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2007年度知的財産権に関する若干の問題について


北京林達劉知識産権代理事務所  
 
2007年度において、世界的な知財業界の発展とともに、中国においてもいくつかのホットな話題があった。これらのホットな話題を巡って、知財業界では激しい議論が行われた。弊所は中国の渉外特許事務所として、クライアントの関心を集めそうな話題を整理したうえ、今まで表面化しなかったような問題を選び出し以下に説明したいと思う。少しでも参考になれば幸いである。
 
一、カタログの著作権保護について

意匠・商標権の権利侵害事件とは別に、カタログの模倣事件が発生したということは注目に値する。意匠・商標権権利侵害事件と同様に、カタログに対しても、知的財産権の保護を強化する必要があると考える。
 
1)判例紹介

今まで裁判所から出された判例を調査したところ、下記の3件のカタログ著作権侵害事件があった。即ち、(2004)浦民三(知)初字第15号、(2005)沪二中民五(知)初字第319号および(2006)二中民初字第17317号判例である。

その内、(2006)二中民初字第17317号事件の判決要旨を例として紹介したいと思う。

案件番号:(2006)二中民初字第17317号
原  告:BLUMBERG INDUSTRIESINC.(米国企業)
被  告:中山市巨光灯饰有限公司
北京巨光照明電器有限公司

判  旨:

原告は下記のように主張する。

原告はアメリカ法により設立され、各種ライト製品の設計及び販売に従事する専門会社である。「Fine Art Lamps」は企業名称として、実務上の経営活動に幅広く使用されている。1993年以降、原告はほとんど毎年製品カタログを発行し、その内1993年、1994年、1995年、1996年、1997年、1999年、2000年、2001~2002年、2002~2003年及び2005年版の製品カタログが存在している。原告はその内の1999年版と2005年版の製品カタログをアメリカ著作権管理機関で著作権登録を行い、上記製品カタログの著作権者であった。また2000年より、原告は相次ぎその一部のライト製品につきアメリカ著作権管理機関にて著作権登録を行ってきた。第709310号とする本件係争ライト製品は著作権登録を行った製品である。原告は、中国とアメリカが「文学・芸術作品を保護するベルヌ条約」に加盟しているので、原告がその発行の上記歴年版の製品カタログ並びに版権登録を行ったライト製品に対し所有している著作権は中国の法律によっても保護を受けられるべきであると主張した。被告は原告が著作権を所有する数冊の製品カタログ中の製品図画を大幅に剽窃したのみではなく、更に原告の著作権を侵害するライト製品を生産・販売した。
 
被告中山巨光公司は下記のように反論した。

当社はライトの研究開発、設計、生産及び販売の綜合会社として、自社保有の各種ライト装飾品を独自に開発・生産する完全な能力を有し、他社の製品を模倣して生産又は販売する必要はない。原告が提供した証拠をもって、それが本件係争ライト製品カタログ及びライト製品に関して著作権を所有しているとは証明できない。当社は、D2074となる本件係争ライト製品を生産していなく、北京巨光公司は当社より納品したのでもなく、原告も当社に原告の著作権を侵害した行為があると証明できない。原告が提出した賠償金額及び訴訟のため支払った費用も不合理的な箇所が多々あり、当社は裁判所に対し、事実を究明し、法により原告の全ての訴訟請求を却下するよう請求する。
 
2006年12月19日に、北京市第二中等裁判所は、原告に有利となる一審判決を言い渡した。
 
裁判所は下記のように認めている。

①原告はアメリカ法により設立した会社である。アメリカ及び中国は「文学・芸術作品を保護するベルヌ条約」加盟国であり、原告がその創作作品に対し享有する著作権は、中国著作権法による保護を受けるべきである。
②中国著作権法によれば、反対の証明がない限り、作品に署名した自然人、法人又はその他団体は著作者となり、著作権は作者の所有とする。
③原告が提出した証拠によりその製品カタログは中国著作権による保護を受ける作品であることが証明され、原告の4件のライト製品は実用機能をもった美術作品として、同じく著作権による保護を受けられる作品である。
④原告が北京巨光公司より公証付で購入したD2074号の「スタンドライト」製品は、原告が著作権を所有する709310号となるライト製品図画と類似しており、色彩と装飾模様において僅かな修正を加えたにしても、原告の作品を剽窃したと認定すべきであり、原告の著作権を侵害したものになる。
 
裁判所は、上記に基づき下記のように判決を言渡した。

①両被告が著作権を侵害した製品図画を含む製品カタログの印刷製作、配布を直ちに停止し、なお原告の著作権を侵害する係争ライト製品の販売を停止すること。
②両被告が北京日報を通じて原告に対する公開謝罪の声明を掲載すること。
③両被告が経済損失及び合理的な訴訟費用合計186,000人民元を原告に支払うこと。
 
(2)法律根拠

著作権法3条、第11条
著作権法実施条例4条

3)法的対策及びアドバイス

 法律対応の前提

著作権侵害において、相手に対するアクションを起こすことは可能であるが、侵害の関係証拠を収集・提示する必要がある。通常、著作権侵害事件において、下記の三種類の事項を証明する必要がある。

A  権利を有すること

事件に係わる図画或いはその他の作品は著作物であるが、その作者が独自に創作した図案或いは作品でなければならない。
著作権登記を行った場合、著作権登記証は著作権の有効性に関する基本的な証明として提出することができ、反証がなければ、認められる。その他、出版物、自筆原稿、デザイン図面なども著作物創作の証明にもなる。
なお、カタログは正式な出版物ではないので、発行の日付などを証明する必要がある。通常、著作権を有することを証明するためには、デザイン図面、図案を最初に掲載したカタログの原本、カタログの印刷証明(印刷契約、証明書など)などを証拠とすることができる。
カタログの発行または図画の創作に関する証拠があれば、著作権の所有を証明できると考える。勿論、この場合には創作日付が相手のカタログの発行より早いことを証明する必要がある。
 
B  権利侵害行為の存在

「著作権法」46条と47条には著作権侵害行為の種類が規定されているが、これには関係証拠を提出し、侵害行為の存在を証明する必要がある。
侵害者が自己のカタログに著作権保有のカタログと類似する図画を使用した場合には、他人の著作物を剽窃した行為を構成する可能性がある。このような場合、侵害者のカタログを公証付で入手できれば、有効な証拠になる。
また、侵害者が自ら創作したことに関する証拠を提出して自ら創作したものであると反論することも考えられるような場合、権利者としては、侵害者が権利者のカタログを入手できること、つまり、権利者のカタログが公開されているものであることに関する証拠を提出すれば、さらに剽窃したという主張を強化できる。
 
C  権利侵害行為による損害

侵害者に損害賠償を要求する場合、損害を受けた事実と金額を証明する必要がある。また、損害に関する証拠を提出しなくても、AとBの事実が証明できれば、侵害行為の差し止めは要求できるが、多額な損害賠償が認められることは難しい。
 
 可能な法律対応及びアドバイス

著作権侵害事件においても、警告書の発送、直接交渉、行政機関への摘発請求、民事訴訟の提起などの方法を取ることができる。可能な法律対応を取るためには証拠収集がとても重要である。証拠収集について、以下のようにアドバイスしたい。

A、権利者として、そのカタログに対し著作権登記を行うこと。
B、侵害者のカタログの発行前に、既に存在していた権利者のカタログ創作の証拠、印刷契約、権利者のカタログの公開に関する証拠を収集・保管すること。
C、侵害者に対し、実態調査を行い、被疑侵害製品の製造の有無を確認すること。
D、権利者の製品或いはデザインに関する証拠を収集すること。
E、公証付きで、被疑侵害製品を購入し、カタログを入手すること。

権利者が著作権を有するということが明白ならば、侵害者の侵害行為を確認した上、関係証拠を収集することをお勧めする。

上記の証拠収集のほかに、非侵害確認訴訟を避けるために、警告書を発送せず、侵害者と連絡をとり直接に交渉することができれば、プレッシャーを掛けて、侵害行為の差し止めを要求することができる。もし侵害者が対応してくれれば、迅速に低いコストで事件を解決することができる。もし侵害者が侵害行為の差し止めを拒絶した場合、著作権侵害訴訟を提起することが考えられる。
 
二、特許権間接侵害

多くの国では、特許法或は司法実務における間接侵害行為が規定されている。中国現行法には間接侵害の規定がなく、最高裁判所による「民法通則の執行貫徹における若干問題の意見(試行)」第148条に、権利侵害行為の教唆幇助等による故意又は過失、損害の発生、損害と行為との因果関係を主張及び立証すべきであり、間接侵害行為を不法行為として、直接侵害者との連帯責任を追究することができ、また間接侵害者だけを訴えることもできるという規定のみがある。

間接侵害行為の範囲は、裁判が例少ない現状では明確とはいえないが、特許に係わる案件の増加に伴い、間接侵害案件も増え、裁判所も多くの間接侵害案件を受理している。次のような中国の裁判所での判例を紹介したい。
 
【判例】

原告:日本組合化学工業株式会社、庵原化学工業株式会社
被告:江蘇省激素研究所有限公司、江苏省激素研究所実験四廠
一審案件番号:(2003)寧民三初字第84号
二審案件番号:(2005)蘇民三终字第014号

1)経 緯

日本組合化学工業株式会社及び庵原化学工業株式会社(以下は併せて「原告」という)は江蘇省激素研究所有限公司及び江苏省激素研究所実験四廠(以下は併せて「被告」という)を相手として、2003年4月に南京市中等裁判所に特許権侵害の訴訟を提起した。両案件に係わる特許はある農薬の活性成分の作製造製方法(方法特許)及び当該活性成分を含有する農薬組合物(製剤)に係わるものである。

裁判所は原告が提出した証拠を認め、且つ被告が特許権を侵害したことも認めて、2004年10月に一審判決を言渡し、被告に被疑農薬製剤を生産、販売及び申出販売する行為を停止し、原告の方法特許の使用を停止し、且つ損害を賠償するよう命じた。

その後、被告は全ての侵害行為を否定し、江蘇省高等裁判所に上訴し、原告も間接侵害につき上訴した。二審において、裁判所は2005年1月に当該上訴を受理し、公開審理を行った。

2)裁判所の認定

農薬製剤の製造、販売及び申出販売に関し、原告が提出した証拠には被告が関連雑誌に掲載した被疑農薬製品の広告、外国で販売した被告名称付きの製剤製品、原告が第三者に購入を依頼した公証付き農薬製剤製品及び被告が既に農薬管理機関より取得した当該農薬の登録証明情報等がある。
裁判所は原告が提出した被告の関連雑誌に掲載した被疑農薬製品の広告により、被告の申出販売行為を認定し、また原告が提出した被告の名称付き製剤製品により、被告の販売行為を認定した。

被告が被疑侵害製品を製造した行為について、裁判所は、被告が被疑侵害製品を販売した以上、販売した被疑侵害製品の出所を証明できる証拠を提出しない限り、被告自身が被疑侵害製品を製造したと認めざるを得ないと推定した。

裁判所は被疑農薬製品の農薬登録書の記載事実により、被告が侵害製品を製造したと認定した。被告が販売した製品の包装及び農薬登録情報における被告の農薬製剤製品の活性成分及び構成要件が原告の製剤特許の保護範囲に含まれるので、裁判所は上述の事実により、被告が原告の製剤特許を侵害したと認めた。

方法特許の認定に関し、当該農薬活性成分は、原告が特許出願前に農薬管理機関に登録したこともなく、更に国内市場でも販売したことがないため、新製品に属するものと考えられる。よって、原告の方法特許は新製品の製造方法を含むと考えるべきである。

 中国特許法第57条第2項の規定によれば、特許侵害紛争が新しい製品の製造方法の発明特許である場合、同一製品を製造する団体或いは個人は、その製品の製造方法が当該特許方法と異なることを証明しなければならない。 被告は原告の特許方法を使用しなかったとを主張するが、具体的な製造方法を証明できる証拠を提出することは出来なかった。その為、被告が原告の特許方法を使用して、被疑侵害製品を製造し、原告の方法特許を侵害したと認めざるを得ない。

間接侵害に関し、二審裁判所は次のように認めた。「ある農薬活性成分の生産が特許の間接侵害となるかどうかを認定するために、まず当該農薬活性成分が特許製品の製造に用いる重要な専用部分であると言うこと、つまり特許製品を製造することは当該農薬活性成分唯一のビジネス用途であることを確認しなければならない。」原告の製剤特許は一種の農薬活性成分の製造方法(方法特許)及び当該活性成分を含有する農薬組合物(製剤)であることに鑑み、原告は下記のように主張した。「当該農薬活性成分の唯一のビジネス用途は原告の特許保護に係わる農薬製剤を用いることである。よって、被告が当該農薬活性成分を製造し、且つ提供した後、第三者が当該製品を使用する必然的な結果として、直接侵害行為が発生される。当該活性成分の製造工程が如何なるものであるかにも拘らず、被告が当該農薬活性成分を製造した行為は原告の製剤特許にとって間接侵害となる。原告が当該農薬活性成分につきその他ビジネス用途を有しないと言うことは消極的な事実であり、証拠にて証明し難く、多くの証拠を提出してもその他ビジネス用途がある可能性を排除できない。これに対し、被告が当該農薬活性成分につき何れ一種類のビジネス用途を有することを証明できれば、立証責任を果たせる為、立証責任は被告が負うべきである。」二審裁判所は原告の意見に同意し、且つ平等原則及び当事者の立証能力により、当該事実に対する立証責任は被告が負うべきと認めた。また、被告が所定の立証期限内に農薬活性成分につきその他ビジネス用途があることを証明する証拠を提供しなかったため、農薬活性成分が特許製品の製造に用いる重要な専用部分であると認めた。よって、当該農薬活性成分の生産行為が間接侵害行為を構成すると認定した。

3)判決

二審裁判所は一審裁判所が認定した被告の侵害行為を認めただけでなく、被告の間接侵害行為も認めた。よって、二審裁判所は2005年6月に最終判決を言渡し、一審において言渡した差止命令及び賠償判決を支持する他、被告にあらゆる方法による被疑農薬活性成分の製造を停止するようと命じた。そのため、原告は本特許侵害訴訟において全面的な勝訴を勝ち得た。
 
三、労働契約法の実施が外国企業にあたえる影響

2008年1月1日から実施される労働契約法は現行労働法と比較すると、改正されたところが多い。それらの改正点は外国企業に少なからず影響を与えるものと思われる。二つの改正点について、中国労働契約法(2007年6月29日全人大採択、2008年1月1日施行。以下、「労働契約法」という)の関係条文を参照して、以下に詳しく説明する。

1)第4条(規則制度)

雇用者は法により規則制度を確立/整備し、労働者が労働者の権利を享有し、労働義務を履行することを保障しなければならない。

雇用者が労働者と密接な関係にある利益と直接にかかわる労働報酬、勤務時間、休憩休暇、労働安全衛生、保険福利、従業員訓練、労働規律および労働達成度管理などの規則制度または重要事項を制定し、改正し、決定する場合、従業員大会または従業員全体の討論を経て、案と意見を提出し、労働組合または従業員代表と平等な協議を経て確定しなければならない。

規則制度の実施過程において、労働組合または従業員は雇用者の規則制度が不適当であると考えた場合に、雇用者に対して提案し協議により改正する権利がある。

 労働者と密接な関係にある利益とに直接にかかわる雇用者の規則制度は労働者に開示、もしくは告知しなければならない。

当該条項により、2008年1月1日以後、労働者と密接な関係がある利益と直接にかかわる労働規則制度を制定する場合、例えば、就業規則、秘密保持管理規定、職務発明対価規定など、労働者の合法利益を守る為に、雇用者が一方的に決定するのではなく、従業員大会または従業員全体の討論を経て、案と意見を提出し、労働組合または従業員代表と平等な協議を経て確定しなければならない。

職務発明対価規定は職務発明に対する対価規定で、企業規則の一種類と言える。当該規定において、発明に対する報告、出願、授権公告、実施等に関する対価金額、及びその対価支給時の評価基準などの内容が含まれ、当該内容は皆労働者と密接な利益関係にあるので、2008年1月1日以後制定する場合、新しい労働契約法に基づついて、従業員大会または従業員全体での討論を経て、案と意見を提出し、労働組合または従業員代表と平等な協議を経て確定しなければならない。

2)第25条 (違約金条項の禁止)

本法第22条及び第23条に定められた事由を除き、雇用者は、労働者との間において、労働者が違約金を支払うと言ういかなる定めをしてはならない。

労働契約法の第22条、第23条では勤務期間及び競業制限を規定している。従って、労働契約法第25条によれば、労働者が勤務期間および協業制限に違反する場合のみ違約金を支払うことが約束できる。この場合、企業は従業員との間に締結する労働契約書或いは秘密保持契約書において、勤務期間及び競業制限条項の以外に違約金を規定するとしたら、2008年から実施される労働契約法に合致しないため、将来における紛争が生じる場合、その条項が無効にされる虞がある。よって、企業にとって、労働契約書或いは秘密保持契約書における秘密保持義務に違反する場合、違約金を追及することは法律規定と合致しない。秘密保持義務違反に関する違約金を定めたにしても、将来に於いては無効になる虞がある。しかも、労働契約書において、関連労働部門に対し届出手続きを行なう必要があるので、違約金に関連する条項を入れると、労働契約法に違反することになり、変更を要求される可能性がある。

但し、もし従業員に対しプレッシャーをかけようとしたら、違約金ではなく、損害賠償を追及することはできる。損害賠償を追及する場合、その損害につき立証を行なう必要があり、プレッシャーをかける目的は達成できる。損害賠償金の追及条項を定める場合、企業は損害に係わる立証責任を負わなければならないことにご留意願いたい。

 
(2007年)


ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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