を果たした外国ブランドは25,000以上になり、84の国や地域からの商品は5,100以上の製品類別をカバーしている。また、考拉海購のデータによれば、新型コロナ禍の期間中、日本の近鉄百貨店、スペインのドラッグストアチェーン店Farmacityなどの約1,000の海外ブランドが考拉海購に出店し、新店舗数は前期比で40%増加した。また、日本のドラッグストアチェーン店であるマツモトキヨシもコロナ禍の期間中に考拉海購に出店し、今年4月以来の売上高は月平均で87%上昇し、1日平均の購入客数は88%増加した。

これらのデータから、中国に進出している越境ECは外国企業の高い評価を得ていることがよく分かる。もちろん、越境ECのグローバル性、無境界性、バーチャル性などの特徴のため、知的財産権、税関、市場監督などの多くの面に矛盾したり、適用しなかったりする法律問題も起こっている。そのうち、特に際立っているのは商標権侵害に関する問題である。中国は、2009年に施行された「権利侵害責任法」におけるネットサービスプロバイダーの義務と責任の規定、2019年1月1日に新たに施行された「電子商務法」におけるECにかかる知的財産保護についての詳しい規定など、積極的に関連規定を定めている。例えば、「電子商務法」第42条には、商標権者の誤った侵害クレーム、または誤ったクレームを悪意で出した場合に負うべき民事賠償責任について初めて規定した。このように、中国は立法の面から、悪意のクレームの違法性と法的結果をある程度明確にしているが、まだ悪意のクレーム行為の広がりを完全に抑えることができていない。したがって、現在の中国のビジネス環境下で自身の商標権をより良く保護するには、冒認出願者の悪意のクレームに対処することが、海外権利者が中国で事業活動を正常に展開するための重要な課題の1つになっている。

II. 越境ECにおける商標権リスクに関する案件について

周知のように、商標権はかなり強い地域性を有している。国境を超えて、本来国内でしか供給されなかった商品または役務を他の国で普及させ、販売すると、もとからある地域の境界が打破され、その国の商標法で保護することになる。その際、その国の商標権による保護を獲得するには、通常、その国で関連商標を出願登録することが必要不可欠である。

しかし、バーチャル空間で実現される越境ECの場合、国境の制限がなくなっているため、ある国で獲得された商標権の使用は全世界範囲内での使用を意味することになる。もし、その他の国の商標権者がその国の法律に基づき、商標権を取得し、当該商標をインターネット環境で使用した場合、本来の衝突のない「平和」な状況が打ち破られてしまい、商標権の「越境衝突」が生じ、その国で関連商標を登録していない外国企業は、その国の商標権者の商標権を侵害するリスクに直面することになる。

弊所が把握している情報によれば、現在、中国の多くの越境ECプラットフォームは海外業務を展開し、海外の有名なブランドを導入するために、外国企業が出店の際に中国の商標登録証の提出を特に求めていない。例えば、天猫国際は、外国企業に自ら関連商標の中国における登録状況を確認し、リスクを重視するように、注意を喚起しているが、外国企業は自国で取得した商標登録証を提出さえすれば、天猫プラットフォームで旗艦店をオープンできる。そのため、多くの外国企業は現在、中国のECプラットフォームに出店する前に、中国において商標登録することをさほど重視していない。実務において、特にこの2年間の弊所とアリババグループとの知財エコシステムの提携プロジェクトの経験から見れば、多くの外国企業は天猫国際のECプラットフォームに出店した後に、中国の商標権利者にクレームを出されたり、ひいては権利侵害訴訟を提起されたりすることで、店舗を正常に運営できなくなり、多くの時間と金銭コストをかけてトラブルに対処せざるを得なくなっている。以下に、弊所が代理した2つの実際の案件を通じて、外国企業が中国で商標権をタイムリーに取得していないことによるリスク及びその対応策をご説明する。

1. スペインの化粧品ブランド「Sensilis」の冒認出願事件

2017年6月2日、アリババグループ傘下のTmall Discoveryはスペインの6つの有名なブランド「Isdin」、「Martiderm」、「Lacabine」、「Sensilis」、「Sesderma」、「Siguladerm」と提携して、中国女性の肌特性を考慮した美容医療の新製品の共同開発をするために、「グローバル新製品実験室」のスペイン拠点を設立した。2018年3月31日、ブランド「Sensilis」の所有者であるスペインのDERMOFARM,S.A.(以下DERMOFARM社という)は戦略パートナー企業として、天猫国際に正式に出店した。



「Sensilis」とアリババグループの調印式
 
DERMOFARM社が中国で「Sensilis」の宣伝と普及に力を入れたことで、「Sensilis」に対する中国消費者の認知度はますます高くなり、その売上高も持続的に増加した。しかし、DERMOFARM社は中国で登録された商標をタイムリーに更新していなかったため、その商標が他人に冒認出願されてしまった。2019年、冒認出願人が天猫プラットフォームでDERMOFARM社の商品に対して、突然クレームを提出しはじめ、ブランドの使用料を支払うことを要求し、さもなくば関連商品の販売行為を差し止めると、DERMOFARM社の販売活動を妨害した。DERMOFARM社の中国代理弁護士は、アリババグループのプラットフォームにおける「知的財産権-ブランドに対する妨害行為の解決対策」を調べて、商標抵触を解消できる可能性を初歩的に評価することについて、アリババグループの知財エコシステムの提携プロジェクトのパートナーである弊所に依頼してくれた。弊所とDERMOFARM社の中国代理弁護士との相談と初歩的な調査によって、以下の事実が判明した。

(1) 「Sensilis」はスペインにおけるスキンケアの3大ブランドの1つとして、高い知名度を有している。21世紀初めに、「Sensilis」ブランドの化粧品は海淘及び代理購入によって中国市場に入ってきて、中国消費者の人気を博した。特に、2017年にTmall Discoveryと連携して「グローバル新製品実験室」のスペイン拠点が設立されてから、国内の多くの有名なメディアに広く報道され、ブランドの知名度は大幅にアップした。

(2) 係争商標「」の元の商標権者である珠海無齢時代生物科技有限公司と譲受人である宿遷市宏興建設工程有限公司は、実際に使用するつもりがないのに、係争商標の他に「」、「」、「」、「」などの顕著な特徴を有する他人の商標と同一または類似の多くの商標を冒認出願した。

上述の事実に基づき、弊所はアリババグループに無効宣告請求の評価レポートを提出し、且つ無効宣告資料をクレームを受けた後の申立証拠として使用した。弊所が提出した評価レポート及びDERMOFARM社が無効宣告を積極的に請求した事実に基づき、アリババグループはブランドに対する妨害行為を解決する手続きをスタートさせた。

2019年3月、冒認出願人が商標局から送達された無効宣告資料を受領した後に、和解案を提案して、係争双方が最終的に和解に至ったことについて、DERMOFARM社の中国代理弁護士から連絡があった。同社の代理弁護士は、弊所に無効宣告請求を取り下げることを指示するとともに、本件における弊所の協力に対して感謝してくれた。2019年7月、係争商標の譲渡登録が順調に行われ、「Sensilis」は真の商標権者であるDERMOFARM社の元に戻り、当該冒認出願事件は円満に解決した。 

2. タイの通信最大手AIS社の商標「AIS」の冒認出願事件

タイのトップニュースによれば、2019年世界モバイル通信ブランドのランキングが発表され、タイのタクシン・チナワット元首相が1986年4月に設立したAIS社が、チャイナ・モバイル社を追い抜き、世界ランキング1位の最強の通信ブランドに躍り出た。

 

AIS社も中国において、商標が冒認出願された。AIS社の商標「AIS」は、泰国股份有限公司という香港の登録会社に冒認出願され、当該冒認出願者は2019年4月、冒認出願した商標「」に基づき、アリババグループのプラットフォームにクレームを提出した。その結果、AIS社は、その中国代理店がプラットフォームにおいて正常な販売ができなくなり、飛猪(フリギー、アリババグループ傘下のオンライン旅行サービスプラットフォーム)で「AIS」のSIMカードを販売する計画も頓挫した。

弊所はAIS社から、商標抵触を解消する依頼を受け、AIS社との話し合い及びインターネットでの調査を初歩的に行い、本事件を分析することで、判明した以下の事実に基づき、泰国股份有限公司が登録した商標「」(係争商標)に対する無効宣告請求の成功率が60%以上であるという結論を出した。

(1) 「」はAIS社が独創した商号商標であり、係争商標の出願日(2014年5月7日)以前に、「SIMカード」などの商品及び「通信サービス、モバイルインターネットサービス」などの役務において、中国において先行使用され、且つ一定の知名度を有している。

(2) AIS社は著作物「」に対する著作権を有している。この著作物は係争商標の出願日以前に設計が完成し、公開された。係争商標の図形部分とAIS社の先行著作権を有する著作物とは、実質的に類似している。

(3) 冒認出願人は係争商標の他に、「LOTUS SINCE 1980」、「LANNA'S」、「MISTINE」などのタイの多くの有名なブランドを冒認出願したが、それは実際の経営における必要範囲を遥かに超えている。冒認出願人は実際のニーズを超えた商標の大量登録をし、他人の知名商標を冒認出願しようとする一貫した悪意を持っている。

アリババグループは、弊所が提供した評価レポート及びAIS社が無効宣告を請求したという事実に基づき、商標抵触を解消する手続きをスタートさせた。2020年6月、中国国家知識産権局は係争商標を無効とする裁定を下した。AIS社、アリババグリープのプラットフォーム及び弁理士による協力で、当該冒認出願事件に対する法的行動は初歩的な勝利を収めた。

III. 越境ECにおける商標権リスクへの対応

1. 商標の冒認出願による抵触の解消

前述したように、中国市場への進出や知財ポートフォリオが遅れている外国企業は、商標などの知的財産権が冒認出願されるリスクに直面している。これまで弊所が取り扱った案件では、多くの有名な外国企業が中国のECプラットフォームで出店して間もなくか、又は自社ブランドの知名度が高まった後に、商標の冒認出願人からのクレームを提出され、高額の譲渡費用やライセンス料の支払い、または独占代理販売契約の締結などの不合理な要求をされることで、正常な経営に深刻な影響が及んでしまったケースがある。このような問題に直面して、外国企業は先手を打てず、事後に手立てを講じることしかできないが、法的な手段を利用して積極的に対応する必要がある。

弊所が把握している情報によれば、現在、例えば、アリババグループ傘下のプラットフォームは、商標抵触を解消する仕組みを試行している。商標権にかかる衝突が生じた場合、アリババの当該プラットフォームと提携しているサービス業者(代理機構)に、係争商標権を無効にする可能性の有無、無効宣告請求の成功率の評価をしてもらえる。もし、サービス業者による商標の評価状況によって、無効宣告請求の成功率が60%以上であれば、無効宣告請求の期間に、無効宣告資料をクレームを受けた後の申立証拠として使用できる。また、アリババグループのプラットフォームもこの期間中に対応措置を講じてくれる。したがって、不合理なクレームを受けた時、外国の権利者は出店しているプラットフォームに商標抵触を解消する特別な仕組みがあるか否かを確認すべきである。もし関連する仕組みがあれば、専門の弁護士や弁理士と相談して、当方商標の知名度及び相手側の悪意による冒認出願及び悪意のクレームに関する証拠を収集して、案件の具体的な情況に応じて、法律に基づいて、異議申立、無効宣告請求、3年不使用取消審判、交渉などの相応する法的手段を講じ、抵触を解消すべきである。

2. 商標の権利取得後のウオッチングと法律に基づく権利保護

オンラインショッピングの急速な発展に伴い、オンライン販売における知的財産権侵害問題もますます深刻になっている。そのため、たとえ事前に中国で商標を出願した外国企業であっても、商標権を順調に取得した後に、事業の発展につれて、決して油断せずに自社商標のウオッチングと法律に基づく権利保護を積極的に行わなければならない。模倣品の氾濫を無視したら、これまで占めていた市場シェアを大幅に奪い取られ、中国における関連商品の売上高と利益が大幅にダウンし、更に偽物や劣悪製品または模倣品の氾濫によって、消費者の自社製品に対する評価が悪くなり、企業の信用が損なわれることになる。オンラインによるスピード販売の時代において、商標のウオッチングと権利保護、特にオンラインのウオッチングと権利保護はますます重要になっている。

現在、権利行使の手段として、第三者の取引プラットフォームでのクレーム、警告と交渉、行政取締、民事訴訟、刑事告発などが挙げられる。そのうち、第三者の取引プラットフォームにおいてクレームを提出することは、オンラインの解決の仕組みとして、裁決期間が短く、権利保護コストが低いという理由で、ますます多くの企業から広く活用されている。以下に、ECの知財保護プラットフォームを例にして、権利保護によく利用されるクレーム手続きを簡単にご紹介する。

通常、商標権者はインターネットで侵害品を発見したら、アリババグループ、京東などのECが運営している知財保護プラットフォームを利用してクレームを提出する。各プラットフォームは処理手続きが若干異なっているが、概ね同様である。基本的な手続きは以下のとおりである。



簡単にいえば、権利者はまず関連の知財保護プラットフォームでアカウントを登録し、プラットフォームの要求に基づき、身分証明資料(代理業者経由してクレームを提出する場合、知的財産権の所有者が署名して発行した委任状の提出が必要である)及び関連知的財産権の権利証明資料(例えば有効な商標権及び特許権の登録証書、著作権の登記証書)などをアップロードすることが必要である。プラットフォームの認証を得たら、権利者は当該アカウントからクレームを提出できる。クレームを提出する際に、「己方(当方)の権利」を選択して、クレームを提出したい商品(商品に対してクレームを提出できるだけで、店舗に対してクレームを提出できない)リンク(複数のリンクに同時にクレームを提出できる)を提示して、クレームの理由を説明し、かつ関連証拠を提出する。プラットフォームはそれを審査して、クレームが成立すると判断したら、侵害リンクを削除し、相手に通知する。もしクレーム対象者が申立てる場合、申立ての内容がクレーム提出者に転送される。さらに、クレーム提出者が申立ての内容を認めず「異議申立て」をする場合、プラットフォームは再度審査を行い、侵害品のリンクを削除すべきか否かを再度判断して、新たな結論を出す。実務において、資格審査は通常、約5~10営業日かかるが、クレームを提出してからリンクが削除されるまで、全ての手続きが完了するまでには約1ヶ月かかる。

もちろん、現在、各プラットフォームで知財侵害判断を担当するスタッフの専門的能力はまだ十分でなく、特に特許権や標識が同一でない商標権に関する侵害事件の判断はより複雑であるため、オンラインでクレームを提出する効果はあまり良いとはいえない。したがって、権利者は行政取締、訴訟などを通じ、積極的に自分の権利を守ることを考えなければならない。

IV. 越境ECへのアドバイス

前述したように、経済のクローバル化とECの急速な発展による利便性によって、大量の海外の有名なブランド及び中小ブランドがECプラットフォームによって中国市場へ進出しているが、国によって商標システムが異なるため、商標権の衝突も多くなっている。以下に、商標権の保護に関して、中国市場への進出を希望している海外越境EC企業に、いくつかのアドバイスをさせていただければと思う。

1. 冒認出願のリスクを回避するために、登録すべき商標及びその保護範囲(商品及び役務の区分)を事前に確定することで、中国における安全な運営を保証する。登録したい商標が英語、またはひらがな・カタカナ商標である場合、漢字社会である中国消費者にその商標を速やかに熟知、記憶してもらうために、できるだけ早く対応する中国語の商標を選定すべきである。

2. 出願する商標及びその区分を決定したら、早いうちに中国における商標リスクを調査して、登録及び使用におけるリスクがあるか否かを確定する。また、同一または類似の先行商標があるのを見つけたら、その先行商標が冒認出願されたものなのか、それとも偶然の一致なのかなどの様々な状況をそれぞれ分析し、さらにその分析結果に基づき、異議申立、無効宣告請求、3年不使用取消審判などの法的な措置を講じるか、それとも交渉などの法的ではない手段を利用するかを決めて、先行商標との抵触を解消すべきである。抵触の解消が困難であったり、解消のコストが高かったりする場合、事前に用意していた候補商標を出願するプランを採用することも考えられる。

3. 調査によって、商標の登録・使用におけるリスクがないと確定できたら、早めに中国で当該商標を出願すべきである。現在、中国で商標を出願してから登録査定されるまで、通常8~10ヶ月かかるため、外国企業は中国市場へ進出する1年前から、中国での商標出願に着手するのが望ましい。

4. 前述したように、権利取得は商標権保護の第一歩に過ぎない。権利が正式に取得できた後も、登録商標を安心して使用すると同時に、特定の主体と分野に対する定期的なモニタリングなどを介して、オンラインECプラットフォームの情況をフォローすべきである。盗作や模倣品を撲滅するオンラインにおける権利保護は、中国市場の正常な運営を保証する最優先事項になっている。

5. 最後に、一定の範囲内で、商標の保護範囲を拡大させ、権利の抜け穴を防止する商標のポートフォリオをきちんと作成することを外国企業にご提案したいと思う。実務において、多くのEC経営者が関連商品の商標を積極的に登録していたが、関連役務の商標を防御目的で登録することを失念していたために、冒認出願人につけ入るすきを与えてしまった。一部の越境ECは、その主要な商号・商標を同時に店舗名称として使用し、オンライン店舗のウェブページには、経営者名の商号・商標が「XXX旗艦店」などの形で掲載されている。他人に第35類を指定役務として「XXX」を冒認出願された場合、権利侵害の理由で「XXX旗艦店」の「XXX」の名称変更を要求できる。また、冒認出願人が「XXX」を名称としてオンライン店舗を開設した場合、その「XXX」と命名したオンライン店舗と「XXX」ブランドの真の権利人は関連があると、消費者の混同誤認を引き起こすおそれがある。したがって、防御の角度から、越境EC企業は第35類をも指定して商号商標を出願することをお勧めする。さらに、例えば、商品の包装に含まれている中国語の名称、外国語の名称、図形、数字、企業の略称や別称、包装装飾、特有の商品名称、特有の型番名称などの商品の全体的な包装デザインから、商標要素を発掘し、全方位の知財ポートフォリオを作成することが考えられる。

V. 終わりに

ECビジネスや海淘などの絶え間ない発展につれて、ますます多くの海外の高品質の商品がECルートを介して中国消費者のもとに届いている。中国では、「兵馬未動、糧草先行」(部隊が出勤する前に、まずは糧秣を先行させる、つまり行動する前に準備を整えるべきであることのたとえ)という諺がある。越境ECビジネスに当てはめれば、「市場進出する前に、まずは商標を先行させる」ということである。したがって、競争が激化している中国の越境ECプラットフォームで頭角を現すには、中国で事業を始める前に、中国で商標の調査と出願を行い、事業の発展に合わせて、タイムリーに商標のポートフォリオを調整し、ウオッチングと権利保護をきちんと行うことを、中国市場への進出を計画している外国企業の皆様にご提案したい。

参考文献:

1. 「第46回中国インターネット発展状況統計」(中国互聯網絡信息中心、2020年9月)
2. 「2020年上半期中国越境ECの業界動向に関する研究レポート」(iiMedia Researchサイト、2020年8月27日)
3. 「10月1~7日天猫国際取引高が前年同期比で79%の増加」(雲合、「電商報」、2020年10月9日)
4. 「マツモトキヨシが考拉海購に出店 売上高が月平均で87%増加」(雲合、「電商報」、2020年9月27日)
5. 「越境EC言語環境における商標権侵害と悪意のクレームの規制・対策・アドバイス」(曾夢倩、楊敏、万善徳、「中華商標雑誌」、2020年9月22日)
6. 「わが国の越境ECにおける知的財産権リスクとその対応」(李莉、李華明、広東農工商職業技術学院、2017年11月)
7. 「越境EC環境における渉外商標権侵害に係る法律適用に関する研究」(呂奮超、蘇墨祥、華僑大学、2019年5月)
8. 「中国ECプラットフォーム及びSNS知的財産権侵害問題の対応マニュアル」(日本語)(日本貿易振興機構北京事務所知識産権部、2019年1月)
 
(2020)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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