化学分野において、「予想外の効果」を有すると唱える特許の無効化は通常、困難である。本件は、参考になれる無効化戦略を示してい...
近日、明陽科技(蘇州)股份有限公司(以下、明陽科技という)の社長一行は弊所にご来訪いただいた。弊所弁理士が同社の無効宣告請...
2018 SEPライセンス交渉においてFRAND違反とされる行為について--【判例篇】


北京林達劉知識産権代理事務所
 
大きな注目を集めた西電捷通がソニーを訴えた訴訟と、華為がサムスンを訴えた訴訟は、今年判決が続々と出されている。これらの判決はいずれも、特許権者がFRAND義務を満たしており、実施者が誠実に対応しなかったとして、侵害の差止めを認めた判決である。各判例において中国の裁判所が上記のような結論を出した理由を以下のとおり整理する。下記の理由から、これらの判例におけるFRAND違反有無の判断基準は、上記中国及び日本の手引きと一致することが分かる。

西電捷通VSソニー

(一審:北京知的財産裁判所(2015)京知民初字第1194号、二審:北京市高等裁判所(2017)京民終454号)
 
▪ 実施者であるソニーがFRAND違反と判断された理由

ソニー移動通信製品(中国)有限公司(以下、「ソニー中国社」という)は、西電捷通社にクレームチャートの提示を求めた後、「秘密保持契約を締結せずに、クレームチャートを提示する」よう求めた。最終的には、「西電捷通が主張した権利を全面的に評価してこれらの特許が合理的な価値を有すると確認できる前に、西電捷通とビジネス交渉を一切行わない」旨を表明した。また、交渉において、交渉を促進する提案を一切示さず、交渉を遅延させる故意が明らかであった。訴訟段階においても、ソニー中国社は明確なライセンス条件を提示せず、裁判所に自社が主張するロイヤルティやこの金額を上回る担保金を提供せず、ライセンス交渉を誠実に行う意思を示さなかった。よって、ソニー中国社は、交渉中に明らかな過ちがあった。

▪ 特許権者である西電捷通社がFRAND違反と判断されなかった理由

クレームチャートは、一般に請求項、技術標準に関する解釈及び説明を含み、特許権者の機密情報に関連し得るものである。そのため、秘密保持契約の締結を条件にクレームチャートを提示するとした西電捷通社の行為は合理的である。
 
華為VSサムスン

(一審:広東省深セン市中等裁判所、(2016)粤03民初840号、(2016)粤03民初816号)

関連事実が同一であるため、2つの判決書におけるFRAND違反有無に関する説明はほぼ同じである)

(過程面)サムスン社は明らかな過ちがあり、FRAND違反に該当する。一方、華為社は明らかな過ちがなく、FRAND違反に該当しない。

▪ 実施者であるサムスン社がFRAND違反と判断された理由について

1.サムスン社は、標準必須特許のクロスライセンス交渉において、交渉の範囲や前提条件について、標準必須特許と非標準必須特許の抱き合わせライセンスの提案に執着し、標準必須特許のみのクロスライセンス交渉を拒否し、クロスライセンス交渉を大きく遅延させた。

2.サムスン社は、華為社との標準必須特許のクロスライセンス交渉において、技術の面で、華為が提示した標準必須特許のクレームチャート(CC)に対して積極的に応答せず、クロスライセンス交渉を遅延させた。

3.サムスン社はオファーの対応を怠け、積極的にオファーを提示しておらず、華為社からのオファーを受け取った後に対案を提示しなかったことから、サムスン社には悪意により交渉を遅延させるという主観的な過ちがあったことは明らかである。

4.双方の交渉において、華為社は交渉の慣例に従って、中立する第三者による仲裁を通して標準必須特許のクロスライセンスを成功させようとしたが、サムスン社は合理的な理由がなく拒否したことから、サムスン社には悪意により交渉を遅延させるという主観的過ちがあったことは明らかである。

5.裁判所が斡旋した双方の標準必須特許のクロスライセンス交渉において、サムスン社は実質的な和解提案を示さず、交渉を遅延させる悪意が明らかで、主観的過ちがあった。

▪ 特許権者である華為社がFRAND違反と判断されなかった理由について

1.標準必須特許のクロスライセンス交渉の範囲について、華為社は、双方の標準必須特許のみを対象とすることを明確に提案した。この提案は業界の慣例に合っている。

2.技術交渉について、華為社は約束に従って、標準必須特許のリストとクレームチャート(CC)をサムスン社に提示し、サムスン社のクレームチャート(CC)に対する評価を書面でタイムリーにサムスン社に送付した。

3.オファーについて、2011年7月に交渉開始から2016年5月に本裁判所にサムスン社を提訴するまで、華為社は、サムスン社に対し、標準必須特許のライセンスに関するオファーを合計6回行った。

4.5年間にわたった交渉はクロスライセンスの合意が達成できなかったため、2016年8月8日に、華為社は、双方間の紛争を、中立する仲裁機関を通して解決したい旨をサムスン社に伝えるとともに、仲裁合意書を送付した。また、サムスン社と仲裁により紛争を解決することに合意した場合、サムスン社に対する差止め訴訟を取り下げる旨を表明した。

5.本裁判所による調停において、華為社は、指定期間(40日間)内に標準必須特許のライセンスに関するオファーを提示した。また、サムスン社が華為社の標準必須特許のオファーに対し非実質的な応答をした後、華為社はサムスン社のオファーに対し、遅延なくタイムリーに応答した。

6.華為社は、サムスン社との交渉において、シャープから買収した特許を、サムスン社に対するライセンスの範囲に含ませた。華為社は、シャープから買収したファミリー特許の数を、サムスン社へ明確に伝えなかったため、双方の交渉にある程度マイナスな影響を及ぼしたことについて、過ちがあった。しかし、その後、華為社は、シャープからファミリー特許を買収した事実をサムスン社に明確に伝えたため、華為社の過ちが交渉全体の進行に大きな影響を与えず、標準必須特許のクロスライセンス交渉における明らかな過ちに該当しない。

(実体面)華為社がサムスン社に提示したオファーはFRAND条件を満たしている。サムスン社が華為社に提示したオファーはFRAND条件を満たしていない。

▪ 実施者であるサムスン社がFRAND違反と判断された理由について

1.華為社とサムスン社とは、世界で保有する標準必須特許の実力がほぼ同じである(明らかな差がない)。サムスン社が華為社に提示したオファーによると、サムスン社が華為社に求めるロイヤルティ料率は、華為社がサムスン社に求めるロイヤルティ料率の3倍である。また、サムスン社の世界で保有する3G/UMTS標準必須特許の実力が同社の4G/LTE標準必須特許の実力よりも弱く、サムスン社が2011年7月25日にアップル社に提示した一方だけのUMTS標準必須特許のロイヤルティ料率は2.4%であった。これと比較して、サムスン社が華為社に提示した3G、4G標準必須特許のロイヤルティ料率はほぼU倍高くなっている(*この倍数は機密情報に関連するため、判決書において隠されている)。ライセンス交渉において、ロイヤルティ交渉に余地を残すために、最終契約で合意するロイヤルティとはある程度異なるロイヤルティを最初に提案したり、交渉の進捗に応じてロイヤルティ料率を調整したりすることはあり得るものの、標準必須特許の価値及び双方の標準必須特許の実力対比から大きく外れたロイヤルティのオファーは提示すべきではない。サムスン社は、華為社とサムスン社の保有する標準必須特許の実力から明らかに外れたオファーを提示したため、FRAND違反となり、主観的悪意が存在する。

2.サムスン社が提示したロイヤルティ料率は、華為社がIDCを訴えた訴訟におけるロイヤルティを参酌したものである。華為社とIDCとの訴訟判決で確定したロイヤルティ料率は、世界での標準必須特許のロイヤルティ料率ではなく、中国において華為社がIDCに支払うべき中国の標準必須特許のロイヤルティ料率である。華為社とサムスン社との間のクロスライセンス交渉は、世界で保有している標準必須特許が対象であるため、華為社とIDCとの訴訟におけるロイヤルティを参酌することができない。また、標準必須特許を実施せず特許権の行使だけで収益を上げるIDCと、世界中で標準必須特許の実施もしている華為社及びサムスン社とは比べられるものではない。華為社が提示したIDCとのライセンス契約により証明されたように、広東省高等裁判所による当該訴訟の終審判決が出た後、華為社とIDCは新しいグローバルライセンス契約を締結して履行した。判決で確定した中国標準必須特許のロイヤルティ料率は新しい契約において適用されていない。よって、広東省高等裁判所の終審判決で確定したIDCの中国でのロイヤルティ料率は、本件において参酌すべきものではない。つまり、特許権者の特徴、ライセンスされる標準必須特許の範囲、地域範囲等の観点から、サムスン社が華為社とIDCとの訴訟判決におけるロイヤルティ料率を参酌して提示したオファーは、明らかに不合理である。

▪ 特許権者である華為社がFRAND違反と判断されなかった理由について

1.華為社がサムスン社に提示した、4G標準必須特許を中心に、3G標準必須特許も含むオファーは業界慣例に合っている。

2.標準必須特許者である華為社がサムスン社に提示した上記オファーは、ロイヤルティ料率及び携帯電話1台当たりのロイヤルティを含むものであり、FRAND条件を満たしている。華為社が提示したオファーは、法的性質が申し込みである。華為社の上記オファー(申し込み)は、全世界の標準必須特許の実力、3G及び4G分野の標準必須特許の累積ロイヤルティ料率及びサムスン社の携帯電話の市場販売情報等を考慮したものである。よって、華為社が自社の標準必須特許の実力に基づいて合理的な範囲内で提示したこのオファーは、華為社の標準必須特許の実力から大きく外れるものではない。被申し込み者であるサムスン社は価格を交渉する余地がある。よって、本裁判所は、華為社の上記オファーがFRAND条件を満たしていると判断する。

3.標準必須特許のロイヤルティがFRAND条件を満たすかどうかを判断する際に、確かに業界の合理的な利益という要因を考慮する必要がある。本裁判所がこれまで考察した業界の累積ロイヤルティ料率及び特許権者の特許の実力の割合に基づいて算定した適切なロイヤルティ料率は、事業の合理的な利益の取得を考慮したものである。サムスン社が提示した、Strategy Analytics社の2014年第3四半期、2015年第3四半期、2016年第3四半期に出荷された携帯電話1台当たりのグローバル営業利益のデータ報告(原告がサムスン社に提示したロイヤルティのオファーが明らかに合理的ではないため、サムスン社が合理的な販売利益を得ることができず、原告がFRAND違反であるという主張を証明するための証拠)によれば、各メーカーが取得した利益は高いものも低いものもあり、いずれも市場競争の結果である。各メーカーが利益を取得できるかは、そのメーカー自らの要因及び様々な市場要因による影響を受けている。各メーカーが取得した携帯電話の利益は、そもそも知的財産権のロイヤルティを含むコスト要因を除いたものである。被告が提示した上記証拠に示された営業利益は期間が限られているため、サムスン社の携帯電話のグローバル営業利益の状況を全面的に反映することができず、携帯電話の売り上げにおけるロイヤルティの割合及びロイヤルティによる営業利益への影響も反映できない。一方、標準必須特許制度の順調な実施を確保する観点から、標準必須特許者が合理的な対価を取得できることも考慮しなければならない。よって、被告が提示したこの証拠は、華為社がサムスン社に提示したオファーでは、サムスン社が合理的な営業利益を取得できないことを証明できない。
 
(2018)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
×

ウィチャットの「スキャン」を開き、ページを開いたら画面右上の共有ボタンをクリックします