中国における馳名商標の保護についての小論

近年、知的財産の保護が、注目されています。中国において多くの地方政府では、地元企業に対し、知的財産戦略を構築するよう呼びかけ、知的財産保護の問題は地方政府の重要な議事日程に入れられています。この戦略課題の中核は、主として知名な企業や知名な商標を含むブランドを獲得することです。地方政府によっては、著名商標（中国語：馳名商標）の認定は、知的財産保護に関する仕事の良いか否かを評価する一つの指標となっています。もし、ある地方政府で、著名商標と認定された商標の数が多ければ、その地方政府の知的財産保護に対する取り組みは、よく普及していると思われます。自社の商標が著名商標と認定された企業は、地方政府のために栄誉を勝ち取ったと看做されており、何らかの面でこの地方政府からその企業は優遇政策を享有することができ、さらに、地方政府から奨励を受けられる可能性もあります。また、地方政府の管轄域内で著名商標と認定された商標の数は、その地方政府の役人が自分の政治的成果を誇る目安になる可能性があります。このような考え方の指導の下で、多くの企業は巨額の資金を投入し、手を尽くして、さらに、いわゆる「権利侵害」の案件を作り出し、証拠を偽造し、人為的に著名商標の認定に必要な条件を捏造し、著名商標として認定して貰うことに奔走しています。

では、著名商標の認定はどのように位置づけられるべきでしょうか。著名商標の本質とは何でしょうか。さらに、著名商標の認定をどのように看做せばよいのでしょうか。

現行の「中国商標法」第１３条は、著名商標の保護について、より具体的に規定はしているものの、著名商標に関する確固たる定義は規定していません。最近、多くの専門学者は、著名商標とは何であろうか、著名商標と商品の品質との間に、必ずそうなると言う関連性があるか否かなどについて、真剣に討論しています。著名商標は「工業所有権の保護に関するパリ条約」における「well-known trademark」に由来しています。字面から見れば、「広く知られている商標」と言うことができます。しかし、広く知られている商標は、この商標を使用した商品またはサービスが必ずしも優れた品質を具有していることを意味しているとは限りません。即ち、著名商標と商品またはサービスの品質との間には何の因果関係も有してはいません。著名商標は、ただこの商標を知っている人が多く、その使用地域が広く、使用された歴史が長いため、消費者や取引業者の間で高い知名度を有しているに過ぎません。このような著名商標を使用した商品またはサービスの品質は、著名商標の評価および認定のための必要条件ではありません。

しかし、現実においては、長く存続してきて、消費者や取引業者の間で広く知られている商標を使用した商品は、通常、安定して信頼できる品質を持っています。これこそ、優勝劣敗の理論が商標分野における一種の現れだと思います。従って、普通の中国消費者にとって、ある商標が中国の著名商標と認定されたら、この商標を使用した商品またはサービスは必ず信頼できる高品質を有していると思われます。中国消費者は、著名商標と高品質の商品またはサービスとを直接結びつける傾向があります。ある商標は、一旦著名商標と認定されたら、この商標そのもののブランド価値が直ちに上がり、その商品またはサービスのよい評判が広がるのに伴って、販売業績も著しく向上します。これは多くの中国企業が著名商標認定の申請に熱中している原因の一つです。

なお、現行の商標法に定める規定および商標実務からみれば、中国における商標を主管する当局は著名商標に対して、「受動的認定、主動的保護」の原則を採用しています。著名商標は、商標権侵害事件または商標権紛争事件だけにおいて認定される可能性があります。よって、著名商標認定の機関は商標局、商標審判委員会および裁判所です。

このように、商標登録出願の段階において、後願の商標が明らかに他人の商標の模倣または剽窃であっても、当局は、この後願の商標が他人の商標に対し悪意を持った模倣または剽窃であるか否かを主動的に考慮しません。ただ、この商標と他人の先行商標権と類否しているか否かだけを考慮します。即ち、商標自身が顕著性を有していて、且つ商標の使用禁止に関る規定に違反しない前提で、中国商標法第28条に基づき、審査を行います。先行商標権者は、商標異議申立または登録取消審判を通してしか、後願の商標権侵害商標の登録を阻止し、または取消すことはできません。したがって、先行の商標権者に大きな負担をかけています。ところが、先行商標権者の商標は一旦、中国の著名商標と認定されれば、当局は、商標登録出願の審査段階において、中国商標法第13条の規定により、後願商標の登録出願を拒絶する、いわゆる主動的保護を行う可能性があります。しかも、著名商標の商標権者は、中国の地方工商行政主管機関に、この著名商標の商標権を侵害した行為を取り締まり、阻止することを請求したとき、よりスムーズに進めることができ、より易く支持されます。この現象は中国企業が著名商標認定に熱狂して、追及している原因だけではなく、多くの外国の知名企業が中国において著名商標認定を考慮し、それを目指している重要な要因でもあります。

中国の著名商標に対して、適当な保護を与えることは、とても大切であり、国際公約の規定にも合っていると思います。多くの外国企業の有名ブランド製品は、中国市場に進出した場合、第三者により、商標を悪意で模倣され、または、先取りして登録された問題に直面するとき、著名商標の認定は、それらの企業が誠実信用の原則に違反した不法行為を排除する重要手段であり、有利な武器になっています。しかし、著名商標への保護はこの商標自身の特徴および使用範囲を考慮すべきです。盲目的に著名商標の役割を誇張してはならないと思います。さもなければ、著名商標の本質的な役割と中国政府の著名商標認定の初志に背くことになります。

強い顕著性を有しかつ独創性のある商標に対しては、より広い保護を与えるべきだと思います。なぜなら、このような商標の創作および使用は、その創作者および使用者の高度な知恵および心血が注がれており、その所有者が、このような商標をゼロから作り出して、弱いブランドから強いブランドまでに育てて、誰も知られていない頃から、著名に至るまで育成するのは、大量の人力、物力および時間を投入する必要があるからです。第三者が、偶然に、このような著名商標と同一または混同性のある類似商標を創作し、使用することはあまり考えられません。従って、このような著名商標の保護は、全区分の商品およびサービスをカバーすべきだと思います。そして、類似商標に関る判断基準もより厳しくすべきであり、いかなる混同や誤認が生じることにより、著名商標の所有者のブランドイメージに損害を与えることを厳格に禁止すべきです。

一方、非独創性または顕著性が比較的弱い商標に対して、分別して取り扱う態度を取るべきだと思います。もし、確かに長く使用されてきて、使用地域も広くて、一般消費者に周知された商標であれば、このような著名商標は、独創性の著名商標と同じ保護を受けられるべきです。このような商標に関るブランドイメージは、他人により悪意で模倣される虞が高いからです。しかも、この商標は、一般消費者に広く知られているため、他人がこの商標と同一または類似の商標を、非類似の商品において使用した場合でも、一般消費者に誤認させて、誤って購入させる結果に導き、さらに、著名商標の所有者および消費者の利益に、損害を与える可能性があります。しかし、もし、比較的に短い時間で一定のブランドを育て上げ、または特定の専門グループにおいて高い知名度を有しているだけで、一般消費者に知られていない商標であれば、この商標とある程度類似しているが、明らかに模倣の意図を有していない商標に対して、より寛容な態度をとるべきことだと思います。このような著名商標への保護は、この著名商標の指定商品または指定役務と関連のある商品または役務だけに限り、有限の商標資源の浪費を回避すべきことだと思います。

近年、中国における商標の登録出願の量が激増している現実に鑑み、新しい商標を創作して、さらに登録を許可されるのは容易なことではありません。商標抵触の可能性が大きいからです。更に、よい商標を案出して優れたブランドに育成することは、一層難しいことです。現在、中国政府は、自国の企業に自社の商標を使用し、自分の知名商標と知名商品を作り出すことを奨励していると同時に、外国企業の知名商標の保護に対しても積極的な態度を取っています。しかし、地方毎に、外国企業の著名商標または知名商標を保護する積極性はそれぞれ違いますし、地方保護主義もときには頭をもたげています。中国における知的財産への保護は更に高まり、他人の知的財産を尊重することが、人それぞれの自発的な行為になり、模倣品および商標権侵害の商品の中国における市場が消えることを期待しています。

（2009）