中国弁理士 宋 永杰
はじめに
情報提供制度(「公衆意見制度」とも言う)は一般公衆が特許審査に参加する合法的なルートとして重要な役割を果たしている。権利付与後の無効審判請求制度に比べて、情報提供制度はコストが低く、匿名での提供が可能であり、対象特許出願の権利化を未然に防げるなどのメリットがあるため、企業にとってコストパフォーマンスが良い特許戦略の武器であると言える。
情報提供制度を有効に利用して他社出願の権利化阻止や権利範囲の減縮を実現するために、情報提供の最適なタイミングの把握、多角的な分析に加え、情報提供後のウォッチング及びリアルタイムな調整などが鍵になる。
1. 情報提供制度の法的根拠
中国特許法実施細則第54条には、発明特許出願の公開日から特許権付与の公告日までの間に、何人でも、特許法の規定に違反した特許出願について、国務院特許行政部門に意見を提出して理由を説明することができると定められている。
上記規定は情報提供制度の法的根拠を明確に示すものである。
実務運用において、特許審査指南(2023年改訂)第2部分第8章の4.9には「特許法の規定に違反した特許出願ついて中国特許庁に提出された如何なる意見は、実体審査の参考資料として使われるように当該出願の包袋に入れて保管しなければならない。特許権付与通知の発行後に受領した公衆意見は考慮しないものとする。中国特許庁は公衆意見の取り扱い状況を提出者に通知しなくてもよい。」と規定されている。
上述の内容を踏まえ、中国の情報提供制度を以下の要点から捉えることができる。
(1)情報提供の主体:何人でも情報提供することができる。匿名での提供も認められる。
(2)情報提供の対象:発明特許出願のみが対象となり、実用新案出願及び意匠出願に対応する情報提供制度はない。
(3)情報提供可能な時期:発明特許出願の公開日から特許権付与の公告日までの間。
(4)情報提供の内容:中国特許法の規定に違反する不備はすべて指摘可能であるが、実務上、新規性欠如・進歩性欠如がメインであり、それら以外の不備もついでに指摘する。
(5)法的地位:情報提供の内容はあくまで審査の参考資料として扱われるものであり、提供者へのフィードバックは義務付けられていない。実務において、出願人も情報提供の状況に関して通知されないのが一般的である。
2. 情報提供制度のメリット
権利付与後の無効審判請求制度に比べて、情報提供制度は以下のメリットがある。
・コストが低く、未然防止が図れる。
特許出願が権利付与される前に何時でも行うことができ、官庁手数料も発生しない。対象出願の権利化阻止又は権利範囲の減縮を実現できれば、侵害訴訟を含む特許成立後の権利行使に巻き込まれるリスクを効果的に低減させるができるため、無効審判請求や侵害訴訟対応のための高額な費用を節約できる。
・手続が簡単で、出願人との争い合いを回避できる。
情報提供は匿名で行うことが可能であり、特許庁に意見書や文献資料を提出すればよいため、出願人との争い合いを回避できる。
・情報提供後のインタビューや調整が可能である。
情報提供後、審査官に電話インタビューすることで審査官の心証や審査進捗などをリアルタイムに把握することができる。これにより、より的確な理由や文献を追加提出することで、情報提供の採用可能性を高め、審査の方向性を導くことができる。
3. 情報提供制度の活用策
(ステップ1)実施タイミングの決定
情報提供は特許出願の権利付与前であればいつでも行うことはできるが、実務において、出願が公開されてから1回目の拒絶理由通知が発行されるまでの間に行うことが望ましい。この時点では、審査官の対象出願に対する第一印象が形成されていないため、第三者の見解は客観的に考慮されやすいと思われる。また、1回目の拒絶理由通知発行前に情報提供を行う場合、十分な準備時間を確保できるため、より品質の良い意見書の作成が可能になる。逆に1回目の拒絶理由通知発行後に情報提供を行うと、出願人の応答期間や審査官の審査期限などの関係で準備時間が制限されてしまうため、意見書の準備に不利になる。
対象出願が一発査定になる事態を防ぐために、できるだけ早期に情報提供することが望ましい。例えば、対象出願が公開された後、早めに提供内容を準備して提出することが考えられる。
(ステップ2)意見書の書き方
情報提供の意見書を作成する際に、新規性欠如及び進歩性欠如に重点を置くことが一般的である。具体的には、先行技術に基づく論理付けを幾つかのパターンにして記載することが考えられる。複数の論理付けがある場合、1つが採用されなくても、他の選択肢が採用される可能性もあるため、効果的な情報提供につながりやすい。
また、実施可能要件違反やサポート要件違反、明確性要件違反などの記載不備も見落としてはいけない。特に、見つかった先行文献がそれほど強いものでない場合、「新規性・進歩性以外の不備」は重要な手がかりとなることもある。
(ステップ3)ウォッチング、インタビュー及びリアルタイムな調整
情報提供後、審査状況を継続的にウォッチングする必要がある。提供した内容が審査官に採用されなかったか、または一部しか採用されなかった場合、審査官に電話インタビューをして審査官の考えや不採用の理由などを確認することができる。その結果から新たな文献または理由を追加提出する必要性や実施のタイミングなどを判断したうえで、適切な対応を取ることが可能になる。例えば、追加の提出が必要であると判断した場合、その後の審査において、さらに2回目や3回目の情報提供を行うことができる。
まとめ
上述のように、情報提供制度は企業の知的財産戦略における強力な武器である。効果的に情報提供して目的を達成するためには、実施の最適なタイミングを把握し、多角的な論理付けを構築し、さらに「意見書の提出⇒状況監視⇒インタビュー⇒対策調整」というダイナミック的戦略を実行することが肝心である。