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公然実施をいかに証明するか及び無効審判プロセスにおける 証拠に関連する問題に関して ――正泰グループとシュナイダー社との特許権をめぐる紛争


北京林達劉知識産権代理事務所

要約

正泰グループが自社の97248479.5号実用新案特許権(以下本件特許という)を侵害したとして、シュナイダー社を提訴した事件の第二審において、正泰グループとシュナイダー社は、2009年4月に和解した。これで、第一審判決で3.3億元(48億日本円)というこれまでの中国における特許権侵害紛争の中で最も高額の損害賠償が命じられた事件は、3年にわたり幕を閉じた。

本件の経緯を振り返って見ると、正泰グループがシュナイダー社を提訴した直後に、シュナイダー社は、本件特許に対して、新規性及び進歩性欠如と実施可能要件違反を理由として、特許審判委員会に無効審判を請求した。そのうち、新規性及び進歩性に関わる証拠は、出版物による公表及び公然実施に関係していた。そこで、公然実施をいかに証明するかが本件のキーポイントとなった。本文は本件に基づいて、公然実施をいかに証明するか、及び無効審判のプロセスにおける証拠に関連する問題について述べる。

目次

I. 案件の概要
II. シュナイダー社の提出した証拠
III. 出版物の公表日
IV. 公然実施
V. まとめ

I. 案件の概要

1.案件の時間軸


 
2.本件特許についての情報

実用新案の名称:high breaking miniature circuit breaker
実用新案の登録番号:97248479.5
国際分類番号:H01H71/50, 73/00
特許権者:正泰グループ
無効審判の請求人:シュナイダー社電気低圧(天津)有限公司

II. シュナイダー社の提出した証拠

シュナイダー社は、2006年8月21日に無効審判を請求した後、9月20日、21日(4回)、11月13日に、6回にわたり証拠を追加した。証拠は全部で25件あり、6組に分けられていた。そのうち、第1組(証拠2~4)、第3組(証拠11~13)及び第5組(証拠19、20、24)は、本件特許の新規性及び進歩性を評価するためのものであった。他の証拠について、シュナイダー社はそれらの用途について説明していない。

ここで、2つの問題がある。すなわち、(1)証拠追加の期限に関する問題と、(2)用途の説明されていない証拠の取り扱いに関する問題である。

問題(1)、すなわち、証拠追加の期限について、特許法実施細則及び審査基準の関係規定によると、無効審判を請求した日から1ヶ月以内に、証拠の追加が可能である。その後に提出した場合、特許審判委員会は考慮しなくてもいい。証拠が外国語で記載されている場合には、無効審判を請求した日から1ヶ月以内にその中国語の翻訳文を提出しなければならない。

本件において、9月20日と21日に追加された証拠は、ともに無効審判の請求日(8月21日)から1ヶ月以内であるので、認められるべきである。11月13日に追加された証拠は、証拠10~17中の外国語で記載された証拠の中国語の翻訳文である。この無効審判の審決から見れば、期限を過ぎたとして、拒絶されていないが、正泰グループが異議を申し立てていたならば、これらの証拠は認められなかった可能性が高い。そうなると、第3組の証拠(証拠11~13)中の外国語による証拠は、対応する中国語の翻訳文が提出されていないので、提出されなかったものとみなされ、公然実施を十分に証明できる第3組の証拠は、証拠の連続性を欠き、公然実施を証明することができなかったはずである。

問題(2)、すなわち、用途の説明されていない証拠の取り扱いについて、審査基準の関係規定によると、これらの証拠は考慮されない。その理由は以下に示すとおりである。すなわち、かつて、無効審判請求人が証拠を提出するだけで、その証拠の用途について、説明しないか又は詳しく説明しないことがよくあった。その目的は審判中に特許権者に不意打ちをかけるためである。この状況に鑑み、2006年7月の審査基準の改正において、用途が明示されていない証拠は考慮されないと規定された。また、同じ理由により、以下の場合も考慮されない可能性がある。

● 無効審判を請求する際に、引用文献のある部分により進歩性を評価したにもかかわらず、口頭審理において、同一の引用文献の他の部分により進歩性を評価する場合(すなわち、同一の引用文献の異なる部分)。

● 無効審判を請求する際に、引用文献1を最も近い従来技術とし、引用文献2との組合せに基づいて進歩性を評価したにもかかわらず、口頭審理において、引用文献2を最も近い従来技術とし、引用文献1との組合せに基づいて進歩性を評価する場合(すなわち、新たな組合せ)。

● 外国語による証拠について、無効審判を請求する際に、一部の中国語の翻訳文だけを提出したにもかかわらず、口頭審理において、中国語の翻訳文が提出されていない部分について主張する場合(すなわち、外国語による証拠の中国語の翻訳文が提出されていない部分)。

III. 出版物の公表日

シュナイダー社が提出した第3組の証拠において、証拠11の公表日が肝心なところである。証拠11は、書籍、新聞などの出版物ではなく、製品宣伝用のチラシである。製品宣伝用のチラシについて、特許審判委員会は、その公表日、ひいては公表性について非常に厳しく調べるうえ、それらを裏付けるためのその他の証拠、例えば製品宣伝用のチラシの印刷に関連する証拠の提出もよく要求する。

証拠11において、シュナイダー社が主張した公表日「26/11/96 16:54」は、一見製品宣伝用のチラシの他の部分と同時にプリントされた日付から、ファックス送信の日付と思われる。この日付を裏付けるために、シュナイダー社は、「1996年11月26日より出展」という文字が記載された証拠12を提出した。しかし、この記載だけで、それと証拠11中の「26/11/96 16:54」との関係を判断することは困難である。さらに、シュナイダー社にとって不利なのは、証拠12に係る製品の型番はC60であり、そしてこのC60にはC60L、C60N、C60Hなど多くの型番が含まれているが、証拠11はC60Nに関するものだけである。したがって、証拠12は証拠11に唯一対応するものではない。以上の理由により、証拠11の公表日が認められず、第3組の証拠は、新規性と進歩性の評価に用いられなかった。

書籍、新聞ではない出版物の公表日について、特に中国以外で作成された出版物の場合、その証明はかなり困難である。通常、以下のアプローチにより証拠を探すことが考えられる。

(1) 図書館に収蔵されているかどうか。もし、「運がよく」ある出版物がある図書館に収蔵されていれば、することが簡単になる。この図書館の当該出版物をコピーすればよい。さらに、当該出版物に、当該出版物をこの図書館が収蔵し始めた日付を証明できるこの図書館の捺印などがあれば、この日付が公表日とされる。もし、運が悪く、そのような捺印がなければ、更にこの図書館が当該出版物を収蔵し始めた日付に関連する証拠を探さなければならない。当然ながら、上述の手続きには公証が必要である。

(2) 出版物の印刷に関連する証拠。たとえば、印刷依頼者と印刷業者との契約、印刷依頼者が代金を支払う時の証票、印刷業者が代金を受け取る時の証票、印刷依頼者が提供したサンプル、印刷業者が納品した印刷品(出版物)などが挙げられる。ここで、注意されたいのは、完全で連続性のある証拠となるように、これらの証拠は互いに厳格に一々対応する関係になければならない。さもなければ、本件のように、証拠12は複数の型番に関わっているが、証拠11は1つの型番だけに関わっているので、両者は一々対応する関係になく、完全で連続性のある証拠とはならない。

出版物の印刷に関する証拠を探すことは、印刷日が公表日とされることが前提となる。この前提は審査基準に規定する要件を満たしている。ただし、例外もある。すなわち、出版物の実際の公表日を証明する反証がある場合、印刷日は公表日とみなされない。この点について、審査基準には明確な定めがあり、特許審判委員会の第WX11880号の無効審判審決(2008年7月4日)にも反映されている。

(3)その他の間接的な証拠。たとえば、本件において、シュナイダー社は、証拠11中の「26/11/96 16:54」という日付を証明しようということだけを考えていた。しかし、違う角度から考えれば、印刷日を証明するのに十分な証拠(例えば、出版物の印刷に関連する証拠)が見つかれば、当該印刷日が証拠11に印刷されていなくても、認められたはずである。こうするメリットは以下に示すとおりである。例えば、本件について、証拠11の「26/11/96 16:54」と証拠12の「1996年11月26日より出展」との関係は、唯一対応する関係であると主張しても認められる可能性は低い。一方、証拠12の「1996年11月26日より出展」を主張すれば、少なくとも印刷日は出展日である1996年11月26日より前であることを証明できるので、認められる可能性は高いと思われる。

上述の(1)~(3)は公表日を証明するための証拠を探すアプローチである。本件の証拠11は書籍、新聞などのような出版物ではないので、公表日の問題以外に公表性の問題も問われる。実際に、書籍、新聞ではない出版物には常に公表性の問題を伴う。公表日と同様に、公表性を裏付けるための証拠も要する。したがって、公表性を裏付けるための証拠を探す際に、同時に上述のアプローチ(1)~(3)を取ることも考えられる。

IV. 公然実施

シュナイダー社が提出した第5組の証拠は、公然実施を証明するためのものでもある。基本的なコンセプトとして、A社がシュナイダー社から製品を輸入しà A社が当該製品をB社に販売したàこの輸入行為と販売行為は、ともに本件特許の出願日前に発生したものであるから、公然実施に該当するというものである。

審査基準の規定によれば、確かに、輸入行為は公表をもたらすが、シュナイダー社が提出した証拠は明らかに不十分であった。輸入行為を証明するためにどの程度まで証拠を提出すればよいかについて、審査基準には、(1)輸入品の通関手続きが完了し、税関から輸入の許可を受けたことを十分に証明できる程度、(2)税関から輸入の許可が下りた日が当該輸入品の公表日とされると、明確に規定されている。したがって、通常、輸入品が税関から輸入の許可を受けたこと及び許可を受けた日付が明記された通関申告書を提出しなければならない(特許審判委員会の第WX9741号の無効審判審決を参照、2007年4月25日)。

しかし、シュナイダー社は通関申告書などの証拠を提出していない。したがって、輸入行為が発生したことは証明できたとしても、当該輸入行為が既に完了し、公然実施をもたらしたことは証明できていない。換言すれば、シュナイダー社が提出した証拠に関して言えば、もともと輸入による公然実施も販売行為による公然実施も主張できたのに、輸入行為に関する証拠が不足しているので、輸入による公然実施を主張できなくなった。そのため、それに関連する証拠も、輸入行為を直接証明するためのものから、販売行為を間接的に証明するためのものになり、証明事項と証明力はともに弱くなった。これは残念だとしか言いようがない。

一方、輸入行為を証明するために、シュナイダー社は、公証された証人の証言を提出した。しかし、プラクティスにおいて、証人の証言は公証されていてもその証明力は弱い。なぜなら、公証が行われたことによって、証人が公証人の前でどのようなことを言ったかを証明できるだけであり、証人が言ったこと自体が事実であるかどうかを証明するものではないからである。また、自然人の証言より法人の証言のほうが認められやすい。しかし、残念ながら、シュナイダー社が提出したのはまさしく自然人の証言であった。

販売行為について、審査基準にはどの程度まで証拠を提出しなければならないかに関する定めがないが、特許審判委員会の幾つかの無効審判審決(例えば、WX11407、2008年4月11日)によれば、少なくとも以下の3点を証明するのに十分なものを提出しなければならない。すなわち、(1)既に販売行為があったこと。(2)販売行為の完了日。(3)販売行為に係る製品の構造。

販売行為があったこと及びその完了日を証明するために、売買契約を提出することが一般的である。しかし、売買契約だけでは不十分であり、更に売る側の出荷送り状、買う側の仕入書、買う側の納金証明書、売る側のインボイスなどの証拠も提出しなければならない。また、特許審判委員会の幾つかの無効審判審決(例えば、WX11869、2008年6月27日)によれば、売る側がインボイスを送った時点で、販売行為が完了したとされ、また、インボイスを送った日付が販売行為の完了日とみなされる。

本件については、シュナイダー社は、売る側のインボイスを提出したが、販売行為として認められなかった。その理由のひとつは、販売行為に係る製品の構造を証明できなかったことにある。シュナイダー社は、販売行為に係る製品の構造に関する証拠を2つ提出した。1つは売買契約の添付書類であり、もう1つはばらした製品の写真である。残念なことに、前者は売買契約の添付書類として、売買契約と唯一対応する関係にあること、例えば、両者が同一の契約番号を有することを示すことができなかった。逆に、両者の契約名称すら一致していなかったので、特許審判委員会に認められなかった。一方、後者について、撮影の過程が公証されていたので、その真実性は疑う余地がない。しかし、これらの写真によって証明できるのは、撮影された製品の構造だけであり、販売行為が発生した当時の製品の構造ではない。すなわち、撮影された製品が販売行為の発生当時の製品であるか又はそれと同じ製品であることを更に証明しなければならない。この点を証明するために、シュナイダー社は、公証された証人の証言を提出した。しかし、上述の輸入行為と同じ理由により、当該証人の証言は認められなかった。そのため、シュナイダー社は、販売行為に係る製品の構造を証明することができなかった。

V. まとめ

本件において、挙証の期限、公証された証人の証言の真実性、公表日及び公表性の証明、輸入行為及び販売行為の証明などの無効審判における証拠に関する問題が問われた。そこで、各問題について、以下のようにまとめた。

1、挙証の期限について、無効審判を請求した日から1ヶ月後に提出されたいかなる主張も考慮されない可能性がある。

2、公証された証人の証言の真実性について、公証が必要なのは何か(証人はどのようなことを言ったか)、そして何を証明しようとするか(言ったことは事実であるか)を注意しなければならない。この両者が一致していない場合もある。それと似たケースとして、インターネットからの証拠の公証について、公証が必要なのは、インターネット上にある内容が存在したこと(例えば、「2009年5月1日に製品Aが販売された」)であるが、証明しようとするのは、当該内容自体が事実であるかどうか(例えば、2009年5月1日にほんとに製品Aが販売されたかどうか)である。

3、公表日と公表性の証明について、裏付けるために、一連の証拠が必要である。これらの証拠は互いに唯一に対応する関係になければならない。これに対する特許審判委員会の要求は非常に厳しい。

4、輸入行為の証明について、輸入品の通関手続きが既に完了し、かつ税関から輸入の許可を受けたことを証明すべきである。また、税関から輸入の許可が下りた日が当該輸入品の公表日とされる。

5、販売行為の証明について、販売行為があったこと、販売行為の完了日及び販売行為が発生した当時の係る製品の構造を証明しなければならない。前の2点について、インボイスは有力な証拠になると思われる。
 
(2009)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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