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渉外OEM生産に係る商標権侵害紛争事件における「商標の使用」の認定 「PRETUL」事件に対する最高裁判所の再審判決から


北京林達劉知識産権代理事務所
中国商標弁理士 宗 可麗
 
渉外OEM生産について、中国の法律法規には明文規定はないが、通常中国国内の加工企業が海外の委託者から受託され、海外の委託者より指定された商標を付して製品を生産し、製品の全部が海外の委託者に引き渡され、その委託者が海外で販売し、中国国内の加工企業に加工費を支払うという貿易方式である。

中国では改革開放政策の深化に伴い、渉外OEM生産は、経済対外開放の主な貿易方式として、かつて中国が「世界の工場」として邁進した際、牽引力としての役割を果たした。しかし、ここ数年、社会における知財保護意識の向上に伴い、渉外OEM生産が商標の使用行為に該当するか否かという問題は、知財業界においてますます注目を集めるようになってきた。特に、他の法律主体によって、中国で同一又は類似商標が同一又は類似商品において登録された場合、渉外OEM生産における当該商標の使用行為が商標権侵害に該当するか否かという問題について、過去の裁判所の判決と学術界における観点とは、真っ向から対立し、『商標法(2013年)』でもこの問題を明確に解決しなかったため、長期にわたって中国国内の加工企業と海外の委託者を悩ませている問題になっている。

2015年11月、5年にわたった渉外OEM生産に係る商標権侵害紛争事件(以下「最高裁『PRETUL』再審事件」という)に対して、最高裁判所が最終審の判決を言い渡し2、この問題に対して、渉外OEM生産が商標権侵害を構成しないと認定し、当該問題について、初めて明確に論じたことで、業界からも広範な注目を集め、盛んに議論されている。

本稿では、最高裁「PRETUL」再審事件の判決を通じて、中国の商標法改正が当該判決へ及ぼした影響、及びこの事件からの示唆を分析した。少しでも参考になれば幸いである。

1.最高裁「PRETUL」再審事件の概要

2010年3月27日、FOCKER SECURITYP RODUCT(以下「FOCKER社」という)は、訴外から第3071808号「PRETUL及び楕円図形」商標を譲り受けた。指定商品は、第6類の家具用金属アクセサリー、金属器具、金属錠(非電)などであった。

第3071808号商標「
 
2010年8月10日、浦江亜環鎖業有限公司(以下「亜環社」という)は、メキシコのTRUPER HERRAMIENTAS S.A .DE C.V .(以下「TRUPER社」という)と契約を締結して、TRUPER社の許諾を得て、南京錠を生産し、製品の全部をメキシコへ輸出し、中国国内で販売しないことを約定した。TRUPER社は、メキシコで設立登録された企業で、2002年10月27日、メキシコで商標「PRETUL」(第6類)を登録していた。

2010年12月と2011年1月に、浙江省寧波税関は相次いで、亜環社がメキシコへ輸出関連手続をしようとした2ロットの被疑侵害の南京錠を押収した。当該2ロットの南京錠の本体、カギ及び添付の製品説明書には、何れも「PRETUL」商標が付され、南京錠の包装箱にも「PRETUL及び楕円図形」商標が表記されていた。

FOCKER社は、亜環社が許諾を得ず、「PRETUL」商標を付した南京錠を生産及び販売した行為は、自社の商標専用権を侵害していると主張して、裁判所に提訴した。

浙江省寧波市中級裁判所は一審において、事件の証拠に基づき亜環社とTRUPER社との間には渉外OEM生産の契約関係が存在すると認定した。亜環社の行為が権利侵害を構成するか否かという争点については、一審裁判所は商標と標識の相違に基づき、実情に合わせて別々に認定した。まず、亜環社が南京錠の本体、カギ及び添付の製品説明書に表記した「PRETUL」商標は、FOCKER社の登録商標と同一でなく、かつ製品の全部がメキシコへ輸出され、中国国内で販売されず、中国国内の消費者に混同と誤認を引き起こさないため、類似商標ではないと認定した。一方、南京錠の包装箱に表記された「PRETUL及び楕円図形」商標は、FOCKER社の登録商標と同一で、使用商品も同一商品に該当するため、同社の商標専用権侵害を構成すると認定した。したがって、亜環社に対して、南京錠の包装箱における「PRETUL及び楕円図形」商標の使用行為の即時差止め、及びFOCKER社に対する経済的損失5万元の賠償の支払いを命じる判決が言い渡された。3

FOCKER社と亜環社は共に一審判決を不服として、それぞれ浙江省高等裁判所に上訴を提起した。

浙江省高等裁判所は、二審において、「商標の地域性原則によって、TRUPER社のメキシコの商標権は、中国の法的保護を受けるものではない。中国の『商標法実施条例(2002年)』第3条の規定により、亜環社はFOCKER社の許諾を得ず、南京錠の包装箱に『PRETUL及び楕円図形」商標、及び南京錠の本体、カギ及び添付の製品説明書において『PRETUL』商標を使用したことは、いずれも商標の使用行為に該当する。亜環社が使用した『PRETUL』商標とFOCKER社の登録商標とには、若干の差異があるものの、その主要要部『PRETUL』は完全に同一で、類似商標である。『商標法(2001年)』第52条1項の規定によれば、『商標登録者の許諾を得ずに、同一商品又は類似商品にその登録商標と同一又は類似の商標を使用する』 行為は、商標専用権の侵害行為である。したがって、亜環社の行為は、当該規定の法律要件に合致するので、商標権侵害を構成する。4」と判示した。

亜環社は二審判決を不服として、最高裁判所に再審を請求した。

最高裁判所は、再審判決において、「亜環社がTRUPER社の許諾に基づき、『PRETUL』標識を使用した行為は、中国国内における商品の出所を識別する機能を有していないので、同社が生産した南京錠に『PRETUL』標識を使用した行為は、商標使用でもないし、FOCKER社の『PRETUL及び楕円図形』商標権を侵害してもいない。」と判示した。

このようにして、5年にわたった商標権侵害紛争がようやく決着を見た。

2.分析

最高裁「PRETUL」再審事件では、一、二審及び最高裁判所は、それぞれ異なった判示を下した。一審裁判所では一部侵害、二審裁判所では全部侵害、そして最高裁判所では全部非侵害と認定されたが、それらは、中国において近年、司法機関が渉外OEM生産に対して下す代表的な判示で、それぞれが理論武装されているといえる。3つの判示の直接衝突は、最高裁判所の最終審の判決によってピリオドが打たれた。その点からも、最高裁「PRETUL」再審事件には、特別な意義があるといえる。

実際には、最高裁「PRETUL」再審事件は、中国の裁判所が渉外OEM生産について、権利侵害ではないと認定した初めての判例ではない。

近年、その代表的な事件としては、2007年の福建省高等裁判所による「NEW BOSS COLLECTION」商標権侵害紛争事件の二審判決5、 2009年の上海市高等裁判所による「JOLIDA」商標権侵害紛争事件の二審判決6、2012年の山東省高等裁判所による「CROCODILE」商標権侵害紛争事件の二審判決7、及び2012年の江蘇省高等裁判所による「SOYODA」商標権侵害紛争事件の二審判決8などがあった。これらの事件では、権利侵害でないと判示された客観的な理由は以下のとおりである。

1)係争製品の全部が海外へ輸出され、中国国内の流通市場で流通せず、中国の関連公衆も当該製品に接触することがないので、国内の関連公衆に誤認・混同を生じさせないから。

2)商標の基本的な機能は、商品出所の識別で、その機能は商品が流通分野に入ってこそ、発揮されるものである。係争製品が中国国内の流通分野で直接流通されなければ、付された商標は、中国国内において商標の識別機能を発揮できず、商標使用に該当しないから。

3)係争製品が中国国内で加工され、かつ全部輸出されることで、権利者の中国市場シェアの減少、及び商標信用の損失を引き起こすこともないので、権利者の商標権に実質的な損害を及ぼさないから。

前述の3つの客観的な理由の他に、委託者より提供された商標・標識の合法的な出所に対して、中国国内の加工業者は必要な審査を行い、他人の商標権を侵害しようとする悪意がないことを明らかにすることも、権利侵害でないと認定する重要な根拠となる主観的な理由である。司法裁判において、中国国内の加工業者の主観的な状態については、当初最高裁判所が2009 年に公布した『現在の経済情勢下における知的財産裁判の大局支持に係る若干問題についての意見(法発(2009)23号)』に基づいて、判断していた。その中で、第18条には、「現在渉外OEM生産において多発している商標権侵害紛争を適切に処理し、商標権侵害を構成する状況に対しては、加工業者が必要な審査注意義務を履行したか否かを考慮して、権利侵害責任の負担を合理的に確定すべきである。」と規定している。

ここで注意すべきなのは、前述の代表的な判決の全てが2013年商標法改正以前に出されたものであることである。当時の法律の枠組において、『商標法(2001年)』第52条1項の規定によれば、商標登録権者の許諾を得ずに、同一商品又は類似商品にその登録商標と同一又は類似の商標を使用する行為は、商標専用権の侵害にあたるとされていた。当該規定は、前述の行為が実施されさえすれば、商標権侵害を構成することを文言としては十分明らかにしている。「混同を引き起こすこと」は、権利侵害の判断の法律要件ではない。さらに、商標法には、「商標の使用」という行為について、明確に規定されていない。その下位法である『商標法実施条例(2002年)』に規定があるが、商標の使用行為が流通分野だけに限定されるか否かについても厳格かつ明確に規定されていない。そのため、当該理由が、渉外OEM生産の権利侵害の一方が主張する主な反対理由となっている。

なお、当時の背景において、権利非侵害と認定された観点は、商標・標識の基本的な機能などの法理に関連しているだけでなく、政策的な考慮とも関わっていたと考えられる。最高裁判所の知財審判庭の元裁判長の孔祥俊氏は、「政策的には、中国は、制造業と加工貿易の大国です。『渉外OEM生産』は、中国の制造業と加工貿易の重要な構成部分です。国内の登録商標と同一又は類似するOEM商標が商標権侵害であると認定されたら、中国企業の加工貿易業務受注にとって、不利になります。また、『渉外OEM生産』が権利侵害であると認定されることは、一部の加工貿易製造業が他の国に移転される原因の1つとなります。したがって、『渉外OEM生産』を権利侵害であると認定しない方が、加工制造業の発展のゆとりある環境造りに有利ですし、加工制造業の発展の多様化ニーズも満足させることができます。」9と述べている。

最高裁「PRETUL」再審事件の一審及び二審判決は、いずれも『商標法(2013年)』の公布(2013年8月)前の2012年、2013年2月に言い渡された。そして、最高裁判所は、『商標法(2013年)』の公布後、かつ施行前であった2014年1月10に、この再審請求を受理し、『商標法(2013年)』の施行日(2014年5月1日)より約1年半経過した2015年11月に最終審の判決を言い渡した。

筆者は、中国において第3次商標法改正が実施された時期を考慮すると、最高裁判所が下した判決には、合理的なところがあると考える。

渉外OEM生産における商標の使用行為が権利侵害に該当するか否かを判断する際、まず、「商標の使用行為」の定義を確定すべきである。最高裁判所と一、二審裁判所とでは、「商標の使用」に関する認定に大きな相違があったので、最終的に判決において権利侵害か否かについて、明らかに相違する結果となった。

周知のように、2013年の商標法改正によって、商標使用の定義が、以下のように明らかに変化した。


 
改正前は、商標・標識が商標法における商品の出所を識別する役割を果たすか否かを問わず、商品又は役務と結び付きさえすれば、商標の使用となるという理解しやすい文言であった。しかも、両者を結び付ける方式も、流通分野だけに限定されていなかった。11

しかし、商標権の本質に立ち戻ってみると、商標とは、商品の出所の識別機能、及び異なる生産者と経営者の商標・標識の識別機能を果たすものである。また、商標権の保護は、実際には商標の識別力の機能を保護することであるといえる。商品の出所を識別する機能を発揮できなければ、商標は商品又は役務と結び付けることで、商標の使用が成立するか否かという問題について、改正前の商標法体系では、文言による規定の曖昧さが、商標の使用に関する判断をめぐって長年にわたり絶えず論争が続いた原因となった。

改正後の商標法では、改正前の下位法『商標法実施条例』における内容を商標法の条項として規定しただけでなく、「商品の出所を識別するための行為」を追加することで、完全なものにした。

当該改正に対して、商標実務では以下の2種類の解釈がある。

1)商標の使用とは、商品の出所を識別することを目的として、商標を商業活動に使用する行為で、商品の包装若しくは容器及び商品取引書に用い、又は広告宣伝、展示及びその他の商業活動に用いるなどがその使用の形式でとなっている。12

2)商標の使用とは、商品の出所を識別することを目的として、商品の包装若しくは容器及び商品取引書に用い、又は広告宣伝、展示及びその他の商業活動に用いることをいう。

前記1)に対して、「渉外OEM生産によって製造された製品が、中国国内市場で販売、宣伝などの方式によって流通しない限り、商品の出所を識別する機能を発揮できず、商品とはいえない。また、渉外OEM生産事件において、商標・標章の付された製品の全部が輸出され、中国国内市場では全く流通しないので、消費者などの関連公衆が製品と接触する可能性がなく、ましてや製品に付されている商標・標識も知る方法もない。したがって、関連商品に付された商標が中国国内で、その基本的な機能を発揮できないので、渉外OEM生産は商標使用ではない。」という観点がある。

一方、前記2)に対しては、「『商標法』第48条の条文自体の論理性及び文言表現からみて、条文の前半と後半とが「又は」という並列の接続詞によって仕切られ、前後の内容が明らかに並列関係になっている。したがって、前半部分の『商標を商品、商品の包装若しくは容器、及び商品取引書に用い、』は、後半部分の商業活動に用いることでという結論に直接結び付くはとはいえない。したがって、中国商標法の文言解釈では、商標法の意義における使用行為が流通分野に限定されると論断できない。」という観点がある13。その他、商標の使用行為は、客観的な行為で、異なる使用者、生産及び流通段階の相違によって、異なった評価をすべきではないという考え方もある14

商標「PRETUL」再審事件で、亜環社がTRUPER社の許諾に基づき、商標を製品に付した行為は、最高裁判所に、「亜環社がTRUPER社の許諾に基づき、『PRETUL』関連標識を使用した行為は、中国国内における物理的な『付す行為』に過ぎず、メキシコにおいて商標専用権を所有しているTRUPER社に必要な技術的条件を供与したもので、中国国内における商品の出所を識別する機能を有することにはならない。したがって、その付された標識は、商標の属性を有さず、製品に標識を付した行為は、商標の使用行為にはあたらない。」と判示され、「標識を付した」行為であると認定された。これは近年、渉外OEM生産に係る商標権侵害事件の判決において、加工業者の商標の使用行為に対して下された直接的な定義である。その認定は、前記1)の観点に近いものである。

『商標法(2013年)』における「商品の出所を識別するための行為」に関する改正が改正前の権利侵害行為に対して適用できるか否かについて、本事件の再審判決において明確に認定された。すなわち、最高裁判所は、「『商品の出所を識別する行為』というくだりは、2013年の商標法改正時に追加された内容であるが、それは商標法における商標の使用に関して本質的な変化があったということを意味するものではないし、商標の使用についてはっきりさせただけに過ぎない。本事件は、『商標法(2001年)』を適用すべきであったが、前述の『商標法(2013年)』第48条における商標の使用に関する規定は、『商標法実施条例(2002年)』第3条の理解に対して、重要な参考意義があるといえる。」と、真正面から答えた。つまり、旧法では、その趣旨を表していたものの、「商品の出所を識別すること」の目的をはっきりと定義していなかったが、『商標法(2013年)』に至って、その目的を明文化したことで、実践において適用しやすくなったといえる。

一方、前記2)の観点は、最高裁「PRETUL」再審事件の二審判決及び 「SPEEDO」商標権侵害紛争事件の二審判決(注13を参照のこと)において部分的に体現されただけでなく、渉外OEM生産の商標使用によって他人よる3年不使用取消審判請求への対抗、不服審判及び関連行政訴訟への抗弁などにおいても体現できる。すなわち、商標の使用行為が、販売などの流通段階だけのみならず、生産、製造及び加工などの段階での使用過程において、関連公衆に商品の出所を識別する機能を発揮できたとしたら、商標の使用行為であると認定すべきである。渉外OEM生産の商標の使用証拠は、3年不使用取消審判において使用できる。これに対しては、審査官と裁判官によって、相違する理解と認定がなされている。

なお、商標権侵害に対する認定も、商標法(2013年)改正によって、大きく変化した。



改正後の商標法では、同一の商標・商品の場合は、類似の商標・商品の場合と区別して取扱っている。同一の商標・商品の場合、「混同の可能性」を要件とせず、直接権利侵害にあたるとしている。それに対して、類似の商標・商品の場合、「混同のおそれ」を要件として、権利侵害になるとしている。当該規定は、文言からみて、最高裁「PRETUL」再審事件の一審判決において、亜環社の一部侵害が認定されたこと(南京錠の包装箱にFOCKER社の商標と同一の「PRETUL及び楕円図形」を表記したのが商標権侵害であると認定されたこと)と期せずして一致した。
 
 
しかし、商標法全体からみて、第57条における「商標の使用」と第48条における「商標の使用」とは同じように解釈すべきである。そのため、同一の商標・商品を適用する前提は、まず商標の使用行為を構成することで、商標の使用でない場合は、保護範囲に入らない。最高裁判所は再審判決において、「商標が識別機能を発揮できず、且つ商標法上の商標の使用に該当しない場合、同一商品において同一商標が、若しくは同一商品において類似商標が使用されているか否かを判断したり、類似商品において同一若しくは類似商標が使用されることで、混同を生じさているか否かを判断したりすることには、実質的な意味がない。」と述べた。

これらのことより、筆者は、『商標法(2013年』における「商標の使用」に対する定義が改正されたことで、最高裁「PRETUL」再審事件に明確な法的根拠が提供されたものと考える。中国は判例法の国ではないが、最高裁判所が中国の最高司法機関として、最高裁「PRETUL」再審事件に対して下した判決には、今後の類似事件に重要な指導的な意義あると思われる。

3.最高裁「PRETUL」再審事件からの示唆

1)今後の渉外OEM生産に対する認定について

では、最高裁「PRETUL」再審事件の判決によって、今後全ての渉外OEM生産が商標権侵害でないと認定されるのだろうか。その答えは、「NO」である。

最高裁「PRETUL」再審事件の判決から1ヶ月後(2015年12月)に、江蘇省高等裁判所は、別の渉外OEM生産事件(「東風」商標権侵害紛争事件)15に対して、商標権侵害であるという判決を下した。当該事件と最高裁「PRETUL」再審事件には、共通点も相違点もあった。共通点は、渉外OEM生産による製品の全てが海外に輸出され、海外の委託者もその所在国――インドネシアにおいて商標「東風」を所有していたことである。相違点は、商標「東風」が中国において、その登録者であるディーゼル大手の上海柴油機股份有限公司(以下「上柴社」という)による大量使用と宣伝を通じて、高い知名度を有するようになっていたために、「馳名商標」として認定され、1960年代からインドネシアへ輸出されていたことである。なお、その時期は、海外の委託者がインドネシアにおいて商標「東風」を登録したのより早かった。その後、海外の委託者に上柴社の商標に対する冒認出願の疑いがあったため、上柴社と海外の委託者との間で、商標「東風」の権利帰属をめぐる6年間にわたる訴訟が行われた。また、中国国内の加工業者が、インドネシアへ商標「東風」を付したディーゼル機械を輸出したことに関して、上柴社との間で補償に関する合意に達成し、かつ、以後同様の行為を二度と行わないことを保証した。その結果、江蘇省高等裁判所は、必要な審査及び注意義務を遂行するという裁判基準を採用した上で、中国国内の加工業者は、上柴社の商標が「馳名商標」に認定され、かつ海外の加工業者には冒認出願の疑いがあることを明らかに知っていながら、渉外OEM生産を受注したが、合理的な注意及び回避義務を怠り、上柴社の利益を実質的に損なったとして、商標権侵害であると認定した。このことからも、渉外OEM生産に係る事件に対して、全て同様に処理するのではなく、ケースバイケースに分析する必要があることが分かる。

これらの2つの事件からも、渉外OEM生産行為は、以下の3つの要件を満たす場合、権利侵害ではないと認定される可能性が高いと考えられる。これは現時点での主要な見解だが、無論個々の事件の具体的な状況及び裁判官の判断によって、権利侵害であるとと認定される可能性も排除できない。

①海外委託者が製品の輸出対象国において、関連商標権を所有し、かつその登録に不当性がないこと。

②OEM生産による製品の全てが輸出され、中国国内で販売されないこと。

③中国国内の加工業者が海外の委託者の登録商標に対して、審査又は合理的な注意義務を果たしていること。

2)渉外OEM生産から得られるヒント

渉外OEM生産における海外の委託者及び中国国内の加工業者は、最高裁「PRETUL」再審事件から、以下ようのヒントを得ることができる。

① 万一に備えて、渉外OEM生産に係る契約書、注文書、輸出入通関書類及び当事者間の商標などにかかる事項について連絡書簡などの書面資料を適切に保管すべきである。実際に、書面資料を適切に保管していなかったことで、侵害事件で起訴された際、直ちに有効な証拠を提出できず、十分に挙証もできないことで、相手側に隙を見せることになった多くの企業がある。

② 海外の委託者は渉外OEM生産を委託する際、中国で関連商品において他人がすでに登録した同一又は類似の商標の有無について、事前に調査すべきである。その結果、まだ無ければ、余計なトラブルを未然に防ぐため、自分から早急に登録出願すべきである。

前記②について、渉外OEM生産が一定の要件を満たす場合、商標使用にあたると認定されないのに、中国での商標の登録出願には、一体どのような意味があるのか、又は、登録した場合、他人からの3年不使用取消審判の請求に対抗できるのかと思う方もいるのではないだろうか。筆者のこれまで長年にわたる商標に関する実務経験に基づけば、近年、商標3年不使用取消審判事件において、商標行政機関や司法機関が渉外OEM生産を商標の使用に該当すると認定した事例は、少なくない。その原因として、前述の観点②の他に、以下の2つのことが考えられる。1つは、商標登録者が渉外OEM生産によって、商標を積極的に使用しようとする意図が明らかなことである。もう1つは、渉外OEM生産が中国の重要な対外貿易方式に関わっていること、すなわち、「政策的な考慮」と言えるであろう。

これまで、多くの渉外OEM生産に係る権利侵害紛争事件で、中国国内の商標登録者が海外の委託者の商標を明らかに知った上で、悪意の冒認出願をした疑いが持たれた。例えば、最高裁「PRETUL」再審事件では、「PRETUL及び楕円図形」商標の出願以前に、元登録者が株主であった会社とTRUPER社には、業務関係があり、TRUPER社の委託を受け、「PRETUL及び楕円図形」商標を付した製品を生産し、かつ輸出したのである。また、「JOLIDA」商標権侵害紛争事件では、中国商標の登録者は、当該事件の海外の委託者によって設立された会社であったが、その後、わけがあって、第三者に転売されていた。そして、「SOYODA」商標権侵害紛争事件では、中国商標の登録者がある会社に在職期間に、当該会社と当該事件の海外の委託者とは、「SOYODA」商標の付されたペンキなどの貿易行為を行なっていた。

中国では現在、商標冒認出願が依然として頻繁に行われている状況に鑑み、余計なトラブルを未然に防ぎ、自己の利益を確実に保護するために、海外の委託者は、中国において渉外OEM生産の委託事業を展開する前に、事前の商標保護をしっかり行うことが必要である。
 
(2016)

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
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