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中国における自己抵触回避について


北京林達劉知識産権代理事務所
 
ダブルパテントを避けるために、世界各国ではほとんど拡大先願制度が制定されており、中国もそのうちの一国である。しかも、中国では、2008年の中国特許法第3回改正時に、同一出願人の先願は拡大先願として適用されない規定を、出願人が同一であっても拡大先願として適用される規定に改正した。この改正につれて、中国で特許出願しようとする会社は、研究開発のリードタイムを18ヶ月(出願してから公開されるまでの期間)から12ヶ月(優先権主張期限)までに短縮せざるを得ないようになる。

しかし、自国内では自己抵触の規定が適用されていない出願人が、中国の拡大先願に関する規定を十分に意識しないまま出願書類を作成し中国特許庁へ提出した後、審査段階でご自分の先願で新規性欠如と指摘されたことは少なくない。

以上に鑑みて、本文では中国の拡大先願制度を簡単にご紹介するうえで、審査実務上の対応について私見を申し上げたいと考えている。

一.2008年の拡大先願関連規定改正の理由について

この改正の目的は、ダブルパテントをさらに厳しく禁止し、ダブルパテントになるか否かをより一層容易に判断できるようにするためである。

具体的には、改正前の規定によると、出願人が同一である複数の出願について、ダブルパテントを禁止するために、先願の特許請求の範囲と後願の特許請求の範囲を比較しなければならない。一方、改正後の規定によると、先願の出願書類全体と後願の特許請求の範囲を比較しなければならない(つまり、新規性判断基準)。

中国国家知識産権局条法司より出版された『特許法第3回改正ガイドブック』によれば、上記2つの判断手法は、①判断の難易度からすれば、新規性判断基準(つまり、拡大先願の判断基準)は世界各国の特許法に規定されている基準であるため、適用されやすい点と、②ダブルパテントを避ける効果からすれば、前者(拡大先願)がより厳しいため、ダブルパテントの回避を徹底させることができる点という2点で相違する。

二.拡大先願となり得る出願とは

中国特許法第22条及び第23条の規定によれば、後願に対して拡大先願の地位を有する先願は、下記の要件を満たさなければならない。

(一)発明又は実用新案である後願に対して、先願も発明又は実用新案の出願でなければならず、意匠出願は拡大先願にならない。同様に、後願が意匠出願の場合、先願も意匠出願でなければならず、発明又は実用新案の出願はその拡大先願にはならない。

(二)先願は中国特許庁へ提出した出願でなければならないこと。つまり、香港、マカオ及び台湾特許庁へ提出した出願は拡大先願にならない。ただし、中国を出願国と指定しているものの、実際に中国国内へ移行していないPCT出願もここでいう拡大先願にはならない。

(三)先願の出願日(優先権を主張する場合は優先日)は後願の出願日(優先権を主張する場合は優先日をいう)より前であること(ただし、両出願の出願日が同日の場合を除く)。

(四)先願の公開日は後願の出願日(優先権を主張する場合は優先日)より後であること(先願の公開日は後願の出願日と同日の場合を含む)。上記公開日とは、先願が発明特許出願の場合、中国特許庁が出願日から18ヶ月後に出願を公開した日であり、先願が実用新案又は意匠の出願である場合、中国特許庁が特許登録を公告した日である。

ただし、ヨーロッパ等の地域と異なり、中国では、公開されている以上、先願がその後取り下げられたり、権利喪失したりすることを問わず、拡大先願の地位を有する。

三.拡大先願の役割について

中国では、拡大先願は新規性評価のみに採用され、進歩性評価に採用されることはできない。ただし、下記案件のように、中国では、請求項を引用文献の内容と比べ、相違点は当業界の慣用手段の直接代替のみにある場合、当該請求項も新規性を有しないと指摘される。

89622号不服審判請求の審決

請求項1に係る発明と拡大先願の地位を有する引用文献1の開示とを比べれば、相違点は、本願では引用文献1の「半円より小さい曲面」の代わりに「半円より大きい曲面」を用いる点のみにある。合議体は、両者が果たした役割が同一で、どちらも光の分散に用いられるもののため、このような代替が当業界の慣用手段の直接代替であると判断している。したがって、請求項1は引用文献1に対して新規性を有しない。

四.中国で特許出願する場合の自己抵触回避について

自己抵触を回避するために、中国で特許出願しようとする時期から、早々に中国では自己抵触の規定が適用されていると心に留めておくこと。例えば、中国で特許出願Aを提出する前に、すでに提出された、或いは提出しようとする、優先日がより前であるが、まだ未公開の出願には、出願Aの請求項に係る発明が記載されているか否かをできるだけ早く確認しなければならない。出願Bには出願Aの請求項に係る発明が記載されている場合、出願Aは出願Bと同一優先権を主張できるか否かを確認すべきである。つまり、出願Aの優先日と出願Bの優先日を同日にすることにより、出願Bの拡大先願適用を回避することが考えられる。同一優先権を主張できない場合、出願Bに公開されている請求項を出願Aから削除し、当該請求項を出願Bに盛り込むことが考えられる。

五.拡大先願適用による新規性欠如不備への対応について

では、拡大先願の適用により、新規性欠如と指摘され拒絶理由通知が発行された場合、どのように対応すべきか。

前述したとおり、拡大先願は新規性評価のみに採用され、進歩性評価には採用されることはできない。したがって、拡大先願に記載されていない内容を追加すれば、この不備を解消することができる。先行技術に該当するものの、拡大先願に記載されていない内容の追加も可能である。
拡大先願は、出願人本人の出願である場合、上記対応策以外に、拡大先願がまだ存続していれば、新規性欠如と指摘された請求項を本願から削除するとともに、当該請求項を拡大先願に追加するか、又は拡大先願の分割出願として提出することも考えられる。この対応により、新規性欠如の不備も解消できる。

以上、中国現行の拡大先願制度を解読し、可能な対応策をコメントさせていただいたが、少しでもご参考になれば幸いである。
 
(2016)
 

ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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