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近日、当所が代理したある発明特許に係る無効審判審決取消訴訟は一審で、明細書の開示不十分を理由として対象特許の全部無効に成功...
特許権存続期間補償に関する請求及び計算


中国弁理士  張 文慧

1.はじめに

2021年6月1日から施行の中国特許法の第4回改正において、特許権存続期間補償制度が導入されており、同法第42条第2項には、下記の規定がある。

「発明特許の出願日から満4年、且つ実体審査請求日から満3年後に発明特許権が付与された場合、国務院特許行政部門は特許権者の請求に応じて、発明特許の権利化段階における不合理な遅延について、特許存続期間を補償しなければならない。ただし、出願人に起因する不合理な遅延は除く。」

2024年1月付改正特許法実施細則及び特許審査指南の施行に伴い、特許権存続期間補償の計算方法及び審査は、より一層注目を集めている。本稿では、特許法実施細則や審査指南の規定及び審査実務に合わせて、特許権存続期間補償の要件、特許権存続期間補償の計算方法及び特別な取扱いが必要な状況などを詳細に紹介する。なお、本稿でいう特許権存続期間補償は、中国特許法第42条第3項に規定する医薬品の特許権存続期間の補償を含まない。

2.特許権存続期間補償の要件

i.対象特許:発明特許

特許権存続期間補償の対象特許は、発明特許のみに限られている。実用新案及び意匠については、特許権存続期間補償は適用されない。

ii.請求の提出

特許権存続期間の補償は、特許権者による請求を必要とする(ただし、特許代理機構への委任がある場合は、当該特許代理機構が手続きを実施)。特許権者は、特許権存続期間補償を請求する場合、特許の権利付与公告日から3か月以内に、中国特許庁に請求し、所定の手数料(200人民元)を納付しなければならない。上記期間内に請求していなかったり、請求手数料を未納または全額納付しなかったりした場合、その請求は行われていないものとみなされ、しかも、救済措置は一切ない。

iii.必要な時間的遅延(満4年かつ満3年)

特許権存続期間補償日数が付与される前提として、以下の2つの要件を同時に満たさなければならない。

「満4年」:発明特許の権利付与公告日は、「出願日」から4年経過した日(この日は「満4年日」と略称される)よりも遅く、即ち、出願日から権利付与までの期間は、4年を超えている。

特許権存続期間補償に関する規定において、「出願日」は、中国特許庁が願書を受取った日として解される。例えば、国際出願や分割出願については、この「出願日」はそれぞれ、国際出願が中国国内段階へ移行した日と分割出願の願書提出日に対応する。

「満3年」:発明特許の権利付与公告日は、「実体審査請求日」から3年経過した日(この日は「満3年日」と略称される)よりも遅く、即ち、実体審査請求日から権利付与までの期間は、3年を超えている。

「実体審査請求日」を判断するには、以下の2つの日付を比較する必要がある。

①実体審査請求を行い、かつ発明特許出願の審査手数料を全額納付した日

②特許出願の公開日

「実体審査請求日」は、上記の2つの日付のうち、遅い方の日付とする。

3.特許権存続期間補償の計算方法

特許権存続期間補償の可否及び補償可能日数を正確に見込むことは、特許権者が特許権補償請求の要否を判断する上で極めて重要である。

上述の概念を明確にした上で、特許権存続期間補償の下記計算式を導き出すことができる。

特許権存続期間補償(PTA)= min(権利付与公告日-満4年日、権利付与公告日-満3年日)-権利付与段階における合理的な遅延日数-出願人に起因する不合理な遅延日数

この計算式の具体的な説明は、以下の通りである。

i.min(権利付与公告日--満4年日、権利付与公告日-満3年日)

この式は、これら2つの期間差のうち、小さい方を取ることを意味する。

ii.権利付与段階における合理的な遅延

権利付与段階における合理的な遅延には、中国特許法実施細則第66条に基づいて出願書類の補正を行う不服審判の手続き、実施細則第103条に掲げる手続き中断、実施細則第104に掲げる保全措置、行政訴訟などの合理的な状況による遅延が含まれる。

iii.出願人に起因する不合理な遅延

審査指南には、出願人に起因する不合理な遅延としては、以下の5つの場合が例示されている。

①中国特許庁が発行した通知に対して、所定の期間内に応答しなかった場合による遅延

審査指南によれば、この場合の遅延日数は、期間満了日から実際に応答書が提出された日までとする。

②遅延審査を請求した場合による遅延

遅延審査が請求された場合、遅延日数は、実際に審査が遅延された日数とする。実際の遅延審査日数を計算する際には、遅延審査の取下げ状況を考慮する必要がある。遅延審査による遅延日数は、遅延発効日から遅延終了日までの日数とする。

③参照による援用に起因する遅延

遅延日数は、中国特許庁が発明特許出願を受取った日から、「参照による援用の申込書」が提出された日までの日数とする。

④権利回復請求による遅延

遅延日数は、元の期間満了日から回復が認められた「権利回復請求許可通知書」の発行日までとする。ただし、当該遅延が中国特許庁によるものであることが証明可能な場合を除く。

⑤優先日から30ヶ月未満で中国国内段階移行手続を行った国際出願について、出願人が早期取扱いを求めなかったことによる遅延

遅延日数は、中国国内段階移行日から優先日より30ヶ月を経過した日までとする。

4.特別な取扱いが必要な状況

①上述の不服審判手続きに関しては、次のように個別判断が必要な状況がある。

出願人が不服審判手続きにおいて出願書類を補正した場合、当該不服審判手続きの期間(拒絶査定の発行日から不服審判請求の審決の発行日までの期間)は、上述の権利付与段階における合理的な遅延と見なされ、適用対象となる。

一方、不服審判において意見書のみを提出し、出願書類を補正しなかった案件については、出願書類に実質的な変更がないまま最終的に特許権が付与されたことを考慮すると、その不服審判の期間は適用対象外となる。

②同一の出願人が同日に、同一の発明・創作について実用新案出願と発明特許出願の両方を行い(「特実併願」と略称される)、中国特許法実施細則第47第4項に基づいて発明特許権を取得した(即ち、実用新案権を放棄することで発明特許権を取得した)場合、当該発明特許権の存続期間は中国特許法第42条第2項の適用対象外とする。

③特実併願において、発明特許出願が、実用新案出願のクレーム範囲と異なるように補正を行うことで特許権を取得した場合、発明特許の出願日から最初の補正を行った日までの期間は、権利付与段階における合理的な遅延と見なされ、適用対象となる。

④特実併願において、実用新案出願が何らかの理由により登録にならなかったのに対し、発明特許出願が審査を経て特許査定を受けた場合、出願人は、中国特許庁に、本件が実質的に「特実併願」に該当しなくなったことを説明する意見書を提出するとともに、特許権存続期間の補償請求を行うことができる。このように事情を説明して期間補償請求を行う場合、期間補償請求の可否を判断する審査官は、上記2)及び3)の判断を行う必要がない。

5.まとめ

特許権存続期間は、特許権者が権利を行使できる有効な期間である。特許権存続期間補償の日数を事前に正確に見込み、特許権存続期間補償制度を適切に活用することは、特許権者の適法な利益を守る上で重要である。現在、中国の特許権存続期間補償(PTA)制度は実際に稼働しているものの、特別な状況における判断基準や対応方法にはまだ明確でないところもある。今後、運用経験の積み上げにより、計算ルールがさらに改善され、成熟していくものと確信している。
 
 


ホットリンク:北京魏啓学法律事務所
©2008-2025 By Linda Liu & Partners, All Rights Reserved.
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