「標準関連発明出願のガイドライン」に関する一考察


中国弁理士 宋 暁雯
 
2026年3月、国家知識産権局より「標準関連発明出願に関するガイドライン」を公表した。同ガイドラインは標準関連発明出願の進歩性の判断について、明細書の作成及びオフィスアクションへの対応の角度から実務的なアドバイスを示している。本稿では、明細書の作成時の同ガイドラインの適用について例示を示しながら検討し、今後の出願業務の一助となれば幸いである。

同ガイドラインは、通信技術の細部の改良に関する以下2つのパターンの出願はその進歩性が疑問視されやすいことを指摘するとともに、発明が適用された場面に応じて出願書類に重点的に記載すべき内容を区別する必要があるという見解も示している。

パターン1:同一世代/場面における技術的手段の調整及び最適化

パターン2:世代/場面をまたぐ技術改良または技術融合

パターン1の場合、明細書を作成する際に、標準規格の実装におけるボトルネックに焦点を当て、発明の改良点に関する細部技術の調整及び最適化について、古い世代または標準規格との相違点や共通点が強調されるように記載することができる。また、クレームを作成する際に、肝心な特徴が軽視されないように従来技術を過剰に記載せずに発明の改良点を中心とし、互いに関連する構成を完全に規定することが重要である。

パターン2は具体的に、従来の考え方により新世代に特有の課題を解決する発明と、従来の考え方と新世代に特有の技術的要素の組み合わせより新旧世代間に共通する課題を解決する発明とに分けられている。

新世代に特有の課題を解決する発明の場合、明細書において対象世代、新たな課題が発生した原因を明記し、技術的手段がどのように新しいネットワークアーキテクチャ・機能要素と融合しているかを詳細に説明することができる。また、クレームにおいては、単なる従来の考え方の転用と認定されないように、旧世代の既存技術を網羅するような記載を回避し、新世代の特徴を反映させるとともに、旧世代の技術的手段に対する高度な改良・調整及び従来の考え方と新課題との深い融合を要旨とするほうがよい。

新旧世代間に共通する課題を解決する発明の場合、明細書においては、技術的手段が新世代におけるシステムアーキテクチャ・機能要素と深く融合していることを記述し、発明の技術的手段について、旧世代の技術的手段との違い、奏し得る効果を明確に記載すべきである。また、クレームにおいては、新世代の技術場面への依存性を強調することに加え、新世代の機能要素に基づく情報伝達方法の変化などを限定して従来の手段が旧世代での適用場面の制約によってそのまま適用できなかったことを示してもよい。

例えば、デュアルSIM対応のUEに関する発明の明細書を作成する際に、まず、新旧世代をまたぐものなのか、つまり新世代に特有の課題を解決するなのか、それとも新旧世代間に共通する課題を解決するなのかを客観的に判断する必要がある。4G時代には、2枚のSIMカードが同時に4Gネットワ​​ークへの登録・待ち受けが可能なデュアルSIMに対応するUEの発明は広く普及している。そのため、UEのデュアルSIM機能の改良に関する発明は、4Gから5Gへの世代間共通の課題を解決するものと思われる。

また、同「ガイドライン」に基づき、世代間共通の課題を解決する発明の明細書を作成する際には、発明の技術的手段と旧世代における技術的手段との違いを明細書に明確に記載し、新世代の特徴及び新世代の適用場面に応じた技術的手段の調整をクレームに反映させるべきである。4G規格をベースに行われた改良点に言及せずに5G規格のみを出発点として出願書類を作成すると、進歩性の審査で4G規格の先行技術により単なる4Gから5Gへの技術的手段の置き換えと認定される場合、オフィスアクション対応の繰り返しが余儀なくされて拒絶査定に発展することも想定される。

以下に、例にしたがって具体的に検討する。

旧世代における技術的手段との違いを明細書において明記すること

4Gネットワ​​ークでは、デュアルSIM対応のUEは基本的にページング(paging)をパッシブに受け入れる。もう一方のUSIMによる高優先度サービスが実行中であるためにUEがページングに応答できない場合、ネットワーク側のページングの繰り返しや異常が考えられる。4Gコアネットワーク(例えば、MME,Mobility Management Entity)は4G規格で定義された手順に従ってページングとNAS状態管理を実行するが、4G規格ではUE側から送信された、MMEとネゴシエートされたデュアルSIM調整に関する具体的なメッセージや対応する手順は定義されていない。通信事業者がUE側プロトコルスタックソフトウェアなどを改良することによってデュアルSIMデュアルスタンバイが4G時代で実現されたが、4G規格の非アクセス層(NAS)メッセージにはもう一方のSIMカードの情報を示す情報要素は含まれていないように、4G規格では各SIMカードが独立したUEとして扱われ、単一のMMEが両方のSIMカードを同時に管理する仕組みは定義されていない。

デュアルSIMのページング問題はページング理由(Paging Cause)という情報要素(IE)に関係することが考えられる。既存のページング仕組みでは、コアネットワークから基地局に送信されるページング要求にはCS音声とPSデータを区別するためのコアネットワークドメイン表示が含まれているが、4G規格では、通常、コアネットワークにおいて具体的なページング原因や詳細な優先度のUEへの透過伝送は行われない。4G規格では、UEがページング要求を受信し、NASシグナリング接続を確立した後(即ち、ネットワーク制御レイヤの動作により後続サービスのためのシグナリングチャネルが確立された後)、ユーザは通話を拒否することが可能である(即ち、ユーザサービスレイヤに移行する)。

デュアルSIM関連出願の明細書を作成する際に、共通の課題や上記した旧世代との違いの少なくとも一部を記載するこで、審査官が発明の背景や進歩性のレベルを適切に理解する上で役に立つと思われる。

新世代の特徴及び新世代の適用場面に応じた技術的手段の調整をクレームにおいて反映させること

明細書に上記した違いを記載したうえで、モビリティ管理ノードから第2のSIMカードに対するページング理由の受信、UEが第2のSIMカードに対するページングへの応答を拒否することを示す拒否メッセージのモビリティ管理ノードへの送信といった側面をクレームに規定することができる。一方、前述のとおり、4G規格では、UEにページング理由を転送する仕組みは定義されておらず、モビリティ管理ノード(MMEなど)が基地局にページング理由を転送する仕組みのみが定義されている。しかもUEによるページングの拒否もネットワーク側に対する拒否の指示もできない。

従来技術との違いをさらに明確にするために、UEにより第1のSIMカードに対するNASシグナリング接続を確立すること、第1のSIMカードのNASシグナリング接続中にモビリティ管理ノードから第2のSIMカードに対するページング理由を含むNASメッセージを受信すること、第1のSIMカードのNASシグナリング接続を解放しようとするメッセージをUEからモビリティ管理ノードへ送信することのうち少なくとも一方面を規定するクレームを設けてもよい。一方、前述のとおり、4G規格では、UEがプライマリSIMサービスを完全に切ることなくセカンダリSIMとのシグナリング操作を行うことは不可能である。

デュアルSIMに関する課題が旧世代(4G)の無線通信技術にも存在するものと判断できれば、4Gから5Gへの世代間共通の課題となるため、ガイドラインを参照し、進歩性の審査で有利な結果が得られるように、発明の技術的手段と旧世代の技術的手段との違いを明記するとともに、新世代の特徴と新世代の適用場面に応じた技術的手段の調整をクレームに限定することがおすすめである。
 
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