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食品分野の用途特許に関する一考察――クレームの特別性及び侵害判断について


中国弁理士 段 然
 
【要約】

近年、食品分野の特許出願件数が大幅に増加している。その中でも、特に食品用途発明について、如何にして法律違反問題をより良く回避し、権利行使しやすい特許を取れるかという課題が広く注目を集めている。本稿では、中国における食品分野のユースクレーム設計の戦略と侵害判断の現状について、法律の規定、権利化及び権利行使の観点から検討する。

【キーワード】

食品 新規な機能 特許出願 ユースクレーム

中国では1993年1月1日以降、食品、飲料、調味料が特許の保護対象に含まれるようになった。近年、食品産業の急速な発展と健康食品や機能性食品に対する消費者の需要の高まりに伴い、食品分野における特許出願件数は大幅に増加している。

この30年余りを振り返ると、中国の食品分野の特許審査は全体的に厳しくなっていると思われる。2007年から2009年までの間に行われた食品分野の特許出願は、約50%が特許を受けた1。それ以来、特に近年、食品分野の特許出願の登録率はかなり低下し、他の分野と比較しても低いものと言える。登録率低下の理由としては、審査における発明の進歩性判断が厳しくなり、中国食品安全法及び特許法5条に関する審査が強化されていることが挙げられる。

さらに、食品分野の特許出願のうち、通常の物の発明や製法の発明に加え、既知の物質や組成物の新規な機能に関する用途発明(即ち「機能性食品の新規な機能に関する用途発明」)も年々増加している。例えば、文献研究2によれば、腸内環境、メンタルヘルス、免疫機能、体重管理などに関する特許出願が大幅に増加しており、機能性食品の市場規模は2032年になると、6,000億米ドル近くに達すると予測され、この分野がホットであり続けていると考えられる。

新規な機能に関する食品用途発明は、特許を受けるために、発明適格性、新規性及び進歩性、産業上の利用可能性を満たさなければならず、さらに、審査において、他の法律に適合するかについても判断される。ここで言う「他の法律」とは、主に中国食品安全法のことである。

上記の状況を踏まえ、本稿では主に、機能性食品の用途発明に関して出願人が特に関心を持つクレームの書き方について考察する。また、潜在的なリスクの回避、特許出願の品質向上に関して、実務経験に基づいた提言も行う。

1. 食品分野のユースクレームと中国特許法5条について

以前、外国及び中国の出願人による特許出願に食品発明と医薬品発明の両方が書かれていることが一般的であった。しかし、現在の審査運用(中国特許法5条に関する審査が厳しくなった運用)では、このような書き方を採用した出願は審査において難航するものと思われる。

中国特許法5条1項には、「法律、社会道徳に違反し、又は公共の利益を害する発明・創作に対しては、特許権を付与しない」と規定されている。

この規定は、正常な社会秩序を乱したり、犯罪を引き起こしたり、その他の不安定要因につながる可能性のある発明・創作に特許権が付与されることを防止することを目的としている3

実務運用において、中国特許法5条に基づく審査では、特許出願が食品安全法の規定に適合するかどうかが主に考察される。食品安全法には、「食品には治療を目的とする物は含まれない」こと(150条)、「疾患の予防、治療機能に言及してはならない」こと(71条)が明確に規定されている。したがって、同じ物質や組み合わせに関する出願に食品発明と医薬品発明の両方が含まれることは通常許容されない。

1.1 許容される「新規な機能」の範囲

機能性食品の新規な機能を用途発明として中国に特許出願するに当たり、中国特許法の観点から、この「新規な機能」が法5条に違反するかを検討すべきである。

原則として、食品の新規な機能は疾患の予防や治療に関わるものでない限り、特に制限はなく、法5条に適合するものと考えられる。一方、実務運用においては、特許出願における「新規な機能」が疾患の治療や予防に関わるかについてはどのように確認・判断するかが問題となる場合が多い。例えば、貧血、血圧、血中脂質、血糖などに関する機能は、非治療機能と治療機能の境界が曖昧な部分がある。

したがって、法5条違反を回避する観点から、クレーム作成時に、「健康食品に表示可能な保健機能目録(非栄養補助食品)2023」(以下、「目録」という。)に掲載されている機能及び表現を使用することはお勧めである。この目録には「健康食品」に表示可能な「機能」が明示されているため、食品の用途発明に関する特許出願において、これらの機能的表現を使用することで、特許を求める発明が健康食品のみに関するものであることは明確になり、疾患の治療や予防との区別が可能となる。
 

なお、上記「目録」に記載された機能はあくまでも、「健康食品」の機能表示を適正化するためのものにすぎず、機能性食品の新規な機能を制限するものではない。そのため、特許出願において、上記「目録」に記載の機能だけではなく、疾患の予防・治療機能でないと明確に判断できる他の機能も主張できると考えられる。

例えば、食品の新規な機能に関する用途発明として、下記の登録特許が挙げられる。
 

以上より、機能性食品の用途発明において、法5条違反を回避する観点から、上記「目録」に記載されている機能的表現を用いることが推奨される。また、発明が「目録」に記載されていない機能に関わる場合、その機能の説明について、「目録」と同様の表現を用いて定義することが考えられる。このような対策により、法5条違反と指摘される可能性をある程度低減させることができると思われる。

1.2 クレームにおける適用対象の記載について

機能性食品の「新規な機能に関する用途発明」について、一般的には、特許請求の範囲において適用対象を規定することは求められていない。必要に応じて、明細書に記載すればよい。

一方、「新規な機能」である何らかの改善作用には、症状の改善機能と重複があったり、明細書に患者に関する記載があったりするような特別な状況がある。このような場合、クレーム発明が疾患の予防・治療に関するものであると問われる可能性がある。そこで、疾患の予防・治療機能と区別するために、クレームにおいて特定の疾患患者を除外する必要があると思われる。

次の事例[1]を参照しながら説明する。

事例[1]

拒絶査定の対象となったクレームは下記のとおりである。

「【請求項1】老化による心身機能の低下を原因とするうつ症状を改善する機能性食品組成物又は保健用食品組成物を製造するための、・・・、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を含む組成物の使用であって、・・・」

不服審判通知において、「本願の特許請求の範囲及び明細書に記載されている『老化による心身機能の低下を原因とするうつ症状』には、健常者のうつ状態とうつ病患者のうつ状態の両方が含まれるため、食品、健康食品について疾患の予防又は治療機能を記載してはならないという食品安全法の関連規定に違反する」とされている。

出願人は特許請求の範囲(及び明細書)を補正し、うつ症状を「非うつ病患者の」うつ症状に限定することで、食品・健康食品の用途から疾患の予防・治療機能を除外した。これにより、上記拒絶理由が解消し、最終的に拒絶査定が取り消され、権利化した。

登録クレームは次のとおりである(抜粋)。

「【請求項1】非うつ病患者の老化による心身機能の低下を原因とするうつ症状を改善する機能性食品組成物又は保健用食品組成物を製造するための、・・・、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を含む組成物の使用であって、・・・」

この事例において、上記指摘を受けた主な理由は、明細書には組成物の適用対象としてうつ病患者も記載されており、疾患の予防・治療用途と、他の非予防・治療用途が明確に区別されていないことにあると考えられる。

ここで、「特定の疾患患者を除外する」とは、当該「新規な機能」に関係する疾患患者を除外することである。例えば、事例[1]では、クレーム発明における機能がうつ症状の改善であり、うつ病患者が関わる。「新規な機能」に関係しない他の疾患患者については、除外する必要はない。

また、上記事例[1]に関連して、疾患の予防・治療との関連性を実質的に回避するために、実務において、ユースクレームに「非治療目的」を明示的に記載することも一策になると考えられる。

2.新規な機能に関する作用機序の記載について

機能性食品の「新規な機能に関する用途発明」について、明細書において、新規な機能の作用機序を記載する場合がある。作用機序をユースクレームに記載することが新規性及び進歩性の判断に寄与するかということについては、一概に断言することができないと思われる。

(1)先行技術には、本願発明と同じ物質の記載があっても、同じ機能の記載がない場合、特許出願のユースクレームにおいて作用機序を規定することで、先行技術との差別化を図ることができ、進歩性判断に寄与する。

(2)先行技術には、本願発明と同じ物質及び同じ機能の記載がある場合、ユースクレームに作用機序を書き込んでも、既知物質の既知機能の作用機序であると判断されるため、ユースクレームの新規性及び進歩性に寄与するものではない。

上記(1)及び(2)のパターンでは、医薬分野における新規用途発明(第二医薬用途発明)における進歩性判断とほぼ同じ扱いである。そのため、医薬分野の特許出願の判断方針は、食品分野にも適用できる。

上記(1)及び(2)に比べて、以下の(3)は比較的複雑であり、実状に基づいて判断すべきである。

(3)先行技術には、本願発明と類似する物質及び類似する機能の記載がある場合、作用機序を規定することが進歩性主張に有用であるかについては、ケースバイケースで判断すべきである。以下に例を挙げて説明する。

事例[2]

1回目のOA応答時にクレームは下記のとおり補正された(抜粋)。下線部は補正で追加された構成である。

「【請求項1】腸内の健康状況を改善するための食品の製造における機能性栄養組成物の使用であって、前記組成物は、ホスファチジルセリン及びポストバイオティクスを含み、・・・前記腸内の健康状況の改善には、補助的な胃腸粘膜の保護、腸の蠕動運動の促進、及び腸の杯細胞の数の増加による腸の炎症の改善が含まれる・・・ことを特徴とする使用。」

2件の引用文献はそれぞれ、ホスファチジルセリンとポストバイオティクスの両方が腸の健康改善効果を有することに言及しているものの、腸の炎症の改善までは具体的に言及していない。このように、引用文献における物質及び機能は本願のものとは同じではないが、ある程度似ている。

拒絶理由において、腸の健康改善への上記2つの物質の組み合わせの使用は自明であり、下線部の追加構成(作用機序)が本質的には臨床的知見であり、この構成の導入がユースクレームの進歩性に寄与しないとされている。この結論に至ったのは、引用文献から、本願の物質と報告された機能との関連の予測可能性が高いと判断されたからであると推測される。

以上より、作用機序の規定による進歩性への貢献は、個別に分析する必要があると思われる。なお、ユースクレームに作用機序の規定が含まれることは、進歩性判断に有用であるケースもあるが、権利行使、侵害判断におけるオールエレメントルールの原則を考慮すると、作用機序の導入により侵害立証の困難性が高まる可能性があることにも留意すべきである。よって、作用機序の導入については、慎重に取るべきである。

3. ユースクレームの表現上の相違について

機能性食品の「新規な機能に関する用途発明」の場合、ユースクレームは書き方によって、一般的なユースクレーム(以下、「一般タイプ」という)とスイスタイプクレーム(以下、「スイスタイプ」という)に分けられている。

物質Aの新規な機能に関する用途を例にする。食品分野において、ユースクレームには下記2通りの書き方がある。

(パターン1)血糖健康維持食品を製造するための物質Aの使用。=スイスタイプ

(パターン2)血糖の健康を維持するための物質Aの使用。=一般タイプ

3.1 2タイプのクレーム範囲

上記2つの書き方では、クレーム範囲に大きな差はないと思われる。

一般的なユースクレームの場合、中国特許法25条に規定する不特許事由(疾患の診断及び治療)に該当する可能性があり、それを回避することはスイスタイプクレームの最初の目的である。よって、2タイプのクレーム発明がともに食品分野の発明である場合、書き方の違いにより、実質的なクレーム範囲が大きく変わることはない。上述した書き方のいずれも、健康的な血糖維持機能を有する食品への物質Aの使用がクレーム範囲であると考えてよい。

3.2 2タイプの侵害判断

上述したように、上記2つの書き方では、クレーム範囲に大差がないが、侵害判断の場合には微妙な違いが存在する。

北京市高等裁判所の「特許侵害判定指南(2017)」114条には、「用途発明特許について、特許権者は、被疑侵害者による被疑侵害品の製造、使用、販売、販売の申し出、輸入が当該特許の特定の用途のためであることを立証しなければならない。」と規定されている。

また、ユースクレームは方法クレームである。中国特許法11条によると、方法クレームの製造方法については、特許の効力範囲はこの方法により直接得られた物まで及ぶ。

1)スイスタイプクレームの場合、A物質を含有する血糖維持効果向け食品の製造行為は特許の実施に該当する。また、前述のとおり、スイスタイプクレームは物の製造方法として解釈できるため、上述した中国特許法の規定から、この製造方法により直接得られた物の販売に対しても権利行使できると考えられる。

このような場合について、医薬分野におけるスイスタイプクレームを含む用途発明に関する侵害判例も参酌することができる。

事例[3]

Hunan Warrant社らとSANHOME社との発明特許権侵害紛争に関する二審民事判決((2020)最高法知民終1156号)

この事件において、SANHOME社の所有する特許(第ZL200510083517.2号)のメインクレームはスイスタイプクレームであり、請求項1は「【請求項1】寄生虫感染を阻止する医薬品の製造におけるOrnidazole Levo-の使用」というものである。

中国最高裁判所は次のように判示した。

「審理により、次の事実が明らかになった。最高裁判所による(2020)最高法知行終476号判決は、第200510083517.2号特許(SANHOME社所有)に関する有効審決を認めている。また、SANHOME社は、当該特許に基づいて、被疑侵害品の製造、販売、販売の申し出を行ったHunan Warrant社らの行為が侵害に当たるとして、原審裁判所に提訴した。

原審裁判所は、「Hunan Warrant社の被疑侵害医薬品の説明書に、『【医薬品名】Ornidazole Levo-錠。【成分】本剤の有効成分はOrnidazole Levo-である。【適応症】完了しているOrnidazole Levo-の臨床試験データに基づき、Ornidazole Levo-は、感受性嫌気性細菌および腟トリコモナス原虫の感染による感染症の治療に用いられる。このような感染症には、1.歯周炎、根尖性歯周炎、歯冠周囲炎などの口腔感染症;2.トリコモナス膣炎が含まれる。』と記載されている」事実を踏まえ、Hunan Warrant社らに対し、①侵害差し止め及び②SANHOME社への損害賠償を命じる旨の判決((2019)沪73知民初607号民事判決)を言い渡した。

本件の証拠によれば、Hunan Warrant社らが製造、販売、販売の申し出を行った被疑侵害製品には、嫌気性細菌及び原虫による感染症に対する治療用途が明記されている。したがって、両社に対し侵害差止を命じた原審判決は相当である。」

2)一般的なユースクレームの場合、A物質を含有する維持血糖効果向け食品の製造行為に対しては権利行使できるが、用途の一般的な規定となっているため、販売行為への権利行使が認められない可能性がある。

中国において、機能性食品の「新規な機能・用途」に関する一般的なユースクレームとスイスタイプクレームは、クレーム範囲には大きな差はないと思われる。特許審査の観点では、スイスタイプクレームの場合、特許の保護対象外と疑問視される可能性は低くなると思われる。一方、PCT国際出願を行う場合、出願希望国の実務に応じて適切な書き方を決めることが考えられる。これは、クレームの補正にかかる費用の節約にもつながる。

以上のとおり、食品分野のユースクレームの権利化中に遭遇しうる問題点を取り上げ、権利行使の観点からクレーム設計の方策を考察した。実務において、このようなクレームが登録になれるかは、明細書中の効果を裏付ける実験データに大きく依存するが、クレームの適切な手当は、妥当なクレーム範囲の権利化、出願人の利益の最大化、権利行使の円滑化に役立てると思われる。

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1中国の食品分野の特許出願書類の現状と作成、劉暁娜、肉類研究[J]、2018年、第28巻、第03号
2尹新天、『中国特許法詳説』[M].北京:知識財産出版社、2011年
3The global patent landscape of functional food innovation, Maima Matin et.al, Nature Biotechnology[J],
volume 42, pages 1493–1497 (2024)
 
 


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